[6月30日]
★射干の朱を緑陰に散りばめて/河野啓一
射干(ひおうぎ)の花は古典的で気品のある、オレンジ色のかわいい花である。それが緑陰のくらがりに柔らかな朱色で、ぽつぽつ咲いているのは、夏らしい心和む光景だ。(高橋正子)
[6月29日]
★青時雨みるみる濡れる石畳/小川和子
青時雨の潔さ、さっぱりとした感じがよく出ている。言葉の色彩も青時雨の青と、石畳の石の色が、涼しそうだ。(高橋正子)
[6月28日]
★新緑の木陰の中で口笛が/迫田和代
新緑の木陰でだれかが口笛を吹いている。新緑の木陰の心地よさが楽しくて口笛を吹いたのだろう。身も心も軽い季節。(高橋正子)
[6月27日/2句]
★花槐咲きしばかりの碧き白/川名ますみ
槐はマメ科の落葉高木なので、花も豆の花のような蝶形花を円錐花序につける。その花は白いが、作者は咲いたばかりの花に「碧き白」を鋭敏にも感じ取った。(高橋正子)
★行き交える電車の過ぎて蔦の青/小西 宏
電車が行き交っている間は、向こうにあるものに目が届かないが、過ぎた向こうには蔦が青々と茂っているのが目に鮮やかに飛びこむ。行き交う電車にこの蔦は煽られ揺れていたであろうが。(高橋正子)
[6月26日]
★糸蜻蛉水の光りへ紛れけり/佃 康水
糸蜻蛉の体の細さは、注意していなければ、すぐ見失う。ましてや水の光りが輝く中では、蜻蛉か、光か、と見まがうようにも。「水の光り」が涼やかだ。(高橋正子)
[6月25日]
★尾根に出れば風の親しき夏至の山/多田有花
尾根に出れば、それまでの登山道とは違って汗の身に心地よい風が吹く、夏至となれば、完全に夏山の風。身になじんだ親しい風。(高橋正子)
[6月24日]
★風の来て植田に夕焼け広がれり/古田敬二
植田は田の面に水が見え、夕焼けが一面に広がる。それも風が来て広げた夕焼けだ。風が生きている。(高橋正子)
[6月23日]
★梅雨晴れや奔り追い抜く新幹線/桑本栄太郎
重い梅雨の雨も晴れあがり、青空の下を疾駆する新幹線の姿は、すっきりとして格好がよい。(高橋正子)
[6月22日]
★ばらを得て土器は生気を得たりけり/小口泰與
土器は、広義には陶磁器をさすこともあるようだが、この句のイメージからは、粘土を乾燥させて焼いたものと考えられる。縄文、弥生の時代を思わせる土器も、ばらを活けられ、ばらの色に生気をもらって、互いに引き立つようになった。(高橋正子)
[6月21日]
★のうぜんの花に夕日と夕風と/桑本栄太郎
夕日の染めるのうぜんの花は、夕日の色と相和して輝かしく咲いている。そこに夕風が吹き花をそよがせ、しずかにも華やぎのある夕方の景色となっている。「夕日」「夕風」と、「夕」を繰り返したのも、無駄ではない。(高橋正子)
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