3月18日(日)

★囀りの抜け来る空の半円球   正子
何処からとも無く囀りが聞こえて来る季節。ふと立ち止まって鳥を追うがその姿は見えない。しかし青い空は何処までも広がって辺りに何の障害物の無い野山で有れば尚のこと広大な半円球の空から漏れてくるかの様です。「囀りの抜け来る空」は自然界に生かされて生きている「尊いいのち」を感じます。(佃 康水)

○今日の俳句
チェロの夕果てて仰げば春の月/佃 康水
チェロの演奏会が果て、余韻を引いて外に出れば春の月が出ている。「秋の月はさやけさを賞で、春の月は朧なるを賞づ」と言われるが、「澄んであたたかい感じ」の春月もよい。チェロの余韻が広がる。(高橋正子)

○彼岸
★兄妹の相睦みけり彼岸過/石田波郷
★竹の芽も茜さしたる彼岸かな/芥川龍之介

俳句の季語では、「彼岸」と言えば、春の彼岸で、秋の彼岸の季語は「秋彼岸」という。季語「彼岸」は、春分の日をはさんだ3月18日から24日までの七日間だが、今年の彼岸は、3月17日から23日までの七日間。寺では彼岸会を修し、先祖の墓参りをする。「暑さ寒さも彼岸まで」というように、このころから春暖の気が定まる。「彼岸前」「彼岸過」「中日」も季語として扱われ、いずれも春の季語である。信之先生の彼岸六句を紹介。

   松山持田、臥風先生句碑2句
 わが坐り師の句碑坐り彼岸の土
 彼岸の風吹きゆき句碑の石乾く
 涅槃西風寺苑にいっとき騒ぎて止む
 彼岸の雨去りたり寺苑少し湿らせ
 線香の燃え速し彼岸の風に吹かれ
 遍路杖たてるそれぞれバスの席に

 信之先生は、松山にいたころ、彼岸となると恩師の川本臥風先生の句碑を訪ねることが多かった。
 城山が見えている風の猫柳 臥風
 松山の旧制松山高校のグランドの隅に建っている句碑である。旧制松山高校は、松山市持田にあったが、今は愛媛大学付属小中学校となっている。私が大学に入学した時は、旧制松山高校時代の木造校舎が残され、そこでも講義があった。信之先生はそこの教授であった。

◇生活する花たち「梅・ヒイラギ南天・山茱萸(さんしゅゆ)」(東京関口・江戸川公園)

3月17日(土)/彼岸入り

★つばき落ちる音の一会に朝厨   正子
つばきが落ちるかすかな音、それを朝の厨で耳にされました。朝まだ早い時間の厨の静けさ、そしてその音を「一会」ととらえられた詩心の確かさ、日常のなかにあって深くて明るい豊かな生活が思われます。(多田有花)

○今日の俳句
新刊の図書を抱きて春風に/多田有花
新刊の図書には、本の匂いがして、これから読もうとする気持を高めてくれる。買い求めた新刊書をもって、春風のなかにいることは知的なよろこび。(高橋正子)

◇生活する花たち「梅・三椏の花・菜の花」(伊豆修善寺2011)

3月16日(金)

  伊豆
★わさび田の田毎に春水こぼれ落つ  正子
透明な空気、清冽な水に育つという山葵。田毎にさらさらと流れる春の水がゆたかにわさび田をうるおし、あふれるほどにこぼれ落ちる水の音も聞こえてくるようです。(小川和子)

○今日の俳句
切りてなお椿一枝にあるちから/小川和子
椿の枝を一枝切る。もちろん花をつけてである。切り取った枝であるのに、却って椿の花が生き生きとしてくる。「枝のちから」がそうさせる。(高橋正子)

○李(すもも)の花
★珠の瀬の見ゆれば光り李咲く/山口青邨
★雲裏の日のまぶしさよ花すもも/木下夕爾

すももの花は、桃の花より咲くのが遅い。中国原産の落葉小喬木で、高さ3メートル余。白色楕円形の五弁花。枝葉ともに桃に似ているが、花は形が小さく数が非常に多い。仲春から晩春に欠けてる通常葉より先に咲く。すももの花をピンク色と思われる方もいるが、小さい白い五弁花が咲き集まれば、うすみどりにさえ見え、ややさびしげな表情がある。散り際のすももに風が吹くとちいさな花が道や畑に白く散り敷く。
果実のすももは大きく分けて、中国原産の「日本すもも(プラム)」と、ヨーロッパコーカサス原産の「西洋すもも(プルーン)」の2つに分類され、それぞれ色や味が異なる。すももは英語で「プラム」、フランス語で「プルーン」という。甘酸っぱくてジューシーな果実で初夏から夏に収穫される。

