■3月ネット句会■
■入賞発表/2013年3月11日■
【金賞】
★菜の花や煌めく海へ揺れ止まず/佃 康水
「煌めく海」と「揺れ止まず」は、納得する動的な関係。黄色い菜の花を揺する風は、海にも吹いて海を煌めかす。海と菜の花の色彩が鮮やかで、煌めきのある生き生きとした句である。(高橋正子)
【銀賞】
★ふるさとの青きを踏んで師の墓参/古田敬二
ふるさとに青きを踏むときは、しみじみとした気持ちになるもの。ふるさとの師の墓参であれば、気持ちはなお深む。「ふるさと」と「青き踏む」が醸す抒情がいい。(高橋正子)
【銅賞】
★角とれて三月の雲ふわり浮く/藤田裕子
三月の声を聞くと、のどかな気持ちが湧くが、空を見上げれば、雲も角がとれてふわりと浮く春の雲となっている。「角とれて」は、素晴らしい発見。(高橋正子)
★帰る地のある幸せよ鳥雲に/桑本栄太郎
鳥が小さくなって、淋しくも雲に入って行く。ふるさとへ帰る鳥たちであるが、「帰る地がある幸せ」を地上から見上げ、わが身と重ねて思う作者である。(高橋正子)
【高橋信之特選/7句】
★菜の花や煌めく海へ揺れ止まず/佃 康水
海べりの菜の花畑であろうか?海水が春の日差しに煌き、菜の花の黄色と相俟って穏やかで明るい春の真っ只中である。(桑本栄太郎)
★帰る地のある幸せよ鳥雲に/桑本栄太郎
渡り鳥が北へ帰ってゆく季節。自然とともにある鳥の習性とは言え、一抹のさびしさと、帰る地のある希望とがうかがわれます。 (小川和子)
★魚跳ぶや紙漉き村の水温む/佃 康水
やっと寒さも和らぐ山里、水底に身を潜めていた魚も泳ぎ出し、明るい春の動きを感じ取れます。手漉き和紙の村なればこそ、厳しい寒さを越した「水温む」春の訪れがいっそう明るく温かく思われ、季節の喜びを感じます。(藤田洋子)
★碧色の空へと梅の咲きのぼる/多田有花
碧色に広がる大空にむかって咲きのぼってているように感じるほど梅の花が満開なのでしょう。暖かい春を感じさせてくれる光景です。 (高橋秀之)
春の空を「あおみどり」と捉えたところに新鮮な説得力があります。そこに「咲きのぼる」梅の花の姿も実感として明るく想像することができます。(小西 宏)
★春嵐玻璃戸の内のしんかんと/高橋正子
★角とれて三月の雲ふわり浮く/藤田裕子
★ふるさとの青きを踏んで師の墓参/古田敬二
【高橋正子特選/7句】
★ふるさとの青きを踏んで師の墓参/古田敬二
ふるさとの青々とした草を踏みながら、恩師の墓参りをされました。春の野山に包まれ、遠き日を思い出しながら、いい時間を過ごされたことと思います。(藤田裕子)
★菜の花や煌めく海へ揺れ止まず/佃 康水
畝を成してまっすぐに延び広がる菜の花。陽の光を集めて黄色の広がるその向こうに、キラキラ光る春の海。そこから吹く風に菜の花畑はゆったりと揺れる。大きな景を想像させる句である。(古田敬二)
★数本を摘んでお披露目初土筆/祝恵子
初土筆を摘む喜び、お披露目して春をおすそわけするような喜びにあふれた生き生きとしたお句ですね。(柳原美知子)
★緋毛氈しいて飾らる紙ひいな/河野啓一
★蝶々の戯れ昼の頂に/多田有花
★きらきらと春風を蹴るスニーカー/川名ますみ
★今日一日晴れている桜と吾に/高橋信之
【入選/28句】
★うららかや水替えており辻地蔵/祝恵子
春の日が輝きわたって、万象ことごとく柔らかく明るく美しく見える里山の道筋に鎮座するお地蔵様のお花の水も変えられ清々しい。素敵な気分になり、気持の良い景になりますね。(小口泰與)
お地蔵様も春のうららかな日、新しい水に変えてもらってうれしいことでしょう。(高橋秀之)
★陽をうけて古草緑また緑/矢野文彦
陽射しの明るさに、青々と萌え出でる古草がことさら瑞々しく、新たな息吹の喜び、再生への願いが感じ取れます。(藤田洋子)
★野道行く囀り空に充ち溢れ/河野啓一
