9月13日(火)

★水澄むこと今朝より池に始まれる  正子
秋になると空が澄み、空気が澄み、水までもが透き通ってきます。池の水の変化にいち早く気づき秋の始まったことを喜ぶ作者。清々しい朝の大気が伝わります。(後藤あゆみ)

○今日の俳句
風音の明るき朝よ稲刈らる/後藤あゆみ
稲が熟れて、刈られるころは、稲の熟れ色に染まるかのように明るく、爽涼の風が吹く。コンバインが刈り進むにしろ、鎌でサクサク刈るにしろ、稲が刈られるころは、軽やかに、明るい。(高橋正子)

○唐糸草
唐糸草確かに秋が来ておりぬ  正子

向島百花園を訪ねたのは九月八日。晴れであった。百花はあるけれど、どれもたくさん咲いているわけではない。桔梗は花が一つ残り、なでしこは2,3本あったのが、すっかり枯れていた。偶然にも。れんげしょうまが一本、唐糸草がもう終わりかけて、やっとその色と形が残る程度のが二つあった。唐糸草は初めて見たが、山野草の部類に入る。えのころ草の穂よりも少し大きいが、紅色の雄しべが日に透けると大変美しい
ということである。ちょっと粋な長い紅色の雄しべは雨に濡れると、猫が雨に濡れたようになるそうだ。撮ってきた写真を見ながら「唐糸」はいかにも江戸好みらしいと思う。終わりかけの花のみすぼらしさの中にも、きれいな紅色が想像できるから不思議だ。大いにその名前「唐糸」のお蔭であろう。園内にいる間は、なんと花に勢いのないこと、と思っていたが、写真を見ると、一つの情緒がある。文人好みの庭に造られた
せいでもあろう。虫の声を聞く会、月見の会も催されるようだから、暮らしの中の花として、少しを植えて楽しむのもささやかながら、都会人のよい楽しみであろう。

◇生活する花たち「萩・からいとそう・瓢箪」(東京・向島百花園)

9月12日(月)

  尾瀬
★山小屋の湯にいて秋の笹の音  正子
そよそよと心地よい秋風の中山小屋の湯にゆったりと浸り笹の音が微かに聞こえてくる気持の良い景ですね。(小口泰與)

○今日の俳句
鶏頭へ堅き日矢射し空深し/小口泰與
「鶏頭」に対して「堅き日矢」の表現は、秀逸。鶏頭の咲くころの日のあり具合が実感できる。(高橋正子)

◇生活する花たち「花魁草・ぎんみずひき・藤袴」(東京・向島百花園)

9月11日(日)

★さわやかに行きし燕の戻り来る  正子
高く澄んだ空を、ついと燕の影がよぎります。南へ行くのかと見ていると、また戻る影。おそらく仲間が集まるのを待ち、少しずつ群れをなしてから、旅立つのでしょう。その影を見届けることの出来る、秋の空気の優しさ、清々しさを想います。 (川名ますみ)

○今日の俳句
受付に竜胆おかれ医師の古稀/川名ますみ
掛かりつけの医師が古希と伺ったのであろう。受付にさわやかに竜胆がさしてあることが、古希を迎えた医師に相応しい。医師の人となりを想像させ、また、医師の髪に混じる白を穏やかに印象付けている。(高橋正子)

○萩
潜り入る萩のトンネル咲き初めし  正子
咲き満ちて眼にちらちらと萩の紅  正子

九月八日、向島百花園に信之先生と行った。百花園の九月の花といえば、まずは萩の花だろう。もちろん、女郎花、藤袴、芒、なでしこ、桔梗、葛棚に葛が咲いているが、園内の至るところに咲く萩が見もの。萩は丸葉萩だろうか。この日に訪ねたときは、咲き始めたばかりのようで、たまに見ごろの萩があった。十日からの萩祭りには、もう少し紅色が増えるだろう。萩のトンネルは、竹を組んで作られて、十メートルばかりある。「花を潜る」はちょっとうれしいことだが、この季節のよい趣向だ。萩が咲くころは、まだ「秋暑し」の気候。萩など見終わって、百花園特製の「生姜シロップ」のかき氷をいただいたが、オツなもの。淡い琥珀色のシロップが白い氷にかかっている。

◇生活する花たち「葛の花・レンゲショウマ・萩」(東京・向島百花園)

9月10日(土)

★赤とんぼいくらでもくる高さなり  正子
澄んだ空気の中を次々に赤とんぼが飛んでくる。多分作者の目の高さ付近かと思われますが、いくらでもやってくる。秋の広さと豊かさを象徴するような晴々とした御句かと思いました。 (河野啓一)

○今日の俳句
海見ゆる牧に草食む秋の馬/河野啓一
海の見える牧場。ゆったりとして草を食む馬との取り合わせに、新鮮味がある。(高橋正子)

○東京スカイツリー
藤袴スカイツリーのいや真直ぐ  正子

 一昨日、向島百花園に花の写真を撮りに出掛けたので、スカイツリーを近くで見た。百花園の園内からの写真も撮った。東向島駅から浅草駅までを東武伊勢崎線に乗ったので、すぐ近くを電車が走りすぎた。その晩のラジオでは講談師の神田紅さんがスカイツリーのことを話していた。近くにお住まいがあって、夜の灯りの点いていないスカイツリーは、窓を開けてすぐ近くに見ると恐ろしいとのことであった。

