11月30日(4名)
●谷口博望 (満天星)
鵯の広島城を縦横に★★★★
鵯は人家の庭にも飛んできて、花の蜜を吸ったり、木の実を食べたり、また、喧しく鳴きたる身近な鳥だ。句に詠まれた鵯は、広島城を縦横に飛び、遠慮もない。鵯の天下だ。鳥たちがいきいきとしているのは、人間にもいいことだ。(高橋正子)
黒々と薄暮の屋上寒鴉★★★
紅葉の南京櫨の実は弾け★★★
●小口泰與
すれ違う少女の息の白きかな★★★★
いつ見ても新たな赤城山(あかぎ)冬の川★★★
息白し初冠雪の赤城山★★★
●廣田洋一
塀越しに白菊光る冬の朝★★★
湯豆腐やポン酢垂らして良き香り★★★
湯豆腐や商いの話弾みたる★★★★
●桑本栄太郎
目覚めたる真夜の団地や虎落笛★★★
冬雲や海の涯なる青き空★★★
森々と十一月の果てにけり★★★★
11月29日(6名)
●谷口博望 (満天星)
アフリカの太鼓叩いて秋祭★★★★
小春日の浦々進む巨大船★★★
いつの間に宵の明星日短し★★★
●廣田洋一
枯れ初めし菊の色香を惜しみけり★★★
八重咲の山茶花白き壁のごと★★★
凛としてシングルマザーの七五三★★★★
●小口泰與
密やかに亀の首出す枯葉かな★★★★
黒雲に忽と風起ち冬さるる★★★
木枯しや熱き肉まんほっかほか★★★
●多田有花
初しぐれ空のどこかの明るくて★★★
しぐれ去る夕陽の中の山歩く★★★
冬紅葉見下ろして立つ頂に★★★★
●河野啓一
小鳥来去空に風音はや師走★★★
木枯らしや明日はショートへ初ステイ★★★
大き種いくつも含む庭の柿★★★★
庭に柿の木があると、日本の昔からの家屋と庭と思う。庭の柿は、大きな実をつける年もあったり、小ぶりであったりするが、意外にも大きな種が埋もれている。私の実家は、瀬戸内海の沿岸の田舎にあるが、今では柿の名産地となっている。大きな甘い富有柿がたくさん生ったものだ。そして食べていると大きな種が出てくることがしばしばだった。そんなことを思い出させてくれる句だ。(高橋正子)
●桑本栄太郎
峰膚の赤く染まりて山眠る★★★★
落葉松の錆色とどむ落葉かな★★★
橙の白き土塀に垂れにけり★★★
11月28日(7名)
●谷口博望 (満天星)
木枯や梧桐の鞘(さや)は透かし彫★★★
杭に立つ鶚(みさご)の孤影遥かなり★★★
葦鴨の緑のハット夕映えり★★★★
●「小口泰與
行く水を押し行く水や年惜しむ★★★★
日を乗せて寝転ぶ犬や冬菫★★★
我が影の田居を越えけり冬旱★★★
●「廣田洋一
手袋の片方踏みし改札口★★★
生垣に吊られしままの手袋かな★★★
手袋の温もりこもる握手せり★★★★
●上島祥子
雨上がり雀の凍えけり★★★
木枯らしに向かう自転車膝赤し★★★
マフラーの結び目揃え下校の娘★★★★
下校してきた娘のマフラーの結び目がきちんと整っていた。それは、意外だったかもしれない。結び目を揃えたマフラーに、女子生徒らしい清潔感と少しお洒落な雰囲気があって、作者はそこにさりげない成長を見たのだろう。(高橋正子)
●多田有花
語らいて囲炉裏にひとつ炭を足す★★★
埋火としてのち全員床に就く(原句)
埋火を残して全員床に就く★★★★(正子添削)
布団一枚床暖房の上に寝て★★★
●河野啓一
阿波の柿剥いて干すとて娘と妻が★★★★
柿干して小雨気になる軒端かな★★★
落ち葉舞う姿正しく色綾に★★★
●桑本栄太郎
