9月11日-9月20日

9月20日

●小口泰與
菩提寺の堂の柱へ鬼やんま★★★
朝顔の葉末そよぐや黙の中★★★
洋館にはだかる蔦の初紅葉★★★★

●迫田和代
朝の部屋まっすぐ飛び込む秋の風★★★
秋袷化粧落ちした女あり★★★★
秋涼の季節に相応しい織や柄の秋袷も着こなしにより雰囲気はいろいろ。隙なく装うより、少し化粧落ちしたところに、秋のさびしさもあって、個性を感じさせる。(高橋正子)

丸い月ガラクタ照らしつ去って行く★★★

●黒谷光子
松茸の先ずは香りを頂けり★★★
到来の松茸酢橘も添えられて★★★
佛にと届く大束紫苑かな★★★★
紫苑は丈高く伸びて、ひと茎に咲薄紫の花もたくさんだ。その花を抱えるほどの大束にして、佛にとくれた。紫苑の優しい色があふれる。(高橋正子)

●小西 宏
秋の花満ちたる原は子らの畑★★★★
犬枇杷ちょう秋の実犬と分け食べる★★★
ひょろひょろと風に揺れてる秋のバラ★★★

●多田有花
秋曇り英作文の練習中★★★★
真夜中にひいやりとして毛布出す★★★
萩咲くや朝の散歩の彩りに★★★

●桑本栄太郎
おはぐろの椎の実ほぐれ丘の上★★★
一山となりし残土や草の花★★★
母の名は智恵子と云いし秋彼岸★★★★

9月19日

●小口泰與
塊りて影のみだれぬ稲雀★★★★
明け五つ日は激しくもきりぎりす★★★
半月や博徒忠治の墓の石★★★

●河野啓一
カラコロと外湯めぐりや秋深し★★★
裏通り行けば湯けむり湯の香して★★★

マンション群抜けて秋野を送迎車★★★★
送迎車は、自宅から多少離れたところへ送り迎えをしてくれ、途中の景色も楽しみなもの。マンション群が途切れたところに急に秋の風情ある野原が現れる。都市近郊の開発中のところなどで見られる景色だが、芒や千々の草を眼にすれば、嬉しいものだ。(高橋正子)

●小川和子  
 津軽平野
陽に映える稲田貫く車窓かな★★★
四方より雲湧き上がる稲の秋★★★★
林檎樹に紅きりんごの撓わなる★★★

●小西 宏
子規の忌や心にカメラ持ち歩く★★★
波広きススキが原を雲のゆく★★★★
桃の香や遅れて来たるかぶと虫★★★

9月18日

●小川和子
岩風呂の湯の湧く音や秋灯★★★
山荘の夜は花野に更けにけり★★★
朝霧の晴れて岩木の山蒼し★★★★

●内山富佐子
秋風と競い下校の男の子★★★
校庭に子らの飼う馬秋の風★★★★
校庭で馬を飼うのは、人と馬の生活が親密な北国らしいことであると思うが、「天高く馬肥ゆる秋」の季節を迎えた。子供たちが嬉しそうに馬に餌を与えている様子を思う。(高橋正子)

噴水に小さき虹や秋日和★★★

●小口泰與
あけぼのの稲田滂沱の雫かな★★★★
榛名湖の忽と消えけり霧巻きぬ★★★
稲妻やはげしき妙義山(みょうぎ)闇の中★★★

●多田有花
カンナ咲く角を曲がれば海に出る★★★★
生活に海がある瀬戸内海。海の色とカンナの強い色が対比され、明快な瀬戸内らしい風景だ。(高橋正子)

瀬戸渡る秋夕焼けの消えゆく中★★★
頂に残る燕の飛び交いぬ★★★

●黒谷光子
破れ蓮の池に一輪遅れ咲く★★★
白萩の一株紅萩続く路★★★★
秋風に乗り籾殻を燃す煙★★★

9月17日

●小口泰與
懸命に鮎下りけり静寂のみ★★★★
湖の端を襲う木立や鬼やんま★★★
皺の手を見くらぶ顔や残る蝿★★★

●河野啓一
どんぐりを求め並木を散策す★★★★
つくつくし季節を惜しみ枝の先★★★
ゆうパック供物届くや秋彼岸★★★

●小川和子
水差しの秋水旨し岩木山(やま)の宿★★★
岩木山からの秋水喉にしみ透る★★★

名月や北へ来て居る旅の夜半★★★★
名月の北の夜は、季節も一層進んで、月の光も冴えわたっていることだろう。北の夜半の旅愁の名月。(高橋正子)

