●小口泰與
渓流を釣り上がりしや山つつじ★★★
雨上がりさえずり高き牧の朝★★★
鳥達の森に逃げ行く黄砂かな★★★
●井上治代
山あいに夢のじゅうたん芝桜★★★
広き田にちらほら咲けるれんげ草★★★
庭の隅なんと小さき母子草★★★
●河野啓一
新緑の窓辺に座して烏鷺かこむ★★★
雨上がり街路樹みんな若緑★★★
ひなげしの色載せ丘のゆれており★★★★
丘一面に咲きそろったひなげしの花。丘は一面にひなげしの花を載せている。そよ風が吹けば、丘ごと揺れる。目に安らかな快い明るい景色である。(高橋正子)
●桑本栄太郎
黄金週間テニスコートの音弾む★★★
青柳の名もなき橋に風を呼ぶ★★★
<京都市内散策>
著莪の花木陰に風の高瀬川★★★
●黒谷光子
ふる里の草餅提げて弟来る★★★
石楠花の満開の前いもうとと★★★
石楠花も牡丹も写し帰りゆく★★★
●下地 鉄
若夏のカーテン透く柔陽かな★★★
残照の風に戯る茅花かな★★★★
百合の花影を揺らして今日も咲く★★★
▼4/29
●古田敬二
淡き色八重のかさなり山笑う★★★
木の芽採る見上げる空の眩しかり★★★
京都から帰る子に炊く菜飯かな★★★
●小口泰與
木苺の花や冷気は赤城から★★★★
山桜ほろほろ散るや川速し★★★
三山も白に染まりし凍返る★★★
●河野啓一
筍はリレーのごとく手渡され★★★
子鹿らと遊ぶ子の手に鹿せんべい★★★
スラリ立つあやめの蕾春深し★★★
●黒谷光子
蒲公英の絮飛ぶ構え風を待つ★★★
蒲公英に残されし絮二三本★★★
石楠花や苗木を求めし昭和の日★★★
●多田有花
過ぎ去ればすべて美し昭和の日★★★
春惜しみ古墳の陰に語らいぬ★★★
藤房の下がり初めにし山となる★★★★
●桑本栄太郎
股旅の映画を観たり昭和の日★★★
小でまりの花や背丈を青空へ★★★
流れゆく車窓はるかに蓮華草★★★
●佃 康水
ハンカチの花は夕日へ高く振り★★★★
ハンカチの花は、ヤマボウシのように萼が花のようになっている。ヤマボウシよりも大きく、さながら白いハンカチのようである。高木となって聳え、夕日にさよならを言うように風にそよぐ。その様子を新しい感覚で詠んだ抒情のある句。(高橋正子)
振り付けて発つゴンドラへ山若葉★★★
唐楓落花に山路薄みどり★★★
●高橋秀之
春の青空が葉と葉の合間から★★★
変り種自転車漕ぐ子昭和の日★★★
蒲公英の一輪通路脇に咲く★★★
●小口泰與
うぐいすや白き遠嶺のまだらなり★★★
山梨の花や妙義に雲一朶★★★
初雷や未だ目覚めぬ百日紅★★★
●祝恵子
夏近しバチを響かせおさらい会★★★
水替えて水に挿しおりチューリップ★★★★
水中にあるチューリップの葉や茎は、清涼感さえある。花もよいが、「水」と取り合わせたチューリップもまたよい見所がある。「水」の語の繰り返しが効いている。(高橋正子)
風に乗る百数匹の鯉のぼり★★★
●藤田裕子
山独活の香を手に残し酢みそ和え★★★
月朧庭ひそやかな時もてり★★★
山風を大きく捉え鯉幟★★★★
鯉のぼりは建てられた場所の風を孕んで泳ぐ。山があれば山からの風を捉えて大きく膨らみゆったりとそよぐ。その自然体がおおらか。(高橋正子)
●多田有花
春昼の玄米菜食ごはんかな★★★
護摩焚きの森に響くや春深し★★★★