◇向島百花園の園内からスカイツリーを望む

9月9日(金)


★つまみ菜を洗えば濁る水の色  正子
つまみ菜を植えられたのでしょうか、あるいはお買いになったつまみ菜にも、泥が残っていたのでしょうか。新鮮なつまみ菜を手早く水に洗うと水はほんのりと泥によごれて濁り、根はいよいよ白さを増す。そんな、何気ない日常にも感動を覚え、私たちにその感動を鮮明に伝えてくださる。(小西 宏)

○今日の俳句
露ころぶキャベツ外葉の濃き緑/小西 宏
キャベツの濃い緑の外葉にころがる露に、力がある。丸く、収れんした露の力と輝きは秋の朝のすがすがしさ。(高橋正子)

○向島百花園
 昨日、墨田区の向島百花園へ花の写真を撮りに出掛ける。午前9時、信之先生と自宅を出て、帰宅は、午後3時であった。東急東横線の日吉駅から日比谷線に乗って終点の南千住、北千住で乗り換え、東武伊勢崎線を乗り継いで東向島駅で降りる。徒歩10分ほどで向島百花園に着いた。園内は、萩、女郎花、藤袴、葛など秋の七草の盛りであったが、樹が茂って、写真撮影には、光が不足していた。 園内には、庭造りに力を合わせた文人墨客たちの足跡もたくさんあり、芭蕉の句碑を含め、合計29の句碑が随所に立っていた。
 江戸の町人文化が花開いた文化・文政期に造られた百花園は、花の咲く草花鑑賞を中心とした「民営の花園」であった。当時の一流文化人達の手で造られ、庶民的で、文人趣味豊かな庭として、小石川後楽園や六義園などの大名庭園とは異なった美しさをもっていた。民営としての百花園の歴史は昭和13年まで続いたが、東京市に寄付された。昭和53年10月に文化財保護法により国の名勝及び史跡の指定を受けた。

◇生活する花たち「白むくげ・ひおうぎ・女郎花・のりうつぎ・花トラノオ・萩」(東京・向島百花園)

9月8日(木)

★虫籠に風入らせて子ら駈ける  正子
虫かごに入っているのは、バッタなのか、トンボなのか、いずれにせよ、虫取りは子どもにとって心躍るものです。「風入らせて」に子どもたちのその様子が反映されています。(多田有花)

○今日の俳句
はや桜紅葉始まる明るき午後/多田有花
「明るき午後」が魅力。暑さがようやく落ち着いたかと思うと、はやくも、桜は紅葉しはじめる。真夏の眩しさがぬけて、しずかな明るさに変わるころ。(高橋正子)

◇生活する花たち「萩・からいとそう・瓢箪」(東京・向島百花園)

9月7日(水)

★たっぷりと雲湧く台風過ぎしより  正子
台風が過ぎれば空気が入れ替わり、空は青く澄んで、晴れ渡ります。一方、台風がもたらした風雨により、大量の雨水が山野も覆って、やがて雲となり、空へと還ってゆきます。雲湧く様や、風の流れも感じられて、爽やかな心地をいただきました。(津本けい)

○今日の俳句
草に落つ青どんぐりの音軽き/津本けい 
風で落ちる青どんぐりであろうか。落ちるときに、草に軽く音を立てる。「軽い音」がよい。秋が深まれば「コツッという確かな音に変わる。(高橋正子)

◇生活する花たち「桔梗・落花生の花・青栗」(横浜市緑区北八朔)

9月6日(火)

★揺れもせず夕日当れる青稲穂  正子
風もなく穏やかな夕方、夕日に照らされ真っ直ぐに立つ青い稲穂の凛々しさ、瑞々しさ。稲田の夕景の中に作者もとけ込んでいる静かな心を感じました。(後藤あゆみ)

○今日の俳句
秋の灯の鉛筆軽し編み図引く/後藤あゆみ
「鉛筆軽し」に手慣れた作業とたのしい心持が知れ、「秋の灯」にもよい生活感があるのがよい。出来上がりを思いながら、軽やかに鉛筆を動かし、編み物の製図をする楽しい時間である。高橋正子)

◇生活する花たち「ルコウアオウ・鶏頭・玉すだれ」(横浜日吉本町)

9月5日(月)

★娘の秋扇たたまれ青き色の見ゆ  正子
お嬢さんが手にしておられるものか、それともそこにおかれているののか、いずれにしても「青き色」に若々しい爽やかさが見て取れます。扇から持主のたたずまいまで想像できる句です。(多田有花)

○今日の俳句
日々すべきことをなしつつ新涼に/多田有花
作者が、モンブランへ発つ直前の句であるから、その準備のための、「日々すべきこと」であろう。用意周到な計画と準備があって、初めて登頂は成功する。日々成し終えていく内に、季節も新涼へと移り変わっていった感慨がおおきい。(高橋正子)

◇生活する花たち「百合・女郎花・睡蓮」(横浜・都筑中央公園)

9月4日(日)

★朝は深し露草の青が育ち  正子

○今日の俳句
草茂る起伏一望秋吉台/河野啓一
秋吉台は、カルスト台地と規模の大きさもさることながら、やはり季節ごとに折なすその眺望はすばらしい。カルスト台地なので、草も平地のように荒く茂るのではなく、菊起伏のある高原にやさしさがある。(高橋正子)

◇生活する花たち「蔓花なすび・クィーンネクレス・風船かずら」(横浜日吉本町)