ドイツ旅行1990

ドイツ旅行1990


  ベルリン
 カスターニエの青き実曇天よりもげば/高橋正子

この句は、ドイツの句会に家族で招待されたときのもので、カスターニエと曇天というドイツの風土にふさわしい言葉を使って、季感溢れる風景を詠むことに成功した。この句には、季語はないが季感があって、その奥の風土と自然を捉えた。ものの本質を見たのである。日本の風土に捕らわれずに、ドイツの風土を確かな目で見た。ここがインターナショナルである。(高橋信之)

俳句による国際交流/高橋信之
http://kakan.info/nobuyuki/02/kokusai.htm

10月21日(金)

★大寺の水あるところ水澄んで   正子

○今日の俳句
真珠筏浸し秋の海澄めり/藤田洋子
「浸し」が秋海の澄んだ水をよく感じさせてくれる。秋海の澄んだ水に浸され殻を育てている真珠は、美しく輝く珠となることであろう。

○ほととぎす
ほととぎすは、土地があえば、実際よく育つ。我が家では、一株植えたものが庭木の下によく育っていい具合に土を隠してくれた。活ける花がないときには、庭にでて少し切って花瓶に挿すと様になる。血を吐くように鳴くといわれるほととぎすの胸あたりの模様によく似ているので、ほととぎすという名前がついているが、そのまだらな濃い紫のせいか、特徴的でありながら、洋風な部屋にも、和風な部屋にも合う。

◇生活する花たち「ほととぎす・茶の花・紫式部」(横浜日吉本町)

生活する花たち 秋②


○フェイスブック日曜句会最優秀

[第1回句会]
★眠らんとすれば窓辺に降る月光/多田有花
眠ろうと明かりを消せば、窓辺に明るく月光が降り注いでいることに気がつく。この月光に包まれて眠れるのも幸せなことであろう。(高橋正子)

[第2回句会]
★秋天に伸びゆくものの数多あり/多田有花
秋の天に高く伸びてゆくものを読み手はいろいろ想像する。鉄塔であったり、高層ビルであったり、聳える木であったり。秋天にある飛行機雲も。秋麗の日差し、空気、まさに「秋」がよく表現されている。(高橋正子)

○高橋正子代表句

  ベルリン
★カスターニエの青き実曇天よりもげば/高橋正子

この句は、ドイツの句会に家族で招待されたときのもので、カスターニエと曇天というドイツの風土にふさわしい言葉を使って、季感溢れる風景を詠むことに成功した。この句には、季語はないが季感があって、その奥の風土と自然を捉えた。ものの本質を見たのである。日本の風土に捕らわれずに、ドイツの風土を確かな目で見た。ここがインターナショナルである。(高橋信之)

 ハワース
★「嵐ヶ丘」はここかと秋冷まといつつ/高橋正子

ブロンテ姉妹が住んでいたハワースを詠んだ句。作者は大学で英文学を学んだので、イギリスの地に思いは深い。 「嵐ヶ丘」の舞台となったハワースは、日本の北海道よりもずっと北にある。日本を出国し、ロンドンに着いた翌日の句は、「嵐ヶ丘」の「秋冷」を実感として捉えた。(高橋信之)

★水に触れ水に映りて蜻蛉飛ぶ/高橋正子

高橋正子第2句集「花冠」の代表句を挙げるすれば、この句を採ることに、躊躇うことはない。俳句の「まこと」を読み取ることができるので嬉しい。(高橋信之)

○俳句の風景

★おしゃべりの後に摘みけり赤のまま/祝 恵子
おしゃべりに夢中になったあと、ふっと足元を見ると赤のままが咲いている。思わず摘み取りたくなるなつかしさ。自分に帰るほんの小さな時間。(高橋正子)

★稲熟るる山へ空へと黄を揺らし/川名ますみ
甲府盆地の南方。増穂や玉穂といった地名もその所縁だろうか、稲作が盛んで、今は一帯が黄金色だ。車窓がまばゆい。

★秋麗のクイーンの切手のエアメール/後藤あゆみ
正子先生が9月23日にイギリスから送って下さった絵葉書が、今日届いた。飽かず眺めている。切手の上にスタンプはなく、下にオレンジ色の斜線がついているだけ。イギリスの切手には国名が記されていない。左の切手は女王の横顔で一目瞭然。右の切手は斜めにすると切手の右上に小さな女王の横顔が光って見えるようになっている。
   バーミンガムにて
 黄葉はじむ水道橋の高さにも 正子

10月20日(木)