森に囲まれた寺。護摩が焚かれ弾ける音が春深い森に響く。森の木々、森の小さな生き物にもその音は響き伝わる。護摩を焚く音が春の森に響くのがよい。(高橋正子)
風そよぐ木陰を歩き夏隣★★★
●河野啓一
新緑に向かい浮き浮き車の列★★★
山つつじ当麻寺なる曼荼羅浄土★★
春夕日二上山に西方浄土★★★
●下地鉄
吹く風の色も香りも新樹かな★★★
雲海や機窓に富士の靈姿かな★★★
集落を森へとつなぐ鯉のぼり★★★
●桑本栄太郎
鉢植えのパンジー飾る園の門★★★
肺奥へ馴染み入りけり若葉風★★★
風紋の吹き抜けそよぐ春の波★★★
●藤田洋子
山晴れて筍掘りの鍬の音★★★
掘りたての筍重ね芳しき★★★
山里に風のあふるる竹の秋★★★
●高橋秀之
ぶらんこの順番待つ子が後押しす★★★
ぶらんこが揺れている間にさようなら★★★
ぶらんこの横をボールがコロコロと★★★
●小口泰與
山風の鶏も飛ばすや春炬燵★★★
初雷に耳を峙つチワワかな★★★
火の山の雪解まだらや桜散る★★★
●河野啓一
街の風歩道に沿うて山法師★★★
介護士のシャツひらひらと夏近し★★★
山裾を抜け行く箕面の若葉風★★★
●黒谷光子
石楠花に牡丹に明るき寺の庭★★★
石楠花の満開に虻飛び交える★★★
牡丹の蕾もあしらい供花とする★★★
供花の花はこの季節たくさんあるけれど、それらの花に混ぜて牡丹の蕾を一つ添える。咲いた牡丹ではなく、「蕾」というのが供花に相応しく、ほかの花をも活かした優しい心遣い。(高橋正子)
●桑本栄太郎
葉桜の木陰うれしき散歩かな★★★
近づけば数多飛び込む蝌蚪の紐★★★
たんぽぽの花の石垣埋めにけり★★★
●古田敬二
蓬摘む指先ふるさと香りけり★★★
鶯の鳴きけり矢作の川向う★★★
いたどりの矢作の川へかたぶきぬ★★★
●高橋秀之
軒先に手のひらサイズのこいのぼり★★★
雲ひとつなき空青く夏近し★★★
春風に草木が揺れて影も揺れ★★★
●小口泰與
通り雨楓の花に朝日かな★★★
フロントのガラスを占むる落花かな★★★
たんぽぽや窓明け放す丸太小屋★★★★
丸太小屋は草原にあるのか。窓を開け放すと地に低く咲くたんぽぽが見える。アメリカの草原を思わせるような光景だが、日本にもあるのだろう。(高橋正子)
●河野啓一
鶯の声絶え間なし明日香村★★★
斑鳩に遠き鐘の音春は行く★★★
鯉のぼり風呑みこんで宙に浮く★★★
●迫田和代
朝日浴び周りを明るく白躑躅★★★
葉桜を川面に浮かべゆったりと★★★
夏近し木陰の口笛冴えた音(ね)を★★★★
木陰で口笛を吹く人がいる。きれいな冴えた口笛の音色に、木陰がすずやかだ。夏も近い。(高橋正子)
●佃 康水
ひろしま菓子博2013
菓子博の途切れぬ列へ若葉萌ゆ★★★
川風へ応へ名残りの花揺れる★★★
牡丹の崩れ一ひら書に挿む★★★
●黒谷光子
佛器みな光らせ迎う法然忌★★★
八朔も餅も供物に御忌法要★★★
三幅の絵伝を掛けて法然忌★★★
●多田有花
沖は晴れ頂過ぎる春時雨★★★
チューリップ数多の風姿を見せて咲き★★★
春の森万の色して風に揺れ★★★
●桑本栄太郎
園児等のつなぐ手つづき野遊びへ★★★★
園児たちが手をつないで、次に来る園児も手をつないで、みんなで野原へ遊びにゆく。可愛らしく、のどかな光景。(高橋正子)
甘き香の青空見上げ藤の棚★★★
吹き抜ける風に羽音や虻の昼★★★
●小西 宏
スカイツリーの脚線うらら川下り★★★
