鎌倉街道
★昼顔を眸に映し旅ひとり 正子
鎌倉街道のひとり旅で、路傍にみかけた淡く小さな昼顔を題材に詠まれたものと思いますが、「昼顔を眸に映し」の措辞と下五の「旅独り」の響き合いが絶妙で、穏やかな詠みの中に何とも言えない詩情が醸し出されています。(河野啓一)
○今日の俳句
街を外れて植田静かに広がれり/河野啓一
街を外れたところにまで来ると、植田が静かに広がり、街中とは別世界。そよぐ早苗、植田の水などに日本人の原風景があって、心を平らかにしてくれる。(高橋正子)
◇生活する花たち「どくだみと雪の下・芍薬・茄子の花」(横浜日吉本町)

★明易し畳に二つ旅かばん 正子
日が明けるのも早い夏の朝。これから出かけるであろう旅への思いが感じられて爽やかな朝が一層引き立ちます。(高橋秀之)
○今日の俳句
新緑のうねり触れ合う音軽き/高橋秀之
新緑を風が吹くとうねりができる。新緑と新緑が触れあうと葉の軽やかな音がする。軽やかな音がよい。(高橋正子)
◇生活する花たち「薔薇」(横浜・港の見える丘公園)

★青年ら鮎を食べんと畳の間に 正子
これは松山時代の句座、あるいはご自宅に学生さん達を呼ばれた時のことでしょうか。青年たちの若々しさと鮎の生きの良さが相まって、溌剌とした雰囲気が感じ取れます。畳の間での賑やかな語らいまで聞こえてきそうです。(後藤あゆみ)
○今日の俳句
井戸水を弾くトマトに残る青/後藤あゆみ
もぎたてのトマトを井戸水で洗うと、水を弾いて生き生きとしている。まだ青いところが残っていると、なおさらのこと。(高橋正子)
◇生活する花たち「キンシバイ・トケイソウ・卯の花」(横浜日吉本町)

★夜空あり虚々実々の心太 正子
半透明な心太が夜空のように色濃い黒蜜の中に浮かんでいるイメージを虚々実々と詠まれたものと思いました。同時に、透明感のある一つの心象風景でもあろうかと思われます。(河野啓一)
○今日の俳句
万緑やわが人生はかく愉し/河野啓一
一読、肩の力が抜けて、とても愉快になる。万緑を吹く風、万緑の光、万緑の色などを愉しと思う心軽い心境をすでにもっておられるからできた句。(高橋正子)
◇生活する花たち「アジサイ・八重ドクダミ・アサギリソウ」(横浜日吉本町)

★朴の花わが身清めて芳しき 正子
朴の花の大きな丸さ、芳しい香りが「わが身清めて」という言葉でよく表されています。(多田有花)
○今日の俳句
薫風や沖まで青き播磨灘/多田有花
すっきりとすがすがしい季節を堅実に詠んだ。海の色はところによって違うが、薫風が似合うのは播磨灘の青さだろう。(高橋正子)
◇生活する花たち「芍薬・額紫陽花・さつきと蜂」(横浜日吉本町)

津和野
★夏深井酒づくりの水湧きつづき 正子
津和野と前書きがあり、そこを流れる高津川の清流は、全国一の水質をもつとか。津和野の地酒はこのように吟味された水からうまれるのでしょう。こんこんと湧きつづける清澄な水に、心まであらわれるようです。(小川和子)
○今日の俳句
青紫蘇を水に放ちてより刻む/小川和子
青紫蘇をしゃっきりと香りよく、細く切るためには、水に放して、いきいきとさせて刻む。水と紫蘇の出会いが涼しさを呼び起こしてくれる。(高橋正子)
◇生活する花たち「てっせん・ひるがお・メキシコマンネングサ」(横浜日吉本町)

