4月3日(水)

★花通草みどり透きたる葉のなかに  正子
正子先生の鮮明な花通草の写真に、目にする機会が少ない花通草の可憐な美しさを再認識しました。濃紫色の雌花と淡紫色の雄花の素朴な花弁に心ひかれます。「みどり透きたる葉」に、いっそう紫の花びらが映え、春の明るい日差しのなかで咲く花通草の優しさを思います。(藤田洋子)

○今日の俳句
山辛夷一気に空の青へ咲く/藤田洋子
「一気に」が野生である山の辛夷らしい。待ちこがれたように噴き出して咲く。辛夷の見方に元気があり新しい。(高橋正子)

○句美子句集『手袋の色』が届く。
昨日から風雨が強い。花を散らす雨ともなっているが、毎日毎日雨ばかり。昨夕、句美子の句集『手袋の色』が文學の森から届いた。代理発送をお願いした残りの320冊。花冠同人の皆さんには、近々文学の森から発送される。

○花楓

[花楓/横浜日吉本町(左:2013年4月1日・右:2011年4月13日)] 

★楓咲きまだこぼれねば石すがし/水原秋櫻子
★花楓こまかこぼるる又こまか/皆吉爽雨
★花楓数へて小さき旅にあり/岡本眸
★花嫁にそそぐ日と風花楓/西宮舞
★日ごと読む詩の一書あり花楓/永見嘉敏
★境内に少女の合唱花楓/大信田梢月
★花楓昼間静かに学生寮/高橋正子
★凝らし見て色はくれない花楓/高橋正子

○花楓
楓の若葉が開くころ、 すでに深紅の楓の花がちらちらと咲いているのに気づく。若緑と深紅が空にそよぐとなかなかいい風情。日吉本町2丁目の丘に慶応大学のゲストハウスか、あるいは中高校生の寮らしい建物がある。その庭に大きな楓があり、四月の新学期を迎えて、辺りはフレッシュな空気が漂う。反対側の民家にも楓があり、ちょうどトンネルのようになって潜り抜けると気分爽快。メイン道路なんてものもなく、気ままに歩くと出くわす花楓である。

 カエデ(槭、槭樹、楓)とはカエデ科(APG植物分類体系ではムクロジ科に含める)カエデ属 (Acer) の木の総称。モミジ(紅葉、椛)とも呼ばれるが、その場合は様々な樹木の紅葉を総称している場合もある。主に童謡などで愛でられるものはそれである。赤・黄・緑など様々な色合いを持つ為、童謡では色を錦と表現している。
 日本のカエデとして代表されるのは、イロハモミジ (A. palmatum) である。福島県以南の山野に自生しているほか、古くから栽培も行われている。園芸種として複数の栽培品種があり、葉が緑色から赤に紅葉するものや最初から紫色に近い葉を持ったものもある。一般に高木になる。落葉樹が多く落葉広葉樹林の主要構成種であるが、沖縄に自生するクスノハカエデのように常緑樹もある。葉は対生し、葉の形は掌状に切れ込んだものが多く、カエデの名称もこれに由来する(下記参照)。しかし、三出複葉(メグスリノキ)や単葉(ヒトツバカエデ、チドリノキ、クスノハカエデ)のものもある。花は風媒花で、花弁は目立たなく小さい。果実は二つの種子が密着した姿で、それぞれから翼が伸びる翼果である。脱落するときは翼があるので、風に乗ってくるくる回って落ちる。
 日本では鮮やかな紅葉が観賞の対象とされ、庭木、盆栽に利用するために種の選抜および、品種改良が行われた。諸外国では木材や砂糖の採取、薬用に利用されるのみであったが、明治時代以後に西洋に日本のカエデが紹介されると、ガーデニング素材として人気を博し、西洋の美意識による品種も作られ、日本に「西洋カエデ」として逆輸入されている。

◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

4月2日(火)

★来るまでを辛夷のひかり見て待てる  正子
よいお天気の温かい日に辛夷の木の傍でどなたかと待ち合わせをされたのでしょう。「辛夷のひかり」にその後も素敵な時を過ごされたことと思われます。(黒谷光子)

○今日の俳句
鐘の音に児ら寄ってくる春の夕/黒谷光子
春の夕べ、まだ外で遊んでいた幼い子たちが鐘の音に不思議そうに、もの珍しげに寄ってくる。鐘を撞く人と幼い子のほのぼのとした世界が童画を見るようだ。(高橋正子)

