12月11日(火)

★散ればすぐ桜冬芽の鋭がりたり  正子
桜の葉が紅葉しやがて散ってゆきます。よく見ると来年開くための芽が少し出てきています。自然の摂理のすばらしさに感動します。また、この句により作者の観察眼に敬服しました。(井上治代)

○今日の俳句
冬鵙に雲一片もなかりけり/井上治代
一片の雲もなく晴れ渡った空に、けたたましいはずの冬鵙の声が、のびやかに聞こえる。(高橋正子)

○錦木の実

[錦木の実/横浜・四季の森公園]         [錦木の紅葉/横浜日吉本町]

★啄木鳥の来て錦木を倒しけり/正岡子規
★錦木や鳥語いよいよ滑らかに/福永耕二
★袖ふれて錦木紅葉こぼれけり/富安風生
★錦木のほむら磐梯虹消ゆる/角川源義
★われ稀に来て錦木を立去らず/後藤夜半
★錦木の実も葉も赤くなりにけり/芝滋

★錦木の葉と実の少し違う赤/高橋正子

 小鳥に食べられることなく、もうしなびかかった赤い実が、有るなとは思ったが余り気にとめることも無かった。ところが夕日の光が差し込むと、しなびた実が一転光り輝きだした。あわててシャッターを切ったがみるみる陽は落ちて後にはまたしなびた実が残った。光の魔術というものを改めて実感した。
 今年は妙に小鳥たちの姿を見かけないと、鳥好きのある方がブログに書いてみえたが、せっかく実を付けた草木たちも、種の運び屋がいなくては困るだろうね。(小鳥の姿が少ないというのもちょっと気がかりな話だ)
 ニシキギの枝に付いた「翼」はいったい何のためなのか?見た目カミソリのようで(そういえば子どもの頃これをカミソリの木と呼んでいた)、小鳥たちがとまるのを拒んでいるような?実を食べられたくないのか、食べて欲しいのか、いったいどっちなんだろう?(ブログ「野の四季」より)

 ニシキギ(錦木、学名:Euonymus alatus)とはニシキギ科ニシキギ属の落葉低木。庭木や生垣、盆栽にされることが多い。日本、中国に自生する。紅葉が見事で、モミジ・スズランノキと共に世界三大紅葉樹に数えられる。若い枝では表皮を突き破ってコルク質の2~4枚の翼(ヨク)が伸長するので識別しやすい。なお、翼が出ないもの品種もあり、コマユミ(E. alatus f. ciliatodentatus、シノニムE. alatus f. striatus他)と呼ばれる。葉は対生で細かい鋸歯があり、マユミやツリバナよりも小さい。枝葉は密に茂る。 初夏に、緑色で小さな四弁の花が多数つく。あまり目立たない。 果実は楕円形で、熟すと果皮が割れて、中から赤い仮種皮に覆われた小さい種子が露出する。これを果実食の鳥が摂食し、仮種皮を消化吸収したあと、種子を糞として排泄し、種子散布が行われる。

◇生活する花たち「山茶花・柊・桜黄葉」(横浜日吉本町)

12月10日(月)

★山茶花の高垣なればよく匂う  正子
住宅街でしょうか、あるいは里の道でしょうか。道路より少し高くなった庭に山茶花の垣が作られ、ちょうど通行人の目の高さに花が咲き香りが届いてきます。高さを歌われていることで、花の姿、香りが更にきらびやかに見えてきます。(小西 宏)

○今日の俳句
機首上げてプロペラ高し冬木立//小西 宏
句意がはっきりして、軽快な句。機首を上げているプロペラ機に対して、冬木立と空が明るい。

○蔦紅葉(つたもみじ)

[蔦紅葉/横浜日吉本町]           [夏の蔦/ネットより]

★蔦の葉はむかしめきたる紅葉かな/松尾芭蕉
★岩山や空に這ひつく蔦紅葉/正岡子規
★白滝や黒き岩間の蔦紅葉/夏目漱石
★蔦紅葉高樋あふれて雨の如/瀧春一
★直立ちの木を飾りけり蔦紅葉/阿部ひろし
★真つ先に朝日捉へし蔦紅葉/木暮陶句郎
★白壁の余白残して蔦紅葉/加藤一雄