顔見世のまねき今年は歌舞練場★★★
茄子枯れて打ち捨てられし畦の上★★★
様々な香り立ち居り落葉踏む★★★★
11月27日(5名)
●谷口博望(満天星)
小春日の「禎子の鐘」が鳴りやまず★★★★
敗荷やサリーの二人鐘を撞く★★★
緋鳥鴨ピューイと鳴けば海白く★★★
●小口泰與
枯尾花風に押されし入日影★★★★
我が咳や扉破りし如くにて★★★
白波を操る湖や冬ざるる★★★
●多田有花
冬紅葉黄金に染めし入り日かな★★★
猪鍋を囲み小さな同窓会★★★★
古民家から山茶花に降る雨を見る★★★
●廣田洋一
参道の冬の芽揃ふ小枝かな★★★
挙式祝ひ鳶の二羽舞ふ冬の空★★★
水鳥の群舞すれども池を出ず★★★★
水鳥はこの池を餌場としているのであろう。何かに驚いて水面を飛び立ったり、群舞したりするが、あくまでもその池を離れない。池と水鳥が織りなす一つの世界がここにある。(高橋正子)
●桑本栄太郎
掃除機の唸り居りけり冬深む★★★
剪定の瘤にとどまる冬木かな★★★
枯蔓の高きフェンスやグランドに★★★★
11月26日(6名)
●谷口博望(満天星)
百合鴎見たくてそこは厳島★★★★
百合鴎赤鮮やかに頭上かな★★★
海遠く鶚(みさご)の頭杭に立つ★★★
●多田有花
冬菊や今治タオル美術館★★★
皇帝ダリアあちこちに咲く伊予路★★★
冬浅き瀬戸の檸檬は色づきぬ★★★★
「冬浅き」が、瀬戸内の気候にはぴったりだ。青みがかった檸檬の黄色は、瀬戸の海とよく似合い、詩情があって、作者の思いが読み取れる。(高橋正子)
●小口泰與
騒立ちて傘に付たる落葉かな★★★
石畳楓落葉の降りかくす★★★★
冬の蜂後部座席と格闘ぞ★★★
●廣田洋一
赤カンナ黒く萎みて冬ざるる★★★
冬ざれや空地の草木刈り取られ★★★★
冬ざれや倒れしままの名家の墓★★★
●桑本栄太郎
橙の土塀に垂るる明かりかな★★★
彩となる残る紅葉や桜の木★★★
敷き詰める銀杏落葉やバス通り★★★★
●佃 康水
未明より煮しめ炊きゆく報恩講★★★
冬天へ皇帝ダリア聳え咲く★★★
赤屋根の友の家軒に掛け大根★★★★
11月25日(6名)
●谷口博望(満天星)
木枯に実だけとなりぬ唐楓★★★
魁けて孤高をめざす朴冬芽★★★★
高く聳える朴の木は葉を落とし、いちはやく冬芽を明らかにする。太くつやつやとした冬芽は「孤高をめざす」ようだ。(高橋正子)
枯芙蓉ラケットを手に老夫婦★★★
●古田敬二
固き蕾残して手入れ姫椿★★★
遠空に甲斐駒ケ岳(かいこま)尖り柿をもぐ★★★★
花枇杷に座りて老爺の農談義★★★
●小口泰與
上州の風や冬山凛とあり★★★
笹鳴や秩父連山鮮明に★★★★
たそがれの川瀬響むや雪冠★★★
●多田有花
東から戻れば西は冬の雨★★★
雨あがる来島海峡冬はじめ★★★
豚しゃぶの肉花びらのごと並ぶ★★★★
●桑本栄太郎
刀身のみねに打粉や憂国忌★★★
踏みしだき坂の襤褸や落葉道★★★
石垣を伝う緋色や冬紅葉★★★★
●廣田洋一
線路際枯菊すべて刈られけり★★★
枯菊や捨つるは惜しき色残す★★★★
枯菊や他の供花と捨てられし★★★
11月24日(5名)
●満天星
小春空「禎子の鶴」の鐘鳴らす★★★★
敗荷や世界平和の鐘が鳴る★★★
鐘の音や黄心樹(おがたま)の実の弾けをり★★★
●多田有花
ランドマークタワー影となりたり日短か★★★★
露天風呂に冬の汽笛をひとり聞く★★★