野道には仏の座やはこべなどの花が咲き、春風が優しく頬をかすめます。空からは春の喜びを表わす囀りが聞こえ、生命力溢れる光景です。(井上治代)
★一品は菜の花和えを祝いの日/藤田裕子
どのようなお祝い事なのでしょうか?その席に菜の花和が出ました。あるいはお家で作られたものなのか。菜の花の明るい黄色がお祝いにふさわしいですね。(多田有花)
お祝いの御膳を調えていらっしゃるのでしょう。今の季節であれば、やはり「一品は菜の花和えを」と思います。春らしいお料理に、明るいひとときが生まれたこと、おめでたい気持ちになりました。(川名ますみ)
★ベビーカーの足跳ねている暖かし/多田有花
暖かくなると外に出ることが大好きな子たち。ベビーカーでも足が自然と跳ねている。なんとほほえましいことでしょう。 (祝恵子)
あたたかい春の日、ベビーカーの赤ちゃんも上機嫌ですね。元気よく足を跳ねているかわいい様子が目に浮かびます。(黒谷光子)
★盛り上る土に並ぶ芽チューリップ/藤田洋子
可愛い花を咲かせてくれるチューリップをお庭で育てていらっしゃるのでしょうか。球根を植える際、つちを耕したり、施肥をしたり、水やりをしたりと手を加え、次第に土が盛り上がって芽が出始めると花の咲く日が待たれます。(佃 康水)
★三月の日記にしるす晴れマーク/井上治代
何の晴れマークでしょうか?。耕作日記でしょうか?。何にしても嬉しいですね。(迫田和代)
★青柳や岸辺にぎわす稚魚の群/小口泰與
川沿いに青柳がある川。その岸辺には稚魚の群れ。春になり、暖かくなり、これからに向かう自然の生命の息吹を感じる光景です。 (高橋秀之)
★光散る岸いぬふぐり群生す/小西 宏
瑠璃色に光を放ち群生している光景は目を見張るばかりです。目を凝らせば次々に見えて来て、辺り一面に光りが散らばって涼やかな景色が見えてきます。(佃 康水)
★箸置きに桃の花見て節句知る/迫田和代
お節句の日のお食事の席に桃の花が箸置きとして添えられている。「ああ!今日はお節句だったんだ」と職員さん方のさり気無い気配りが嬉しかった事でしょう。楽しいお食事の様子が垣間見えて参ります。(佃 康水)
★迷ひ猫捜す貼紙春の風/古賀一弘
貼紙と春風と迷い猫を目にした詠者、猫ちゃん見つかったのでしょうか。(祝恵子)
春の風に誘われて、猫が遠出をしてしまったようですね。貼紙も風に揺れているようで、ユーモラスな楽しい句だと思います。(小西 宏)
★春驟雨村中総出の道普請/黒谷光子
春雨が降ったりやんだりの中、村人が力を出し合い道普請に精を出す、仕事がはかどります。(祝恵子)
★早起きと朝寝の子らの日曜日/高橋秀之
日曜日はゆっくり寝たいお父さん、早起きの子もおれば寝たい子もいる。今日の始まりです。(祝恵子)
★きらきらと春風を蹴るスニーカー/川名ますみ
いかにも軽々と足を運ぶスニーカーの動きがまぶしく春到来を伝えてくれています。(小西 宏)
春になると心がうきうきしてきて、外で思い切りかけまわりたくなります。「春風を蹴る」という表現がそのような気持ちをよく表していると思います。(井上治代)
★噴水のぶつかり落ちる飛沫かな/下地鉄
沖縄では、もう暑さを覚えるころかもしれません。噴水の飛沫に当たる亜熱帯の日差し、きらめく噴水の飛沫とそれがたてる音、ひたすらに明るい情景です。 (多田有花)
★鳥の声明るく澄みて山笑う/井上治代
空はよく晴れ、梅が咲き、風がやわらかくなりました。野鳥が囀り始め、周囲の山の木々も春めいてきています。春を迎えた喜びが御句全体に溢れています。 (多田有花)
★陽気よき谷戸に初蝶見失う/小川和子
暖かくなったなあと思いつつ歩かれていたのでしょう。そこにふわっと今シーズン初めての蝶。視線でそれを追いかけられましたが、春の眩しい光に溶け込むように蝶の姿は消えてしまいました。 (多田有花)
★光散る岸にいぬふぐり群生す/小西宏
