■5月ネット句会■
■入賞発表/2013年5月13日■
【金賞】
★山影を追って植えゆく田植えかな/迫田和代
山影の映る田。早苗を植えて行くけれど、次もまた山影の映るところに早苗を植える。山国日本の原風景のような田植えである。(高橋正子)
【銀賞】
★真っ青な空押し上ぐる山若葉/藤田裕子
真っ青な空、それをぐいぐい押し上げる山の若葉。若々しく力強い句だ。(高橋正子)
【銅賞/2句】
★ビー玉の弾きあう音青嵐/小口泰與
青嵐とビー玉の弾け合う音が、互を澄ましあっている。透明感のあり、また奥行のある句となった。(高橋正子)
★砂浜に影を連ねて五月鯉/渋谷洋介
浜辺の家。五月鯉が風に泳ぐと影は砂浜に映る。海風に泳ぐ頼もしい鯉のぼりに、子らの健やかな姿が浮かぶ。高橋正子)
★雲雀あがり野に静けさのいや増せり/小西 宏
揚雲雀の声が野に降り注ぐ。そんな時の野は、明るくしんと静まっている。いや、それどころか静けさが増している。(高橋正子)
【高橋信之特選/7句】
★山影を追って植えゆく田植えかな/迫田和代
早稲の田ではもう田植が終わっています。山が迫る田での田植なのでしょう。水が入った田に山の影が映り、そこに向かっていく如く田植機が進みます。晴れた五月の空もそこに映っていることでしょう。(多田有花)
★カーブして列車遠のく聖五月/藤田裕子
カーブする列車を眺めていると、遠い昔のことがなつかしく思いだされたりします。緑の野原の中を列車が遠のき、五月の空がどこまでも青く輝いています。(井上治代)
★傾きて蜆舟行く日は西へ/古賀一弘
日が傾き、漁を終えての<蜆舟>であろうか。<傾きて>は、帰港を待つ家族へと急ぐ<蜆舟>であり、豊漁の<蜆舟>の証しでもあろうと思う。(高橋信之)
★ビー玉の弾きあう音青嵐/小口泰與
★夏来る空に湧く雲流るる雲/高橋正子
★砂浜に影を連ねて五月鯉/渋谷洋介
★真っ青な空押し上ぐる山若葉/藤田裕子
【高橋正子特選/7句】
★真っ青な空押し上ぐる山若葉/藤田裕子
真っ青な初夏の空を木々の初々しい新鮮でみずみずしい山の若葉が生い茂り、あたかも初夏の空をより青々と押し上げているようだ。 (小口泰與)
★山影を追って植えゆく田植えかな/迫田和代
陽のある限り、何時間もかけて苗を植えていく。まるで陽の動きに合わせ山の影を追うように。田と山々を含めた農村の風景全体が見渡せる、壮大な叙景詩です。 (小西 宏)
★水替えて目高の泳ぎ軽くする/祝恵子
大きな魚と違い、めだかには清涼感さえ感じられます。そのうえ新しい水の中で泳ぐめだか 爽やかですね。今の季節にぴったりです。(迫田和代)
★さらさらと田水引く音足もとに/藤田洋子
さらさらが淀みもなく流れていく水の気持ちよさをあらわしてくれていて、これからの田植えを待つ季節の嬉しさも強調してくれています。 (高橋秀之)
★雲雀あがり野に静けさのいや増せり/小西 宏
美しく澄んだ声で鳴きながら、空高く舞い上がった雲雀。雲雀が飛び立った後の野原はしんと静まり、草花が揺れているばかりです。(井上治代)
★ビー玉の弾きあう音青嵐/小口泰與
★芍薬のひとつが咲きて満ち足れる/高橋信之
【入選/15句】
★群れ咲いてどこか寂しきしゃがの花/多田有花
晩春から初夏にかけて咲く、著莪の花はアヤメ科ながら草叢や木陰に咲いてひっそりとあまり目立たない花である。しかし、この花を見かければ夏の到来を実感する時でもある。初夏の鄙びた詩情が想われ、清々しい。 (桑本栄太郎)
しゃがの花はいつも藪の中や山斜面など余り目立たない所にひっそりと咲いています。白色に紫色の斑な模様が有って花びらの淵が解れた所に涼やかさが有りますが何となく寂しく感じます。共感の御句です。 (佃 康水)
しゃがの花は一本一本見ると決して地味な花ではありませんが、そういえば、まとまって咲いている景はどこか寂しげとも。樹下などに咲くからでしょうか。印象に残る一句です。(小川和子)
★紙兜かぶりしままの菖蒲風呂/古賀一弘
紙兜をご家族と一緒に作ったのでしょうか。そのまま菖蒲風呂に入ってしまつた子、湿ってしまったことでしょうが。楽しかったことでしょう。 (祝恵子)
こどもの日は端午の節句でもあります。被った兜は紙であっても脱ぎたくないというこども心がこれからの日本を背負う世代の心意気になってくれることでしょう。(高橋秀之)
★みどり児を抱きしめ宮へ風五月/桑本栄太郎
五月の清々しい風を感じながら、お宮参りをされた喜びが伝わってまいります。「抱きしめ」に、うれしさが込められています。(藤田裕子)