●桑本栄太郎
大橋を過ぎて祇園へ秋の色★★★
童子かと想う田中の案山子かな★★★
秋蝉のいつしか鳴かず日暮れけり★★★★

●多田有花
<西条市にて>
澄む水の湧き出すところ西条は★★★
<新居浜市にて二句>
澄む秋の沖に連なるしまなみの島★★★

太鼓台金糸銀糸を秋の陽に★★★★
新居浜の太鼓台は、勇壮できらびやかなことで名高い。太鼓台を飾る金糸、銀糸に秋陽があたるとまばゆい。太鼓台をまぶしくさせる「秋の陽」が、祭りに趣を添える。(高橋正子)

●小西 宏
杣道に紫やわき木通(あけび)の実★★★★
そよ風に桜もみじの一葉かな★★★
虫の音にビルの灯遠く瞬ける★★★

●福田ひろし
旅の朝水澄みわたる武家の町★★★
秋の水わが身冷たく癒しけり★★★

銀漢や海峡の町の路地深く★★★★
海峡のある町の路地の突き当たりは海であることも多いが、その路地の奥深くに天の川の無数の星が見える。海峡の生活の路地にぴったりと嵌った天の川だ。(高橋正子)

9月16日

●古田敬二
一歩ごと屈んで木の実拾いけり★★★★
先ず一輪朝陽を受けて彼岸花★★★
コスモスの蕾も花も揺れ優し★★★

●小口泰與
野路暮れて草の陰へと稲雀★★★
あけぼのの畦のおちこちきりぎりす★★★★
里山の雀被ける案山子かな★★★

●黒谷光子
なだらかな反り橋渡る蓮は実に★★★
女郎花切ればほろほろ黄の零れ★★★
澄む水を汲みて仏の花を挿す★★★★

●内山富佐子
影の濃く風の乾きて秋来たる★★★★
青空を掃き清めたる秋の風★★★
青空の模様替えかな秋の風★★★

●桑本栄太郎
<四条大橋~祇園界隈>
上流のはるか鞍馬や秋の雲★★★★
京都の北、はるか鞍馬山の方を眺めると秋の雲が浮かんでいる。鞍馬寺、鞍馬山などで知られる鞍馬だが、はるか遠い歴史を思いださせるような秋の雲だ。(高橋正子)

弁柄の一力茶屋に秋日かな★★★
外つ人の路地をカメラに秋日影★★★

●佃 康水
孫と手を繋ぐ絵届く敬老日★★★
柿たわゝ色の出始め子規忌来る★★★★
白塀に沿い彩れる葉鶏頭★★★

●小西 宏
冠のクヌギどんぐり王の顔★★★★
惜し惜しと森騒ぎあり秋うらら★★★
枝豆を唇に吸い夕の雲★★★

●多田有花
秋の雲流れる高架駅の上★★★★
石鎚に立ち遠望す秋の海★★★
雲の湧く頂に咲き岩桔梗★★★

9月15日

●小口泰與
きらきらと滴はく゜くむ稲田かな★★★★
木道の野末へ伸びし芒かな★★★
浅間山(あさま)へと日の退くや夕化粧★★★

●内山富佐子
九月晴れ夏のなごりの雲残し★★★
今日は北明日はひがしの秋出水★★★
子らの乗る土管の汽車や秋の風★★★★
秋の風が心地よく吹くようになると、子供たちはいろんなものを見つけて遊ぶようになる。土管を汽車に見立て、土管にまたがって遊んでいる。かわいらしい風景だ。(高橋正子)

●黒谷光子
築地塀少し崩れて実むらさき★★★★
石庭の紋様くっきり秋日差し★★★
古刹へは白壁の塀新松子★★★

●桑本栄太郎
天の地を地は天讃え秋気満つ★★★
柿の実のぬつと色づく日差しかな★★★
妻電話の赤子と話す敬老日★★★★

●小西 宏
澄む風に若きススキの硬く立つ★★★★
穂が出たばかりの若いススキが、澄んだ風にしっかりと立っている。「澄む風」「硬く立つ」の表現から、わかわかしい穂ススキの姿が読み取れる。(高橋正子)

