●小口泰與
山葵田や水隅ずみへ行き渡り★★★★
春嵐地震の如くに家揺れし★★★
葱坊主部活ぶかつの春休★★★
●小西 宏
春休み終われば青き新世界★★★
球の来ぬ外野なずなの花咲けり★★★★
球が飛んで来ない外野。目をやれば、なずなの花が踏まれることもなく柔らかに咲いている。生き生きと動き、活躍するところの端に、「ほっとしたところ」があるのはいいことだ。(高橋正子)
尾を回し犬タンポポの野を駆ける★★★
●桑本栄太郎
さみどりも朱色もありぬ新芽立つ★★★
制服のどこか決まらず新入生★★★
坂道のしべの明かりや花は葉に★★★★
坂道には桜の大樹がある。桜の並木かもしれないが、蕊が降り敷いて紅色に染まっている。「しべの明かり」と思うほど。「花は葉に」なるころ、次の季節はそこまで来ている。(高橋正子)
●多田有花
木の大きければ花吹雪の大き★★★
花筏日差しを載せて浮かびおり★★★
花屑を踏みテニスコートに入る★★★
●河野啓一
都踊り銀杏並木のいっせいに★★
愛惜の念ひとしおに残花かな★★
この花に埋もれたきかな吉野山★★★
●上島祥子
ゆっくりと花を味わう嵐前★★★
日の丸の勢いそのまま新入生★★★
青嵐カードゲームの声高し★★
●黒谷光子
先客の傍を奥へと花見茣蓙★★★
湖北路の花見の梯子茣蓙積んで★★★
ほつほつと帰路の遠見の山桜★★★
●小口泰與
菜の花や飯山線の一両車★★★
大根の花や紫紺の赤城山★★★
榛名湖も煙霞(えんか)なりけり花楓★★★
●多田有花
ひとつ咲きひとつ落ちては藪椿★★★
枝の間に青空を抱き山桜★★★★
山桜風のある日は風に添い★★★
●桑本栄太郎
しべのみの残る明かりや花の冷え★★★
青空を仰ぎ鎮座す落つばき★★★
おもかげの母は遠くに紫木蓮★★★
●黒谷光子
蒲公英の散らばっている造成地★★★
アネモネの真っ赤数本青草に★★★
楓の芽紅のほぐれて薄緑★★★★
楓の芽は大変やわらかな紅色。その芽がほぐれると、薄緑に変わる。紅から薄緑への変化の妙。どちらの色もそれぞれに美しい。(高橋正子)
●佃 康水
紅つぼみ開きて真白花りんご★★★
打ち靡く紅まんさくの庭明かり★★★
初蝶の野川越えしを見とどけり★★★★
初蝶を見たうれしさ。初蝶の危うそうな飛び方に、野川を越えてゆくまでを見届けるやさしさがこの句にはある。(高橋正子)
●増田泰造
春陰や棺の友と相別る★★★
妻歩く支えし杖や春日影★★
乳さがす子猫へ親の寝そべりや★★
●河野啓一
仏生会古木の花は散り終えず★★★
色浅き花や老樹の耐えて咲く★★
チューリップ私を見てよと咲いている★★
●古田敬二
鎌の先撥を鳴らして薺刈る★★★
花の名を一つ覚えし春句会★★
すかんぽの薄紅すくっと畦に伸び★★★
●小口泰與
摘みてきし一輪草を供花とせり★★★
枝垂れ梅見事ですねと声掛かる★★★
青柳や利根の瀬頭波高し★★★
●河野啓一
雨上がり百合の芽伸びる速さかな★★★
名も知らぬ苗木の育つ庭の先★★★
陽のひかり若葉青葉の朝が来る★★★
●増田泰造
母やなし増毛の浜の春の潮★★
鰊群来見たさに銭函来つるかな★★
厩出しいななく主は栗毛色★★
●多田有花
時雨くる中を燕の旋回す★★★
ガレージに等間隔に燕の巣★★★
山桜いま満開の昼下がり★★★
●祝恵子
先頭を行く子はだあれチューリップ★★★
山吹の枝垂れて森の水の上★★★
大道芸子も手伝いて花吹雪く★★★★
●桑本栄太郎
イベントの台車の上や花の塵★★★
散り敷ける坂の艶めき花の冷え★★★
道野辺の片方(かたへ)に集い花の塵★★★
●小西 宏
