今日の秀句/8月11日~8月19日

8月19日(2句)
★秋雲のつぎつぎ生まる嶺の奥/桑本栄太郎
秋の雲が生まれ、流れ出て来る。生まれ出るところは、嶺の奥。誰もよく知らない、嶺の奥から。ただそれだけのことが、爽やかに思える。(髙橋正子)
★終電の人みな黙す秋の顔/弓削和人
人間の顔に季節があるかと言う問題に直面するが、秋を表す雰囲気の顔と言えば、目を開いているが、思索にふけるような、頬がやや冷たい顔となるのではないだろうか。仕事で疲れた人たちの乗る終電では、誰も話さない。疲れ切っていても眠りはしない。なにか思うような印象的な顔が並ぶ車内。(髙橋正子)
8月18日(1句)
★飼い犬のスキップちらと秋来る/弓削和人
散歩に連れ出された犬か。爽やかな秋の空気が嬉しくて、スキップのような軽快な走り方ちらとする。すれ違った作者の心にもに秋が来たうれしさが読み取れる。軽い句の良さがある。(髙橋正子)
8月17日(1句)
★涼のオールディーズやバーバーに/桑本栄太郎
「新涼」が効いている。静かに流れるオールディーズに髪を刈ってもらう客も
店の主人も古き良き時代を楽しんでいる。理髪店のひと時がいい時間となっている。(髙橋正子)
8月16日(1句)
★河岸段丘色づき初めし田もありぬ/多田有花
「 河岸段丘 ( かがんだんきゅう ) 」とは川の流れに 沿 ( そ ) ってつくられた 階段状 ( かいだんじょう ) の地形のこと。景観は棚田のような眺めといってよいだろう。そういう特異な地形の田も稲の穂の熟れ始めた色合いが見える。(髙橋正子)
8月15日(2句)
★とんぼうの止まりて離る舫い綱/小口泰與
「舫い綱」は、船を繋ぎとめておく綱のこと。その綱にとんぼが止まっていたのが、離れていった。綱は当然水の上を渡されているので、とんぼ綱に止まりながらも水の上にいて、姿が映っているかもしれない。とてもきれいな秋の情景が詠まれている。

★竹伐って貯金箱とす星祭/弓削和人

星祭りの竹を伐りに行った。笹は七夕飾りに、竹幹は、貯金箱になった。子どものころの思い出か。竹の一節を貯金箱として台所の柱に掛けてあったのをどこかで見た記憶がある。昭和の暮らしが今更に思い出される句。(髙橋正子)
8月14日(2句)
★鶴の首水吹き上げて秋澄めり/廣田洋一
鶴の形をしたおそらく陶器の噴水だろうが、首を上向けて水を吹き上げている。吹き上げた水が落ちて鶴の首から体を濡らしているだろう。「秋澄めり」を実感する景色だ。(髙橋正子)
★手に供花の盆供養なるバスの客/桑本栄太郎
盆のバスに乗ると供花をもった客がいる。バスの中にも今日が盆であることが
示されて、はからずも乗り合わせて人たちも祖先を思う日となったのではなかろうか。(髙橋正子)
8月13日(1句)
★迎え火の無くて夕餉を摂りにけり/桑本栄太郎
故郷を離れて住んでいる家族には、祀る仏のいない家族もある。故郷にいれば迎え火を焚いたであろうに、その迎え火もなく、いつものように夕食を摂った。なにか淋しい、取り残されたような思い。(髙橋正子)
8月12日(1句)
★境内に緋メダカ泳ぐ盆の寺/多田有花
盆の寺の生きとし生けるものはみんな大切にされる感じだ。緋メダカがすいすい泳いで涼を呼んでいて、明るい雰囲気がいい。(髙橋正子)
8月11日(1句)
★山の日の山に向かいて風が吹く/多田有花
山の日は、7月20日の海の日に対して2016年から施行された新しい祝日。「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する 」日とされている。何かかを祝うということではないが、山に向かって吹く風があれば、山もいきいきとしてくるように思える。(髙橋正子)

コメント

  1. 多田有花
    2022年8月14日 11:30

    お礼
    信之先生、正子先生
    「山の日の山に向かいて風が吹く」を8月11日の
    「境内に緋メダカ泳ぐ盆の寺」を8月12日の
    それぞれ秀句にお選びいただきありがとうございます。

    山の日も海の日も制定されたころは不思議な感じでした。
    年月がたってしだいに定着してきた印象です。

    野生のメダカは絶滅危惧種になっているそうですが、
    飼育する品種は青や赤、白、透明など数多くのものが
    つくられていて、メダカブームですね。

  2. 桑本栄太郎
    2022年8月14日 20:04

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    8月13日の今日の秀句に「迎え火の無くて夕餉を摂りにけり」の句をお選び頂き、心情をくみ取って頂いた嬉しいご句評も頂戴しまして大変有難う御座います!!。
    普通であれば田舎の実家に盆帰省を行い、夕刻明るいうちに家族全員でお墓参りを行いその後揃って夕食をご馳走になるところ、今年で3年目となりますお盆の行事の無い日々です。お墓参りが出来ない気掛かりと、望郷の念が募るばかりです。

  3. 小口泰與
    2022年8月17日 19:30

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    8月15日の投句「蜻蛉う」の句を今日の秀句にお取り上げ頂き、正子先生には嬉しい句評を頂き有難う御座います。今後ともよろしくご指導の程お願い申し上げます。

  4. 廣田洋一
    2022年8月18日 10:26

    御礼
    高橋信之先生
      正子先生
    いつも懇切にご指導いただき有難うございます。
    8月14日の「鶴の首水吹き上げて秋澄めり」を秀句にお選び頂き、その上正子先生には素敵な句評を賜り、真に有難う御座います。
    今後とも宜しくご指導の程お願い申し上げます。

  5. 多田有花
    2022年8月18日 17:58

    お礼
    信之先生、正子先生
    「河岸段丘色づき初めし田もありぬ」を
    8月16日の秀句にお選びいただきありがとうございます。

    この河岸段丘は市川が形作ったものです。
    そこにそって水田がつくられています。
    早稲が作付けされている田は稲穂が稔り色づき始めています。

  6. 桑本栄太郎
    2022年8月18日 19:53

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    8月17日の今日の秀句に「新涼のオールディーズやバーバーに」の句をお選び頂き、嬉しいご句評も頂戴しまして大変有難う御座います!!。
    自粛生活の中でも頭髪はかなり伸び、駅前の行きつけの理髪店へ行きました。その店は1960年代初のロックンロールの曲が掛かり、とても明るい雰囲気が好きです。

  7. 桑本栄太郎
    2022年8月25日 16:49

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    8月19日の今日の秀句に「秋雲のつぎつぎ生まる嶺の奥」の句をお選び頂き、嬉しいご句評も頂戴しまして大変有難う御座います!!。
    住まいのあります、京都洛西より西方に京西山の嶺が続いて居ります。
    初秋となっても入道雲のような秋の雲が、つぎつぎに生まれ流れて行きます。