今日の秀句/12月1日~10日

12月10日(1句)
★飛沫上げ水鳥又も来たりけり/桑本栄太郎
水鳥が川や池に着水するとき、あざやかn水飛沫を上げる。それが日に輝くと広げた羽とともに躍動感あふれる美しい姿となる。それは、水鳥を迎える作者の喜びでもある。(高橋正子)
12月9日(1句)
★青き水を静かに進む鴨の群/多田有花
鴨が群れをなして泳ぐときも、水音を立てることもなく、青い水を胸で押すように静かに進む。群れながらの静かさがいい。(高橋正子)
12月8日(1句)
★大堰の上は雲無き冬青空/多田有花
大きな堰の上はすぐ冬の混じるもののない青空。シンプルな構図の景色がさっぱりとしていて、潔さが冬に似合う。(高橋正子)
12月7日(1句)
★墓苑一つふところに抱き山眠る/廣田洋一
都会近郊では墓苑が山ふところに開かれていることが多い。墓苑一つをふところに抱く山は、死者たちを、その魂もあたたかく抱いてくれているようだ。(高橋正子)
12月6日(3句)
★冬ざれの山河となりぬ開戦日/桑本栄太郎
「開戦日」は、第二次世界大戦の局面の一つ太平洋戦争(大東亜戦争)が真珠湾攻撃によって開始された日の12月8日を指していると解釈できるが、この日は、山河は荒涼と冬ざれの景色を見せていたということ。私は戦後すぐに生まれたが、このころの冬は「冬ざれ」ということばが、ぴったりだったと思う。戦争の傷痕は、今も残っている。(高橋正子)
★風吹けば小楢木の葉を放ちけり/多田有花
小楢の黄葉が風が吹くと、自らが葉を放つように落葉する。小楢は、意志があるように立っている。(高橋正子)
枯れ葦を刈れば乾きし音のする★★★★
枯芝に座せば背中に温い陽来る/古田敬二
枯芝に座っていると背中がほんわかと温かくなってくる。遮るものが無く、存分に日があたる枯芝。「温い陽来る」が力強い。(高橋正子)
12月5日(1句)
★枯草やふはと返さる靴の底/廣田洋一
枯草を歩いて行く人をすぐ前に見たのだろう。靴裏を見せて靴が「ふはと」返された。クローズアップされた靴の底が枯草のやわらかさを表している。(高橋正子)
12月4日(1句)
★真ん中に鉄橋がある冬景色/多田有花
高いところからの眺めか。冬景色の真ん中を川が流れ、鉄橋がかかっている。
しばらく佇んでおれば、鉄橋を電車が渡るかもしれない。鉄道パノラマのような実景が楽しい。(高橋正子)
12月3日(1句)
★青空にきらきら光り時雨来る/桑本栄太郎
時雨は日本海の水蒸気を含んで降る京の時雨が一番情趣があるように思える。この日は青空から時雨がこぼれるように降った。青空にきらきら光って降る時雨。そこが作者の住まう京都である思うと、趣深い。(高橋正子)
12月2日(5句)
★花枇杷や牛舎の牛の一か所に/小口泰與
枇杷の花が咲くころは、寒さが募って来る。牛舎の牛も一か所にかたまって、暖まろうとしいている。牛舎を飾るのが花枇杷なので、きれいな句になっている。(高橋正子)
★セーターの毛玉の増えて愛しかり/廣田洋一
着慣れたセーターの着心地の良さは捨てがたい。気になるのは長年着ると毛玉ができること。その毛玉さえも愛着の一つとなる。(高橋正子)
★冬の波残してダブルスカル去る/多田有花
細い船体に二人がのって漕ぐボート、ダブルスカルが滑るように近づいて来て、去っていく。去った後には冬波が残っている。ダブルスカルの軽快さ、爽快さが愉快。「冬の波」が効いている。(高橋正子)
★真つすぐに畝の伸び居り冬菜畑/桑本栄太郎
真っすぐに畝が作られ、畝には冬菜が青々と育っている。「まっすぐに・・伸び居り」は、作者の心持そのものであろう。(高橋正子)
★冬耕す背中いっぱい陽を浴びて/古田敬二
冬の野に出て耕す楽しみは、空にある日の恵みだろう。背中いっぱい日がさして風は冷たくも体は暖かい。晴れ晴れと気持ちの良い畑の仕事である。(高橋正子)
12月1日(1句)
★山水の音して落葉の長屋門/古田敬二
山のふもとの長屋門のある家は無人かもしれない。落葉が降り積もって往時を忍ばせている。山から流れる水音が変わらず生き生きとしている。(高橋正子)

