12月20日(5名)
●多田有花
球を打ちおりなば夜空から粉雪★★★★
今年は寒波の来襲で、普段の雪の降らない地方にも雪が積もったりしている。夜のテニスコートだろう。球を打っていると粉雪が舞い降りる。急に冷え込んだ夜の思いがけない幻想的なプレゼント。(高橋正子)
厳寒のゆるみし今朝の雨の音★★★
荷物届く冬の雨激しき中を★★★
●小口泰與
山の端に冬満月の朝ぼらけ★★★★
あけぼのの鋭声おちこち寒鴉★★★
よる虎落笛瑞穂の国のあるかぎり★★★
●桑本栄太郎
翔ぶよりも跳ぶごときなり冬の鵯★★★
手のひらを天にかざすやしぐれ来る★★★
もくれんの冬芽濡れ居り光りつつ★★★★
●下地鉄
千両の隣の寡婦の出入り口★★★★
野良猫の舗道に現れて四温かな★★★
悪さして襖の奥の父の顔★★★
●高橋正子
ジャコ天と田芹が馳走饂飩食ぶ
田芹の丈短くそれが絡み合い
冬の雨窓打つ音の暮れにけり
12月19日(9名)
●小口泰與
冬の雨八千草濡らし我ぬらし★★★★
北颪固き大地を踏みにけり★★★
鈍色の八百重の雲や切炬燵★★★
●古田敬二
岩に寝てアシカのしあわせ日向ぼっこ★★★
アザラシの滑らか遊泳冬のプール★★★
見つめれば河馬の瞳の吾に向く★★★
●河野啓一
実満両今年も鳥の恵みかな★★★
餌なくて地面ついばむ冬烏★★★
大寒波柿の実すべて落ち尽し★★★★
●内山富佐子
鶴嘴と鍬にスコップ雪を割る★★★
雪帽子かぶって車走りゆく★★★
忌中告ぐ白木の札や雪激し★★★★
雪が激しく降る日に、忌中の札を見ると、冥福を祈りながらも、人の死の悲しみが、悲痛なまで深くなる。
(高橋正子)
●下地 鉄
冬ざれの舗道啄む小鳥かな★★★
歳の瀬や波音遠く流れくる★★★★
数え日や集う老婆の若葉会★★★
●多田有花
冬朝日横浜港を薔薇色に★★★★
ランドマークタワー寒風に聳ゆ★★★
北風をゆく人誰も足早に★★★
●桑本栄太郎
白き実を鴉ついばみ冬ざるる★★★
初雪や”女人高野”の本を読む★★★★
父が居て膝に抱かるる風邪寝かな★★★
●川名ますみ
日輪のいろ水鳥の羽根にあり★★★★
水鳥の羽が日輪の色を置いている。朝の水鳥、あるいは夕べの水鳥か。詩的な水鳥の情景。(高橋正子)
夕映えの色を水鳥羽ばたかす★★★
自然薯を擂る音笑い声に似て★★★
●小西 宏
窓枠に何事もなし冬木立★★★★
青空に小楢木の葉の色し★★★
マフラーの風にブランコ一人漕ぐ★★★
12月18日(6名)
●古田敬二
雪豹の雪雲見上げていたりけり★★★★
雪を待つまなざし雪豹檻にいる★★★
耳ピクリ動かし河馬の日向ぼっこ★★★
●小口泰與
生姜酒夕べの風の暴れもよい★★★★
寒鯉や八十瀬の淵も黙の中★★★
補陀落や寒暁の月やすからむ★★★
●下地鉄
湯気のたつ銭湯(ゆや)入口の石路の花★★★★
銭湯の湯気と石蕗の花の取り合わせが、いい。石蕗の明るい黄色、湯気のやわらかな白さに気持ちがなごむ。(高橋正子)
数え日に入りて気付きし卒寿かな★★★
賀状書く宛先に手の止まりけり★★★
●桑本栄太郎
味噌の香や朝の厨の根深汁★★★★
寒い朝の味噌汁の香りはいいものだ。旬の根深の旨さに身がしゃんとする。(高橋正子)
懐かしき夢を見ており風邪寝かな★★★
しぐれ雲少し茜の日暮れけり★★★
●小西 宏
松の色ほのかに映し初氷★★★
竜のひげ触れて真白き霜柱★★★
手袋をして大股で日を浴びて★★★★
●佃 康水
窓明りに急ぎ起床や今朝の雪★★★★
あまりに明るい窓の明かりに寝過ごしたのではと、急いで起床。ところが、窓の明かりは一夜にして降り積もった雪であった。雪が降り思わぬ詩的な世界を得た。(高橋正子)
一色に雪しんしんと降り止まず★★★
高きより夜半のしじまをしづり雪★★★
12月17日(6名)
●小口泰與
青天や襞迫りくる冬赤城山(あかぎ)★★★★
眼間に赤城山(あかぎ)迫るや冬黄葉★★★
手袋の指の節々朝まだき★★★
●河野啓一
メタセコイヤ冬の朝日に凛と立ち★★★★
唐代の磁器や真白き雪の肌★★★
着ぶくれて棋譜並べいる昼下がり★★★
●桑本栄太郎
嶺上の日射しまぶしく時雨れけり★★★
すすぎもの慌て取り込むしぐれかな★★★
雲間より午後の日射しや花八手★★★★
●下地鉄
干し綱の揺れの寂しき冬日かな★★★
冬の湯屋声のぶつかる音に消え★★★
北風に掃かれて街の清きかな★★★★(正子添削)