○鈴蘭水仙(すずらんずいせん)

[鈴蘭水仙/横浜日吉本町・金蔵寺] 

★花散る大待雪のつれもつれ/秋村
★夜静寂スズラン水仙の仄灯り/かずえ
★まだ寒し鈴蘭水仙うつむき咲き/高橋正子

 鈴蘭水仙(すずらんずいせん、学名:Leucojum aestivum)は、ヒガンバナ科スノーフレーク属の植物の1つ。クロンキスト体系ではユリ科。和名はオオマツユキソウ(大待雪草)、別名はスノーフレーク。
 ヨーロッバ中南部原産。多年草。花期は春で白いスズランのような花が咲く。花弁の先端には緑の斑点がある。秋植の球根草であるが、数年くらいは植えたままでも差し支えない。本種と名前の似たスノードロップ(マツユキソウ) (Galanthus nivalis) という球根草もあり、これと混同しないよう注意が必要である。
 開花時期は、 3/ 5 ~ 4/末頃。地中海沿岸原産。垂れ下がったようすがおもしろい。鈴蘭のようで、水仙のようなので、うまいネーミングといえる。3月28日の誕生花。花言葉は「皆をひきつける魅力」。

◇生活する花たち「花桃・通草の雄花・桜」(横浜日吉本町)

4月1日(月)

★煽られて花のゆるるは大いなる  正子
見事に咲いた桜の樹が春風に煽られて枝を揺らせている。しかし花吹雪になるほどでもなく、今や春爛漫の候、しっかりと花をつけて動じない。自然の精妙さと大きさがおのずから体感されるるような素敵な御句と思います。(河野啓一)

○今日の俳句
高々と蝶越え来しや伊吹嶺/河野啓一
初蝶であろうか。目の前に現れた蝶は、あの伊吹嶺を高々と越えて来たに違いない。蝶に寄せる新鮮な思いがよく読まれている。(高橋正子)

○樒(しきみ)の花

[樒の花/横浜日吉本町]

★ゆかしさよ樒花咲く雨の中/与謝蕪村
★山住も樒の花をみる日かな 雲舎
★樒咲く山の空き家のすみに咲く うらら
★老婆らの元気な声や花樒 819maker

樒(シキミ、櫁、梻、学名:Illicium religiosum Illicium anisatum)はシキミ科シキミ属の常緑高木である。「しきび」とも読む。有毒。仏事に用いるため寺院に植栽される。常緑樹で、高さは10メートル程度、胸高直径は30センチ・メートルとなる。樹皮は暗い灰褐色になり、老木になると縦の裂け目を生じる。若枝は緑色。葉は、枝の先端に集まってつき、短い葉柄を持つ楕円形から倒卵形を帯で、長さ5 – 10センチ・メートル、深緑色でつやがある。葉の質はやや厚く、何となく波打ったようになることが多い。葉の先端は急に突き出して鈍端。花は葉の付け根から一つずつ出て春に咲く。花びらは淡黄色で細長く、ややねじれたようになる。果実は扁平で周囲に8本の突起が出ている。上面が裂開し種子が出る。種子は褐色でつやがあり、小さいドングリを押しつぶしたような形をしている。
日本では本州中部以南、四国、九州、琉球に分布し、中国にも分布する。
樒(シキミ・シキビ)は俗にハナノキ・ハナシバ・コウシバ・佛前草という。弘法大師が青蓮華の代用として密教の御修法にお使いになられた。青蓮花は天竺の無熱池にあるとされその華に似ているので御佛前の供養用に使われた。なにより四季に美しく年中継続して手に入れやすいので我国では俗古来よりこの枝葉を佛前墓前に供えている。古代にはサカキと同様に神社でも用いられたといわれるが、神式での榊(=サカキ)のように梻と書いた。(木偏に佛、「佛」は仏の旧字体)という国字もある。現在でも京都市の愛宕神社などの神事には榊でなく、シキミが使われている。シキミを挿した水は、腐りにくいのである。

◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

3月31日(日)

★沈丁の香の澄む中に新聞取る  正子
インクの色も清々しい配達されたばかりの新聞。それを新聞受けから取るとき、沈丁花の香りが漂ってきました。よき日々の生活が思われます。 (多田有花)