コメント

  1. 小口泰與
    2020年12月4日 14:16

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    12月2日の投句「花枇杷」の句を今日の秀句にお選び頂き、その上、正子先生には素晴らしい句評を頂き有難う御座いました。今後ともよろしくご指導のほどお願い申し上げます。

  2. 廣田洋一
    2020年12月4日 14:21

    自由な投句箱
    高橋信之先生
       正子先生
    いつも懇切にご指導いただき有難うございます。
    12月2日の「セーターの毛玉の増えて愛しかり」を秀句にお選び頂き、その上正子先生には素敵な句評を賜り、真に有難うございます。
    今後とも宜しくご指導の程お願い申し上げます。

  3. 廣田洋一
    2020年12月6日 8:16

    御礼
    高橋信之先生
       正子先生
    いつも懇切にご指導いただき有難うございます。
    12月5日の「枯草やふはと返さる靴の底」を秀句にお選び頂き、その上正子先生には素敵な句評を賜り、真に有難うございます。
    今後とも宜しくご指導の程お願い申し上げます。

  4. 多田有花
    2020年12月6日 19:03

    お礼
    信之先生、正子先生
    「冬の波残してダブルスカル去る」を12月2日の
    「真ん中に鉄橋がある冬景色」を12月4日の
    それぞれ秀句にお選びいただきありがとうございます。

    車で30分ほどの場所の加古川下流部には市立漕艇場があります。
    国体クラスの競技も可能で、この日もシングル、ダブル、フォアなど
    色とりどりの漕艇が川面に出ていました。

    加古川下流部にはJR神戸線とJR加古川線の鉄橋がかかっています。
    神戸線はひっきりなしに電車が行き来していますが、加古川腺は
    1時間に一回程度一両か二両の電車がやってくるのんびりしたローカル線です。

  5. 桑本栄太郎
    2020年12月8日 18:29

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    12月2日の今日の秀句に「真つすぐに畝の伸び居り冬菜畑」の句を、また12月3日の「青空にきらきら光り時雨来る」の句をお選び頂き、それぞれの句に嬉しい素敵なご句評を頂戴しまして大変有難う御座います!!。
    ここの所、連日冬の好天に恵まれ、日差しを浴びながら近在の冬の田園を1時間~1時間30分ほど歩いています。暖かい日差しを浴びることは、この時季は大変な恵みであります。又、先日は雲ひとつない冬空より日照雨(そばえ)が降り、きらきら光る時雨でした。
    更に12月6日の今日の秀句に「冬ざれの山河となりぬ開戦日」の句をお選び頂き、嬉しいご句評も頂戴しまして大変有難う御座います!!。
    ここ数日連日の冬の好天ながら、日毎に朝晩の冷え込みは厳しくなり、開戦日のことを想いました。
    この頃の、コロナ禍に対して国民すべてが想っている不安と、その当時の国民の不安感とを重ねてみました。

  6. 廣田洋一
    2020年12月9日 9:02

    御礼
    高橋信之先生
       正子先生
    いつも懇切にご指導いただき有難うございます。
    12月7日の「墓苑一つふところに抱き山眠る」を秀句にお選び頂き、その上正子先生には素敵な句評を賜り、真に有難うございます。
    今後とも宜しくご指導の程お願い申し上げます。

  7. 多田有花
    2020年12月9日 17:31

    お礼
    信之先生、正子先生
    「風吹けば小楢木の葉を放ちけり」を12月6日の秀句にお選びいただきありがとうございます。
    暖かな当地ではまだ黄葉を楽しめます。
    冬至あたりまでが落葉の最盛期です。

  8. 桑本栄太郎
    2020年12月11日 18:50

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    12月10日の今日の秀句に「飛沫上げ水鳥又も来たりけり」の句をお選び頂き、嬉しいご句評も頂戴しまして大変有難う御座います!!。
    近在にあります、池の周囲をめぐって居て、丁度水鳥が数羽降り立つ光景に出会いました。両足を真っすぐ伸ばし水の抵抗を得るため、大きな水飛沫があがりとても感動的な景色でした。

  9. 多田有花
    2020年12月13日 19:29

    お礼
    信之先生、正子先生
    「大堰の上は雲無き冬青空」を12月8日の
    「青き水を静かに進む鴨の群」を12月9日の
    それぞれ秀句にお選びいただきありがとうございます。

    いずれも加古川の情景です。
    加古川の下流部には鴨がたくさん渡ってきていて
    それぞれに群をつくり暮らしています。
    比較的観察しやすい野鳥なので、その暮らしぶりを楽しく見ました。