 路地裏のフェンスや壁に絡みつく色鮮やかな蔦(ツタ)に、ハッとした経験はありませんか。思わぬ場所で出合う紅葉は感動もひとしおで、木々の紅葉とはひと味違う美しさがあります。ツタという名は、「伝う」からきています。 でも、多くの蔦は緑色のまま。同じ蔦なのに、どうして紅葉するものとしないものがあるのでしょう?実は、種類が違うのです。蔦におおわれた家も素敵。冬でも葉が落ちず緑色なのがウコギ科の「キヅタ」で、「冬蔦」とも呼ばれています。基本的には常緑で落葉しません。育つ環境によっては赤みを帯びてくることもありますが、モミジのような鮮やかさではなく、なんとなく色づく程度で、夏になれば色が戻ります。ヨーロッパでは、常緑の冬蔦を家の壁にはわせると雷や魔よけになると言われていました。また、冬蔦は裕福な家の象徴で、これが急に枯れ落ちたりすると災難が起こるという迷信もあります。そのため、ヨーロッパには大きな石造りに蔦をはわせた家が多いのです。
 秋になると美しく紅葉し、冬には葉が落ちてしまうのはブドウ科の「ツタ」で、「夏蔦」とも呼ばれています。都会で見つけた“まっかな秋”。よく見ると、ブドウに似た実がついています。この夏蔦をよく見てみると、ブドウ科だけあってブドウのような実をつけています。また、落葉時には葉を支えている柄(え)の部分を残して先に葉の部分だけが落ち、そのあと残った柄が落ちるのも特徴です。夏蔦は、その艶やかな紅葉ぶりが好まれて歌に詠まれることも多く、「紅葉蔦(もみじづた)」「蔦紅葉 (つたもみじ)」「錦蔦(にしきづた)」などの別名があります。童謡『まっかな秋』の「まっかだな まっかだな つたの葉っぱがまっかだな♪」 というフレーズも、夏蔦のことをさしています。(『まっかな秋』 作詞:薩摩忠/作曲:小林秀雄)常緑のほうが冬蔦で、紅葉する「紅葉蔦」は夏蔦……少々ややこしいネーミングですが、覚えておくと秋の楽しみが増えそうです。(ブログ「暮らしの歳時記」より)

◇生活する花たち「柊・茶の花・錦木紅葉」(横浜日吉本町)

12月9日(日)

★跳躍の真紅の花のシクラメン  正子
シクラメンの蕾の時はややうつむき加減ですが、花が咲けば茎がぐんと伸び、緑の葉を下に置いて将に跳躍をしたかの様な花上がりを見せて、力強さを感じさせます。真紅のシクラメンが色彩的にも活き活きと咲いています。 (佃 康水)

○今日の俳句
満潮へ鴨の二陣の広く浮く/佃 康水
満ちて来る潮に向かって、二陣の鴨の群れが広がり浮かんでいる。豊かな潮と浮き広がる鴨の群れが色彩的にもよい風景である。(高橋正子)

○第19回(忘年)フェイスブック句会入賞発表
【金賞】
★背丈ほどの鍬振り上げて冬耕す/井上治代
鍬を使うは、大変な力仕事である。自分の背丈と同じほどの鍬を振上げ、よろめかぬように、力一杯振り下ろす。冬耕の土に向けた力が快い。(高橋正子)
▼その他の入賞作品:
http://blog.goo.ne.jp/kakan02d

▼ご挨拶/高橋正子(主宰)
今年もはや12月、今回は忘年句会でした。オフ句会なら、お酒やお料理を楽しみながらの句会となるところですが、そちらは、皆様それぞれにお楽しみいただくことにいたします。年の終わりを締めくくるにふさわしい句をお寄せいただき、ありがとうございました。今回は21名の方が参加されました。入賞の皆様おめでとうございます。ご投句、選句、コメントをいつものように、ありがとうございました。毎年同じように12月を迎えているわけですが、俳句が同じということは、少しもありません。月日が尽きることなくあるように、俳句も尽きることなくあるような気がしています。今回は、特にそんなことを強く感じました。句会の管理運営は信之先生に、互選の集計は洋子さんにお願いしました。いつもありがとうございます。天気予報では、来週から天気は荒れ模様で、積雪もありそうです。皆様、風邪をひかれませんよう、気を付けてよい年末をお過ごしください。次回は、第20回新年句会となります。