○今日の俳句
新刊の図書を抱きて春風に/多田有花
新刊の図書には、本の匂いがして、これから読もうとする気持を高めてくれる。買い求めた新刊書をもって、春風のなかにいることは知的なよろこび。(高橋正子)

○繁縷(はこべ)

[はこべ/横浜日吉本町] 

★カナリアの餌に束ねたるはこべかな/正岡子規
★籠の鶏に子の呉れてゆくはこべかな/富田木歩
★はこべ挿す模型の小鳥慰めて/堀口星眠
★はこべらや乗降あらず無人駅/島田菊美
★やわらかに繁りしはこべを鶏の餌に/高橋正子
★繁りたるはこべを抜けば手が湿り/高橋正子

 ハコベ(繁縷、蘩蔞)とは、ナデシコ科ハコベ属(Stellaria)の総称のこと。単にハコベというときは、ハコベ属の1種であるコハコベのことを指す場合が多い。コハコベは越年草。ハコベラとも呼ぶ。春の七草のひとつ。
 背の低い草本で、一年草、越年草または多年草。茎は株状になるか1本立ちになり、よく枝分かれして密集した群落を作る。茎には節があり、節ごとに葉を互生する。葉は扁平で、茎の下部に葉柄があるものと無いものがある。花は集散花序か茎先や葉腋に単生する。萼片は5個。花弁は白色まれに緑色で5弁であるが、根元近くまで深く2裂するものがあるため、一見では10弁に見える。まれに花弁が退化して無いものもある。雄蕊はふつう10個。花柱はふつう3個。果実は果でふつう6裂する。
 世界に約120種あり、日本には約18種ある。

◇生活する花たち「花桃・菫(すみれ)・桜」(横浜日吉本町)

3月30日(土)

★春雷のいなづま明かりを胸に受く  正子
ハッとするような春のいなずま、明るさだけを見られたのですね。寒さからの春の訪れです。 (祝恵子)

○今日の俳句
竹を風さわさわ音させ春来たる/祝 恵子
春風が竹をそよがす音が「さわさわ」である。竹の葉が触れあいそよぐ、「やわらかさ」の感覚が春をうまく表している。(高橋正子)

○木蓮

[木蓮/横浜日吉本町(左:2013年3月24日・右:2012年4月12日)]

★木蓮の花許りなる空を瞻る/夏目漱石
★うつうつと雨のはくれむ弁をとづ/臼田亜浪
★木蓮に日強くて風定まらず/飯田蛇笏
★白木蓮の散るべく風にさからへる/中村汀女
★木蓮のつぼみのひかり立ちそろふ/長谷川素逝
★木蓮に大風のやまぬ日なりけり/木下夕爾
★葉がでて木蓮妻の齢もその頃ほひ/森 澄雄
★木蓮や母の声音の若さ憂し/草間時彦
★白木蓮に純白という翳りあり/能村登四郎
★白木蓮そこから先が夜の服/小野裕三
★廃屋をのぞき込むかに紫木蓮/竹あき

 木蓮(モクレン、木蘭、学名:Magnolia quinquepeta もしくは Magnolia liliiflora)は、モクレン科モクレン属の落葉低木。花が紫色であることから、シモクレン(紫木蓮)の別名もある。ハネズ、モクレンゲと呼ばれることもある。昔は「木蘭(もくらん)」と呼ばれていたこともあるが、これは花がランに似ていることに由来する。今日では、ランよりもハスの花に似ているとして「木蓮(もくれん)」と呼ばれるようになった。中国では、「辛夷」と表記する。
 中国南西部(雲南省、四川省)が原産地である。英語圏に紹介された際に、Japanese magnolia と呼ばれたため、日本が原産国だと誤解されている場合がある。
小型で樹高3-5m程度。葉は互生で、広卵型、長さ8-10cm、先は尖る。花期は春(4-5月頃)。花は濃い紅色から桃色で、花弁は6枚、がくは3枚、雄しべと雌しべは多数が螺旋状につく。上品な強い芳香を放つ。ハクモクレンとは異なり、花びらは舌状で長い。実は赤い。
庭木、公園樹として中国、日本だけでなく、北米やヨーロッパ諸国で広く栽培されている。移植は困難であり、株分けによって殖やす。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)では国花に指定されている。
 ハクモクレン(白木蓮、白れん、学名:Magnolia heptapeta、シノニム:Magnolia denudata)は、モクレンの仲間で白色の花をつける。しばしば、「モクレン」と混同され、そう呼ばれることがある。モクレン属の中では大型の種類で樹高は10-15m程度まで成長する、春、葉に先立って大形で白色の花が開く。

