8月31日
●小口泰與
赤城より冷気あまねし水澄めり★★★
高原の秋気くまなく浴びにけり★★★
鳴きあぐる別れ鴉や忠治塚★★★
●迫田和代
土手道の窪みを満たす吾亦紅★★★★
吾亦紅は河原などに見られるが、土手道の窪んだところに、思わぬほど咲いていた。「満たす」は予期せぬ驚きと嬉しさ。(高橋正子)
空も澄み緑豊かな秋の庭★★★
ささやかな音に驚くよなべかな★★★
●小西 宏
不揃いの背丈を風に猫じゃらし★★★★
猫じゃらしは、背丈に注目すれば、意外とく高低さまざまだ。それぞれが風に吹かれる様子は、趣がある。(高橋正子)
山裾までただ平らかに稲の秋★★★
渇水の小河内ダムの赤とんぼ★★★
●桑本栄太郎
ベランダの今朝もほど良き秋すだれ★★★
竹林の仰ぐ高さや秋の空★★★
八月の果てて西空曇り来る★★★
●多田有花
コンサートはね秋雨の街へ出る★★★
台風は低気圧へと八月尽★★★
傷に刃を当て傷物の梨をむく★★★★
傷物の梨を剥こうとすれば、まず傷をとってからが普通の行為だが、「傷に刃を当て」と言われると神経がピリッとする。リアルな句だ。(高橋正子)
8月30日
●祝恵子
稲の花故郷を向くさくら号★★★★
傘に入れ雨の木槿の揺れを止め★★★
秋の田に立ち止まる猫と目を合わす★★★
●小口泰與
単線の天涯に消ゆ尾花かな★★★
退けて赤城離るる秋の雲★★★
とんぼうへ人さし指をまわしけり★★★
●桑本栄太郎
苦瓜の小さく色づきベランダに★★★
南瓜煮る妻のレシピや湯呑み入れ★★★
カーテンの触れる夜風や虫の声★★★
●川名ますみ
秋澄みて橋の向こうの船までも★★★
秋風に洗濯物のやさしい色★★★★
一読、「やさしい色」に納得した。秋風に吹かれる洗濯物が、やわらく、色もやさしい。秋の日差し、風の具合のせいもあるだろう。(高橋正子)
西瓜切る音のさらさらリズミカル★★★
●佃 康水
屈み見て砂より淡き草の花★★★
巡り終えかくもとりどり草の花★★★
草の花それぞれ摘みて束にする★★★★
●小口泰與
暾(ひ)を宿す稲穂の波や群雀★★★
天そそる妙義の奇岩瓢かな★★★
とんぼうへ指を立てけり幼き日★★★★
そういえば、こんなこともしたなあと、思い出す。とんぼうは、田や畑の杭などによく止まっている。指だって棒や杭のようなもの。自然のなかで遊んだ幼い日のことだ。すなおな句がよい。(高橋正子)
●桑本栄太郎
うそ寒や二の腕抱き目覚めおり★★★
雲流れ容ながれて秋高し★★★★
真近なる嶺の蒼さよ秋気満つ★★★
●小西 宏
カーテンの白揺れ雲に秋の蝉★★★
団栗の艶が昨日と同じ道に★★★★
高くまで筋なす秋の茜雲★★★
●佃 康水
韮の花摘み休み田に匂い立つ★★★
韮の花浸す畔川音清ら★★★★
韮の花は、8月も終わり、新涼の9月を迎えるころ盛んに花を咲かせる。地味な花ながら白い可憐な花。清らかな水音を立てて流れる畦川に摘んだ花を浸すと生き生き涼やかになってくる。(高橋正子)
朝ぼらけの窓に溢るる鰯雲★★★
8月28日
●小口泰與
秋光や利根の流れを要とし★★★
戯れに杖を立てけり秋茜★★★
烈風にもてあそばれし野萩かな★★★
●桑本栄太郎
秋雨の車窓滂沱や阪急線★★★
秋雨の上がり嶺の端青空に★★★
ひぐらしの想い出遠き母の里★★★
●多田有花
鳥取より来て初物の梨を売る★★★★
鳥取の梨は薄緑色の上品な味の「二十世紀」。幸水が終わるころ出始めるが、この梨が出ると朝夕はめっきり涼しくなるのだ。新涼のさわやかさがある句だ。(高橋正子)
