3月31日(1句)
★初花に静かや丘の動物園/川名ますみ
丘の動物園の動物たちは、のどかな日を満喫しているのだろ。訪ねる人もまばらかもしれない。初めて桜が咲き、小さな動物園は、夢見ごこちのようだ。(髙橋正子)
3月30日(1句)
★木蓮のみな榛名へと向きにける/小口泰與
木蓮の花は、勢ぞろいして、どちらか一方を向く。木蓮の蕾は日がよく当たる南側が膨らみ、したがって蕾は北側を向く指方向性の植物。作者の産土の山、榛名山は北の方に見えるのか。榛名山へ一斉に靡いている。(髙橋正子)
3月29日(1句)
★春日差すこんな狭庭にリラの花/桑本栄太郎
日当たりのいい小さな庭に、まさかのリラの花が咲いている。リラの花がさき、狭庭は幸せの庭に。(髙橋正子)
3月28日(1句)
★春の雲アンカレイジを見上げれば/多田有花
アンカレイジは橋のケーブルの端を定着する大きなブロックのこと。瀬戸大橋のアンカレイジは霞が関ビルほどの体積があるという。その巨大なアンカレイジを見上げると、目に入るのは空に浮かぶ柔らかな春の雲。見上げる人間の小ささを思う。(髙橋正子)
3月27日(1句)
★満開に早や舞い落ちる桜かな/友田 修
虚子の句に「咲き満ちてこぼるる花もなかりけり」があるが、この情景は満開の頂点のほんの一瞬と言ってよいほど短い時期だろう。すぐにひらり、ひらりと桜の花びらは舞い落ちる。時の移ろいが目のあたりに見える。(髙橋正子)
3月26日(1句)
★故郷の春の遠きや犀星忌/桑本栄太郎
室生犀星については、「故郷は遠きありて思ふもの そして悲しくうたふもの」に始まる詩を思い出すが、この詩は遠く故郷を離れてつくった詩ではなく、彼の故郷金沢に居て作った詩といわれている。それはともかく、冒頭の詩句と関連付けられた句と言えよう。栄太郎さんの故郷は鳥取。今、故郷の遅い春はどんな風だろうと、おりしも犀星忌に思う、のだ。(髙橋正子)
3月25日(1句)
★うぐいすの未だ錆びある初音かな/桑本栄太郎
三月も終わりに近づいた。笹鳴きのころから比べると鳴き方もうまくなったと思えるが、そうでもない鴬の声。錆びのある初音は事実でおかしみもあって、
これから美しい声を聞くのが楽しみ。(髙橋正子)
3月24日(1句)
★赤城より烈風吹けり揚雲雀/小口泰與
春になったとは言え、今日は赤城山からの烈風が吹く。烈風に揉まれながらも高みへ揚がる雲雀。その姿に感銘を受ける。(髙橋正子)
3月23日(1句)
★洗濯す遠く近くに雉の声/多田有花
雉は高山や深山ではなく人里近い山の畑や山裾の野に住んでいる。求愛の声も含めて、哀愁を帯び、また力強い声は、よく響き渡る。洗濯をしながらも雉の声が聞こえ、いよいよ春らしくなっていく。(髙橋正子)
3月22日(2句)
★残雪や芯を整うランプの灯/小口泰與
残る雪にランプの炎がまっすぐに燃えたつ。メルヘンのような光景ながら、「芯を整う」で背筋の伸びるような気持ちになる。(髙橋正子)
★みな上に蘂の黄色や落つばき/桑本栄太郎
みな上に見つけた落つばき。落ちた場所は湿りがちなところであろうが、蘂の黄色に、つばきの息づきを感じる。(髙橋正子)
3月21日(1句)
★風に乗り帰雁の迅き峠かな/小口泰與
峠の空を帰りを急ぐかのように、風に乗るまま飛んでゆく雁の群れ。
峠の空が高ければ高いほど見送る寂しさがわいてくる。(髙橋正子)
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