○さんしゅゆの実

[さんしゅゆの実(12月6日)/横浜・四季の森公園]_[さんしゅゆの花(3月22日)/横浜・四季の森公園]

★山茱萸にけぶるや雨も黄となんぬ/水原秋桜子
★山茱萸の黄や街古く人親し/大野林火
★さんしゅゆの花のこまかさ相ふれず/長谷川素逝
★赤といふ禁断の色山茱萸の実/桐一葉
★枝揺らし山茱萸の実の手から手に/芝滋

★山茱萸の小さき実数多青空へ/高橋信之

サンシュユ(山茱萸)は、朝鮮半島原産の小高木で、日本には江戸時代中期に薬用植物として渡来しました。早春に新葉に先立ち樹木一面に鮮かで黄色い小花を咲かせる姿も美しいですが、晩秋に鮮かに紅色に熟する実もまた愛らしくて美しいものです。楕円形をしたサクランボウのような感じがします。実は甘くておいしそうに見えますが、実は渋くて生食には向かないそうです。残念。サンシュユの果実は、滋養・強壮、止血、解熱作用の薬効があるといわれ漢方薬にもなっているそうですよ。サンシュユの春の情景を「春黄金花(ハルコガネバナ)」と呼び、秋の情景を「秋珊瑚(アキサンゴ)」と呼びますが、その別名がよく似合います。心も身体も癒してくれる、私たちにとって大事な植物なんですね。感謝(大阪市立長居植物園ブログより)

◇生活する花たち「茶の花・柊・満天星紅葉」(横浜日吉本町)

12月8日(土)

 琵琶湖
★栴檀の実の散らばりに湖晴るる  正子
栴檀の実も散らばる冬も本番を迎えたころになれば、空気も澄んで晴れた日の湖もきれいなことでしょう。(高橋秀之)

○今日の俳句
冬紅葉向こうに大きな空がある/高橋秀之
冬紅葉の向こうに見えるものが「大きな空」である。「大きな」がこの句の内容の良さで、読み手にもその空を実感させてくれる。(高橋正子)

○冬紅葉

[楓紅葉/横浜・四季の森公園]       [いろは紅葉/横浜・四季の森公園] 

★冬もみぢ端山の草木禽啼かず 蛇笏
★沈む日を子に拝むませぬ冬紅葉 かな女
★冬紅葉濃しや峡田の行きどまり 秋櫻子
★一すじの道冬紅葉濃かりけり 貞
★冬紅葉堂塔谷に沈み居り 茅舎
★冬紅葉長門の国に船着きぬ 誓子
★冬紅葉美しといひ旅めきぬ 立子

★冬紅葉くれない空へ清潔に/高橋信之
★森静かに冬の紅葉を散らしている/高橋信之
★雨あとのいろはもみじの谷深し/高橋正子

十二月六日、横浜市緑区にある四季の森公園に出かけた。四季の森公園には紅葉谷と呼ばれるところがある。紅葉が素晴らしく美しいのは、秋ではなく、実際は、夜と昼の寒暖の差が激しくなる冬。この日は、雨の後の久しぶりの快晴のよい天気になった。立冬からちょうど一か月になる。紅葉谷へは、中山駅から横浜動物園行きのバスに乗り、長坂というバス停で降り、十分ほど歩いて着く公園の南口から入るコースをとった。いつもは北口から入るのだが、南口からのコースは、紅葉谷を上から下へと下る。北口からなら、下から上へ辿るコースとなる。南口に着くと、楓や欅の紅葉を風がぱらぱらと降らせている。正面の噴水は、水を霧のように丸く吹上げている。

