1月31日(2句)
★浮くたびに遠くなりたる鳰一羽/廣田洋一
鳰はかいつぶりとも言われて潜水して思わぬところに浮かび出る。その面白さ。この鳰は見ている作者からだんだん遠ざかっている。またこちらに浮いてくれるといいが。(高橋正子)
★梅探るふたたび来る寺苑かな/桑本栄太郎
探梅に出かけた寺苑。そのときは蕾だけか、咲いていても二、三輪と言うところだったのだろう。気になってまた再び訪ねると、前より咲いている。これからが楽しみな寺苑。(高橋正子)
1月30日(2句)
★風花や光るコップはステンレス/多田有花
風花とステンレスのコップの取り合わせ。新しい中性的な抒情がある。(高橋正子)
★歩ゆくほどに風花舞い来たる/桑本栄太郎
歩いていくほど、風花しきりに舞ってくる。次第につのる寒さに、やがてこちらも雪になりそうな気配に少しの不安と風花のうつくしさとが交錯している句。(高橋正子)
1月29日(1句)
★あけぼのや錫刷く如き雪浅間/小口泰與
冠雪の浅間山のあけぼの。冠雪は錫を刷くような色。この色が身上となった句で、厳しくも品格と湛えた浅間山の姿が詠まれている。(高橋正子)
1月28日(2句)
★寒の月はやも山野を離れおり/多田有花
月に気づいて空を見上げると、寒の月がはやくも山や野を離れて高く昇っている。寒月と山野との距離感によって、景色が厳しくも美しく思える。(高橋正子)
★コロナ禍を逃げて畑に大根引き/古田敬二
いつまでも収束しない新型コロナの感染。ひとときでも逃れたい気持ちだ。太陽の光がふんだんに注ぎ、風が吹いている大根畑。ここで大根を引くときはひととき、コロナ禍を忘れられる気がする。(高橋正子)
1月27日(1句)
★いきいきと下校の子らや日脚伸ぶ/多田有花
学校から帰る子供たちも、日脚が伸びると、たしかにのびのびとして、活発になる。いきいきとしてくる。空の天候に左右されながらも子供たちは順応し元気に過ごしているのだ。(高橋正子)
1月26日(2句)
★早梅や日差し豊かな丘の上/廣田洋一
丘の上の豊かな日差しには、だれも幸福感を覚える。早くも梅が開き、かすかに匂いを漂わせている。どこにでも見られる景色ながら、明るい先が見えるような句。(高橋正子)
★春近き風音耳に心地よし/古田敬二
耳は敏い。敬二さんは長く名古屋大学合唱団でご夫妻で活躍されているから、音には特に敏感ということもある。が、春近い風の音を聞きとめた嬉しさは、
だれにもあることだろう。耳に心地よい風の音は、まぎれもなく春風。寒中ながら春のような日があった。(高橋正子)
1月25日(2句)
★せんだんの実や冬鳥を集めおり/多田有花
せんだんの黄色い葉が落ちてしまうと丸い実が目に付くようになる。その実も冬になるとはじけ崩れかかった様を見せ、それを啄みに冬鳥たちが集まって、かわいらしい光景を見せてくれる。(高橋正子)
★廃校に猪猟師の集まれり/古田敬二
廃校となった校舎に猪狩りの猟師が集まって、猪狩りの準備や手順など話そうということだろう。猟師たちも通った山村の学校は村落の中心であり、なにかにつけて集まるところだった。廃校になった今もこうして集まる。(高橋正子)
1月24日(1句)
★土鍋炊く静かなリズム寒灯下/川名ますみ
寒い夜の灯は、あたりを静かに、そして暖かくしてくれる。灯の下にある土鍋がふつふつと煮え安らいだリズムを刻んでいる。(高橋正子)
1月23日(1句)
★木々の枝のしずく歌いぬ寒の雨/桑本栄太郎
冷たい寒の雨も、静かに耳とそばだてると、木々の枝の滴が透明に輝いて落ちるとき、小さな声で歌っているようにも思える。たのしい発想。(高橋正子)
1月22日(1句)