◇生活する花たち「花桃・通草の雄花・桜」(横浜日吉本町)

3月29日(金)

★山桜雲を呼びつつ咲き満つる  正子

○今日の俳句
残る鴨みずから生みし輪の芯に/川名ますみ
「残る鴨」なので、みずからが生んだ輪の中心にいるという事実が生きる。温んだ水が、しずかに輪を描き、その中心にいる鴨に、独りでいる意思が読み取れる。(高橋正子)

○山吹

[八重山吹/横浜緑区北八朔]        [白山吹/横浜日吉本町]

★ほろほろと山吹ちるか瀧の音/松尾芭蕉
★濃山吹墨をすりつゝ流し目に/松本たかし
★山吹や根雪の上の飛騨の径/前田普羅
★眼帯の朝一眼の濃山吹/桂 信子
★山吹や川よりあがる雫かな/斯波園女
★ちぎり捨てあり山吹の花と葉と/波多野爽波
★歩かねば山吹の黄に近づけず/酒井弘司

 ヤマブキ(山吹、学名:Kerria japonica)はバラ科ヤマブキ属(本種のみの一属一種)の落葉低木。黄色の花をつける。春の季語。低山の明るい林の木陰などに群生する。樹木ではあるが、茎は細く、柔らかい。背丈は1mから、せいぜい2m、立ち上がるが、先端はやや傾き、往々にして山腹では麓側に垂れる。地下に茎を横に伸ばし、群生する。葉は鋸歯がはっきりしていて、薄い。晩春に明るい黄色の花を多数つける。多数の雄蕊と5~8個の離生心皮がある。心皮は熟して分果になる。
 北海道から九州まで分布し、国外では中国に産する。古くから親しまれた花で、庭に栽培される。花は一重のものと八重のものがあり、特に八重咲き品種(K. japonica f. plena)が好まれ、よく栽培される。一重のものは花弁は5枚。
 シロヤマブキ(Rhodotypos scandens (Thumb.) Makino)もあるが別属である。日本では岡山県にのみ自生しているが、花木として庭で栽培される事が珍しくない。こちらは花弁は4枚。
 古歌にも好んで詠まれ、しばしば蛙(かはず)とともに詠み合わせられる。太田道灌と八重山吹の話はよく知られている。山吹色といえば、オレンジ色と黄色の中間色のことである。往々にして小判の色をこれにたとえる。(山吹色のお菓子・・小判の隠語)

◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

3月28日(木)

★花にらはいつも樹のそば垣のそば   正子
花にらは韮に似た葉で花茎をすっくと伸ばし先に6弁の白い花を付けています。以前、「花にらは春の季節感が有るが季語では無い」と言う事を正子先生の俳句日記を見て知りました。確かに樹の傍や垣の傍等に可愛らしい真っ白な(淡いむらさきも有るとか)花を咲かせているのを良く見かけ、思わず立ち止まって見たくなる花です。季語になっていないと言うものの立派に春を告げる爽やかな花にらです。 (佃 康水)

○今日の俳句
チェロの夕果てて仰げば春の月/佃 康水
チェロの演奏会が果て、余韻を引いて外に出れば春の月が出ている。「秋の月はさやけさを賞で、春の月は朧なるを賞づ」と言われるが、「澄んであたたかい感じ」の春月もよい。チェロの余韻が広がる。(高橋正子)

○馬酔木(あせび)

[馬酔木/横浜日吉本町]

★水温む奈良はあせぼの花盛り/原石鼎
★旅かなし馬酔木の雨にはぐれ鹿/杉田久女
★春日野や夕づけるみな花馬酔木/日野草城
★はしり咲く馬酔木の花の壺のしろ/五十崎古郷
  砥部
★馬酔木咲くわが家の屋根の低かりし/高橋正子
  銀閣寺
★馬酔木咲く道を選べば山路めく/高橋正子

