5月8日(水)

★野ばら咲く愛のはじめのそのように  正子
野薔薇の歌曲を何度も歌ったり、聞いたりした若き頃を思い出しました。少年とばらの感情の交流にはロマンが有りました。初夏の野へ咲き始めた可憐な白い野薔薇を見て、作者はふとあの歌を思い出されたのでしょうか。小さいながらも、生命力のある野薔薇を女性らしい優しい感覚で詠まれたと同時に詩情豊かなメルヘンの世界へ引き込まれる御句です。 (佃 康水)

○今日の俳句
 広島縮景園
茶摘女や手にさ緑の陽を返す/佃 康水
薫風の季節を迎え、茶摘みが始まる。茶葉を摘む女性のしなやかな手元から、きらきらと陽光がこぼれるように、茶葉が光る。「さ緑の陽」といい、季節の麗しさが詠まれた。(高橋正子)

○野茨(花いばら・野ばら)

★花いばら故郷の路に似たる哉/与謝蕪村
★愁ひつつ岡にのぼれば花いばら/与謝蕪村
★咲きはじむ野ばらの白よ旅衣を解く/高橋信之
★野ばら咲く愛のはじめのそのように/高橋正子

野茨(バラ目バラ科バラ属学名:Rosa multiflora)は、バラ科の落葉性のつる性低木。日本のノバラの代表的な種。沖縄以外の日本各地の山野に多く自生する。ノバラ(野薔薇)ともいう。高さは2mぐらいになる。葉は奇数羽状複葉で、小葉数は7-9、長さは10cmほど。小葉は楕円形、細かい鋸歯があり、表面に艶がない。花期は5~6月。枝の端に白色または淡紅色の花を散房状につける。個々の花は白く丸い花びらが5弁あり、径2cm程度。雄しべは黄色、香りがある。秋に果実が赤く熟す。野原や草原、道端などに生え、森林に出ることはあまり見ない。河川敷など、攪乱の多い場所によく生え、刈り込まれてもよく萌芽する、雑草的な性格が強い。古くはうまらと呼ばれ万葉集にも歌われている。

★道の辺の うまらの末(うれ)に 這(は)ほ豆の からまる君を はなれか行かむ/丈部鳥(はせつかべのとり)万葉集巻二十 4352

野薔薇は、シューベルトの歌曲で知られているが、与謝蕪村が好んで俳句に詠んでいる。蕪村の句は読んで非常に新しい感じがした。山裾の崖、河原の藪に絡むように育っているが、花は、一面に白い花が咲いて、可憐である。

◇生活する花たち「野茨・ひとりしずか・ふたりしずか」(東京白金台・自然教育園)

5月7日(火)

★白ばらの空気を巻いていて崩る  正子
咲き誇っていた白ばらが、その美しさを崩してゆく姿を、とても優しく詠まれています。辺りに漂っていた気品さ、優雅さなども、白ばらの容姿とともに崩れてゆくようです。「空気を巻いていて」のことばに感銘いたしました。(藤田裕子)

○今日の俳句
ピアノ曲流れ軽やか空五月/藤田裕子
ピアノ曲が流れ、気持ちが軽く明るくなる。空は五月のうるわしさそのもの。よい季節のさわやかな気持ち。(高橋正子)

○ジャーマンアイリス(ドイツアヤメ)

[ジャーマンアイリス/横浜市都筑区ふじやとの道] 

ドイツアヤメ (Iris germanica) はアヤメ科アヤメ属の植物の一種。別名のジャーマンアイリスで呼ばれることが多い。本種は、アヤメ属の植物を交雑して作出されたもので野生のものはない。1800年代の初期にドイツ、フランスで品種改良され、その後、アメリカが多数の品種を出している。花期は5 – 6月ごろである。

◇生活する花たち「山躑躅・武蔵野きすげ・あやめ」(東京白金台・自然教育園)

5月6日(月)

★豆の花宙に雀が鳴いており  正子
風かおる五月、菜園には今をさかりと蚕豆や豌豆が花を咲かせ、莢も実りはじめています。うららかに晴れた宙には雀がさえずり、いつの時代にも失いたくない田園の原風景が思われます。 (小川和子)

