12月19日(水)

  藤沢
★栴檀の実に藤沢の白き雲  正子
旧東海道五十三次を歩かれた折、藤沢宿にての御句と存じます。葉の落ちた栴檀の木に、黄熟した実が残っています。しかしその実は高木に生り、冬空を仰がなければ、なかなか視界に入りません。栴檀の実が心にとまる折、景色は決まって空と一緒。「藤沢の白き雲」には、少し遠出をなさり、歴史に想いを馳せるまなざしが窺われ、広々とした心地になります。 (川名ますみ)

○今日の俳句
冬晴れて登ることなき山のぞむ/川名ますみ
冬晴れに高い山が望める。その山に自分は決して登ることはできないが、その山の姿のすばらしさに、登ることはかなわないが、せめて心だけでも登ってみたい思いや憧れがある。(高橋正子)

○冬椿

[冬椿/横浜西綱島]

★火のけなき家つんとして冬椿/小林一茶
★海の日に少し焦げたる冬椿/高浜虚子
★鶴とほく翔けて返らず冬椿/水原秋桜子
★まだ明日の逢はむ日のこる冬椿/中村汀女

★冬椿蕾ゆるきは肥後らしき/高橋正子
★誰からも見えぬ方向き冬椿/高橋正子
★冬椿鉄条網を隠しあり/高橋正子
★冬椿小さき白には青空を/高橋正子

 冬に咲く早咲きのツバキ。寒椿(かんつばき)。[季]冬。
 椿は、花が美しく利用価値も高いので万葉集の頃からよく知られたが、特に近世に茶花として好まれ多くの園芸品種が作られた。美術や音楽の作品にもしばしば取り上げられている。18世紀にイエズス会の助修士で植物学に造詣の深かったゲオルク・ジョセフ・カメルはフィリピンでこの花の種を入手してヨーロッパに紹介した。その後有名なカール・フォン・リンネがこのカメルにちなんで、椿にカメルという名前をつけた。19世紀には園芸植物として流行し、『椿姫』(アレクサンドル・デュマ・フィスの小説、またそれを原作とするジュゼッペ・ヴェルディのオペラ)にも主人公の好きな花として登場する。和名の「つばき」は、厚葉樹(あつばき)、または艶葉樹(つやばき)が訛った物とされている。「椿」の字の音読みは「チン」で、椿山荘などの固有名詞に使われたりする。なお「椿」はツバキとは無関係のセンダン科の植物チャンチン(香椿)の意味で使われることもある。
 ツバキの花は花弁が個々に散るのではなく、多くは花弁が基部でつながっていて萼を残して丸ごと落ちる。それが首が落ちる様子を連想させるために入院している人間などのお見舞いに持っていくことはタブーとされている。この様は古来より落椿とも表現され、俳句においては春の季語である。なお「五色八重散椿」のように、ヤブツバキ系でありながら花弁がばらばらに散る園芸品種もある。

◇生活する花たち「山茶花・柊・桜黄葉」(横浜日吉本町)


コメント

  1. 川名ますみ
    2012年12月16日 17:00

    お礼とコメント
    正子先生、「冬晴れて登ることなき山のぞむ」の句を掲載下さいまして、ありがとうございます。今も、度々そのような気持で冬晴の山脈を眺めております。

      藤沢
    ★栴檀の実に藤沢の白き雲
    旧東海道五十三次を歩かれた折、藤沢宿にての御句と存じます。葉の落ちた栴檀の木に、黄熟した実が残っています。しかしその実は高木に生り、冬空を仰がなければ、なかなか視界に入りません。栴檀の実が心にとまる折、景色は決まって空と一緒。「藤沢の白き雲」には、少し遠出をなさり、歴史に想いを馳せるまなざしが窺われ、広々とした心地になります。
    (御句を拝見し、藤沢宿をインターネットで辿ってみましたら、平塚宿近くにはお菊塚があるのですね。刑死人の例にならって墓石を建てず栴檀を墓標にしたとか。様々な勉強の機会を頂戴しまして感謝いたします。)