 馬酔木(アセビ、学名:Pieris japonica subsp. japonica、異名:Andromeda japonica Thunb.)は、ツツジ科アセビ属の低木で日本に自生し、観賞用に植栽もされる。別名あしび、あせぼ。本州、四国、九州の山地に自生する常緑樹。やや乾燥した環境を好み、樹高は1.5mから4mほどである。葉は楕円形で深緑、表面につやがあり、枝先に束生する。早春になると枝先に複総状の花序を垂らし、多くの白くつぼ状の花をつける。果実は扇球状になる。しかしこの種は有毒植物であり、葉を煎じて殺虫剤に利用される。有毒成分はグラヤノトキシンI(旧名アセボトキシン)。
 馬酔木の名は、馬が葉を食べれば毒に当たり、酔うが如くにふらつくようになる木という所からついた名前であるとされる。 多くの草食哺乳類は食べるのを避け、食べ残される。そのため、草食動物の多い地域では、この木が目立って多くなることがある。たとえば、奈良公園では、シカが他の木を食べ、この木を食べないため、アセビが相対的に多くなっている。逆に、アセビが不自然なほど多い地域は、草食獣による食害が多いことを疑うこともできる。

◇生活する花たち「花桃・菫(すみれ)・桜」(横浜日吉本町)

3月27日(水)

★春の夜のむかし炭火を持ち運び  正子
遠いむかし、春の夜はまだ寒く、熾した炭火を火鉢へ運ばれた状景、もしくは茶道で使う炭火を持ち運ばれた状景を思い浮かべました。炭火を熾した頃を懐かしく思い出させていただきました。(藤田裕子)

○今日の俳句
木々の葉の春陽きらめく野道行く/藤田裕子
木々の葉にきらめく春陽を見ながら、野道を行けば、楽しさも倍加される。うららかな春の日のびやかな気分を分けてもらった。(高橋正子)

○諸葛菜(花大根)

[諸葛菜/横浜・四季の森公園]

★むらさきの風となるとき諸葛菜/稲畑汀子
★諸葛菜といひ花大根といひ花ざかり/岸田稚魚
★姉といふ媼もよけれ諸葛菜/千代田葛彦
★雨に濡れ花のやさしき諸葛菜/矢崎春星
★本郷の下宿屋の路地諸葛菜/光晴
  城ヶ島二句
★磯遊びしてより出会う諸葛菜/高橋正子
★城ヶ島のまひる気怠し諸葛菜/高橋正子

 諸葛菜(しょかつさい)は、諸葛孔明が広めたとの伝説からの名で、別名にムラサキハナナ(紫花菜)、大紫羅欄花(おおあらせいとう)、花大根(はなだいこん、大根の花とは違う)などがある。これらは、アブラナ科オオアラセイトウ属(Orychophragmus属)だが、ショカツサイ属、ムラサキハナナ属とも呼ばれる。原産地は中国で、東部に分布し、東北および華北地区では普通に見られる。ヨーロッパ南部に帰化しているほか、日本では江戸時代に輸入されて栽培されたものが野生化し、全土で見られる。
 根生葉と茎下部の葉は羽状深裂し、基部は心形で、縁に鈍い鋸歯がある。上部の葉は長円形あるいは倒卵形で柄を持つ。基部は耳状で茎を抱き、縁には不揃いの鋸歯がある。花は茎先につく総状花序で、薄紫色の花弁には細い紋様がある。花期の後期では徐々に花弁の色が薄くなり、最終的には白色に近くなる。稀に白花もある。花弁は4枚が十字状に付き、長さは各1-2cm程度、先端に3-mmの爪状の突起を持つ。雄蕊は6本で花糸は白色、葯は黄色である。萼(がく)は細長く、径3mmほどの筒状で花と同じく紫色。果実は先端に細長い突起を持つ長角果をつける。果実は4本の筋を持ち、内部に黒褐色の種子を多数つける。熟すと自然に裂けて開き種子を弾き出す。種子から芽生えたばかりの頃本葉は腎形をし、寒さに当たり花芽が分化するとやがて切れ込みが生じる。
 2月頃から成長を始め、3月から5月にかけて開花する。最盛期には50cmくらいまで直立する茎を伸ばす。5月から6月頃に種子が熟し、自然に、散布される。一年草だが繁殖力は強く、花が咲いて種が散布されると、翌年からは定着しやすい。群生して開花する様はなかなか美しいため、庭などで栽培されることも多いが、道端や空き地でも普通によく育つ。若い葉は食べられるため、中国北部では野菜として栽培され、種子からはアブラナと同様に油を採取することもある。

