生活する花たち


○今日の秀句/高橋正子選評

10月19日(水)
★秋潮の蒼さ眩しむ加太岬/津本けい
加太岬は、一般に知られた岬ではないが、作者には愛着のある和歌山市加太の風光明美な岬だろう。岬から眺める紀淡海峡の秋潮の蒼さが眩しい。「秋潮」の動きがあって、句が生きている。

10月18日(火)
★浜風に確と結びし新松子/佃 康水
浜辺の松の枝にしっかりと青い松毬(まつかさ)がついた。古い松毬と違って充実している。それを「確と」が言い当てている。浜辺の青松毬のすがすがしさがよい。

★眠らんとすれば窓辺に降る月光/多田有花
眠ろうと明かりを消せば、窓辺に明るく月光が降り注いでいることに気がつく。この月光に包まれて眠れるのも幸せなことであろう。

10月17日(月)
★うろこ雲球根あまた植えし目に/小川和子
「球根植う」は、歳時記では春の季語。ダリヤやグラジオラスなど夏咲く花の球根を指すが、最近は、秋植えのチューリップなどの球根になじみが深い。この句では、「うろこ雲」が主題。球根を植えた秋の日のうららかさが気持ちよい。

10月16日(日)
★白樺の黄落なおも晴天に/小西 宏
夜の冷え込みと昼間のうららかさを得て、白樺の黄葉がいまもっとも美しい。なおも晴天が続くと白樺の黄落期は美しいまま。

10月15日(土)
★秋の海澄めり真珠筏浸し/藤田洋子
「浸し」が秋海の澄んだ水をよく感じさせてくれる。秋海の澄んだ水に浸され殻を育てている真珠は、美しく輝く珠となることであろう。

10月14日(金)
★赤富士の今や懐かし水の澄む/下地 鉄
「赤富士」は、晩夏から初秋にかけて、富士山が早朝の朝日で赤く染められるのをいう。旅で見た赤富士をなつかしく思い出す今は、水の澄む秋である。早朝の朝日の富士と水澄むが独特の感覚で結びついている。

10月13日(木)
★幾重にも石積みの畑秋高し/藤田洋子
段々畑は、石を積み上げて猫の額ほどの畑を山頂へと幾段も作った。作物にやる水も下から桶で運びあげねばならず、日本の零細農業の象徴のような存在だが、その景観は美しい。秋空を背にして山頂までの石垣がまぶしい。

10月12日(水)
★竹を伐る空に抜けゆく鉈の音/後藤あゆみ
竹を伐るのは、陰暦の九月がよいとされる。竹を伐る鉈の音が空へ抜ける。「抜ける」が澄んだ高い空をすぐ想像させて、快い緊張を生んでいる。

10月11日(火)
★月澄むや長き廊下の消灯す/後藤あゆみ
静まった夜、長い廊下が消灯されて、外には月が澄んでいる。体にずんと染みいるような月明かりである。

10月10日(月)
★虫の音の低く流れて古寺の昼/河野啓一
奈良の古寺の静かなたたずまいが「虫の音の低く流れて」で、よく表現されている。

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