○今日の俳句
茄子苗の影なすほどに確と付く/小川和子
夏野菜の苗を植える季節。茄子苗も植え付けはじめは、心もとない感じだった。しっかりと根付いた今は「影をなすほど」になった。「影なすほど」は、茄子苗の存在感。(高橋正子)

○芹の花

[芹の花/横浜市都筑区緑道ふじやとの道(左:2012年5月1日・右:2013年4月17日)] 

★一と股ぎほどの野川の芹の花/田村いづみ
★法隆寺からの小溝か芹の花/飴山 實
★底見せて流るる川や芹の花/石塚友二
★芹咲いて遠くに群れているを見る/高橋信之

 芹は、セリ科の多年草で、春の季語であるが、芹の花は、季語となっていない。湿地やあぜ道、休耕田など土壌水分の多い場所や水辺の浅瀬に生育することもある湿地性植物である。高さは30cm程度で茎は泥の中や表面を横に這い、葉を伸ばす。葉は二回羽状複葉、小葉は菱形様。全体的に柔らかく黄緑色であるが、冬には赤っぽく色づくこともある。花期は7~8月といわれるが、晩春にも咲く。やや高く茎を伸ばし、その先端に傘状花序をつける。個々の花は小さく、花弁も見えないほどである。北半球一帯とオーストラリアに広く分布する。
★せせらぎはあまたの芹の花揺らす/高橋正子

 芹は、独特の香りを持ち、春先の若い茎を食用とする。春の七草のひとつであるため1月ごろであればスーパーマーケット等で束にして売られる。自生品が出回ることもあるが、最近では養液栽培も盛んである。野草としての性質が強く種子の発芽率が低いため、計画的な生産には発芽率の改善が不可欠である。産地にもよるが、栽培ものと野生のものに、比較的差が少ない種である。観賞用の斑入りの品種もある。無農薬で栽培することで食用にもなる。
 毒草との間違い。野外で採取する場合、小川のそばや水田周辺の水路沿いなどで見られるが有毒なドクゼリとの区別に配慮が必要である。ドクゼリは地下茎は太くタケノコ状のふしがあり、横に這わず、セリ独特の芳香もないので区別できる。また、キツネノボタンも同じような場所に生育する毒草である。葉が細かく裂けないので比較的容易に区別できるが、個々の小葉だけを取ると似ているので間違えるおそれがある。
 和名は、まるで競い合う(競り)ように群生していることに由来する。

◇生活する花たち「野茨・ひとりしずか・ふたりしずか」(東京白金台・自然教育園)

5月5日(日)/こどもの日、立夏

★葉桜の蔭は家居のごと安し  正子
満開だったころの桜と違い、葉桜となった家の傍の桜の木。その葉桜の作り出す陰は、家にいてもゆっくりと安らぐ場も作り出してくれているのでしょう。 (高橋秀之)

○今日の俳句
ヨットの帆きらめく海に高々と/高橋秀之
「きらめく」、「高々」の言葉が、ヨットの浮かぶ海の光景に高揚する気持ちをよく述べている。(高橋正子)

○薔薇(ばら)

[薔薇/横浜日吉本町(2012年5月18日)] [薔薇/横浜・港の見える丘公園(2010年5月17日)] 

★夕風や白薔薇の花皆動く/正岡子規
★薔薇剪りに出る青空の谺/河東碧梧桐
★見るうちに薔薇たわたわと散り積る/高濱虚子
★薔薇むしる垣外の子らをとがめまじ/杉田久女
★咲き切つて薔薇の容(かたち)を越えけるも/中村草田男
★手の薔薇に蜂来れば我王の如し/中村草田男
★ばら薫るマーブルの碑に哀詩あり/杉田久女
★退院の抱へきれない薔薇匂ふ/はしもと風里
★白薔薇の含むほのかなベージュ色/高橋正子