冬麗の浜離宮園を見下ろす★★★
●小口泰與
綿虫や川沿い走る足尾線★★★
霜柱添え木を深く挿しにけり★★★★
空っ風の上州。真冬に向かって添え木が必要となる。霜柱が一面を覆う朝、添え木をしっかりと挿し込む。
厳しい冬に向かう心構えが知れる。(高橋正子)
その事に触れず語らずおでん鍋★★★
●廣田洋一
初雪やぼたぼた降りてすぐ溶けぬ★★★
風花や生まれはどちら空青し★★★
風花や店先に積む牡蠣の殻★★★★
●桑本栄太郎
鮮やかな終いとなりぬ冬紅葉★★★
木枯や想い出つのる空の青★★★
風呂敷に書を入れ通う一葉忌★★★
11月23日(5名)
●谷口博望(満天星)
バスからのドリミネーション冬至の日★★★
銀杏散る平和の園に鐘の音★★★
碧空や銀杏の黄金翻る★★★★
●小口泰與
噴煙の西に流るる神の留守★★★
冬の滝しぶきて人を寄せつけず★★★★
巌を打つ波を眼下に懐手★★★
●多田有花
飛び立ちて眼下に冬の神戸港★★★★
小春日の横浜港をそぞろ歩く★★★
冬ぬくし大さん橋の汽笛かな★★★
●廣田洋一
ピンク色混じるつつじの返り花★★★★
紅葉せし枝の下には緑の葉★★★
緑の中一際赤き紅葉かな★★★
●桑本栄太郎
風呂敷に書を入れ通う一葉忌★★★
花八手門扉閉ざさる売物件★★★
水色の空の鞍馬や北しぐれ★★★★
「北しぐれ」は北から降って来るしぐれ。北にあたる鞍馬の方の空は明るい水色で日が差しているのだろう。ところがここは時雨。降ったと思うと日が差す時雨の降り様の淡い情緒がいい。(高橋正子)
11月22日(5名)
●廣田洋一
映画館ずらりと並ぶマスクの盾★★★
大きな目際立たせたるマスクかな★★★★
鍋焼きの匂いかぐわしマスク取る★★★
●多田有花
冬服を乗せて電車の走り去る★★★★
冬紅葉戴く山を見渡せる★★★
電車来て小春のホーム空っぽに★★★
●小口泰與
シャッターを押すたび増る陣の鴨★★★
人波に身を任せ行く酉の市★★★★
福を呼び、商売繁盛を願う酉の市の賑わい。賑わいの人波に身を任せるよりほかはない。任せることに幸運がありそうだ。(高橋正子)
赤城山(あかぎ)とは我の産土龍の玉★★★
●谷口博望 (満天星)
鳩の眼に冬至の赤い日が光る★★★
冬至の日被爆川行く遊覧船★★★★
破蓮サリーの人が鐘を撞く★★★
●桑本栄太郎
カサコソとカ行つづけり落葉道★★★
ひつそりと闇のとばりや日短★★★
波郷忌の灯火に映ゆるプラタナス★★★★
11月21日(4名)
●小口泰與
梵鐘を幼子打つや神の留守★★★
足元を雲駆け行けり冬紅葉★★★★
帰り花追伸に足す風のこと★★★
●廣田洋一
スケートの四回転は男のあかし★★★
手をつなぎそろそろ浮き浮きスケート場★★★
スケートの絵毎日描きし日記帳★★★★
●桑本栄太郎
芦屋なる坂に沿い居り冬紅葉★★★
冬凪のアベノハルカス靄に浮く★★★
金色の光る運河や冬夕焼★★★★
●谷口博望 (満天星)
みせばやの俯く葉うら紅に染む★★★
みせばややぺちゃくちゃ言つてランドセル★★★
みせばやの花を揺らして猫通る★★★★
コメント
お礼
正子先生、添削をいただきありがとうございます。
埋火としてのち全員床に就く(原句)
埋火を残して全員床に就く
原句は消化の悪いことがわかりました。
「残して」によって句がすっきりと整い、埋火の感覚も伝わってきます。