◇生活する花たち「花桃・通草の雄花・桜」(横浜日吉本町)

3月26日(火)/犀星忌

★宵風の白みて強し犀星忌  正子
3月26日、犀星忌に因んで詠まれた御句。3月もこの頃の宵の風はさほど冷たくはなく、「白みて」と捉えられたところに、透明感と詩情を感じます。犀星と言えばよく知られる「ふるさとは遠きにありて」の作品がありますが、掲句には韻律がこの作品と呼応する確かさにも引かれます。(小川和子)

○今日の俳句
春耕のまだ始まらぬ田の広き/小川和子
裏作やあるいは冬の間手入れをしないでいた田畑は、だだっ広く思える。しかし、耕しが始まるころになると、田畑も息づいてくる。その広さを感じとったのがよい。(高橋正子)

○正子の俳句日記(ブログ)が百日連続ランク入り!
gooのブログは現在150万ほどあるが、上位から1万以内のランクに百日連続で入った。高位は3000代であるが、平均すると5、6000代か。文学系のブログでこのランク入りは大変名誉なことと思う。日々ご愛読くださっている皆様に感謝です。これからも、よろしくお願い致します。

○連翹(れんぎょう)

[連翹/横浜日吉本町] 

★連翹や真間の里びと垣を結はず/水原秋桜子
★連翹の一枝づつの花ざかり/星野立子
★連翹のこぼれもあへぬ別れかな/中川宋淵
★連翹の黄が咲き誇るアジアの端/高橋正子

  レンギョウ(連翹)とは、広義にはモクセイ科レンギョウ属(学名: Forsythia)の総称(それらから品種改良で作られた園芸品種をも含める)。狭義には、レンギョウ属の種の一つ、学名 Forsythia suspensa の和名を指す。一般には広義の意味で称されることが多い。
 狭義のレンギョウ(連翹、学名: Forsythia suspensa (Thunb.) Vahl)は、モクセイ科レンギョウ属の落葉性低木広葉樹。別名、レンギョウウツギ(連翹空木)。古名は、いたちはぜ、いたちぐさ。中国名は黄寿丹。英名はゴールデンベル (golden bells, golden bell flower)。種小名の suspensa は、枝が“垂れる”意味である。雌雄異株。
 繁殖力が旺盛で、よく繁る。樹高は1 – 3mまで育ち、半つる性の枝は湾曲して伸び下に垂れ、地面に接触すると、そこからも根を出し新しい株ができる。枝は竹のような節を持つ。また、枝の髄が早期に消失するため、節の部分を除いて中空になる(このことから“空の木”、レンギョウウツギ(連翹空木)という別名が付いた。この呼称は最初、本来の連翹(トモエソウ)との誤用に気付いた時、区別するために使われた)。まだ葉が芽吹く前の早春(3 – 4月頃)、2 – 3cmの黄色い4弁の花が、細い枝に密に多数開く。その花が咲き終わる頃、入れ違うかのように今度は、緑色の葉(長さ3 – 10cm、幅2 – 5cmの長卵型。葉先は鋭尖で、葉縁にまばらな鋸歯がある)が対生に芽吹き、それが秋になると濃緑色、概憤色(くすんだ黄緑色)、紫色と順に変色し、最後に落葉する。付いた果実は漢方薬として用いられる。中国原産。日本への渡来は古く、『出雲風土記』や『延喜式』にもレンギョウの名前が見られる(薬用として平安時代初期に渡来したといわれているが、実際に渡来した時期は定かではなく、江戸時代前期に栽培の記録があることから、江戸時代だという説もある)。
 4月2日は彫刻家・詩人の高村光太郎(1883年 – 1956年)の命日で、これを連翹忌とも呼ぶ。これは、高村が生前好んだ花がレンギョウであり、彼の告別式で棺の上にその一枝が置かれていたことに由来する。

◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

3月25日(月)

★春の蕗提げしわれにも風が付く  正子
芳しい春の蕗を提げながら、穏やかな風を身に纏う作者に季節の快さを感じます。持ち帰った蕗は香りとともに、独特な歯触りで季節を届け、食卓を明るく楽しませてくれるのでしょう。(藤田洋子)

○今日の俳句
水一つ提げて囀りの山に入る/藤田洋子
「水一つ」は、お墓参りのバケツの水か、または山歩きのための水筒かと思うのだが、大切な「水一つ」なのである。囀りの聞こえる山は、世を離れた明るい世界。柔らかな水、囀りの山に洋子さんらしい抒情がある。(高橋正子)