元の句は、「や」「かな」と切字が併用されていたが、これは避ける。
北風が吹き、街の塵を一掃し、街は青空も、街並みも清らかになった。北風の吹いた後「清き」と感じるのは、沖縄の暖かさがあってのことだろう。(高橋正子)
●多田有花
雨あがれば明日はきっと寒くなる★★★
冬の雨ひかりに乗って横浜へ★★★
冬の夜や港の夜景見て眠る★★★★
●古田敬二
麒麟高く異国の寒さに震えおり★★★
そこにだけ冬の陽温しフラミンゴ★★★★
冬の陽に眼光鋭し檻のエミュー★★★
12月16日(4名)
●小口泰與
冬山の鋼の襞の迫りけり★★★★
鉄壁のように迫る冬山の厳しさ、力強さに対峙し、冬山を同じような心境に立った作者の姿が見える。(高橋正子)
安けくてうたた寝よしや囲炉裏端★★★
返り花今日ひと時を華やぐか★★★
●河野啓一
ビル街を突き抜けてくる冬日かな★★★★
「突き抜けてくる冬日」を得てビル街の風景が改まった。静かでありながら、緊張感と温かさがある。「突き抜けてくる」の率直な実感がよい。(高橋正子)
白花の盛り上がりたるシクラメン★★★
氷上の舞い姫手脚のびやかに★★★
●桑本栄太郎
涸川の石のながれや水無瀬川★★★
冬耕や畝の曲がりの黒き溝★★★
雲影の移りゆきけり冬の嶺★★★★
●小西 宏
薄ら日のすぐ雨となる寒い朝★★★
窓ガラスに細い糸引き雨の冷え★★★
烏二羽声無く行ける冬の雨★★★
12月15日(6名)
●小口泰與
寿司桶の中は朱塗りや寒落暉★★★★
山風にかしずく利根川(とね)や枯木立★★★
ガム噛みて試験勉強冬の月★★★
●河野啓一
蘆生うる水辺のひかり鴨の群★★★
枯木立見上げつつ行く丘の道★★★★
ハモニカのお稽古デイのクリスマス★★★
●多田有花
空っ風雲と海とが光りけり★★★
寒波来る空真っ青に晴れあがり★★★★
水使いし後の手をストーブで炙る★★★
●桑本栄太郎
下枝にしがみつき居り冬紅葉★★★
峰上の天の青さやしぐれ雲★★★★
しぐれ雲ひろがり急ぐ家路かな★★★
●佃 康水
悴む手揉みて入り来る投票所★★★
癒えし眼に白山茶花や青み帯び★★★★
白内障の手術を終えられて、周囲が新たな景色のように目に映るのではと思う。山茶花の白い花も白が青みを帯びて鋭く目に映る。感覚が冴え冴えしている。(高橋正子)
冬帽の父が追う児の冬帽子★★★
●小西 宏
翔ぶよりも羽ばたくことよ冬の雁★★★★
秋渡って来た雁は、冬の今は地上に落ち着いて、空を翔ぶことよりも、羽ばたいて見せることが多い。雁の美しくはかなげな印象を覆して、現実のリアルな姿が詠まれた。(高橋正子)
白銀の雲流るるや実万両★★★
冬薔薇の蕾うるわし青き風★★★
12月14日(8名)
●古田敬二
テーブルに冬の菜の花でんと置く★★★
寄り合いて春蘭冬芽を尖らせる★★★
全山を一色にして黄葉期★★★★
●河野啓一
青色の灯し飾りてクリスマス★★★★
青色の灯は、北欧の幻想的な夜を思い起こさせる。また多色の灯りよりも、より宇宙的なイメージが湧く。
今年はノーベル賞で青色ダイオードが有名になったことも一つの理由があるにせよだ。(高橋正子)
胡桃割り人形も居て聖誕祭★★★
縫いぐるみ大きく包み雪だるま★★★
●小口泰與
いしぶみの薄れし文字や枯尾花★★★
冬木の芽白壁に寄る日のぬくみ★★★
寒暁の山もろともに吹かれけり★★★★
●迫田和代
懐かしい青菜を洗う冷たさや★★★
貧富なきホームの暮らし干菜汁★★★
月冴えて地上に流れる賛美歌や★★★★
清らかで美しい賛美歌がさらに身に沁みて感じられるのは、月光がさえざえと届くときであろう。地上も聖なるものに満たされる。(高橋正子)
●小川和子
メール以て「祈り」認む待降節★★★
コントラバス抱えし人と逢う師走★★★★
山茶花の地にも鏤め紅褪せず★★★
●内山富佐子
マスクして目で挨拶の朝かな★★★
除雪車の雪吹き飛ばす早さかな★★★
雪の朝シャベルの音の高らかに★★★★
●桑本栄太郎
<京都南座、吉例顔見世興行>
顔見世の招きに向かうカメラかな★★★
見上げいる招きまぶしき冬日さす★★★★
南座に招きあがりて酢茎買う★★★
●小西 宏
木の葉舞い木の葉すべてが空となる★★★★
冬薔薇や西高東低青い空★★★
雪国を思いつつ見る空の青さ★★★
コメント
デイリー句会投句
<京都南座、吉例顔見世興行>
★顔見世の招きに向かうカメラかな
★見上げいる招きまぶしき冬日さす
★南座に招きあがりて酢茎買う