今日の秀句/11月11日~11日20日

11月20日(1句)
★勇忌の句碑にしぐるる祇園かな/桑本栄太郎
勇は耽美派の歌人の吉井勇のこと。1886年東京高輪に生まれ、1960年11月19日、京都で亡くなっている。「かにかくに祇園はこひし寝(ぬ)ときも枕にしたに水のながるる」の歌碑があり、祇園を愛した歌人として知られる。大衆に知られたところでは、「ゴンドラの唄」(中山晋平作曲)の作詞をしている。「しぐるる祇園」は祇園の芸妓たちに「しらぎくになってしまわれた」と嘆かせた心境に通じるものがある。(髙橋正子)
11月19日(1句)
★浮かび咲く八手の花や夕の空/弓削和人
夕べの空に八手の白い花が咲いている。夕べなので、花火のような白い花が濃い緑の葉に浮いたように見える。抒情的なやさしい句。(髙橋正子)
11月18日(1句)
 <書写山もみじまつり曼荼羅特別奉納公演>
★冬暮色払いて太鼓の一打かな/多田有花
曼荼羅の特別奉納には、般若心経を唱える中で和太鼓が奉納演奏されたとのこと。和太鼓がどんと一打ちされると、寺の暮色が払われるような響きが広がる。堂々とした寺は、「冬暮色」もまた堂々と深みがある。(髙橋正子)
11月17日(2句)
★高嶺まで眼間に見ゆ霜の朝/小口泰與
泰與さんのお住まいからは、榛名山、浅間山、赤城山など高い山が見える。晴れた夜の冷え込みで朝には霜を見るようになった。朝の研ぎ澄まされた冷気に高嶺さえも眼間に見えるすばらしさ。それが句になった。(髙橋正子)
★朝明けや空までつづく道に冬/弓削和人
朝が明けてくると、空までつづく道が寒々としてそこに冬が来たように思えた。空までつづく道は、うねうねとした人ひとりいない、偶然にも車が一台通り過ぎる山道か、丘の道が空へつづいているのか。(髙橋正子)
11月16日(1句)
★寄せ合うて本を読む児ら冬電車/弓削和人
電車に並んで座った幼い子が本を寄せ合うようにして読んでいる姿はほほえましい。冬の電車のほっこりとした暖かさが幼子を包んで眺めているものも幸せな気持ちになる。(髙橋正子)
11月15日(1句)
<故郷の風呂焚きの追憶>
★外焚きの榾火ごとんと夕暮るる/桑本栄太郎
「榾火」は、季語としては囲炉裏にもちいる焚きものを指すが、この句では解釈をひろげてよいと思う。榾をくべて沸かす風呂は、夕暮れも早い冬には体を温まりながら風呂を焚く。そろそろ沸くころになると急に日暮れて人恋しい気持ちにもなる。「ごとん」にその気持ちが出ている。(髙橋正子)
11月14日(1句)
★とびとびに青空見ゆる初時雨/廣田洋一
初時雨のせいか、青空が雲間にとびとびに見えている。そんな空からの時雨に冬の初めが思い知れる。(髙橋正子)
11月13日(1句)
★踏みゆけば匂い立ち居り落葉かな/桑本栄太郎
公園や道に積もっている落葉は、さほど匂いを感じないが、踏んでゆくと、踏まれた力のせいか、落葉の匂いがする。日々深まる季節の匂いが落葉の匂いでもあろうか。(髙橋正子)
11月12日(2句)
★ぶらりゆけば切株燃やす焚火の香/多田有花
ぶらりと歩いていくと庭の木をせいりたのか、切株を燃やしている。その焚火の匂いに懐かしさを覚えるのは、私だけか。(髙橋正子)
★日向ぼこ猫がそうしていた部屋で/川名ますみ
飼っていた猫は亡くなったのだろうが、その猫が気持ちよさそうに日向ぼこをしていた部屋に入るとぽかぽかと日が差している。猫がしていたように私もしてみた。かわいい猫がそこにいるようだ。(髙橋正子)
11月11日(1句)
★初雪や索道の荷の天へ進み/小口泰與
索道に吊り下げられた荷物が、天へと進んで行くように運ばれている。おりしも初雪が降ってきて絵にしたいような場面になっている。初雪が効いている。(髙橋正子)

コメント

  1. 廣田洋一
    2022年11月15日 8:29

    御礼
    高橋信之先生
      正子先生
    いつも懇切にご指導いただき有難うございます。
    11月14日の「とびとびに青空見ゆる初時雨」を秀句にお選び頂き、その上正子先生には素敵な句評を賜り、真に有難うございます。
    今後とも宜しくご指導の程お願い申し上げます。

  2. 多田有花
    2022年11月15日 10:39

    お礼
    信之先生、正子先生
    「ぶらりゆけば切株燃やす焚火の香」を
    11月12日の秀句にお選びいただきありがとうございます。

    かつては可燃物を空き地で燃やしていたこともありましたが、
    最近はそういうものを見ることが少なくなりました。
    このときは結構大きな切株を燃やしておられ、珍しいなと感じました。

  3. 桑本栄太郎
    2022年11月15日 17:40

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    11月13日の今日の秀句に「踏みゆけば匂い立ち居り落葉かな」の句をお選び頂黄、嬉しいご句評も頂戴しまして大変有難う御座います。
    何時もであれば、田園散策が多いいところこの時はバス通りの銀杏並木を歩きました。銀杏落葉が多くなり踏みながら行けば、銀杏黄葉のかぐわしい匂いが立ち込めて来ます。

  4. 桑本栄太郎
    2022年11月16日 17:46

    Unknown
    高橋信之先生、正子先生
    11月15日の今日の秀句に「外焚きの榾火ごとんと夕暮るる」の句をお選び頂き、嬉しいご句評も頂戴しまして大変有難うご御座います!!。
    田舎の小学校の頃までは、厠も風呂小屋も外の別棟となって居り、夕方近くになると風呂焚きの手伝いでした。幸い風呂釜は室内にありましたが、焚口にて炎を眺めながらの手伝いは、辺りが暗くなって来れば淋しくなって来ました。薪の榾火がごとんと崩れる頃には、お湯が沸きました。

  5. 川名ますみ
    2022年11月17日 19:47

    お礼
    信之先生、正子先生、いつも温かいご指導をありがとうございます。
    「日向ぼこ」の句に賜りました正子先生のご講評、大変嬉しく存じます。状景も心情もコメントの通りでしたので、涙ぐみそうになりました。お礼申し上げます。

  6. 多田有花
    2022年11月21日 12:35

    お礼
    信之先生、正子先生
    「冬暮色払いて太鼓の一打かな」を11月18日の秀句にお選びいただきありがとうございます。
    正子先生のお言葉どおり、天台宗の青年僧の声明と和太鼓を組み合わせるという奉納演奏でした。
    西の比叡山といわれるほど歴史のある寺院の大講堂と常行堂を結んでの公演で、
    暮れていく冬の景色の中に太鼓と声明がこだまして素晴らしいものでした。

  7. 桑本栄太郎
    2022年11月23日 17:28

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    11月20日の今日の秀句に「勇忌の句碑にしぐるる祇園かな」の句をお選び頂き、嬉しい過分なるご句評も頂戴しまして大変有難うございます!!。11月19日は耽美派の歌人吉井勇の忌日です。
    京都もここの所、季節代わりの時雨模様の事がよくあります。その度に、祇園白川沿いにあります吉井勇の「かにかくに・・」の歌の記された小さな石の碑が想い出されます。