 バラ(薔薇)は、バラ科バラ属の種(しゅ)の総称。バラ属の植物は、灌木、低木、または木本性のつる植物で、葉や茎に棘があるものが多い。葉は1回奇数羽状複葉。花は5枚の花びらと多数の雄蘂を持つ(ただし、園芸種では大部分が八重咲きである)。北半球の温帯域に広く自生しているが、チベット周辺、中国の雲南省からミャンマーにかけてが主産地でここから中近東、ヨーロッパへ、また極東から北アメリカへと伝播した。南半球にはバラは自生していない。世界に約120種がある。
 「ばら」の名は和語で、「いばら」の転訛したもの。漢語「薔薇」の字をあてるのが通常だが、この語はまた音読みで「そうび」「しょうび」とも読む。漢語には「玫瑰」(まいかい)の異称もある。 欧米ではラテン語: rosa に由来する名で呼ぶ言語が多く、また同じ語が別義として「ピンク色」の意味をもつことが多い。6月の誕生花である。季語は夏(「冬薔薇」「ふゆそうび」となると冬の季語になる)。
 バラが人類の歴史に登場するのは古代バビロニアの『ギルガメシュ叙事詩』である。この詩の中には、バラの棘について触れた箇所がある。古代ギリシア・ローマでは、バラは愛の女神アプロディテもしくはウェヌス(ヴィーナス)と関係づけられた。また香りを愛好され、香油も作られた。プトレマイオス朝エジプトの女王クレオパトラはバラを愛好し、ユリウス・カエサルを歓待したときもふんだんにバラの花や香油を使用したと伝えられている。ローマにおいてもバラの香油は愛好され、北アフリカや中近東の属州で盛んにバラの栽培が行われた。クレオパトラと同様にバラを愛した人物に、暴君として知られる第5代ローマ皇帝ネロがいる。彼がお気に入りの貴族たちを招いて開いた宴会では、庭園の池にバラが浮かべられ、バラ水が噴き出す噴水があり、部屋はもちろんバラで飾られ、皇帝が合図をすると天井からバラが降り注ぎ、料理にももちろんバラの花が使われていたと伝えられる。
 ナポレオン・ボナパルトの皇后ジョゼフィーヌはバラを愛好し、夫が戦争をしている間も、敵国とバラに関する情報交換や原種の蒐集をしていた。ヨーロッパのみならず日本や中国など、世界中からバラを取り寄せマルメゾン城に植栽させる一方、ルドゥーテに「バラ図譜」を描かせた。このころにはアンドレ・デュポンによる人為交配(人工授粉)による育種の技術が確立された。ナポレオン失脚後、またジョゼフィーヌ没後も彼女の造営したバラ園では原種の蒐集、品種改良が行われ、19世紀半ばにはバラの品種数は3,000を超え、これが観賞植物としての現在のバラの基礎となった。

◇生活する花たち「牡丹」(鎌倉・鶴岡八幡宮)

5月4日(土)/みどりの日

★天城越ゆ春の夕日の杉間より   正子

○今日の俳句
ゆさゆさと百の牡丹も風のまま/黒谷光子
風が来て、百ほどの牡丹の花を揺らす。大きく富貴な花が、花の重みをもって揺れると「ゆさゆさ」となる。「ゆさゆさ」「風のまま」は、牡丹をより自然に捉えている。(高橋正子)

○山躑躅(やまつつじ)

[山躑躅/東京白金台・自然教育園] 

★つつじいけて其陰に干鱈さく女/松尾芭蕉
★百両の石にもまけぬつつじ哉/小林一茶
★近道へ出てうれし野の躑躅かな/与謝蕪村
★つつじ野やあらぬ所に麦畑/与謝蕪村
★死ぬものは死にゆく躑躅燃えてをり/臼田亜浪
★山つつじ照る只中に田を墾く/飯田龍太
★山躑躅そこを明るく道ありぬ/稲畑汀子
★けもの道明るく照らす山躑躅/minmin4221
★山の子となって遊べば山躑躅/高橋正子
★新緑をすずしくさせて山躑躅/高橋正子