群れ鴉秋夕焼けを高く帰る★★★
秋涼や森ゆくときも背をのばし★★★
●小西 宏
夏すだれ透けて夜明けの電車の音★★★★
「すだれ(簾)」は、夏の季語なので「夏」は不要。「秋簾」などと使う。夜明け、目を覚ましていると簾の向こうに電車の音が聞こえる。街も動き出している。(高橋正子)
雲高く見上げる谷戸の沢桔梗★★★
緑葉に白き蕾の紅芙蓉★★★
8月27日
●小口泰與
芙蓉咲く上毛三山雲も無し★★★★
上毛三山が見渡せるところ、山の青を背景に咲く芙蓉は、「雲も無し」で秋の気配十分となった。(高橋正子)
丸太橋踏む二の足や稲光★★★
秋ばらの蕾半分喰われけり★★★
●桑本栄太郎
大泣きの子供夜店や夏祭り★★★
とんぼうの編隊飛行や雨後の晴れ★★★
秋蝉の一おし二おし三におし★★★
●小口泰與
山外の塔頭さわに実南天★★★
柳散る雨水ためし舫い舟★★★
星空を乗せて雲ゆく竹の春★★★
●祝恵子
猫じゃらしふと思われる故郷のこと★★★★
「猫じゃらし」は、秋草のなかでも風情が楽しく、野道を歩けばどこにでもある。遊びの少なかった時代、猫の鼻先へもっていって猫をじゃらしたこともあるだろう。故郷のことが、ふっと思い出される秋草である。(高橋正子)
地蔵盆張り出しのあり尼の寺★★★
夕月の高し散歩の畔の道★★★
●桑本栄太郎
空腹を覚え目覚めり涼新た★★★
新涼や熱きコーヒー飲んでみる★★★
夕暮れの風を染めおり酔芙蓉★★★
●多田有花
晴れし朝秋めく音に耳を澄ます★★★
秋涼しクレヨンで描くギリシャの絵★★★★
「ギリシャの絵」は、ギリシャの風景を描いた絵か。朝夕はめっきり涼しくなり、クレヨンの力強さ、温かみが懐かしくなる。そこで思い出のギリシャの写真を取り出して絵に描いてみたのだ。(高橋正子)
新涼や窓を細めに開けている★★★
●佃 康水
秋涼し二胡の音遠く夜の茶会★★★
開け放つ茶室へ虫音近づけり★★★
無防備を秋蚊の襲う雨後の庭★★★
●小西 宏
豊満に葡萄膨らみ山遠し★★★
蜩の弦(げん)弾く森を潜り行く★★★
丘越えて風に聞こえる秋祭★★★★
●小口泰與
せんべいの照りの塩梅秋高し★★★
醜草の我が背を越ゆる暑さかな★★★
秋暑し畑のひび割れ定かなり★★★
●桑本栄太郎
小玉とて袋に置かる西瓜かな★★★
夕暮れのひと時惜しみ秋の蝉★★★
土ぼこり匂いて秋の雷雨かな★★★
●多田有花
秋の雲流れる空となりにけり★★★
雨あがり山河いつしか秋めけり★★★
日が落ちて踊りの歌の流れ出す★★★
「踊り」は、俳句では盆踊りのこと。盆踊りは日が落ちてから始まるが、この句は盆踊りの始まる直前の雰囲気が出ている。「日が落ちて」はそぞろ寂しさがあって、盆踊りにふさわしい気持ちだ。(高橋正子)
●小西 宏
翳深くひまわりの垂れ秋めける★★★
この先は人入らぬ崖からす瓜★★★
風なくて地を這う蔦の西の崖★★★
※好きな句の選とコメントを<コメント欄>にお書き込みください。
●迫田和代
もう会えぬ人と別れて白もくげ★★★
宇宙から永い旅終えた流星を★★★
打ち上げの花火の音に橋行き来★★★
●佃 康水
月光へ牡蠣種垂らす瀬戸の海★★★★
穏やかな瀬戸の海にさす月光は、平らかに海を照らし、海の命をはぐくんでいるようだ。牡蠣種も命のひとつ。(高橋正子)
笑む友の野良着の汚れ稲穂垂る★★★
盆法会媼は何時も聞き上手★★★
●小口泰與
青空を乗せ馳せ行けり秋の河★★★
三山の靄の消えけり稲の花★★★★