○初孫元希
 昨日の午後、葛飾区のNTT社宅に長男の元を訪ねる。初孫の元希は、岐阜から一週間後に帰京する。2ヶ月あまり続いた一人暮らしの部屋の掃除のためであり、新生児の歓迎のためである。元の宿舎は葛飾にある。葛飾と言えば水原秋櫻子の第一句集『葛飾』(昭和五年)を思う。
梨咲くと葛飾の野はとの曇り
葛飾や桃の籬も水田べり
啄木鳥や落葉をいそぐ牧の木々
は『葛飾』の代表句であるが、今は水田も梨も桃の木も見当たらない。
句集『葛飾』は、昭和五年に馬酔木発行所から刊行され539句が収録されている。『葛飾』以前に『南風』という句文集を出版しているが、『葛飾』には、文章を割愛して『南風』からの句300句(実際は301句)が収録されいてる。それに『南風』以後のホトトギス雑詠からの句を選び句集『葛飾』としているので、これより、自他共に『葛飾』をもって第一句集とするようになった。
水原秋櫻子(本名・豊)は、明治25年(1892)10月9日、東京都千代田区西神田に生まれた。家は祖父の代から産婦人科医であった。秋櫻子は、東大産婦人科教室の助手、昭和医学専門学校(現昭和大学)の教授などを務めた。

○蘆の芽・蘆の角・葦牙(アシカビ)

[蘆の芽/横浜・四季の森公園(2013年3月21日)]

★日の当る水底にして蘆の角/高浜虚子
★曳船やすり切つて行く蘆の角/夏目漱石
★舟軽し水皺よつて蘆の角/夏目漱石
★ややありて汽艇の波や蘆の角/水原秋櫻子
★さざ波の来るたび消ゆる蘆の角/上村占魚
★水にうく日輪めぐり葦のつの/皆吉爽雨
★蘆の芽や志賀のさざなみやむときなし/伊藤疇坪
★捨舟の水漬く纜葦の角/中村みづ穂

★葦の角水面かがやき通しけり/高橋正子
★葦芽ぐみ寂しさこれで終わりけり/高橋正子
★ふるさとに芦の川あり葦角ぐむ/高橋正子

日本のことを、「豊葦原瑞穂の国」といい、葦は国生みのころの日本の国土を象徴するような植物だったのだろう。

 ヨシまたはアシ(葦、芦、蘆、葭、学名: Phragmites australis)は、イネ科ヨシ属の多年草。「ヨシ」という和名は、「アシ」が「悪し」に通じるのを忌んで(忌み言葉)逆の意味の「良し」と言い替えたのが定着したものであるが、関東では「アシ」、関西では「ヨシ」が一般的である。標準和名としては、ヨシが用いられる。これらの名はよく似た姿のイネ科にも流用され、クサヨシ、アイアシなど和名にも使われている。3 – 4の種に分ける場合があるが、一般的にはヨシ属に属する唯一の種とみなされている。日本ではセイコノヨシ(P. karka (Retz.) Trin.)およびツルヨシ(P. japonica Steud.)を別種とする扱いが主流である。
 条件さえよければ、地下茎は一年に約5m伸び、適当な間隔で根を下ろす。垂直になった茎は2 – 6mの高さになり、暑い夏ほどよく生長する。葉は茎から直接伸びており、高さ20 – 50cm、幅2 – 3cmで、細長い。花は暗紫色の長さ20- 50cmの円錐花序に密集している。
 古事記の天地のはじめには最初の二柱の神が生まれる様子を「葦牙のごと萌えあがる物に因りて」と書き表した。葦牙とは、葦の芽のことをいう。その二柱の神がつくった島々は「豊葦原の千秋の長五百秋の水穂の国」といわれた。これにより、日本の古名は豊葦原瑞穂の国という。更級日記では関東平野の光景を「武蔵野の名花と聞くムラサキも咲いておらず、アシやオギが馬上の人が隠れるほどに生い茂っている」と書き残し、江戸幕府の命で遊郭が一か所に集められた場所もアシの茂る湿地だったため葭原(よしはら)と名づけられ、後に縁起を担いで吉原と改められた。

◇生活する花たち「桃の花・菫(すみれ)・桜」(横浜日吉本町)