南口から辿り始めるとすぐに、イロハモミジの紅葉に出会う。どれも大木で、上から覆いかぶさるように枝を広げている。枝の下に入りると、空が透けている辺りが最も美しい。黒い枝も捨てがたい。暗い部分も、明るい部分も、紅葉の葉がはっきりとその形に見える。イロハモミジは葉の切れが七で、「いろはにほへと」と数えられるから付いた名という。「いろはにほへと」ならば、次に「ちりぬるを」がくるが、散った紅葉を踏みながら、なるほどと「いろはの歌」を思った。イロハモミジの葉が散らばり、また重なる姿を見ると子どものころから親しんだ、千代紙とか風呂敷の柄がすぐに思い浮かんだ。ひと固まりの紅葉の林を過ぎると、白樫などの多い林となる。林は少し急な下りになり、どこから飛んできたのか朴の大きな落葉がところどころに散らばっている。どこかにあるらしいが、木は見当たらない。椿が固まってあるが日当たりがなく蕾はついていない。その谷を下ってゆくと明るい紅葉の重なりが見えるが、ここが紅葉谷と呼ばれるところ。イロハモミジの紅葉に続き、オオモミジの紅葉が混じってくる。終わり近くにコウチワカエデがある。もう、一週間も立つとこの紅葉は散りつくしてしまうのではと思われた。風がしきりに紅葉を誘って、流れるように紅葉が散っている。路は夜の雨のあととあって、踏めば落葉から水がにじむ。紅葉の木は十メートルを超えているのもある。見上げてばかり写真を撮るので、首が痛くなる。私はカメラが本職ではないのだが、俳句の写真をと思うと、これという写真を撮りたい。数多くと思うが、何事も、集中力と体力の問題と思えて、最後には写真を撮るのがいやになったくらいだ。

下に目をやる。いろんな紅葉が散り重なっている。一つ一つ紅葉を見るが、完璧に美しい葉はない。どこか痛んだりしている。しかし、重なれば、美しいの。雨水の溜まった大きな葉がつくばいのようになって、紅葉を載せている。木橋に一列に紅葉が載っている。こんどは、私の肩辺りを見ると、くぬぎの黄葉がいい色になっている。葉の形も黄いろから茶色を持つ葉の色は森の色。紅葉谷と言えども、ほかの木の黄葉混じるのがいい。谷紅葉は、夜はしんと独りになるのだろう。思えば、少し怖いが、朝が来ればまた、その色を取り戻すだろう。紅葉谷の終わりは、天狗の団扇に似た、コウチワカエデ。黄みどりがかったこの楽しい形を最後に、今日の紅葉狩りを終わりとした。

◇生活する花たち「柊・茶の花・錦木紅葉」(横浜日吉本町)

12月7日(金)

★青空の光りを弾き辛夷花芽/高橋正子
辛夷の花の芽、あの白い掌を広げたような花が目に浮かびます。寒さがこれから厳しくなっていく時期、日も短くなり寂寥感がつのるころです。そこに辛夷の花芽があった、「青空の光を弾き」の言葉に冬の中に着実に整う春の息吹を感じる思いがします。(多田有花)

○今日の俳句
枯蓮と青空たたえ水平ら/多田有花
平らな水に青空が映り、枯蓮が立っている。水のよく溜まった枯蓮田は「青空たたえ」となって、枯れの美しさを見せている。(高橋正子)

○蝋梅(ろうばい)

[蝋梅/横浜・四季の森公園]

★風往き来しては蝋梅のつやを消す/長谷川双魚
★蝋梅の咲くゆゑ淡海(アワミ)いくたびも/森 澄雄
★蝋梅や樅(モミ)をはなるる風の音/古館曹人
★文机に蝋梅一朶誕生日/品川鈴子
★蝋梅や磨きたりない床柱/堂本ヒロ子