その色も木の葉に合わせ秋の蝶★★★
ガラス窓擦(さす)るごとくに虫の声★★★

●福田ひろし
父母を連れ海峡渡る秋高し★★★★
空は高く晴れ渡り、海峡を流れる潮は明るく輝き、父母を連れての旅がよい旅で、親孝行をされた。海峡の素晴らしい景色を読み手も眺めているようだ。(高橋正子)

秋の水柄杓ことりと戻しけり★★★
海峡をまたぎて赤きうろこ雲★★★

9月14日

●小口泰與
榛名富士ねたまし霧の妙義山★★★
おしろいや羽音はげしき群雀★★★★
蔦かずら逃るる如き早き雲★★★

●桑本栄太郎
野分めく風に雄叫ぶ庭の木々★★★
山里は人住まぬかに秋の園★★★
青き網掛けて無花果熟れにけり★★★★

●黒谷光子
飛ぶことをためらっており草の絮★★★
水引草古刹の庭の片隅に★★★

群れ咲きて水引草の赤の濃し★★★★
水引草は、一すじの茎を伸ばし、それに米粒ほどの小さい花を茎に沿ってつける。まばらに茎が伸びていると、花の存在も空気にまぎれてしまうほど。しかし、群れ咲くとその紅色が鮮やかで、水引草の印象も強まる。(高橋正子)

9月13日

●古田敬二
森を行く秋の入日のほうへ行く★★★★
秋入日あれは伊吹の山の形★★★
栗実る夕陽の輝く毬の中★★★

●小口泰與
初紅葉湖は朝日を独り占め★★★
コスモスの風をまとうや川清し★★★★
つんつんと雨を刺したる濃竜胆★★★

●桑本栄太郎
数珠玉の川風に添い水に沿う★★★★
川沿いの数珠玉を吹く風に馴染み、そこを過ぎれば、川の水の流れに沿って歩く。風に沿い、水に沿う逍遥は、数珠玉があってどこかさびしくなる。(高橋正子)

高黍や風吹きすさぶ乙訓に★★★
川べりの木を覆いけり葛の花★★★

9月12日

●小口泰與
草の実や羽音きびしき群雀★★★★
草の実を食べる雀たちは、人が近づいたり物音がすると、一斉に飛び立つ。この時の、音が厳しく空気を切る。草の実を糧に日々命をつなぐ雀たちの厳しさを見た。(高橋正子)

里山の名も無き川や草の花★★★
川岸の桜紅葉のげに散りぬ★★★

●福田ひろし
明月や夜空も蒼きことを知る★★★
群青の夜空にかかる月今宵★★★★
霧の町汽笛のあとは瀬音のみ★★★

●河野啓一
新御堂青葉の陰に銀杏が★★★
笛太鼓聞きつつ歩く秋遍路★★★
鳥渡る野越え丘越え水の辺に★★★★

●桑本栄太郎
轟音の真夜に響けり秋の雷★★★
秋澄むや山河色濃くなりにけり★★★★
蘆原のオ-べーションや池の風★★★

●小西 宏
白雲の木々に眩しき九月晴★★★
柿少し色づき深き葉に重し★★★

群れ飛んで夕日眩しき塩蜻蛉★★★★
この句では赤とんぼではなく、塩から蜻蛉が詠まれて、少し珍しい光景だ。夕日を翅に反射させる蜻蛉が眩しいのだが、夕日を取り立てて「夕日眩しき」としたのがよい。蜻蛉と夕日が一体化した。(高橋正子)

●古田敬二
名月や一句浮かぶまで歩く★★★★
名月や三十八万キロ先にある丸さ★★★
名月やラジオから平家物語★★★

9月11日

●小口泰與
間引菜やあかあかと朝日出づ★★★★
朝の露を踏んで菜を間引くと、朝日があかあかと昇る。素晴らしい秋晴れの朝だ。間引菜の稚いみずみずしさと朝日は生まれ出た喜び。(高橋正子)