 ヤマツツジ(山躑躅、学名:Rhododendron kaempferi)はツツジ科ツツジ属の半落葉低木。高さは1-5mになり、若い枝には淡褐色の伏した剛毛が密生する。葉は互生し、葉柄は長さ1-3mmになる。春葉と夏葉の別があり、春葉は春に出て秋に落葉し、夏葉は夏から秋に出て一部は越冬する。春葉は長さ2-5cm、幅0.7-3cmになり、卵形、楕円形、長楕円形、卵状長楕円形など形状や大きさに変化が多く、先は短くとがり先端に腺状突起があり、基部は鋭形、葉の両面、特に裏面の脈上に長毛が生える。夏葉は春葉より小型で、長さ1-2cm、幅0.4-1cmになり、倒披針形、倒披針状長楕円形で、先は丸く先端に腺状突起があり、基部はくさび形、葉の両面に毛が生える。
 花期は4-6月。枝先の1個の花芽に1-3個の花をつける。花柄は長さ3-4mmになり、花冠の筒はやや太く、色は朱色、まれに紅紫色、白色があり、径3-4cmの漏斗形で5中裂する。花冠の上側内面に濃色の斑点があり、内面に短毛が散生する。雄蘂は5本。花柱は長さ3-4cmになり無毛。果実は果で長さ6-8mmの長卵形で、8-10月に熟し裂開する。
 北海道南部、本州、四国、九州に分布し、低山地の疎林内、林縁、日当たりのよい尾根筋、草原などに生育する。日本の野生ツツジの代表種で、日本の野生ツツジでは分布域がもっとも広い。

◇生活する花たち「かきつばた・踊子草・おへびいちご」(東京白金台・自然教育園)

5月3日(金)/憲法記念日

★森奥のたんぽぽ大方は絮に  正子
鮮やかに飾っていた黄のたんぽぽが森の奥へ入るともう大方はふわふわっとした絮になって居る。辺りの木々は若葉が輝き、初夏に向う季節の移ろいと森の爽やかな情景が浮んで参ります。 (佃 康水)

○今日の俳句
 宮島桃花祭御神能祭
春風を袖に孕みて能舞えり/佃 康水
厳島神社の能舞台は特別なもの。海を渡ってきた春風が能舞台を吹く。能衣装の袖に孕む風が風雅に動きのある新鮮さを呼んでいる。(高橋正子)

○花にら

[花にら/横浜日吉本町]

★足許にゆふぐれながき韮の花/大野林火
★おもてより裏口親し韮の花/水野節子
★天日を豊かに受けて韮の花/久我達子
★花にらはいつも樹のそば垣のそば/高橋正子

 花にらは、春の季節感があるが、俳句の季語ではない。夏の季語の「韮の花」とは違う。ハナニラ(花韮、学名:Ipheion uniflorum (Lindl.) Raf.)は、APG植物分類体系第3版でヒガンバナ科(APG植物分類体系第2版ではネギ科古い分類のクロンキスト体系ではユリ科)に属するハナニラ属の多年草。イフェイオン、ベツレヘムの星とも呼ばれる。原産地はアルゼンチン。日本では、明治時代に園芸植物(観賞用)に導入され、逸出し帰化している。葉にはニラやネギのような匂いがあり、このことからハナニラの名がある。野菜のニラ(学名Allium tuberosum)とは同じ科の植物であるが、属が違うのであまり近縁とは言えない。球根植物であるが、繁殖が旺盛で植えたままでも広がる。鱗茎から10-25cmのニラに似た葉を数枚出し、さらに数本の花茎を出す。開花期は春で、花径約3cmの白から淡紫色の6弁の花を花茎の頂上に1つ付ける。地上部が見られるのは開花期を含め春だけである。 
 

◇生活する花たち「山躑躅・武蔵野きすげ・あやめ」(東京白金台・自然教育園)

5月2日(木)/八十八夜

★八十八夜のポプラに雀鳴きあそぶ  正子
八十八夜、まさしく陽光あふれ、若葉が目に沁みる頃。ポプラのそよぎ、雀の囀り、その軽やかな明るさ、心楽しさに、春から夏への確かな季節の歩みが快く伝わってきます。(藤田洋子)