★蝋梅咲いて森の正午の空の青/高橋信之
★蝋梅のはじめの一花空に透け/高橋正子

 ロウバイ(蝋梅、蠟梅、臘梅、唐梅、Chimonanthus praecox)は、ロウバイ科ロウバイ属の落葉低木。1月から2月にかけて黄色い花を付ける落葉広葉低木である。
 十二月六日、四季の森公園に出かけた。この季節は冬紅葉や山茶花や木の実が目につく。そのほかの花には、なかなか出会えない。ところが、四季の森公園の季節の見どころ情報では、紅葉のほかに、蝋梅が咲いたとある。蝋梅は愛媛に住んでいたとき、砥部の庭のアプローチの日当たりが一番いいところに植えていた。正月にやっと蕾が黄色い色を見せ始め、霜が降りる朝に、透き通った花びらを開くのがいつもだった。十二月に蝋梅が開いたという情報に、多少戸惑った。少し早いのではと思いつつも出かけた。紅葉谷の紅葉を楽しいだあと、作ってきたおにぎりの弁当を食べた。蝋梅は「春の草原」の傍にあるという。ああ、三椏の花が咲く小川のほとりかと、すぐに見当がついた。そこに蝋梅があったことには、気づいていなかった。弁当を広げたところから、小川の小さな橋を渡ってすぐのところにある。黄葉してかさかさした葉がまたたくさん付いていたので、すぐ蝋梅と分かった。蕾がたくさん付いている。花を探すけれど、この木も、次の木も、その次の木も蕾だけ。最後の木にようやく見つけたのは、開こうとしている蕾。その直ぐにもっとひらいた蕾、その近くに、見上げた青空にくっきり開いた花。花と言えるのは、この三花。澄み透った森の青空の中に開いた蝋梅であった。

◇生活する花たち「十両(やぶこうじ)・万両・白文字(しろもじ)」(東京白金台・国立自然教育園)

12月6日(木)

★臥風忌の今日にわが句の刷り上がる  正子
恩師、臥風先生の教えを「細く長く」見事に実践し、継続されている正子先生。臥風忌へ寄せる、ひとしお強い思いをお察しします。忌日に刷り上がった「わが句」がことのほか清々しく、感慨深く感じられます。(藤田洋子)

○今日の俳句
冬晴れて視線を高く天守へと/藤田洋子
大阪城の吟行での作。大阪城は、巨大な石垣とそびえる天守に目が注がれる。足元よりも、視線は冬晴れの空へ、天守へと自然に向けられる。いわゆる切れのない「一句一章」の句のよさがあって、すっきりと、素直な感覚でよくまとめられている。(高橋正子)

○辛夷の花芽

[辛夷の花芽(11月)/横浜日吉本町]    [辛夷の蕾(3月)/横浜日吉本町]

★かたくなに白を守りて辛夷咲く/能村登四郎
★黄昏の色濃き空に辛夷浮く/笠原美雪
★辛夷の芽ふくらみ見する夕日どき/宮津昭彦
★辛夷の芽をちこち水の韻きけり/石本百合子
★光背のうしろの辛夷冬芽立つ/山本耀子

★花芽数多付けて辛夷の大きな木/高橋信之

 コブシ(辛夷)の花芽(広島市植物公園 2月14日)/ブログ「山野草、植物めぐり」より
 辛夷の花芽が柔らかくひかっていた。開花期は地域の気候に左右され3~5月と幅がある。自分の住む広島県西部の山に自生しているのは、「コブシ(辛夷)」ではなく「タムシバ(匂辛夷)」だから、これは植栽されたものである。両者にほとんど違いはないが、辛夷は花の付け根に小さな葉が一つついているのに対し、タムシバの場合は葉がつかない。この地方では4月上旬に開花することが多い。いっせいに咲いて咲き終わり、また山に紛れてしまう。小野興二郎という歌人の若いころの歌に次の作品がある。2首をセットで読めばさらに味わい深い。
  梢(うれ)たかく辛夷の花芽ひかり放ちまだ見ぬ乳房われは恋ふるも
  妻となる日を待つ汝(なれ)かぬるみゆく水を言ふとき髪のひかりぬ

 コブシ(辛夷、学名:Magnolia kobus)はモクレン科モクレン属の落葉広葉樹の高木。早春に他の木々に先駆けて白い花を梢いっぱいに咲かせる。別名「田打ち桜」。果実は集合果であり、にぎりこぶし状のデコボコがある。この果実の形状がコブシの名前の由来である。高さは18m、幹の直径は概ね60cmに達する。3月から5月にかけて、枝先に直径6-10cmの花を咲かせる。花は純白で、基部は桃色を帯びる。花弁は6枚。花芽は、6月頃に付き、11月半ばに膨らみ始める。枝は太いが折れやすい。枝を折ると、 芳香が湧出する。九州、本州、北海道および済州島に分布。「コブシ」がそのまま英名・学名になっている。 日本では「辛夷」という漢字を当てて「コブシ」と読むが、中国ではこの言葉は木蓮を指す。