水滴に逆光みつる稲田かな★★★
コスモスや紫紺に暮れし赤城山★★★

●桑本栄太郎
朝冷えやコーヒーカップを掌に★★★
新駅の高架通過や稲穂波★★★★
山里はすでに燈灯り秋入日★★★

●高橋信之
秋の野を妻と二人のバスの旅★★★
白芙蓉を咲かせバス終点の村★★★
バス降りてここより歩く秋高し★★★★
バスの窓から見える景色もよいが、バスを降りて、バスの通らない道を歩くものよい。空は頭上に、青く高くあり、歩くには格好の天気だ。(高橋正子)

●高橋正子
咲き垂るる葛の花ある谷の村★★★★
少年の無口に答う葛の花★★★
秋の野に遊びて夜の薬風呂★★★


コメント

  1. 小口泰與
    2014年9月12日 9:02

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    9月11日の投句に★印のご指導をたまわり、その上、正子先生には素晴らしい句評をいただき感謝申し上げます。有難う御座いました。これからもよろしくご指導の程お願い申し上げます。

  2. 桑本栄太郎
    2014年9月12日 19:47

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    9月11日の投句「新駅の高架通過や稲穂波」の句に
    ★印のご指導を賜り大変有難うございます。
    阪急京都線の新駅の上を高架工事が完成し、特急電車
    のみが通っています。少し高い高架線路より、眼下の
    田園の様子を眺めますとすっかり秋の風景でした。

  3. 桑本栄太郎
    2014年9月13日 18:08

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    9月12日の投句「秋澄むや山河色濃くなりにけり」の句に
    ★印のご指導を賜り大変有難うございます。
    ここ数日の秋晴れと風により、空気が大変澄みわたり
    風景の色が濃くなって見えます。
    散策に出掛けた折、山の峰、谷間、遠くの民家などが
    くっきり見え、視力が良くなったようでした。

  4. 小口泰與
    2014年9月14日 8:17

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    9月12日の投句に★印のご指導をたまわり、その上、正子先生には「草の実」の句に素晴らしい句評をいただき有難う御座いました。これからもよろしくご指導の程お願い申し上げます。

  5. 桑本栄太郎
    2014年9月14日 17:45

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    9月13日の投句「数珠玉の川風に添い水に沿う」の句に
    ★印のご指導を賜り、素晴らしいご句評もお添え頂き
    大変有難うございます。
    数珠玉は何故か川沿いばかりに生えていて、まだ実は
    青いままながら、川風に揺れる光景を眺めていますと
    移りゆく季節の趣きを感じさせて呉れます。

  6. 桑本栄太郎
    2014年9月15日 17:58

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    9月14日の投句「青き網掛けて無花果熟れにけり」の句に
    ★印のご指導を賜り、大変有難うございます。
    近在の田園と山裾の村を散策しましたが、青いネットが
    掛けられ無花果が熟れていました。人が取るという事
    より、烏に食べられないようにとのようです。もう間もなく
    人里の柿の実にも同じようにネットが掛けられます。

  7. 桑本栄太郎
    2014年9月16日 18:28

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    9月15日の投句「妻電話の赤子と話す敬老日」の句に
    ★印のご指導を賜り大変有難うございます。
    敬老の日の昨日、家内は遠くに離れております
    一歳五ヵ月の孫と普通にお話が出来るように電話を
    掛けていました。
    孫の声を聴く事が何よりの楽しみのようです。

  8. 小西 宏
    2014年9月16日 20:46

    お礼
    高橋正子先生
    「澄む風に若きススキの硬く立つ」へのお言葉、たいへん嬉しく、ありがとうございました。まだ穂の開ききらず、真っすぐに立つ薄に涼しい風が吹いていました。

  9. 桑本栄太郎
    2014年9月17日 17:42

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    9月16日の投句「上流のはるか鞍馬や秋の雲」の句に
    ★印のご指導を賜り、嬉しい素敵なご句評も頂戴しまして
    大変有難うございます。
    京都市内へ出掛けます時は、四条大橋から祇園界隈を
    よく散策します。
    ここ数日、秋晴れの天候に恵まれ、四条大橋の上から
    鴨川の上流を眺めますと鞍馬山までくっきりと見え、山の
    上にはぽっかりと秋の雲が見えました。

  10. 桑本栄太郎
    2014年9月21日 21:21

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    9月20日の投句「母の名は智恵子と云いし秋彼岸」の句に
    ★印のご指導を賜り大変有難うございます。所要があり、鳥取の田舎へお彼岸のお参りも兼て帰省して来ました。
    38歳で亡くなった母の事を強く想いました。