○今日の俳句
子が発ちし八十八夜の月明り/藤田洋子
「八十八夜の月明かり」の美しい抒情に、旅立つ子を送り出す母の一抹の寂しさが添えて詠まれた。(高橋正子)

○八十八夜

★磧湯(かわらゆ)の八十八夜星くらし/水原秋桜子
★きらきらと八十八夜の雨墓に/石田波郷
★逢ひにゆく八十八夜の雨の坂/藤田湘子
★旅にて今日八十八夜と言はれけり/及川 貞
★八十八夜都にこころやすからず/鈴木六林男

 八十八夜(はちじゅうはちや)は、雑節のひとつで、立春を起算日(第1日目)として88日目、つまり、立春の87日後の日である。21世紀初頭の現在は平年なら5月2日、閏年なら5月1日である。数十年以上のスパンでは、立春の変動により5月3日の年もある。
 あと3日ほどで立夏だが、「八十八夜の別れ霜」「八十八夜の泣き霜」などといわれるように、遅霜が発生する時期である。一般に霜は八十八夜ごろまでといわれているが、「九十九夜の泣き霜」という言葉もあり、5月半ばごろまで泣いても泣ききれない程の大きな遅霜の被害が発生する地方もある。そのため、農家に対して特に注意を喚起するためにこの雑節が作られた。八十八夜は日本独自の雑節である。
 この日に摘んだ茶は上等なものとされ、この日にお茶を飲むと長生きするともいわれている。茶の産地である埼玉県入間市狭山市・静岡県・京都府宇治市では、新茶のサービス以外に手もみ茶の実演や茶摘みの実演など、一般の人々も参加するイベントが行われる。
 「♪夏も近づく八十八夜…」と茶摘みの様子が文部省唱歌『茶摘み』に歌われている。
昭和7年(1932年)『新訂尋常小学唱歌 第三学年用』

茶摘/文部省唱歌
一、
  夏も近づく八十八夜、
  野にも山にも若葉が茂る。
  「あれに見えるは
  茶摘ぢやないか。
  あかねだすきに菅の笠。」
二、
  日和つづきの今日此の頃を、
  心のどかに摘みつつ歌ふ。
  「摘めよ、摘め摘め、
  摘まねばならぬ、
  摘まにや日本の茶にならぬ。」

○花蘇芳(はなずおう)

[花蘇芳/横浜日吉本町]

★いとしめば紅よどむ蘇芳かな/松根東洋城
★風の日や煤ふりおとす花蘇芳/滝井孝作
★花よりも蘇芳に降りて濃ゆき雨/後藤比奈夫
★街中の水に空ある花すおう/和知喜八
★花すおういつも縁側より見えて/高橋正子

 ハナズオウ(花蘇芳、Cercis chinensis)は中国原産のマメ科ジャケツイバラ亜科の落葉低木で、春に咲く花が美しいためよく栽培される。高さは2-3mになり、葉はハート形でつやがあり、葉柄の両端は少し膨らむ。早春に枝に花芽を多数つけ、3-4月頃葉に先立って開花する。花には花柄がなく、枝から直接に花がついている。花は紅色から赤紫(白花品種もある)で長さ1cmほどの蝶形花。開花後、長さ数cmの豆果をつけ、秋から冬に黒褐色に熟す。和名紫荊はその花の紅紫色が、あたかもスオウ染め汁の色に似ているからである。
 花蘇芳の紅紫色は古典的。よい色である。ハート型の葉も魅力。空の青色に似合う。生家には土塀のそばに一本の蘇芳が咲いた。子どもの目にはその花は少し暗く思えたが、つやつやとした絹地のように映った。
 ハナズオウ属は北半球温帯に数種が分布する。地中海付近原産のセイヨウハナズオウ (C. siliquastrum) は落葉高木で高さ10mほどになり、イスカリオテのユダがこの木で首を吊ったという伝説からユダの木とも呼ばれる。このほかアメリカハナズオウ (C. canadensis) などが栽培される。

◇生活する花たち「三葉躑躅(みつばつつじ)・葱坊主・繁縷(はこべ)」(横浜日吉本町)