★しいの実の青くていまだ石の間に  正子
山を歩いていると、しいの実をはじめ、団栗といわれる実がまだ青いままに落ちているのを見ることがあります。葉もいっしょに小枝ごと落ちていることもあり、不思議な思いがします。その「あれ?」という軽い驚きをすくいとって詠まれています。 (多田有花)

○今日の俳句
眠らんとすれば窓辺に降る月光/多田有花
眠ろうと明かりを消せば、窓辺に明るく月光が降り注いでいることに気がつく。この月光に包まれて眠れるのも幸せなことであろう。(高橋正子)

○野菊
野菊は、野に咲く菊を総じて大まかに言うらしい。最近、野菊の存在を忘れそうになった。野菊について書こうと思い出したのは、イングランドの高速道路わきに、たくさん薄紫の野菊が咲いていたからだ。四国に住んでいたころは、嫁菜が多かった。野紺菊と比べ花弁が欠けたような咲き方をした。野紺菊のほうが、美しい。園芸種の紺菊が栽培されて、ごくごく淡い薄紫の野菊は、最近はまれにしか見ていない。「野菊」と聞けば伊藤左千男の「野菊の墓」を思い出す方もおられようが、今も読まれているのかどうか。そして、次に思い出されるのが、文部省唱歌の「野菊」。すっかり忘れていたが、これもイングランド旅行で記憶が蘇った。

◇生活する花たち「野菊」(横浜下田町・松の川緑道)

10月19日(水)

★うす紙がかりんをかたちのまま包む  正子

○今日の俳句
雲いそぎゆきて水色の秋天/川名ますみ
水色の秋天をいそぎゆく雲がある。天空は、はや晩秋へいそいでいるのであろうか。「水色の秋天」によい感性がある。(高橋正子)

◇生活する花たち「秋海棠」(横浜日吉本町)

10月18日(火)

  ハワース
★「嵐ヶ丘」はここかと秋冷まといつつ  正子
「嵐が丘」は復讐、愛憎、荒涼、そんな言葉が浮かぶ小説です。その舞台となったハワーズには、冷気に胸をかき抱きたくなるような雰囲気が今も残っているのですね。「ここかと」に、凄まじい物語が生まれた背景を実感として受け止められたことが分かります。ヒースクリフとキャサリンの魂が今も彷徨っているような土地を的確に詠まれていると思いました。(後藤あゆみ)

○今日の俳句
月澄むや長き廊下の消灯す/後藤あゆみ
静まった夜、長い廊下が消灯されて、外には月が澄んでいる。体にずんと染みいるような月明かりである。

○竜胆
野生の竜胆を初めて出会ったのは阿蘇の外輪山の草原であった。二十代のころ九州旅行の途中、阿蘇の外輪山の宿に泊まることがあった。露がかわいたばかりの草原を歩くうちに足元に竜胆が咲いているのが目に入った。天近き草原である。まさかと目を疑ったが確かに竜胆である。その後も松山市から三十キロほどの久万高原町のふるさと村の崖で見た。ひょろりとした茎に紫紺の花が付いている。竜胆もいろいろ種類があるようだ。ある日、PTAの美術クラブで、買ってきた園芸種の竜胆を描こうとして、絵の先生に注意を受けたことがある。作り物はいけない、自然の花のいのちを描けよ、ということだったのだろう。確かに園芸種とは全く違う姿風情。この注意も、野生の竜胆に出会っていたので、本意が多少ともわかったと思う。可憐で色の深さは、誰をも魅了するのだろう。好きな花のひとつである。

◇生活する花たち「竜胆・ホトトギス・藤袴」(横浜日吉本町)

10月17日(月)

  コッツワルズ
★水澄んで白鳥軽く流れくる  正子

○今日の俳句
朝霧が包む港に汽笛鳴る/高橋秀之
素直な句で、朝霧に鳴る汽笛がのびやかに聞こえる。朝霧に包まれた港がこれから動き出そうとしているのであろう。(高橋正子)

○野菊
野菊は、野に咲く菊を総じて大まかに言うらしい。最近、野菊の存在を忘れそうになった。野菊について書こうと思い出したのは、イングランドの高速道路わきに、たくさん薄紫の野菊が咲いていたからだ。四国に住んでいたころは、嫁菜が多かった。野紺菊と比べ花弁が欠けたような咲き方をした。野紺菊のほうが、美しい。園芸種の紺菊が栽培されて、ごくごく淡い薄紫の野菊は、最近はまれにしか見ていない。「野菊」と聞けば伊藤左千男の「野菊の墓」を思い出す方もおられようが、今も読まれているのかどうか。そして、次に思い出されるのが、文部省唱歌の「野菊」。すっかり忘れていたが、これもイングランド旅行で記憶が蘇った。