燕交う夕暮の空四分して★★★
肩寄せて苺つぶして語りし夜★★★★
●川名ますみ
初蝶の横切るを待ち発車せむ★★★
水木咲くほどに水面へ枝近し★★★
春風や髪に挿さりし花の蘂★★★
●小口泰與
うぐいすや桃源郷の朝ぼらけ★★★
連翹の花に雨粒ひとならび★★★
嬬恋の星あふれけり犬ふぐり★★★
●古田敬二
枝先へ来て尺取りの道迷う★★★
夕陽射すやまぶき色を増しにけり★★★
夕陽射す青梅枝に太りだす★★★
●河野啓一
朝の陽を透かし銀杏の浅みどり★★★★
草若葉きらりと光る虹の球★★★
蔦若葉浜風受けて伸びしかな★★★
●桑本栄太郎
饒舌と云うこと莫れ揚ひばり★★★
大橋のさみどり透きし春灯かな★★★
陸橋の人の行き交い春ともし★★★
●多田有花
八重桜散るやや日輪の暑き中★★★
花水木咲き初む街路の明るさに★★★
湯に放つ南部若布の緑かな★★★
●小川和子
花冷えや車両軋ませ電車着く★★★
夕永し「正常値です」と医師の声★★★
夕さりの月影淡し春の月★★★
●下地鉄
白々と夜の明け染むる夏は来ぬ★★★
ゆったりと消えて又現る卯波かな★★★
卯波現れサーファー握る拳かな★★★★
卯波が寄せて来て、波に乗る絶好のチャンス。拳を握り、波に乗り出す瞬間の闘志。力強い若さだ。(高橋正子)
●黒谷光子
つややかに葉を反らしつつ射干の花★★★★
裏庭は人目も付かず射干の花★★★
うす雲の退くを待ちおり春の月★★
●藤田洋子
真っ直ぐな銀杏並木のみな若葉★★★★
真っ直ぐな銀杏並木の整然とした若葉に、気持ちが爽やかになる。「真っ直ぐな」に読み手の背筋も伸びる思いだ。整然としたなかにも「みな」という柔らかな音の語があって、若葉の柔らかさを感じさせてくれる。(高橋正子)
街筋に銀杏若葉の風溢る★★★
若葉して銀杏並木の高々と★★★
●小西 宏
深川芭蕉記念館近く、川舟番所跡
葉桜に潮の香ながる小名木川★★★
清洲橋の眺め
春風のケルンにも似て隅田川★★★
隅田川船上にて
春行くや鴎は澪に身を任せ★★★
●小口泰與
外つ国の人も交りて花莚★★★
雪解けの山襞迫り指呼の間に★★★★
竹秋や利根の流れの滔々と★★★
●黒谷光子
山門へ溢るる馬酔木見上げつつ★★★
九体佛御座す明るき春障子★★★★
傍らに木椅子おかれて藤の花★★★
●小西 宏
我が家にも蜜蜂の来て躑躅突く★★★
景借りし隣家の庭に春惜しむ★★★
花韮の薄き青ゆれ夏近し★★★★
韮の花は、白く初秋に咲くが、花韮は韮に似た葉ではあるが、花は星型をして春に咲く。白い花もあれば、薄い青色の花もある。花韮が咲き満ち、風に揺れると夏も近いと感じる。光と風はもう夏めいているのだ。(高橋正子)
●河野啓一
樟若葉見上げて高きうす茜★★★
送迎車緑の雨の中を行く★★★
青竹に鯉泳がせし頃のこと★★★
●多田有花
噴水がとどく青空夏近し★★★
鍋で炊く春筍のご飯かな★★★
春荒の部屋で読みつぐ探検記★★★
●桑本栄太郎
さえずりの北京語めける梢かな★★★
饒舌は吾の十八番よ揚ひばり★★★
夕暮れの赤の哀しきすいばの穂★★★
●下地鉄
微かなる泰山木の花落ちて★★★
風吹けば花のかおりの泰山木★★★
卯波はや遠くに海の蒼さかな★★★
●小口泰與
廃校の庭に咲きたる桜かな★★★
桜鯛夕映えのせし水面かな★★★
電柱の天辺占むや鴉の巣★★★
●迫田和代