★麦焼きの煙遠きを満たしける 正子
○今日の俳句
いつもとは違う湯へゆく竹の秋/安藤智久
春もゆこうとしてほのかに黄ばむ竹の秋、しなやかに吹く風には初夏の兆し。気持ちがさわやかになって、「いつもとは違う」湯へ足が向く。「湯」と「竹の秋」がさわやかで、そしてゆかしい。(高橋正子)
◇生活する花たち「しゃがの花・はまなす・矢車草」(横浜日吉本町)

★浜名湖の水の五月を新幹線 正子
新幹線は大阪から東京に向かう時、浜名湖を通ります。水がすぐそこにあって、いつも楽しみな風景です。五月の水、いきいきと青く気持ちのよい日だったのでしょう。(多田有花)
○今日の俳句
芍薬のつぼみ開かんとする丸さ/多田有花
芍薬の蕾は、絹のような丸さが印象付けられる。それが、花開こうとしているいるところに、花のみずみずしさがある。 (高橋正子)
今日の俳句②
★くれないに色いろいろと祝う薔薇 正子
一本一本、それぞれのくれないに最も美しく咲いている薔薇の花、私達門下生も薔薇の花に託して先生の傘寿をお祝い出来て大変嬉しく思います。 (佃 康水)
★薔薇を見しその目に遠き氷川丸 正子
咲き誇るきれいな薔薇を見られたその目で、戦後引き揚げ船として活躍した氷川丸を遠くに見られて、作者は何を想われたのでしょう。時と場所を超えて何か心惹かれる詠みです。 (河野啓一)
★山里の空はひんやり花芍薬 正子
上野・西洋美術館
★いとけなき白もて描かれゴッホの薔薇 正子
当たってないかもしれませんが、ゴッホ最晩年の作といわれるだけに力強さというよりむしろ繊細な色遣いとタッチで描かれているのでしょうか。「いとけなき白もて描かれ」の措辞が心に響きます。絵画と俳句、芸術は相呼応する、の感を覚えます。(河野啓一)
○啓一さんへ。ゴッホの薔薇の句にコメントくださるのに、わざわざどのゴッホの薔薇を調べていただていて、ありがとうございます。西洋美術館にあるのは、よく見ると(よく見なくてもですが)むしろピンクの花が多いのですが、現物を見たときに、白い色が印象づけられました。こんなにも繊細な人が、ゴーギャンと暮らすのは、絶対無理だと思ったような気がします。この薔薇のA4くらいの複製写真を息子の間借りの部屋に、一人暮らしを励ます親心(?)で貼り付けておきましたら、気にいったようで、卒業まで貼っていました。(正子)
○今日の俳句
若葉分け伸び行く単線鉄路かな/河野啓一
単線の鉄路が若葉を分けてどこまでも続く。ただそのことが、爽快である。(高橋正子)
○今日は、信之先生傘寿の誕生日。お祝いの胡蝶蘭、薔薇など、お花を頂く。花冠ツイッター写真集に書かれたお礼の言葉は、「豪華なばらをいただき、ありがとうございます。人生のひと区切りに、今までとは違った誕生日を迎えております。信之」
http://twitpic.com/525es6
◇生活する花たち「胡蝶蘭・薔薇・薔薇」(横浜日吉本町自宅)
★ほととぎす啼きつつゆくも空の中 正子
古来より先人達も魅せられたほととぎすの声。空を啼きわたるその声が、鮮やかに心に残り、仰ぐ遥かな空に、さまざまな思いが繋がってゆくようです。(藤田洋子)
○今日の俳句
竹秋の幹しなやかに打ち合えり/藤田洋子
竹は、真っ直ぐで、きりっと潔い印象があるが、竹の秋のころは、黄ばんだ秀(ほ)先を垂れ、風にゆすられ、「しなやかに幹が打ち合う」。竹秋の本質を詠者らしい視点でよく捉えている。(高橋正子)
◇生活する花たち「はまなす・山ぼうし・水木」(横浜・港の見える丘公園)