低き雲ありて速きや夏蜜柑★★★
陽の眩し三葉躑躅の山の道★★★
残されし蕪(かぶら)の花の群れ咲けり★★★
●高橋秀之
チューリップ真っ直ぐ天へ赤々と★★★★
チューリップを代表する色はやはり赤。その赤色のチューリップが真っ直ぐに、新入生のように背筋をのばしている。迷いがなくすがすがしい。(高橋正子)
真っ白な靴で歩みゆく新学期★★★
若草に一筋の道河川敷★★★
●藤田洋子
売り声の丘を巡れり植木市★★★
さわさわと和紙の音して雛納む★★★★
雛納めんは、幾分寂しさがつきまとうが、この句はそうではなく、「さわさわと」した気持ちで雛を納めている。雛は美しいままに、次に飾られる日を待つであろう。(高橋正子)
水の面に落花一片ずつの色★★★
●小口泰與
渓流の音の蛇行や初わらび★★★★
「音」が蛇行するというのは、渓流の遠くの音までが微妙に違って聞こえてくること。その中にわらびが萌え出て、早春の若々しさがうれしい。(高橋正子)
あけぼのや雉の鋭声と犬の声★★★
笊下げて小川へ下りし花菜かな★★★
●河野啓一
一斉に芽吹いて街の銀杏かな★★★
欅若葉みどりは枝の先端に★★★
花韮のうすむらさきに揺れており★★★
●多田有花
嵐の夜明けて山野に木の芽の色★★★
一陣の風に放ちぬ花吹雪★★★
花屑を残し嵐の東へ去る★★★
●桑本栄太郎
花に酔ひ花の命を惜しみけり★★★
重なれば並木色濃き花の影★★★
菜種梅雨ときに嵐となることも★★★
●小西 宏
青空へまるく葉を巻き楢芽吹く★★★★
一木の下(もと)宴あり遅桜★★★
笛習う人の集うて花馬酔木★★★
●高橋秀之
嵐すぎ桜花びら真っ直ぐに★★★
石垣の上に枝垂桜咲く★★★
彦根城堀に桜と空映る★★★
●黒谷光子
朝よりの雨に煙りて花の土手★★★
たまさかに過ぎる公園花の雨★★★
近道をして春泥を避けられず★★★
●下地鉄
花園はサンバのりずむ春嵐★★★
サルビアの咲き揃いてや空の青★★★
春雲や明日帰郷する孫の顔★★★
●迫田和代
散らばって土手の土筆を摘んでる子★★★★
「散らばって」が楽しい。土筆があちこちに生え、子たちも互いに間隔をとって土筆取りに夢中。いい写生だ。(高橋正子)
今通る桜を散らす雨と風★★★
白きもの少し混じった春の空★★★
●小口泰與
松籟や丘をいろどる黄水仙★★★
黄水仙海へ海へとなだれ咲く★★★
そよ風や下へしたへと枝垂れ梅★★★
●下地鉄
行く春の雨だれ音のひびきかな★★
春の海驟雨の中の青さかな★★★
直立し向きをそろえてグラジオラ★★★★
グラジオラスが咲きそろった感じがそのまま素直に表現されて、涼しげである。(高橋正子)
●多田有花
花やいま咲き満ちたりし一点に★★★
嵐来る前に桜を見に行かん★★★
花びらの舞い来る中を山へゆく★★★
●小西 宏
乳搾り紋白蝶の揺れ纏う★★★
丘なべて黄となり空へ菜花畑★★★
海苔粗朶の影波に立ち夕日落つ★★★
●河野啓一
柿若葉はや朝空に陽を透かし★★★★
柿若葉の緑は、空の青さに溶け込むように、光を透かしている。ほかの若葉に先駆けて若葉の美しさを見せてくれる。(高橋正子)
桜散る風強ければ宙を舞う★★★
春嵐来ぬ間のデイの花見かな★★★
●桑本栄太郎
桜桃のうすき花びらかく散りぬ★★★
連なれば鈴やみどりの土佐みづき★★★
辛夷散る丘をまあるく白く染め★★★
●祝恵子
流れゆく流れに乗りて残り鴨★★★
青饅は私の味にワケギ切る★★★
菜の花の摘みしばかりを前かごに★★★★
摘んだばかりの菜の花が自転車の前かごに風を受けて、生き生きとしている。自転車に乗る人もうららかな気持ちになる。(高橋正子)
