4月20日(土)

●藤田裕子
朝晴れし稜線宙に山霞む★★★
鍋に入れ緑うるわし生若布★★★
山風の街筋やさしつつじ咲く★★★

●小口泰與
爆ぜ菓子や蘇枋ふくらむ夕まぐれ★★★
青空へ鬨声あげし名の木の芽★★★
摘みてきて蕨三和土にひろげあり★★★★
三和土(たたき)に広げられた蕨にこの時期のほどよい「湿り」を感じる。三和土のある家の薄暗がり、蕨の色とその湿り具合は、日本の湿潤な古くからの暮らしの象徴のようだ。(高橋正子)

●河野啓一
春は行く川の流れのそのように★★★
朝の日に背中のぬくみ春惜しむ★★★
夏隣り艶めいて今樹々の色★★★

●桑本栄太郎
菜の花の天井川の黄明かりに★★★
白壁の土塀つらなり柿若葉★★★
暮れ残る夕日に高きすいばかな★★★
夕日が斜めから差して、すっくと伸びた、赤いすいばの花を染めている。すいばの花が郷愁を感じさせて、やさしく詠まれている。(高橋正子)

4月19日(金)

●藤田洋子
陽を返す色一面の山躑躅★★★
山の日がまぶし躑躅の葉に花に★★★
展望台の陽射し広げて躑躅咲く★★★
展望台からの眺めに解放感があって、躑躅の花が輝き、初夏という季節の強さを思う。(高橋正子)

●小口泰與
もみじ咲く見上ぐる空は万華鏡★★★
チューリップ名残の花を挿しにけり★★★
老木のこぶに咲きたる桜かな★★★

●河野啓一
藤棚の房まだ上に向き★★★
気がつけば豊かにたれし藤の花★★★
そよ風の藤棚いつしか人去りて★★★

●迫田和代
何処(いずこ)より川面に揺れる花筏★★★
静かなり川土手の桜も葉桜に★★★★
満開の桜もよいが、花が散り、花蕊が降ってしまった後の葉桜には、安堵感や安らぎがある。川土手の葉桜の静けさにいい日常がある。(高橋正子)

青い空梨園に溢れる白い花 ★★★

●多田有花
うららかや小さき石橋を渡る★★★
春昼の池の蛙が鳴いており★★★
丘は晴れ霞桜のぽつぽつと★★★

●佃 康水
燕飛ぶ朱の廻廊へ婚の列★★★★
廻廊の朱と、燕に黒の強いコントラストが印象に残る。その華やかさと厳かさに婚儀の列が加わって、華やかさと厳かさが一層増した。(高橋正子)

能果てし帰船の入日よなぐもり★★★
少年ら雁木へ荷を置き磯遊び★★★

●桑本栄太郎
菜園の生垣めぐる新芽かな★★★
サンシェード下ろす車窓の春暑し★★★
秘めごとの吾にありしや著莪の花★★★

4月18日(木)

●小口泰與
夕映えを清流に乗せ花筏★★★
見下ろすや池をおおいし花の雲★★★
雄雉の忽と咫尺を飛びにけり★★★

●古田敬二
陽が落ちる芽吹きの梢に陽を残し★★★★
芽吹きの梢に夕陽が最後まで残って静かなかがやきとなっている。芽吹きの梢の細やかさが一日の最後まで美しい。(高橋正子)
葉桜となりて森の落ち着きぬ★★★
カラタチの花咲くその奥夕暮れて★★★

●河野啓一
夏近しシャツ一枚でペダル漕ぐ★★★
春は行く野山を青く染めあげて★★★
わらび餅購い帰る鄙の里★★★

●多田有花
野のみどり山のみどりや春暑し★★★
山吹も揺れることなし山の午後★★★
ゆっくりと躑躅咲く坂母とゆく★★★

●桑本栄太郎
用水の花菜明かりの中洲かな★★★
医科大の樟の大樹や新芽立つ★★★
花水木こころの痛むことばかり★★★

●黒谷光子
長閑さに訪ねる江戸の長屋門★★★
名園を巡り椿の八重一重★★★
乗り降りに傾く春の屋形船★★★
屋形舟は、花見の舟か。また新緑を楽しみながら下る川下りの舟か。乗り降りに傾いて危ういが、それも屋形舟の興趣。(高橋正子)

●小西 宏
鶯の鍵盤右へふと左へ★★★
空襲に斃れし人の竹の秋★★★
タンポポの綿毛競える夕明かり★★★

●佃 康水
 宮島桃花祭御神能祭
太郎冠者のらりくらりに山笑う★★★
春風を袖に孕みて能舞えり★★★★
厳島神社の能舞台は特別なもの。海を渡ってきた春風が能舞台を吹く。能衣装の袖に孕む風が風雅に動きのある新鮮さを呼んでいる。(高橋正子)