◇生活する花たち「木瓜・いそぎく・千両」(横浜日吉本町)

12月5日(水)

★冬鵙の囃すは水照る向こう岸  正子
鵙の声を「囃す」と詠まれたところに、何とも趣きが感じられ、冬晴れの川向こうの景までが、広やかに目にうかびます。きらきらと川の水の照る向こう岸です。(小川和子)

○今日の俳句
農道を真直ぐ辿る冬はじめ/小川和子
農道は、田や畑の中を抜ける農業用の道路。まっすぐな農道の脇は、刈田であったり、冬菜が育っていたり、冬のはじめの景色が楽しめる。それがいい。(高橋正子)

○皇帝ダリア

[皇帝ダリア/横浜日吉本町] 

★植ゑかへてダリヤ垂れをり雲の峰 秋櫻子
★ダリア燃え浅寝の眼にはゆらぐなり 悌二郎
★うちあげしあはれ形代と黄ダリヤ 青邨
★千万年後の恋人へダリヤ剪る 鷹女

★皇帝ダリア咲かせて空のあやふさに/高橋信之

 皇帝ダリア(ダリア・インペリアリス)は、ダリアの原種でメキシコ原産で、木立ちダリア、帝王ダリア等の別名がある。草丈が3~4メートルにもなり、花はピンク色で直径約20センチメートルの大輪の花を茎の頂上につける。晩秋の頃、空にそびえて立つ姿は圧巻。
 ダリア(英語: dahlia、学名:Dahlia hybrida)は、キク科ダリア属の多年生草本植物の総称。観賞用に栽培。根は塊根で紡錘形に肥厚。高さ1~2メートル。葉は羽状複葉。夏から秋にかけ、頂に径5~15センチメートルの頭花をつける。花は一重または八重で、紅・白・黄・紫など、花色も花形も種類が多い。球根は非耐寒性であり、サツマイモに似た塊根。メキシコおよびグアテマラが原産地で、ヨーロッパに初めてもたらされたのは18世紀、スウェーデンの植物学者アンドレアス・ダール(Andreas Dahl)に因んで名づけられた。ナポレオンの皇后ジョセフィーヌの庭園で育てられたという。日本には1842年(天保13年)にオランダ人によってもたらされた。和名では「てんじくぼたん(天竺牡丹)」と呼ばれる。[季]夏。

◇生活する花たち「桜落葉・ドウダン紅葉・欅黄葉」(横浜日吉本町)

12月4日(火)

  新幹線
★トンネルを抜けて手帖に差す冬日  正子
トンネルを抜けた時、入る前との景色の違いに、はっとすることが多くございます。新幹線のトンネルでしたら、一際でしょう。手帖を広げ、考えごとをなさっていた折、さっと帖面へ差し来た日に、新しい土地の光を感じられたことと想います。薄くも輝かしい、冬日ならではの、きれいな瞬間です。 (川名ますみ)

○今日の俳句
冬夕焼一直線に街を射す/川名ますみ
寒々とした冬の街を夕焼けが染める。街をすべて染める「一直線」の夕焼けが力強い。(高橋正子)

○寒木瓜(かんぼけ)・冬木瓜(ふゆぼけ)

[寒木瓜/横浜日吉本町]           [寒木瓜の実と花/横浜日吉本町]

★近江路や茶店茶店の木瓜の花/正岡子規
★木瓜咲くや漱石拙を守るべく/夏目漱石
★木瓜の花こぼれし如く低う咲く/大谷句仏
★寒木瓜の蕊のぞきたる花一つ/阿部ひろし
★寒木瓜の刺の鋭き女坂/増田栄子
★寒木瓜を見つけし後の足軽し/819maker(ブログ俳句の風景)

★丘晴れていて寒木瓜の赤の濃し/高橋信之
★今青空に冬木瓜の実の確とあり/高橋信之

 木瓜と書いて「もっこう」と読む場合もあるが、普通「ぼけ」と読む。この音を聞いてほとんどの人は「あほ、ぼけ」の「ぼけ」を想像するだろう。それがこの花のおもしろいところで、木瓜は春の花であるが、花の少ない冬、暖かい陽だまりなどに咲き始める。棘があって、花は梅のように枝について咲く。葉は花の後から出るのであるが、この朴訥な枝と少ない花を生かして春の先駆けを思わせて生花にも使われる。雪が降ったりすると、雪を冠った花がうれしそうに見える。実は花梨のように大きな黄色い実がつくのも、「ぼけな」感じだ。