●河野啓一
紅かなめ萌え出で鄙の春深し★★★
雪柳わが世の春を謳うごと★★★
春眠の覚めてメジロの飛び交う朝★★★
●下地鉄
長き日の夢のつづきの叉寝かな★★★
舞姫の舞いかろやかに春の風★★★
残る世は何して生きむ梅の花★★★
●黒谷光子
物干して見遣る堤の朝桜★★★
嫋やかにうねる遠見の花の道★★★
畑仕事休みては見る桜かな★★★
●多田有花
夜桜や薄むらさきに照らさるる★★★
満開の桜の上に朝の月★★★
清明の光と風にシャツを干す★★★
●桑本栄太郎
うす曇る嶺に陽射しや黄沙降る★★★★
吹き上げる風を待ちいる落花かな★★★
春灯の橋を来る人帰るひと★★★
●小西 宏
タンカーの空へ消えゆく春霞★★★
雲も人もみな菜の花の中にいる★★★★
「雲も人も」を同列に配して意表をついているようだが、大きな視野で見れば自然なこと。やわらかさに包まれた春の景色。(高橋正子)
水張られ田に春光の耀けり★★★
●小口泰與
利根川の流れ荒ぶや山桜★★★
はくれんや白磁の花瓶本床に★★★
大木の根方の雪解まんまるよ★★★
●黒谷光子
青空へ枝を広げて白木蓮★★★
畑に採る茎立ち近き法蓮草★★★
葉の奥に花芽を宿し法蓮草★★★
●多田有花
木漏れ日を親しと思う四月かな★★★
見晴るかす嶺に展開山桜★★★
頂を囲みし三葉躑躅かな★★★
●河野啓一
丘染めて桜花朝日に耀けり★★★★
丘を埋めて咲く桜が朝日を受け、曙色に染まり耀くばかり。素晴らしい眺めを呈してくれる。(高橋正子)
野の池にさくらの姿淡く揺れ★★★
うぐいすを捕るとて網を持ちたる児★★★
●桑本栄太郎
花あはれ夜半に嵐の音を聞く★★★
風に舞い風を染め上げ花の塵★★★★
散り敷いた桜の花びらが風に舞い上がるときは、「風を染め上げ」の言葉通り。花の塵さえも美しい。(高橋正子)
花ももの紅白分かち乱れけり★★★
●藤田洋子
街騒の柳の岸に流れくる★★★
柳青みて水に照り水に垂る★★★★
「柳青みて」の上七に力強さがある。以下「水に照り水に垂る」の五・五と続く五音のリズムも力強い。柳はしなやかなものとして詠まれることが多いが、この句は柳を力強く詠んで成功した。(高橋正子)
雨あとの空より落花はじまれる★★★
●小西 宏
旅の途のひとつのけじめ桜散る★★★★
旅の途にあっても、桜が散るときが来て散る。「散る」を「ひとつのけじめ」として受け止めるのも、旅の思い。(高橋正子)
花覆い日々青みゆく楓の芽★★★
蒲公英の日影に咲いて陽の光★★★
●藤田裕子
もどり来し山路ゆかしき山吹よ★★★
静かなり桜は今を咲き誇る★★★
陽の包む山裾やさし朝桜★★★
●小口泰與
榛名嶺のはるかに雲や花あんず★★★★
ぽっかりと浮かぶ雲とあんずの花。それに榛名山が配されて、やさしくも、安定感のある春の景色となっている。(高橋正子)
谷川の流光奏づ花辛夷★★★
産土は地震に強きや麦青む★★★
●下地鉄
咲きつづき磯の香匂うアマリリス★★★★
アマリリスが咲いて、磯の香が漂っている。沖縄の早い初夏であるが、「アマリリス」と「磯の香」が不思議にマッチしているのは、生活のリアリティ。(高橋正子)
グラジオラス洋舞にそよぐ襟に似て★★
春展や出店の声の大きかり★★★
●河野啓一
散り敷いて街道沿いのさくらかな★★★
満開の街の桜を探しゆく★★★
シクラメン去年の株に佳き花が★★★
●桑本栄太郎
囀りのこずえを見上げ朝の雨★★★
ぐらんどを占めてゲームや老いの春★★
草丈の伸びて穂の見ゆすいばかな★★★★
●多田有花