能笛の漏るる参道緑立つ★★★

4月17日(水)

●小口泰與
雲もなき空へ白鳥帰りけり★★★
白鳥が空の青に染まらず帰ってゆく光景。白鳥の白、春空の青、ともに寂しい。(高橋正子)

さえずりや花屋いろどる花の数★★★
春深し小布施の町の水明り★★★

●河野啓一
園児らの声風に乗りゲンゲ畑★★★★
げんげ畑で遊ぶ園児たちが、うれしそうな声をあげ、吹く風に声が乗ってくる。牧草のような匂いがする牧歌的な句だ。(高橋正子)

畦道の向こう遥かに蓮華草★★★
うすピンク色に透けて今年の紫雲英かな★★★

●多田有花
霞桜すでに汗ばむころとなり★★
曇天に重たく咲いて八重桜★★★
チューリップヘッドライトに口閉じて★★

●桑本栄太郎
教師らの校門チェックや花は葉に★★★
子雀の地上の一尺翔ぶばかり★★★
暮れかねる畑の陽を透き柿若葉★★★

●小西 宏
花楓啄ばんで鳥陽を揺らす★★★
麗らかや少し色づく春紫苑★★★
たんぽぽの綿茎高く立ち空へ★★★

4月16日(火)

●小口泰與
風荒き郷にほぐれし牡丹の芽★★★
種袋振るや鳥達高く鳴く★★★
野ざらしの猫車あり鳥帰る★★★★
猫車はもう使われなくなったのか、野ざらしにされている。野畑には、若草が萌え出ているだろう。空高く鳥が帰ってゆく。さびしさの中にも、野は春の明るさを秘めている。(高橋正子)

●黒谷光子
購いて流しに小鮎跳ねさせる★★★★
獲れたばかりの小鮎を買う。流しに置くとまだぴんぴん跳ねる。山椒の葉や実と飴煮されるのだろうか。湖のほとりの暮らしが鄙びていながら風雅。(高橋正子)

飴色に煮ても小鮎の耀ける★★★
小鮎煮て明日の客へのもてなしに★★★

●多田有花
左右より来て春の川合流す★★★
九十九折れ木の芽の山の麓まで★★★
春筍鶴嘴を手に掘りにゆく★★★

●河野啓一
人の波牡丹桜のその下に★★★
重そうな色して牡丹桜かな★★★
散り初めと云えど嬉しき八重桜★★★

●桑本栄太郎
静もれる路地の狭庭や花蘇芳★★★
生垣の赤き芽吹きや古民家の★★★
乙訓の嶺から里へ花菜風★★★

●小西 宏
麗しきもの移りゆく春愁★★★
花蘂敷く道濃く淡く蝶の影★★★
薄日差す紫重し藤の棚★★★

4月15日(月)

●小口泰與
千本の桜の蕾弾けたり★★★
野蒜摘む畦の十字に日の当たり★★★
山独活や山に囲まる風の郷★★★

●河野啓一
芽柳のきららと青み街明かり★★★★
街の芽柳は、街を明るくしてくれる。しなやかに垂れて揺れる若緑の枝は、「街明かり」というほど。街に芽柳はよく似合う。(高橋正子)

風吹けばステップ踏むよ柿若葉★★★
丘青し泳ぎゆくかな鯉二匹★★★

●桑本栄太郎
からし菜の土堤の一面花菜風★★★
天ゆ降る神の声とも揚雲雀★★★
山麓に赤き屋根見え山笑う★★★

●黒谷光子
山に入る金縷梅の黄を目じるしに★★★
谷川の小石光りて花馬酔木★★★
供花切りに入る山路や花馬酔木★★★

●多田有花
湯の音に鶯の声露天風呂★★★
ふるさとの家の庭には桃の花★★★
はくれんや陽にハンカチを振るごとく★★★

●小西 宏
八重桜風に揉まるる花も葉も★★★
雲流る険しき崖の藤の花★★★
春光の漏れ来る梢鳩高らか★★★

4月14日(日)

●小口泰與
初蝶や和紙のハガキの桜色★★★
永き日や今日は新聞休刊日★★★
青麦や午後を制する山の風★★★

●桑本栄太郎
葉陰より目のにらみおり豆の花★★★
堰堤の先は青空八重桜★★★
天を占めどつと降りくる揚ひばり★★★

●黒谷光子
自転車を止め次を待つ初音かな★★★
大川に沿いし竹林初音聞く★★★
届けらる切り口新し春の蕗★★★★
届けられたものが、採りたてであるのは特にうれしい。切り口が新しい,みずみずしい蕗の茎、匂いは、この季節ならではのもの。(高橋正子)