★父母遠し熱き蕎麦掻懐かしき/古田敬二
蕎麦掻は、それぞれの家庭の味があるようだ。熱いおつゆの蕎麦掻は少しずつ箸でちぎって食べるのだろうか。父母とすごした山里の暮らしが、あつあつの蕎麦掻とともに思い出される。(高橋正子)
1月21日(2句)
★砂煙上げし山風青木の実/小口泰與
砂煙をあげて吹く山風が青木の赤い実を取り巻く。赤く熟れた青木の実はそんな山風にも生き生きと輝いている。(高橋正子)
★探梅や北鎌倉に待ち合わせ/廣田洋一
北鎌倉には円覚寺をはじめ、東慶寺など文学にもゆかりの深い寺がたくさんあり、谷戸と呼ばれる谷に咲く梅の風情はゆかしい。その北鎌倉で待ち合わせて梅を探ろうといもの。(高橋正子)
コメント
御礼
高橋信之先生
正子先生
いつも懇切にご指導いただき有難うございます。
1月21日の「探梅や北鎌倉に待ち合わせ」を秀句にお選び頂き、その上正子先生には素敵な句評を賜り、真に有難う御座います。
今後とも宜しくご指導の程お願い申し上げます。
御礼
高橋信之先生、正子先生
1月21日の投句「青木の実を当時の秀句にお選び頂き、正子先生には嬉しい句評を頂き有難う御座いました。今後とも宜しくご指導のほどお願い申し上げます。
御礼
蕎麦掻の句をお取り上げ頂き有り難うございました。
生家を思い出して詠んでみました。
自由な投句箱
日を浴びて横顔りりし寒鴉
赤き傘並んで帰る寒の雨
ぽつぽつと隣家の庭に寒の梅
お詫び
先ほどのコメントは自由な投句箱と間違って投句したものです。
失礼いたしました。
御礼
高橋信之先生
正子先生
いつも懇切にご指導いただき有難うございます。
1月26日の「早梅や日差し豊かな丘の上」を秀句にお選び頂き、その上正子先生には素敵な句評を賜り、真に有難う御座います。
今後とも宜しくご指導の程お願い申し上げます。
お礼
信之先生、正子先生
「せんだんの実や冬鳥を集めおり」を1月25日の
「いきいきと下校の子らや日脚伸ぶ」を1月27日の
「寒の月はやも山野を離れおり」を1月28日の
それぞれ秀句にお選びいただきありがとうございます。
先日、近くを流れる市川の河川敷に行ってみました。
中央にぽつんと一本大きなセンダンがあります。
葉はすっかり落ちていますが、実はまだたくさん残っています。
そこにカワラヒワやヒヨドリの群がやってきます。
実が残っている木が少なくなっているこの時期、
彼らにとってはありがたい存在なのかと思いながら眺めていました。
御礼
高橋信之先生、正子先生
1月23日の今日の秀句に「木々の枝のしずく歌いぬ寒の雨」の句をお選び頂き、嬉しご句評も頂戴しまして大変有難う御座います!!。
先日の久し振り雨の日の光景ですが、見方によってはしずくが歌っているように思えました。
御礼
高橋信之先生、正子先生
1月30日の今日の秀句に「歩ゆくほどに風花舞い来たる」の句を、又
1月31日の今日の秀句に「梅探るふたたび来る寺苑かな」の句を添削の上お選び頂き、大変有難う御座います!!。
朝、晩は厳しい寒さながら日毎に春に向かう景色が広がって参りました。温かい春の到来もあと一息の今日この頃です。
御礼
高橋信之先生
正子先生
いつも懇切にご指導いただき有難うございます。
1月31日の「浮くたびに遠くなりたる鳰一羽」を秀句にお選び頂き、その上正子先生には素敵な句評を賜り、真に有難う御座います。
今後とも宜しくご指導の程お願い申し上げます。
お礼
信之先生、正子先生、いつも温かいお導きをありがとうございます。拙句「土鍋炊く静かなリズム寒灯下」に頂きました正子先生のご講評、嬉しく拝読しました。鍋の季節になりました。夜の灯から暖かく安らぐ時間を得ております。