三山は、作者の住んでいる上州の三山であろう。三山にかかる靄が消え、すっきりとした山容を向こうに稲の花が咲いている。爽やかで、晴れやかな景色である。(高橋正子)
あけぼのの靄の中より桔梗かな★★★
●桑本栄太郎
朝方は家事を手伝う秋涼し★★★★
帰り来てすぐに湯浴みの残暑かな★★★
空覆う雲に歓喜や処暑の雨★★★
●多田有花
<叔母三回忌>
秋の百合法要の朝の庭に白し★★★★
仏前に秋のくだものとりどりに★★★
雨降って残る暑さをおさめけり★★★
●小西 宏
柿の実のやや色づいた堅い四角★★★★
銀色に光る西瓜の種の穴★★★
夕暮の窪地に入れば法師蝉★★★
●高橋秀之
ドラえもん音頭で二重に踊りの輪★★★
提燈のわが名を探し地蔵盆★★★
秋の風提燈揺らし影も揺れ★★★
●小口泰與
ひぐらしや山の湯煙りゆったりと★★★
あけぼのや風に遊びし牽牛花★★★
田一枚影の越ゆるや鬼やんま★★★★
●桑本栄太郎
風少し乾きを覚ゆ処暑の朝★★★
処暑の日の雲の途切れや青空に★★★
秋蝉の午後ともなれば黙り居り★★★
●多田有花
主旋律おーしつくつくばかりなり★★★
秋の蝉したたか背にぶつかりぬ★★★
処暑の風感じて山を歩く午後★★★
●小西 宏
葉に浮かぶ芙蓉の白の柔らかし★★★
忽ちに雨降り過ぎて涼新た★★★
丘の灯に風ゆるやかや虫の声★★★★
「風ゆるやか」がいい。風だけでなく、虫の声もゆるやかに響いている。ゆるやかさが快い。(高橋正子)
●小口泰與
川風の起ちて影増す蜻蛉かな★★★★
「影増す」の観察がよい。涼しい川風が吹くと、強い日差しを受けてだろう、蜻蛉の飛ぶ影が稲の上に、道にと、あちこち見える。残暑のなかにも、さわやかさが感じ取れる。(高橋正子)
朝靄の中に聞こゆや木の実落つ★★★
露草や忽と消えたり赤城山★★★
●古田敬二
残照の中に涼しき風気配★★★
信号の赤の向こうの百日紅★★★
猫じゃらし全てが風にカーブする★★★
●桑本栄太郎
<高速道の深夜走行にて京都へ>
出発は星の涼しき米子道★★★★
昼間の暑さや混雑を避けて深夜高速道路を走る。故郷へ帰省を済ませた安堵に、星の涼しい高速道路を走るのは、気持ちのよいものであろう。(高橋正子)
ほしづく夜はるか眼下に里灯り★★★
新涼の夜気に背伸びや仮眠あと★★★
●多田有花
鮮やかな夕焼け明日も残暑の日★★★
ときおりは雲に隠れて盆の月★★★
燕去る空に高さの加わりぬ★★★★
いつの間にか燕が去ってしまった空。がらんとした空に、そういえば高さが加わった感じだ。秋空の高さになりつつある。(高橋正子)
●小西 宏
真っ白に花たかく澄み百日紅★★★
丸刈に夏の終わりの優勝旗★★★
残雲や西の明かりの法師蝉★★★
●祝恵子
早暁の音に始まり鵙の音も★★★
畑の井戸囲んでおりぬ稲の花★★★★
畑の井戸は旱のときの灌漑用であろう。旱の続きの猛暑の夏も終わり、無事稲が花をつけている。いよいよ、稲は実をつけ、熟れて実りのときを迎えるのだ。(高橋正子)
●小口泰與
朝顔や雨後紺青の赤城山★★★★
雨に洗われてすっきりとした紺青色になった赤城山。その山を背景に朝顔が開く。きっぱりと開く朝顔だ。(高橋正子)
薄野や風のもつれし山の裾★★★
浅間嶺と望月久にま見えけり★★★
●多田有花
夕焼けは背中に消えて宵月夜★★★
熱き茶を汲み新秋の風の中★★★
秋の陽の傾くままに描きおり★★★★
●桑本栄太郎
<故郷の海>
夕凪の眼下はるけく盆の海★★★
見晴るかす島根半島夕映えに★★★
いさり火の沖へつらなり盆の海★★★