5月1日(水)/メーデー

★黄菖蒲に薄き汗かくころとなり  正子
春も終わりに近づき、うっすらと汗ばむこの頃、水辺ではは黄菖蒲が咲き始めました。明治の頃にヨーロッパから入ってきて野生化した花だといわれますが、花菖蒲と違っていかにも薄暑にふさわしい風情です。「黄菖蒲」を配してすっきりとこの季節を詠まれた味わい深い御句と思います。(河野啓一)

○今日の俳句
春深し小枝に小鳥来てとまる/河野啓一
「春」のただなかに身を置いている自分と、小枝に飛んできた小鳥に自分を重ねているような、静かな楽しさがある。「春深し」の実感。(高橋正子)

○錦木の花

[錦木の花/東京深川・芭蕉記念館]

★錦木の花や籬にもたれ見る/高浜虚子
★苔の香や錦木の花散り溜まる/織田烏不関
★川風に錦木の花うすみどり/高橋正子
★新緑の中なる花もうすみどり/高橋正子

 ニシキギ(錦木、学名:Euonymus alatus)とはニシキギ科ニシキギ属の落葉低木。庭木や生垣、盆栽にされることが多い。日本、中国に自生する。紅葉が見事で、モミジ・スズランノキと共に世界三大紅葉樹に数えられる。若い枝では表皮を突き破ってコルク質の2~4枚の翼(ヨク)が伸長するので識別しやすい。なお、翼が出ないもの品種もあり、コマユミ(E. alatus f. ciliatodentatus、シノニムE. alatus f. striatus他)と呼ばれる。
 葉は対生で細かい鋸歯があり、マユミやツリバナよりも小さい。枝葉は密に茂る。 初夏に、緑色で小さな四弁の花が多数つく。あまり目立たない。 果実は楕円形で、熟すと果皮が割れて、中から赤い仮種皮に覆われた小さい種子が露出する。これを果実食の鳥が摂食し、仮種皮を消化吸収したあと、種子を糞として排泄し、種子散布が行われる。紅葉を美しくするために西日を避けた日当たりの良い場所に植える。 剪定は落葉中に行う。よく芽をつける性質なので、生垣の場合は強く剪定してもよい。 栽培は容易。名前の由来は紅葉を錦に例えたことによる。別名ヤハズニシキギ。

○生活する花たち「西洋おだまき・卯の花・錦木の花」(東京深川・芭蕉記念館とその近辺)

4月30日(火)

★聖書繰る野の青麦を思いつつ  正子
作者は青々とそよぐ麦畑を心にうかべつつ聖書を開かれたのでしょう。御句に接し、私もまた、新約聖書.ルカによる福音書.6章1節、などのページを繰りました。(小川和子)

○今日の俳句
青紫蘇を水に放ちてより刻む/小川和子
青紫蘇をしゃっきりと香りよく、細く切るためには、水に放して、いきいきとさせて刻む水と紫蘇の出会いが涼しさを呼び起こしてくれる。(高橋正子)

○母子草(ははこぐさ)

[母子草/東京・深川芭蕉記念館裏の隅田川土手] 

★老いて尚なつかしき名の母子草/高浜虚子
★語らいは遠き日のこと母子草/古市あさ子
★拔け道にしつかり根付く母子草/植木里水
★ほんわりと子を抱くかたち母子草/高橋正子
★ほうこ草ほうこ草と呼びし祖母/高橋正子

 ハハコグサ(母子草、学名: Gnaphalium affine)は、キク科ハハコグサ属の越年草である。春の七草の1つ、「御形(ごぎょう、おぎょう)」でもあり、茎葉の若いものを食用にする。冬は根出葉がややロゼットの状態で育ち、春になると茎を伸ばして花をつける。成長した際の高さは10〜30cm。葉と茎には白い綿毛を生やす。花期は4〜6月で、茎の先端に頭状花序の黄色の花を多数つける。
 中国からインドシナ、マレーシア、インドにまで分布する。日本では全国に見られるが、古い時代に朝鮮半島から伝わったものとも言われる。人里の道端などに普通に見られ、冬の水田にもよく出現する。
 かつては草餅に用いられていた草であった。しかし、「母と子を臼と杵でつくのは縁起が良くない」として、平安時代ごろから蓬に代わったともされているが、実際には、出羽国秋田や丹後国峯山など、地方によっては19世紀でも草餅の材料として用いられている。もっとも、古名はオギョウ、またはホウコである。新芽がやや這うことから「這う子」からなまったのではとの説もある。ハハコグサの全草を採取し細かく裁断して日干しし、お茶にする。咳止めや内臓などに良い健康茶ができる。これには鼠麹草(そきくそう)という生薬名があるが、伝統的な漢方方剤では使わない。