早寝すもつい心地よく朝寝する★★
はらはらと花びら風に散り初めし★★★
鉢植えの春蘭を愛で縁側に★★★
●黒谷光子
桜さくら大橋一つ渡りても★★★★
桜が続く。大橋を一つ渡った違う村にも桜。日本には、桜に彩られて一頃生活できる幸せがある。(高橋正子)
自転車の背に花の風花の塵★★★
白椿落ちて野川の清らかに★★★
●佃 康水
長堤の水面揺らめく花の雲★★★
雪洞をひねもす揺らす花の雨★★★
つばくらめ雨の街路へ礫めく★★★
●小西 宏
花惜しむ濡れたる道の嵐後★★★
街中の畑のあぜのチューリップ★★★
木々青む谷戸やわらかや匂鳥★★★★
「匂鳥(においどり)」は、鶯の別名。谷戸のやわらかな雰囲気に、「匂鳥」の語音がしっくりしている。谷戸は鶯がしきりに鳴く季節を迎えた。(高橋正子)
●小口泰與
梅挿して此処のみ明り広ごりぬ★★★
梅古木瑞枝立ちけり二輪咲く★★★
霾や穹を篩にかけるごと★★
●祝恵子
展示車に子ら喜びて花筵★★★★
花筵はこの句では散り敷いた桜の花びら。ピカピカのスマートな展示車に子たちは大喜び。展示車には桜の花びらも降りかかっているだろう。みんなが、浮き浮きと楽しいのだ。(高橋正子)
花堤二日続けて今日は晴れ★★★
コンテナの長きを繋ぐ花の冷え★★★
●迫田和代
何となく春の香のする道をゆく★★★
山桜下に立ちたく山道を★★★
祭の夜なにか侘びしい朧月★★★
●多田有花
咲き満ちる桜を濡らす静かな雨★★★★
咲き満ちる桜を静かに濡らし通る雨。満開の姿を保つ花の力とそれを崩さないほどの雨がともに和して、静かな華やかさと強さがある。(高橋正子)
花の雨明るく続く正午かな★★★
はくれんの崩れ落ちるを掃く男★★★
●河野啓一
満開の辛夷辺りを見渡せり★★★
花散らすなかれ今宵の雨模様★★★
花の下レンギョウ苑の彩となり★★
●桑本栄太郎
エイプリル・フールならず初孫産まれけり★★★
鳥たちの歌い交わすよ花の影★★★★
花影に鳥が歌い交わす、明るく穏やかな光景。明るく穏やかな中にも、「花影」にある翳りが日本の叙情。
降りしきる雨にまた散る辛夷かな★★★
●古田敬二
武骨なる指先染めて菜花摘む★★★
いぬふぐりあまねく真昼の陽を受けて★★★
紅椿一輪散歩の妻かえる★★★
●多田 有花
朝桜嶺の日の出に匂い立つ★★★★
嶺の桜には、真っ先に日が昇る。日の出の澄みきった日の光に桜も匂い立つのだ。潔くすっきりとした句。(高橋正子)
見渡せる山のいずこも山桜★★★
谷へ向き枝垂桜の枝伸ばす★★★
●小西 宏
花冷えや小鳥はげしく鳴き交わす★★★
幹くねり枝おどらせて桃の花★★★
窓暮れゆく桜明かりを残しつつ ★★★
●小口泰與
山風を恐るる庭の桜草★★★
今朝も来し二羽の目白や庭の木に★★★
あけぼのや榛名の裾野梅香る★★★
●河野啓一
筑紫野の春をゆたかに次郎かな★★★
仲春の川面に低く鳶舞う★★★
【原句】水郷や柳芽青く船下り
【正子添削】水郷の柳芽青し船下り★★★
「水郷や」とすれば、「水郷」が句のテーマとなって、中七、下五と切れすぎるので添削。
青く芽吹く柳を見ながら船下りは、気持ちが明るく和んで冬から春へ移った喜びがある。(高橋正子)
●桑本栄太郎
休日なれば卵享くべき復活祭★★★
夕暮れのしだれ桜よ紅の濃し★★★
大橋の暮れて灯燈す弥生尽★★★★
暮れて橋に燈る灯に、人はなにがしか哀愁を覚える。「弥生尽」は春が終わる意味でもあるので感慨が湧く。(高橋正子)
●川名ますみ
竹垣に透けし壕辺の土手青む★★★
野の花の向こうお壕と花の雲★★★
空へ触る工場の跡の花こぶし★★★