4月13日(土)

●小口泰與
逆らいて逆らいつつも揚雲雀★★★
白波の今日も起たぬや蝶の昼★★★
青空や岩を削りし雪解水 ★★★

●桑本栄太郎
それぞれの丈に陽を透きチューリップ★★★★
今年はいつまでも肌寒い日がつづくせいか、朝日に透けた葉や花だけでなく、昼の陽にも透けている。「それぞれの丈に」には、正確な観察と言えて、いつまでも春寒い空気感や日の光の感じがよく捉えられている。(高橋正子)

近づけば何か飛び込み蘆の角★★★
竹林の楽となり居り春の風★★★

●小西 宏
ふんわりと空に膨らむ八重桜★★★
芽吹きありてメタセコイアの白雲まで★★★
大の字に寝て雲やわらかや馬肥★★★

●黒谷光子
春の地震ためらいつつも京へ発つ★★★
春の能牛若丸の愛らしき★★★
駅を出て仰げば細き春の月★★★

4月12日(金)

●川名ますみ
春日傘ひかりを飛ばしくるくるり★★★
「ひかりを飛ばし」は、春日傘らしい。柔らかいようだが、日傘のいる日には光は強い。それが「飛ばし」となって、くるくる回して楽しむ余裕もある。(高橋正子)

いざ行かん芽ぐむ銀杏の並木道★★★
散る桜より雨粒の多くなり★★

●古田敬二
菜花摘む蝶の寄り来て吾に親し★★★
それぞれの丈持て葦の芽吹きけり★★★

水底へその影伸ばし葦芽吹く★★★★
葦の芽吹きは、その水と芽の緑との出会いが美しい。早春の芽吹きの中でも、水からの芽吹きはまた一味違って、きらめくものがある。水底へ影が伸びるのを確認できるほど、澄んでいる水もよい。(高橋正子)

●小口泰與
そよ風や春竜胆のしべ定か★★★
川速し杏の花の今日も散る★★★
牧の牛つつじの根もとたもとおる★★

●河野啓一
若葉風きらめく朝の狭庭かな★★★
街を出て蓮華の花を探し行く★★★
クローバの上に寝転び転がる子★★★★

●桑本栄太郎
昇降機降りて散り敷くにはざくら★★★
下校子のやや疲れおり葱坊主★★★
早すでに苗代ぐみの熟れ色に★★★

●多田有花
新入生みな制服のやや大き★★★
歩み入る桜天蓋の下へ★★★
増位山春三日月を戴きぬ★★★

●黒谷光子
土手上がり枝垂れ桜の紅濃きへ★★★★
土手の上の紅の濃い枝垂れ桜を遠くから眺めて、あの近くに行きたいと思う。土手を上って近づく艶やかな桜を近くで再び堪能する。「濃き紅」がいい。(高橋正子)

湖の青きに向きて花見茣蓙★★★
紅桜大きくしだれ地に届く★★★

●小西 宏
唐土の詩や遥遥と黄砂来る★★★
春陽気ベンチに上着丸められ★★★
たらの芽を天麩羅にして愁いあり★★★★
たらの芽の天麩羅は、山菜の天麩羅のなかでも一品。「愁いあり」は、春愁か。(高橋正子)

4月11日(木)

●川名ますみ
春愁小さき拳をこんこんと★★★
両岸に八重桜満つ夕の川★★★
陽を飛ばしみて春日傘くるくるり★★★

●小口泰與
吟行の人も見かけし花見かな★★★
花薺道は峠に続きけり★★★★
なずなの花の咲く道がずっと峠まで続いている。ただそれだけのことなのだが、なんと柔らかな気持ちになれることだろう。心情がいい。(高橋正子)

山吹の三ひらひとひら瀞に散る★★★

●多田有花
山笑う腹からトラック吐き出して★★★
春しぐれホットケーキを焼く窓に★★★
長距離ランナー飛花舞う下を駆け抜ける★★★★

●河野啓一
メタセコイヤ鮮やかに立つ若葉して★★★
残花はや芽吹きの森に遮られ★★★
遅さくら見んと出かける奥妙見★★★

●桑本栄太郎
花冷えの蘂の明かりや坂の道★★★
ひこばえや妻は赤子の手伝いへ★★★
学び舎の授業の声や花は葉に★★★

●小西 宏
どの石も塞がってます亀の春★★★
陽の溢れ花弁自由にチューリップ★★★
噴き出でて膨らむ紅の山躑躅★★★