★春の蕗提げしわれにも風が付く 正子
芳しい春の蕗を提げながら、穏やかな風を身に纏う作者に季節の快さを感じます。持ち帰った蕗は香りとともに、独特な歯触りで季節を届け、食卓を明るく楽しませてくれるのでしょう。(藤田洋子)
○今日の俳句
水一つ提げて囀りの山に入る/藤田洋子
「水一つ」は、お墓参りのバケツの水か、または山歩きのための水筒かと思うのだが、大切な「水一つ」なのである。囀りの聞こえる山は、世を離れた明るい世界。柔らかな水、囀りの山に洋子さんらしい抒情がある。(高橋正子)
○初孫元希
昨日の午後、葛飾区のNTT社宅に長男の元を訪ねる。初孫の元希は、岐阜から一週間後に帰京する。2ヶ月あまり続いた一人暮らしの部屋の掃除のためであり、新生児の歓迎のためである。元の宿舎は葛飾にある。葛飾と言えば水原秋櫻子の第一句集『葛飾』(昭和五年)を思う。
梨咲くと葛飾の野はとの曇り
葛飾や桃の籬も水田べり
啄木鳥や落葉をいそぐ牧の木々
は『葛飾』の代表句であるが、今は水田も梨も桃の木も見当たらない。
句集『葛飾』は、昭和五年に馬酔木発行所から刊行され539句が収録されている。『葛飾』以前に『南風』という句文集を出版しているが、『葛飾』には、文章を割愛して『南風』からの句300句(実際は301句)が収録されいてる。それに『南風』以後のホトトギス雑詠からの句を選び句集『葛飾』としているので、これより、自他共に『葛飾』をもって第一句集とするようになった。
水原秋櫻子(本名・豊)は、明治25年(1892)10月9日、東京都千代田区西神田に生まれた。家は祖父の代から産婦人科医であった。秋櫻子は、東大産婦人科教室の助手、昭和医学専門学校(現昭和大学)の教授などを務めた。
○蘆の芽・蘆の角・葦牙(アシカビ)
[蘆の芽/横浜・四季の森公園(2013年3月21日)]
★日の当る水底にして蘆の角/高浜虚子
★曳船やすり切つて行く蘆の角/夏目漱石
★舟軽し水皺よつて蘆の角/夏目漱石
★ややありて汽艇の波や蘆の角/水原秋櫻子
★さざ波の来るたび消ゆる蘆の角/上村占魚
★水にうく日輪めぐり葦のつの/皆吉爽雨
★蘆の芽や志賀のさざなみやむときなし/伊藤疇坪
★捨舟の水漬く纜葦の角/中村みづ穂
★葦の角水面かがやき通しけり/高橋正子
★葦芽ぐみ寂しさこれで終わりけり/高橋正子
★ふるさとに芦の川あり葦角ぐむ/高橋正子
日本のことを、「豊葦原瑞穂の国」といい、葦は国生みのころの日本の国土を象徴するような植物だったのだろう。
ヨシまたはアシ(葦、芦、蘆、葭、学名: Phragmites australis)は、イネ科ヨシ属の多年草。「ヨシ」という和名は、「アシ」が「悪し」に通じるのを忌んで(忌み言葉)逆の意味の「良し」と言い替えたのが定着したものであるが、関東では「アシ」、関西では「ヨシ」が一般的である。標準和名としては、ヨシが用いられる。これらの名はよく似た姿のイネ科にも流用され、クサヨシ、アイアシなど和名にも使われている。3 – 4の種に分ける場合があるが、一般的にはヨシ属に属する唯一の種とみなされている。日本ではセイコノヨシ(P. karka (Retz.) Trin.)およびツルヨシ(P. japonica Steud.)を別種とする扱いが主流である。
条件さえよければ、地下茎は一年に約5m伸び、適当な間隔で根を下ろす。垂直になった茎は2 – 6mの高さになり、暑い夏ほどよく生長する。葉は茎から直接伸びており、高さ20 – 50cm、幅2 – 3cmで、細長い。花は暗紫色の長さ20- 50cmの円錐花序に密集している。
古事記の天地のはじめには最初の二柱の神が生まれる様子を「葦牙のごと萌えあがる物に因りて」と書き表した。葦牙とは、葦の芽のことをいう。その二柱の神がつくった島々は「豊葦原の千秋の長五百秋の水穂の国」といわれた。これにより、日本の古名は豊葦原瑞穂の国という。更級日記では関東平野の光景を「武蔵野の名花と聞くムラサキも咲いておらず、アシやオギが馬上の人が隠れるほどに生い茂っている」と書き残し、江戸幕府の命で遊郭が一か所に集められた場所もアシの茂る湿地だったため葭原(よしはら)と名づけられ、後に縁起を担いで吉原と改められた。
コメント
お礼
正子先生、今日の俳句に「囀り」の句を取り上げていただきありがとうございました。
★春の蕗提げしわれにも風が付く 正子
芳しい春の蕗を提げながら、穏やかな風を身に纏う作者に季節の快さを感じます。持ち帰った蕗は香りとともに、独特な歯触りで季節を届け、食卓を明るく楽しませてくれるのでしょう。
お礼
正子先生、お忙しい中、「囀り」の句にこのような嬉しいコメントを寄せていただき、ありがとうございました。近くの総合公園も桜も開花し、これから見頃を迎えます。