<遠い山からふいて来る
こ寒い風にゆれながら、
けだかく、きよくにほふ花。
きれいな野菊、うすむらさきよ。>

たぶんこうであったろう。「けだかく、きょく」が尊ばれたころの歌。この歌を忘れられると同時にこの価値観も失われたか。イングランドの高速道路の脇に野菊がきれいに咲き残っていたのが、不思議なほどだ。

◇生活する花たち「野菊・鶏頭・コスモス」(イングランド)

10月16日(日)

  チェスター
★城塞を歩むと黄葉の樹に触れぬ  正子
イギリスの歴史ある古城を歩むみ、遥かな栄華の歴史を堪能する正子先生とお嬢様の姿が目に浮かびます。素晴らしい景ですね。(小口泰與)

○今日の俳句
嬬恋や窓いっぱいの星月夜/小口泰與
嬬恋の秋の夜は、もう寒さを覚えるほどであろう。窓いっぱいの星月夜に新たな感動が湧く。(高橋正子)

○ルピナス
日本名は「のぼり藤」。藤の花は房となって垂れて咲くが、ルピナスは、藤に似ているが立ち上って咲くのでそう名付けれたと分かる。この花は、あまり好きな花ではないが、西欧人の間では好まれるようだ。例のベンジャミン・フランクリンはこの花が好きで、散歩のときは、ルピナスの花の種をポケットに入れて撒いて歩いたという逸話がある。西欧人は、どうしてこの花が好きなのかその感覚がわからない。画家ではなく、普通の人が絵にもよく描いている。
西欧人が羊歯を描けば、大きな羊歯を描く。英語で羊歯は「ファーン(fern)」だけれど、これはキューガーデンの温室で見たが、アフリカなどにある大きな羊歯だ。茶庭の露地に同じ羊歯でもファーンがあっては、たまったものではない。わたしから見れば、ルピナスはそんな感じだ。色はピンク、むらさきなどいろいろあって、幾分背が高く、優しく揺れる草花の中にすっと立っている姿が風景としてよいのかもしれない。

◇生活する花たち「ルピナス・ラベンダー・ゼラニウム」(イングランド)

10月15日(土)

  コッツワルズ
★小さき村貴舟菊をどの家も  正子
長い茎を伸ばし白や赤紫の花が風に揺れている貴船菊は優美で気品を秘めた花ですね。日本では地方によって多様に呼び名を変えて好まれて居る貴船菊。御句と写真からイングランドの小さき村のどの家にも植えられ、庭にしっとりとフィットしている、明るい村をイメージし日本と変わらぬ親しさを感じました。(佃 康水)

○今日の俳句
草原の穂草を子らと飛び立たす/佃 康水
草原に子どもらと遊ぶ。草原は秋草が穂をつけ、絮になっているものもある。踏み込めば絮が飛ぶ。子らの無邪気さ、それを見る目が、草原の穂草の雰囲気とよく合っている。(高橋正子)

○貴舟菊
貴舟菊は、秋明菊とも日本で呼ばれている。白とピンクがあって、庭に数本植えられて、ほかの草花のなかでは背が高く抜き出ている。葉も、花もかわいらしさがあって、名前の貴舟もゆかしく、好まれるようだ。先日のイングランド旅行では、コッツワルズ地方でたくさん見た。日本の貴舟菊と正確には違うのかもしれないが、ぱっとみた印象では貴舟菊のようである。白い花もあるが、ピンクが多くライムストーンの壁によく似合って、数本ではなく、たくさんコスモスを咲かせるように咲かせていた。風景を作る花となっていた。(高橋正子)

◇生活する花たち「貴舟菊」(イングランド)

10月14日(金)

★手の中の木の実の熱き山の暮れ  正子
手に包む木の実の熱さに、やや冷えを覚える山の日暮れです。暮れゆく山に身を置きながら、手の中の木の実に心あたたまる、秋の豊かな深まりをいっそう感じさせていただきました。(藤田洋子)

○今日の俳句
幾重にも石積みの畑秋高し/藤田洋子
段々畑は、石を積み上げて猫の額ほどの畑を山頂へと幾段も作った。作物にやる水も下から桶で運びあげねばならず、日本の零細農業の象徴のような存在だが、その景観は美しい。秋空を背にして山頂までの石垣がまぶしい。(高橋正子)

◇生活する花たち「曼珠沙華・白曼珠沙華・白萩」(横浜日吉本町)