 寒木瓜は、木瓜と同じ品種だが、ふつうは3月から4月に咲くのに対して、11月から12月ごろに咲き出すものをいう。
 ボケ(木瓜)は、バラ科の落葉低木。学名Chaenomeles speciosa(シノニムC. lagenaria)実が瓜に似ており、木になる瓜で「木瓜(もけ)」とよばれたものが「ぼけ」に転訛(てんか)したとも、「木瓜(ぼっくわ)」から「ぼけ」に転訛したも言われる。帰化植物(平安時代)。学名のspeciosa は 美しい、華やか 、Chaenomelesは 「chaino(開ける)+ melon(リンゴ)」が語源。花言葉は「先駆者」「指導者」「妖精の輝き」「平凡」。原産地:中国大陸。日本に自生するボケはクサボケといわれる同属の植物。
 樹高:1~2m。枝:若枝は褐色の毛があり、古くなると灰黒色。幹:樹皮は縦に浅く裂け、小枝は刺となっている。葉:長楕円形・楕円形。長さ 5~9cmで鋭頭でまれに鈍頭。基部はくさび形で細鋭鋸歯縁。花:3~4月に葉よりも先に開く。短枝の脇に数個つき径2.5~3.5cm。色は基本的に淡紅、緋紅。白と紅の斑、白などがある。
 好陽性で土壌を選ばず、移植は容易だが大気汚染・潮害にはさほど強くない。日本では本州から四国、九州にかけて植栽、または自生。温暖地でよく育ち北海道南部では種類が限定される。
 庭園樹としてよく利用され、添景樹として花を観賞する目的で植栽される。盆栽にも用いられる。実を果実酒などにすることもある。
 同属の植物にクサボケ(草木瓜、Chaenomeles japonica 英名Japanese quince)がある。50cmほど。実や枝も小振り。本州や四国の日当たりの良い斜面などに分布。シドミ、ジナシとも呼ばれる。花は朱赤色だが、白い花のものを白花草ボケと呼ぶ場合もある。果実はボケやカリン同様に良い香りを放ち、果実酒の材料として人気がある。減少傾向にある。
 [木瓜と草木瓜のちがい] 木瓜は:背が高い。枝のトゲはあまり目立たない。実は草木瓜の実よりも大きくて、色は黄色。縦に「彫り」が入っている。草木瓜は:背は木瓜より低い。枝にトゲがいっぱいある。実はボケよりは小さく、色は黄色。縦に「彫り」は入っておらず、表面はつるつる。

◇生活する花たち「白ほととぎす・茶の花・むべの実」(東京白金台・国立自然教育園)

12月3日(月)

★純白の苺の花も十二月  正子

○今日の俳句
落葉踏む紅も黄色もさみどりも/桑本栄太郎
落葉と言えど枯れ色の葉ばかりではない。紅も、黄色も、またさみどりもあって、色鮮やかである。今落ちたばかりの葉も混じって、冬に入れば冬の明るさがある。(高橋正子)

○柊(ひいらぎ)

[柊/横浜日吉本町] 
★屋根ふいて柊の花に住みにけり 鬼城
★柊の花と思へど夕まぐれ 風生
★柊の花にかぶせて茶巾干す みどり女
★柊の花一本の香かな 素十
★柊の花多ければ喜びぬ 草田男
★心ひまあれば柊花こぼす 虚子
★柊の花や掃かれし土の匂ひ 林火
★柊の花のともしき深みどり たかし
★柊の指さされたる香かな 波郷
★柊の香やあをあをと夜の冨士 悌二郎