こどもの日のみどり児と風5月がぴったしで詠者の気持ちが伝わります。(下地鉄)
★海原を叩いて飛沫く夏の雨/下地鉄
広々とした海原を叩く大きな雨粒、飛沫くほどの夏の雨がことさら力強く爽快に感じ、明るい夏の到来を思います。(藤田洋子)
★窓からの風に身を置く五月かな/小西 宏
爽やかな五月の風に心身を清められます。窓からの風がいいですね。(渋谷洋介)
★春雷やあめつち揺るがし遠ざかる/井上治代
大きな景です。今年の春は寒暖の入れ替わりの多い年でした。
雷がひとしきり騒いで遠ざかり静かに。世界の政治、経済の動きも暗示しているような句と思います。 (古賀一弘)
★旅先の母はいずこかカーネーション/高橋秀之
親はいつでも子どものことを思い、子どもはいつも親のことを案じます。母親を思う優しい気持ちがうまく表現されていると思いました。(井上治代)
★荷を解けばカーネーションの色淡し/井上治代
我が家も実家と妻の実家に色淡きピンクのカーネーションを送りました。きっと同じ気持ちで送られたカーネーションの箱を開けて喜びを感じてもらえたと思います。 (高橋秀之)
★風に揺れワルツ踊るや柿若葉/河野啓一
緑したたる柿若葉が初夏の風に揺れ艶やかに光輝いています。その様子をワルツを踊ると表現され、わが身も元気に爽やかな初夏を迎えた喜びが伝わってまいります。 (佃 康水)
★岩影に何を待つやら鴨足草(ゆきのした)/下地鉄
ゆきの下は岩や石垣などの湿地に密やかに花を咲かせます。目立たない花を慈しみ「何を待つのか」と眺めていらっしゃる作者の優しい眼差しが見える様です。 (佃 康水)
★赤ん坊背負われ葉桜の下に/多田有花
背負われた赤ちゃんに、葉桜の緑の木蔭で話しかけられているのでしょう。あったかい景です。 (祝恵子)
大きな緑いっぱいの葉桜の下、木陰を求めて、赤ん坊を背負ったお母さんの姿が、とても安らかに感じます。 (藤田裕子)
★門前へ水打つ僧の墨衣/佃 康水
夏らしい天候になってまいりました。門前を清められ水まきをしておられる僧の姿が浮かんでまいります。 (祝恵子)
★団体の子等の塊まる森薄暑/小川和子
遠足か観察でしょうか。森の木蔭で集う子供達の楽しそうな元気な様子を思い浮かべました。 (藤田裕子)
★白ワインそそぎ煮詰める夏蜜柑/川名ますみ
部屋中甘い香りがしています。ワインと夏蜜柑が、出来上がるまで目が離せません。 (祝恵子)
★初夏の月かかる生駒山近く/高橋秀之
同じ月でも月の表情は季節ごとにかわります。生駒山近くの月は私達に何かを優しく語りかけているようです。(井上治代)
■選者詠/高橋信之
★芍薬のひとつが咲きて満ち足れる
まずは一つの芍薬かもしれませんが、芍薬の花が咲いたことによる心の充足感が周りにも嬉しさ、楽しさを感じさせてくれます。 (高橋秀之)
★夏風邪に臥し天井と対面す
夏風邪は冬の風にも増して微熱で有っても苦痛を感じます。今、30周年記念事業を控え大変な労力で準備にかかっていらっしゃるだけに、安静をよぎなくされ、ただ、ただ天井を眺めるしかない作者はさぞご心痛だった事でしょう。早いご回復を念じるばかりです。 (佃 康水)
★杜若の蕾がほぐれ濃き紫に
一読して、尾形光琳の『燕子花図屏風』が思い浮かびました。きりきりっと巻いた円錐形の蕾がほぐれてカキツバタの濃い紫が広がります。 (多田有花)
■選者詠/高橋正子
★薔薇垣と薔薇のアーチに人の住む
薔薇の咲き満ちる垣根に、蔓薔薇を這わせたアーチ。まるで舞台装置のようですが、それは薔薇を愛する人のお庭で、奥には、この季のために手入れをなさった方がお住まいです。「薔薇垣と薔薇のアーチ」が、日々の営みに添って咲いたことを思う時、あるいは舞台以上の物語が浮かぶかもしれません。 (川名ますみ)
★夏来たり流れる雲とカモミール
空に白い雲が耀き流れ、地には白いカモミールが一斉に群落をつくる。ああ時は夏だなあと、感じ入る情景です。 (河野啓一)
★夏来る空に湧く雲流るる雲
夏に入り、空の雲にも勢いが感じられます。白く湧く雲、流れる雲、躍動感があり、元気をもらえる心地がいたします。 (藤田裕子)
■互選高点句
●最高点(10点)
★山影を追って植えゆく田植えかな/迫田和代
●次点(9点/同点2句)
★水替えて目高の泳ぎ軽くする/祝恵子
★みどり児を抱きしめ宮へ風五月/桑本栄太郎
※集計は、互選句をすべて一点としています。選者特選句も加算されています。
(集計/藤田洋子)
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