天からの流れるように藤の花★★★
夏近しピッチの芝に水を撒く★★★
雲もなし漆のよるの朧月★★★
●河野啓一
創造の歓び葉桜並木かな★★★★
樟大樹長者の風情若葉して★★★
里山の夕陽にゆれて柿若葉★★★
●桑本栄太郎
ぼつてりと雨に散りけり八重桜★★★
濃く淡く峰の谷間や山笑ふ★★★
平らかに又あでやかに花みずき★★★
●小西 宏
スカイビルに姿映して金盞花★★★
口腔に軽き音立て春キャベツ★★★
未来へか濁世へか孫入学す★★★
●黒谷光子
三椏の花の天蓋磨崖仏★★★★
三椏の黄色い花と形は、仏との取合せで、曼荼羅図を飾る花のようにも思える。早春の花、三椏の花を天蓋として飾られた磨崖仏に親しみがもてる。(高橋正子)
磨崖仏めぐる鶯の声の中★★★
水音の絶えぬ山路や磨崖仏★★★
●小口泰與
雨後の朝川辺明るき柳かな★★★
老松の空へ鬨声緑立つ★★★
つちふるや雨後の芝生の青々と★★★
●河野啓一
葉桜の葉の増え来たる並木道★★★★
「葉の増え来る」は、実際感じているところだが、言葉に表したのは手柄であろう。桜が散り、葉桜の影が次第に大きくなって初夏を向かえる。気持ちも前へと向く。(高橋正子)
咲きはじむ平戸つつじは校庭に★★★
雲二つ重なり浮かび春は行く★★★
●多田有花
光また差して翳りて若楓★★★
青空へすっくと立ちぬチューリップ★★★
鞄より首出す犬やチューリップ★★★
●桑本栄太郎
春風や足なが募金の高校生★★★
川床の春の落葉や高瀬川★★★
秘めごとの吾にありしや著莪の花★★★
●古田敬二
ほかほかと筍飯の塩加減★★★
夕暮れて山蔭白くしゃがの花★★★
分け入りて水湧く淵のサイタズマ★★★★
●下地鉄
百万の百合花に埋まる小島かな★★★
菜の花や一両電車音残し★★★
一碧の水平線の雨の中★★★★
煙る雨の中に、「一碧の水平線」が印象深く、象徴化された日本画の世界を感じる。(高橋正子)
●高橋秀之
立山に未だ残雪白き峰★★★
ホタルイカまず人数分を注文す★★★
チューリップ揺らして唸るディーゼル音★★★
●小口泰與
夕さりの雨を弾きし白蘇枋★★★
そよ風や雨後の水田の花筏★★★
山桜妙義の奇岩指呼の間に★★★
●河野啓一
ぎっしりと予定のありて花水木★★★
新緑の煌めき夜来の雨上がる★★★★
新緑がとくに美しく輝くのは朝の雨上がり。柔らかの緑の爽やかさが素晴らしい。(高橋正子)
水玉は葉桜の陰雨のあと★★★
●下地鉄
翡翠カズラ風を揺らして重く垂れ★★★
サーファーの前髪美しき飛沫かな★★★
サーファーは女性であろうか。前髪に飛沫がかかり、健康な笑顔が見える。健やかな若者像。(高橋正子)
岩影に咲いて涼しき雪の下★★★
●高橋秀之
残雪の頂上白く飛騨山脈★★★
線路沿い白く黄色く水仙咲く★★★
さるぼぼを照らす薄日は春の空★★★
●祝恵子
藤の花帰りにも寄る房の前★★★★
見事な藤の花房。一度見て去るには惜しく、帰りにもう一度眺める。花好きな者には、うれしく、豊かな花である。(高橋正子)
直立の時期すぎ撓むチューリップ★★★
土再生植え込む春の苗色いろ★★★
●多田有花
桜蘂降るや冷たき雨の中★★★
山若葉風に応えて沸き立ちぬ
泉州の山まで見えて若葉風★★★
●桑本栄太郎
すでに早や若葉寒むとはさりながら★★★
雨後と云う丈を競いぬ春筍★★★
掘る人に日差し届かず竹の秋★★★