★柊の花に触れずに眺めいし/高橋信之
★ひいらぎの花の清らと香の清ら/高橋正子

 ヒイラギ(柊・疼木・柊木、学名:Osmanthus heterophyllus)は、モクセイ科モクセイ属の常緑小高木。和名の由来は、葉の縁の刺に触るとヒリヒリ痛む(古語:疼(ひひら)く・疼(ひいら)ぐ)ことから。季語としては、「柊の花」 は冬。東アジア原産で、日本では本州(関東地方以西)、四国、九州、琉球の山地に分布しているほか、外国では台湾でも見られる。樹高は4-8m。葉は対生し楕円形から卵状長楕円形、革質で光沢あり、縁には先が鋭い刺となった鋭鋸歯がある。また、老樹になると葉の刺は次第に少なくなり、葉は丸くなってしまう。花期は11-12月。葉腋に白色の小花を密生させる。雌雄異株で雄株の花は2本の雄蕊が発達し、雌株の花は花柱が長く発達して結実する。花は同じモクセイ属のキンモクセイに似た芳香がある。花冠は4深裂して、径5mmになる。果実は長さ12-15mmになる核果で、翌年6-7月に暗紫色に熟す。果実は鳥に食べられて種子が散布される。
 低木で常緑広葉樹であるため、盆栽などとしても作られている。幹は堅く、なおかつしなやかであることから、衝撃などに対し強靱な耐久性を持っている。この為、玄翁(げんのう)と呼ばれる重さ3kgにも達する大金槌の柄にも使用されている。特に熟練した石工はヒイラギの幹を多く保有し、自宅の庭先に植えている者もいる。他にも、細工物、器具、印材などに利用される。葉に棘があるため、防犯目的で生け垣に利用することも多い。古くから邪鬼の侵入を防ぐと信じられ、庭木に使われてきた。家の庭には表鬼門(北東)にヒイラギ、裏鬼門(南西)に南天の木を植えると良いとされている(鬼門除け)。また、節分の夜、ヒイラギの枝と大豆の枝に鰯(いわし)の頭を門戸に飾ると悪鬼を払うという(柊鰯)。

◇生活する花たち「林檎の帰り花・ゲンノショウコ・桂黄葉」(横横浜・四季の森公園)

12月2日(日)

 大阪城天守より望む
★冬がすみ生駒の山の青透かし  正子
昨年の近江長浜吟行後、翌日の大阪城からの景色を詠まれた句でしょう。皆さまと天守を一周したことが思い起こされます。生駒山は身近な山ですので、嬉しい気持ちになります。(祝恵子)

○今日の俳句
わさわさと大きな蕪の一輪車/祝恵子
一輪車をはみ出して「わさわさと」運ばれる蕪の葉がまことに生き生きしている。(高橋正子)

○初嵐(椿)

[初嵐/横浜日吉本町] 

★慎ましき白き椿の初あらし/高橋信之
★庭の樹の間に咲けり初あらし/高橋正子

今日は比較的穏やかで過ごしやすい一日で、庭仕事で少し動くと汗ばむような日和でした。庭仕事をしていると、白い物が目に止まりましたので、見てみると初嵐がこちらを向いて咲いておりました。色々調べてみますと、「初嵐」は、すでに1847年の「剪花翁伝」には記載されているという古い品種だそうで、白い色で、一重で筒咲き、もしくはラッパ咲きで蕾は尖っております。中輪で10月から3月にかけてが開花期といわれておりますが、我家の初嵐は、毎年炉開きの頃咲き始めます。ところが、今年は太神楽を使ったので忘れておりました。「初嵐」という風雅な名にふさわしく、清楚で優しい雰囲気の花です。(ブログ「tyakoの茶の湯往来」より)

俳句日記/高橋正子 1999年12月17日(金)
雨が降りそうな気配。砥部のわが家をのぞく。ほぼ一年ぶりだが、思ったより雑草が生えてなく、それでも冬らしい庭になっている。ひいらぎは、花が終っていても、かすかな香り。山茶花は、今が盛りだけれど、花数は少なく、椿は、はつあらし。玄関の椿がいつもより早く、白い蕾をふくらませている。早春の黄色い花、さんしゅは、固い蕾を枝先につけている。万両もほうぼうに生えて、赤い実を光らせて、都わすれもだいじょうぶ。客間の机は、さすが、一年のほこりをかぶり、忘却のかなたから、やって来たように鎮座している。はなれに括って置いた本も、傾いてすでに、記憶の残照のようである。こういう光景は、仮の世にまちがいない。

◇生活する花たち「柊・茶の花・錦木紅葉」(横浜日吉本町)