★花すもも散るや夜道の片側に/高橋正子

○第1回花わさび句会
一昨日(14日)に、湯ヶ島の安藤智久さんと婚約者の鮎川亜紀子さんが来宅。第1回花わさび句会(安藤智久世話人)を開いた。
★スイートピー活け婚約の君ら待つ/信之
★春風吹くかもてなしのケーキの匂い/信之
★映写機の音からからと春の宵/智久
★ころころと祝いの席の春苺/智久
★田の光りなずなはこべの花にあり/正子
★花束のように手渡され花わさび/正子

智久さんからは、丹精の大きなわさびや、今がシーズンの花わさびなどをいただいた。花わさびはテーブルに活けている間にもあたたかいせいか、花が開く。蕾のときがおいしいということで、帰られたあとさっそく三杯酢につけた。野趣味があって一品である。花わさびを束ねているテープにレシピが書いてあったのでそれを参考につくる。砂糖はほんの少し控えたがあとはレシピどおり。

◇生活する花たち「河津桜」(伊豆河津2011)

3月15日(木)

★真っすぐな日の差すところ蕗のとう   正子
蕗のとうを見つけた、それも日が差しているその中にいる自分、春が来た喜びが伺えます。(祝恵子)

○今日の俳句
初摘みの土筆を持ちて病室へ/祝恵子
入院していれば、季節のもの、戸外のものがうれしい。初摘みの土筆に春が来たことが共に喜べることであろう。(高橋正子)

○花苺
★満月のゆたかに近し花いちご/飯田龍太
★岬より帰路は岐れて花苺/古舘草人

苺は、アメリカ大陸原産で、日本には江戸時代にオランダから渡来したので、「オランダイチゴ」とも呼ばれている。苺には種類が多く、草苺、蛇苺、五葉苺、蓮の葉苺、苗代苺等の花も、苺の花として詠む。茎は地面を這う。花は、白い5弁花。花が終わると花床部がどんどん肥大してきて「イチゴ」の実になる。

◇生活する花たち「木瓜・沈丁花・紅梅」(横浜日吉本町)

3月14日(水)

★どの家にも影あり残る春の雪   正子
今年は本格的な春が遅く、おそがけに雪が降るようです。横浜もおそがけに降ったのでしょうか。日の当るところはすぐにも消えるのでしょうが、日陰には少し残ります。「どの家にも影あり」の措辞がまだ寒い春をうまく詠まれていると思います。(古田敬二)

○今日の俳句
御岳の遠望さんしゅゆ開く日に/古田敬二
木曽の御岳が遠望され、ここに早春の花のさんしゅゆが開き始めた。御岳はまだ雪を冠っているだろう。雪の白さ、山の青さに、さんしゅゆの黄色が澄んであざやか。早春ここにあり。(高橋正子)

○馬酔木
★馬酔木咲く金堂の扉にわが触れぬ/水原秋桜子
★百済観音背高におはし花あしび/鈴鹿野風呂

 アセビ(馬酔木 Pieris japonica subsp. japonica.)は、本州、四国、九州の山地に自生するツツジ科の常緑樹。樹高は1.5mから4mほどの低木で観賞用に植栽もされる。別名あしび、あせぼ。。葉は楕円形で深緑、表面につやがあり、枝先に束生する。早春になると枝先に複総状の花序を垂らし、多くの白くつぼ状の花をつける。果実は扇球状になる。有毒植物であり、葉を煎じて殺虫剤とする。有毒成分はグラヤノトキシンI(旧名アセボトキシン)。
 馬酔木の名は、馬が葉を食べれば苦しむという所からついた名前であるという。 多くの草食ほ乳類は食べるのを避け、食べ残される。そのため、草食動物の多い地域では、この木が目立って多くなることがある。たとえば、奈良公園では、シカが他の木を食べ、この木を食べないため、アセビが相対的に多くなっている。逆に、アセビが不自然なほど多い地域は、草食獣による食害が多いことを疑うこともできる。

  東山・慈照寺
★花あしびしずけきものに山の路/高橋正子

◇生活する花たち「サフラン・菜の花・梅」(横浜日吉本町)

3月13日(火)

★春砂をゆきし足跡は浅し   正子
砂浜を歩みながら残る足跡の浅さに、春の浜辺の柔らかな明るさが漂います。打寄せる波音の静けさも感じられる、心惹かれる穏やかな浜辺の情景です。 (藤田洋子)