光溢れる岸辺に群生するいぬふぐり。ひとつ、ひとつの花は小さいけれど、集まって咲いていると、青い絨緞のようでとてもきれいです。(井上治代)
★春光やみなとみらいの煉瓦街/渋谷洋介
春のやわらかな光が降り注ぎ、みなとみらいの煉瓦街も明るく輝いています。春本番の季節になり、未来への夢も広がっていきます。(井上治代)
★緋毛氈しいて飾らる紙ひいな/河野啓一
丁寧に緋毛氈をしいて飾られた紙ひいな、紙ひいなも喜んでいらっしゃるようで、ほのぼのと心あたたまります。季節を慈しむお暮らしもうかがえる紙ひいなの趣きです。(藤田洋子)
★卒業歌調子はずれのトランペット/柳原美知子
晴れやかな卒業式の緊張を解してくれるようなトランペットの音色。その音色の温かさに、春めく明るさの中での、うららかな卒業式の情景を思いうかべます。(藤田洋子)
★春驟雨村中総出の道普請/黒谷光子
「村中総出の道普請」が利いています。羨ましい地域のきずなとその場の人びとの光景が目に見えるように思います。(河野啓一)
★門燈の消し忘れあるしだれ梅/矢野文彦
わざと明灯りを消し忘れている?のかもしれませんね。美しい夜景が目に浮かびます。(河野啓一)
★箸置きに桃の花見て節句知る/迫田和代
桃の小枝を利用、あるいはデザインした風流な箸置き。日本人の心ととして大切に考えて行きたいものですね。(河野啓一)
★蝶々の戯れ昼の頂に/多田有花
昼間、山頂に蝶々が飛び交う光景が、とても長閑で、見ている人を楽しくしてくれます。「蝶々の戯れ」に、自由に自然に遊んでいる姿が浮かんできます。人間の世界を離れ、しばし蝶と一緒の時間を楽しまれたことでしょう。(藤田裕子)
★緋毛氈しいて飾らる紙ひいな/河野啓一
緋毛氈の上に飾られた紙のおひなさま。とても素朴で可愛らしく、温かな気持ちにさせてもらい、いつまでも眺めていたくなります。「緋毛氈」が、普段とちがって少し改まり、お雛さまへの敬いの念も込められているように感じました。(藤田裕子)
★卒業歌調子はずれのトランペット/柳原美知子
三月は卒業のシーズン。校舎の近くを通っていますと、卒業式の歌が聞こえてきました。懐かしくなり、少し佇んでいますと、調子はずれのトランペットの音がして、微笑ましくなりました。教職に就かれていた頃を思い出されたことと思います。(藤田裕子)
■選者詠/高橋信之
★犇めきて花びらの影花びらに
桜の花びらが犇き合って咲いているので花びらの影が花びらの上へ映っています。梅の花とは違って重なり合う華やかな桜の情景が鮮明に見えてきます。御句より今年一番に桜の花を見せて頂きました。(佃 康水)
★今日一日晴れている桜と吾に
晴れやかな日差しを浴びている桜と作者。今日の日差しに感謝し、清々しい気持ちにさせてくれる句を感じます。 (高橋秀之)
★通学路に沿う花木瓜の今盛りに
■選者詠/高橋正子
★辛夷の花枝ごと揺れて揺るる空
三拍子揃った素敵な句と思います。辛夷の空へ拳を突き出すような様、枝ごと揺れるからまるで空が揺れるようです。(下地鉄)
★すみれ咲く小さきゆえの濃むらさき
野のすみれには小さくても凛とした趣があります。それだけに高貴な濃むらさき色をしているのでしょうね。漱石の「菫程の小さき人に生まれたし」などをふと想い出しました。(河野啓一)
すみれの紫の可憐さを詠って、これ以上の分析はないと思います。 (小西 宏)
★春嵐玻璃戸の内のしんかんと
玻璃戸の外は春の嵐、中は人気もなくしんかんと静まり返っている。対照の妙に一種不思議な詩情を感じます。(河野啓一)
■互選高点句
●最高点(7点)
★すみれ咲く小さきゆえの濃むらさき/高橋正子
●次点(6点)
★菜の花や煌めく海へ揺れ止まず/佃 康水
※集計は、互選句をすべて一点としています。選者特選句も加算されています。
(集計/藤田洋子)
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