○生活する花たち(新緑の東京隅田川)
「スカイツリー(浅草水上バス乗り場より)・日本橋(水上バス船上より)・清洲橋(水上バス船上より)」

4月29日(月)/昭和の日

★牡丹の百花に寺の午(ひる)しじま  正子

○今日の俳句
水底へその影伸ばし葦芽吹く/古田敬二
葦の芽吹きは、その水と芽の緑との出会いが美しい。早春の芽吹きの中でも、水からの芽吹きはまた一味違って、きらめくものがある。水底へ影が伸びるのを確認できるほど澄んでいる水もよい。(高橋正子)

○町内会
午後2時からの<日吉本町西町会定期総会>に信之先生は出席した。町内会の班長を引き受けているからである。出席者、委任状を合わせ3000名ほどで総会が成立する大きな町内会である。会場は、近くの駒林小学校体育館で、閉会は、午後4時前であった。

○深川の花たち(卯の花、苧環、立浪草)
 4月25日、8月の花冠創刊30年祝賀会の下見に出かけた折に、深川芭蕉記念館の前の民家で、鉢植えの卯の花、苧環、立浪草を写真に撮らせてもらった。細々草花を植えて楽しんでいるが、お役所が鉢植えを置く以外は植物を植えないようにということで、寂しいものだとこぼしていた。歩道のフェンスに蔓バラを絡ませてこの季節にはバラが道路を飾っていたのだが、それもダメで、通りは躑躅がちらほら咲くだけのつまらない通りになったということだ。「でもさ、ほおずきの種がこぼれて生えているけどね。」と笑っていた。買えば一本700円するからねとも。三社祭もそろそろ。やがてほおずき市もあることだろう。深川のよい日和であった。

  深川
★卯の花は白を咲かせて川風に/高橋信之
★深川に日は明るかり白苧環/高橋正子

○空木(うつぎ・卯の花)

[空木(卯の花)/東京深川・芭蕉記念館前] 

★押しあうて又卯の花の咲きこぼれ/正岡子規
★卯の花の夕べの道の谷へ落つ/臼田亜浪
★卯の花や流るるものに花明り/松本たかし
★卯の花曇り定年へあと四年/能村研三
★卯の花のつぼみもありぬつぼみも白/高橋信之
★卯の花の盛りや雷雨呼びそうに/高橋正子

★卯の花の白きを門に置きし家/河野啓一
卯の花の白さを門に配しているのがいい感覚だ。「置きし」は、画を描いているような、絵具を置くような、詠み方で、光景を絵画的にしている。(高橋正子)

 ウツギ(空木、学名:Deutzia crenata)はユキノシタ科の落葉低木で、ウノハナ(卯の花)とも呼ばれる。樹高は2-4mになり、よく分枝する。樹皮は灰褐色で、新しい枝は赤褐色を帯び、星状毛が生える。葉の形は変化が多く、卵形、楕円形、卵状被針形になり、葉柄をもって対生する。花期は5-7月。枝先に円錐花序をつけ、多くの白い花を咲かせる。普通、花弁は5枚で細長いが、八重咲きなどもある。茎が中空のため空木(うつぎ)と呼ばれる。「卯の花」の名は空木の花の意、または卯月(旧暦4月)に咲く花の意ともいう。北海道南部、本州、四国、九州に広く分布し、山野の路傍、崖地など日当たりの良い場所にふつうに生育するほか、畑の生け垣にしたり観賞用に植えたりする。

○生活する花たち
「白おだまき・卯の花・立浪草」(東京深川・芭蕉記念館とその近辺)