○今日の俳句
三月の風に乾きしものたたむ/藤田洋子
春三月の風に心地よく乾いたものに清潔さと、「たたむ」という日本人の慎ましい行為がある。(高橋正子)

○所得税確定申告
国税庁のホームページにある「確定申告書等作成コーナー」で、確定申告の申告書を作り、念のため、速達で郵送した。ポップアップのブロックを無効にしなければならなかったので、取りかかりに手間取った。昨年まではこのようなことはなかったのだが。
http://www.nta.go.jp/

○ヒヤシンス
★一筋の縄引きありてヒヤシンス/高浜虚子
★敷く雪の中に春置くヒヤシンス/水原秋桜子
★室蘭や雪ふる窓のヒヤシンス/渡辺白泉
★一月の紫の濃きヒヤシンス/高橋信之

 ヒヤシンス(風信子、飛信子、学名:Hyacinthus orientalis)はユリ科(APG植物分類体系ではヒヤシンス科)の球根性多年草。耐寒性秋植え球根として扱われ、鉢植えや水栽培などで観賞され、春先に香りのよい花を咲かせる。
地中海東部沿岸からイラン、トルクメニスタン付近の原産。オスマン帝国で栽培され園芸化された。16世紀前半にはヨーロッパにもたらされ、イタリアで栽培されていた。16世紀末にはイギリスに伝来し、18世紀から19世紀にかけて盛んに育種が行なわれ、数百の品種が作られた。日本には1863年に渡来。しかしイギリス系のヒヤシンスは20世紀初頭に衰退し、現在は品種もほとんど残っていない。これとは別に、現在普通に栽培されるのは地中海北東部原産のダッチヒヤシンスで、18世紀から主にオランダで改良され2,000以上の栽培品種が作出された。これは1本の茎に青、紅、白、淡黄色などの花を多数つける。
 ヒアシンスの名は、ギリシャ神話の美青年ヒュアキントスに由来する。同性愛者であった彼は、愛する医学の神アポロンと一緒に円盤投げに興じていた(古代ギリシャでは同性愛は普通に行われ、むしろ美徳とされていた)。しかしその楽しそうな様子を見ていた西風の神ゼピュロス(彼もヒュアキントスを愛していた)は、やきもちを焼いて、意地悪な風を起こした。その風によってアポロンが投げた円盤の軌道が変わり、ヒュアキントスの額を直撃してしまった。アポロンは医学の神の力をもって懸命に治療するが、その甲斐なくヒュアキントスは大量の血を流して死んでしまった。ヒアシンスはこの時に流れた大量の血から生まれたとされる。このエピソードから花言葉は「悲しみを超えた愛」となっている。(インターネット百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」より)

 わが家では、年末水栽培のヒヤシンスを買い、早も咲いていたのだが、花の匂いを楽しんだ。水栽培で子どもたちでも楽しめる。寒いときの花の香りは、つうん一筋通った香りだ。水仙、沈丁花、ヒアシンスなど。

★ヒヤシンスの香り水より立つごとし/高橋正子

◇生活する花たち「木瓜・沈丁花・紅梅」(横浜日吉本町)

3月12日(月)

★蕎麦に摺る山葵のみどり春浅し   正子
山菜の苦味は春の味です。それと同時にその色もまた春を教えてくれるものであるとあらためて思いました。早春のすがすがしさがあふれています。(多田有花)

○今日の俳句
春の雪正午の鐘の音をつつむ/多田有花
もとの句は、主語と目的語の関係において、読みづらいので、添削。春の雪はやわらかいものであるが、それが「物」を包むのではなく、「(鐘の)音」を包むところに、この句のユニークさがある。春の雪の降るなかでは、正午の鐘の音も詩情をもって聞き届けられる。(高橋正子)

○菜の花
★菜の花や月は東に日は西に/与謝蕪村
★家々や菜の花いろの灯をともし/木下夕爾

菜の花(なのはな、英語:Tenderstem broccoli)は、アブラナまたはセイヨウアブラナの別名でもあり、アブラナ科アブラナ属の花を指す。食用、観賞用、修景用に用いられる。春、一面に広がる菜の花畑は壮観で、代表的な春の風物詩でもある。現代の日本では、菜種油採取用のアブラナ畑はあまり見られなくなった。その他のアブラナ属の野菜も黄色い「菜の花」を咲かせるため、その種子採取用の畑が菜の花畑として親しまれている。このため、栽培されている作物はまちまちで、千葉県では早春のアブラナのほかに野菜類(カブやハクサイ)が、青森県横浜町では油用のセイヨウアブラナ、信州の菜の花畑はノザワナがそれぞれ5月に開花する。

