●小口泰與
雲海の忽とうごめき渦巻けり
頂上やあびる大気と時鳥
ラベンダーの香のひろごれる山の駅
●古田敬二
野に立ちて齧るトマトに日の温み
先端を振り上げ伸びゆくかぼちゃ蔓
鍬先が跳ね返される夏の畑
●多田有花
蝉捕らえしばらく眺め放ちやる
街ほっと一息つくや驟雨あと
青空に雲はや立ちぬ広島忌
●藤田裕子
鐘の音の地上清めし原爆忌
いそいそと母の手を引き浴衣の児
大夕焼和太鼓ふるわす女衆
●桑本栄太郎
<鎮魂の三句>
献水の竹筒青き原爆忌
「竹筒青き」でこの句が生きた。汲みたての清水を青竹を筒に入れて持参した参拝者。「水を!」と言って亡くなった多くに人がいたことを思えば、清水は鎮魂の意味が大きい。(高橋正子)
炎ゆれ篤き誓いや広島忌
君逝きて早やも七年芙蓉咲く
●佃 康水
大夕立叩き跳ねたる万の椅子
原爆慰霊祭に用意された万の椅子。突然の大夕立が椅子を叩き、跳ね上がる。その夕立の水が目に見える。壮観ではなく壮絶となる。(高橋正子)
たそがれて祈りの影や夏終わる
梧桐の実やくれないの莢ひらく
●小西 宏
琉球の甍の太し夏の雲
谷戸ゆけば夏蜩の四方より
肥え膨らむ青団栗の炎天下
コメント
御礼
高橋信之先生、正子先生
「献水の竹筒青き原爆忌」の句を8月6日の句にお選び頂き、過分なるご句評も賜り大変有難うございます。広島平和記念式典をテレビで見ていました。参列者の中には被爆当時水を求められてもあげる事が出来ず大変辛く哀しい思いを曳きずり、記念式典の度毎に献水を行い戦後を生きてきた高齢のご婦人が居た。そのご婦人も2年前被爆後遺症の為亡くなり、その方の意思を引き継ぎ竹筒に水を入れ「献水」を行っている若い方が居られたと言うエピソードを知りました。平和記念式典には色々な思いの方が沢山参拝参列されている事を思う時、現在平和を享受している私達はその事を当たり前ではなく、先人達の沢山の方の犠牲の上に成り立っていて、感謝と未来へ向けてしっかり繋ぎ伝えなければと思いを新たにしました。、
お礼
高橋信之先生 正子先生
「大夕立叩き跳ねたる万の椅子」の句へ正子先生には私の思いのままの句評を賜り、大変うれしく誠に有難うござす。5日の夕方平和公園で式典の準備をされる最中、猛烈な夕立が襲い用意された椅子を叩き付け跳ね上げていました。6日の式典の時刻は参列出来ませんでしたが、式場の設定も、高齢化している被爆者への配慮がずいぶん変わって来ていることも考えさせられるものが有りました。