★菜の花へ風の切先鋭かり/高橋正子
★菜の花も河津桜も朝の岸/高橋正子
★菜の花の買われて残る箱くらし/高橋正子

◇生活する花たち「山茱萸(さんしゅゆ)・木瓜・三椏の花」(横浜四季の森公園)

3月11日(日)

 長男元結婚
風なくてふたりの婚は弥生かな  正子
おめでたい結婚式です。風もなくうららかな弥生に、皆がお二人の門出を祝っています。(祝恵子)

○今日の俳句
店先の竹筒に挿し早桜/祝恵子
竹筒に挿されている早桜が、すっきりとして潔い。店先なのでさほど気取るものではないが、庶民的な風流心が見える。(高橋正子)

○花冠5月号編集。久しぶりの晴天。写真を撮りに昼過ぎに出かける。梅がよく開いた。

◇生活する花たち「河津桜」(伊豆河津2011)

3月10日(土)

★受験子の髪ふっくらと切り揃う   正子
受験を向かえた娘さんの髪を切り揃える母親のお姿を思いました。「髪ふっくらと」に娘さんを包み込む優しい愛情を感じました。 (藤田裕子)

○今日の俳句
まんまるい蕾もろとも花菜漬け/藤田裕子
まんまるい、黄色も少し見える蕾もろとも漬物に付け込むには、心意気がいる。日常生活が身の丈で表現された句。(高橋正子)

○をだまきの花
★をだまきやどの子も誰も子を負いて/橋本多佳子
★をだまきの花に風吹く陵の道/石原八束

キンポウゲ科の多年草。開花期は四月から五月。花の形がかわっていておもしろい。「苧(お)」という繊維を、中を空洞にして丸く巻き付けたもの(苧玉(おだま))に花の形が似ているところから。「苧(お)、玉(たま)、巻き(まき)」が「苧環」という漢字で「おだまき」と呼ばれるようになった。 色はいろいろある。よく見るのは青紫のもの。
おだまきの名前の由来も面白いが、砥部の家の玄関脇に、都忘れと並べて植えていた。その葉と花の形と色が面白い。西洋おだまきもあるが、こちらは背が高く切り花にもなる。花は紫やピンクがあって、尖った印象がする。日本のおだまきは優しい。

★おだまきに小竹の笹の葉が降りぬ/高橋正子

◇生活する花たち「梅①・梅②・クロッカス」(横浜日吉本町)

3月9日(金)

★芽柳のるると色燃ゆ向こう岸   正子
気温が上がると共に、日毎に芽柳のさみどりが感じられるようになりました。いつもある川風に時折ゆれる様子が「るると色燃ゆ」との表現により、風情を大変感じます。(桑本栄太郎)

○今日の俳句
乙訓は風吹く丘ぞ菜花咲く/桑本栄太郎
乙訓は、長岡京があったところとして知られるが、丘に菜花が咲きやわらかな起伏を彩っている。風もやわらかに菜花をなでてゆく。「乙訓」がよく効いている。(高橋正子)

○木瓜の花
★木瓜の荷を解く紅白や植木市/水原秋桜子

中国原産の落葉低木。日本には江戸中期に渡来したといわれる。平安時代の説も。四月ごろ葉に先だって花を開く。深紅色のものを緋木瓜、白色のものを白木瓜、紅白雑食のものを更紗木瓜という。実は薬用。実が瓜に似ており、木になる瓜で「木瓜(もけ)」とよばれたものが「ぼけ」に転訛(てんか)したとも、「木瓜(ぼっくわ)」から「ぼけ」に転訛したも言われる。

木瓜は、棘がある。四国砥部の我が家の門扉近くには緋木瓜が植わっていた。その隣に蝋梅、その隣に白山吹、白椿と並んでアプローチを飾っていた。日当たりがよかったので、正月ころからぼつぼつ咲き始めた。子供のころは、紅白がまだらになった更紗木瓜と緋色より薄い紅色の木瓜をよく見た。更紗木瓜については、なんでこのような色具合にといつも思っていたが、そういう咲き方するもののようだ。今はどうか知らないが、春先の花展で、さんしゅゆ、万作の花と並んでよく使われた。秋にひょっこり花梨を少し小さくした、枝に似あわず大きな実がついていることがあった。花梨もバラ科なので樹高は違うが似たところがある。

★草木瓜の花を横切るとき冷やか/高橋正子

◇生活する花たち「梅・紅椿・白椿」(横浜日吉本町)