8月19日
●小口泰與
秋の夜や雨の磴にも湯の煙★★★
秋の夜や雨に包まる湯の煙★★★
赤城より朝の冷気やとんぼ増ゆ★★★
●桑本栄太郎
<盆帰省>
丘上の昔語りや盆迎え★★★★
墓地は丘の上にある。お盆迎えの墓参りにゆくと、村の人たちや帰省した家族などが墓参りに来て、しばし昔の話に花が咲く。これも帰省の楽しみであり、故郷をリアルに感じるときであろう。(高橋正子)
父母眠る丘の上より盆の海★★★
見晴るかす潮の流れや盆の海★★★
●小西 宏
夕暮れて風ながれくる法師蝉★★★
唇に触れ枝豆の夕の風★★★
秋涼し街に小さな川花火★★★
8月18日
●小口泰與
コスモスやリフト静かに行き違う★★★
湯煙をふわり包みし霧におう★★★
石段や霧の下はう湯の煙★★★
●桑本栄太郎
<盆帰省>
星月夜眼下に灯りの道の駅★★★
山里の赤き瓦の残暑かな★★★
発電のプロペラ止まり盆の風★★★
●多田有花
初秋の風に吹かれて描きおり★★★★
暑さのなかにも、初秋には秋を感じさせる風が吹く。さらりとした初秋の風に吹かれて心地よく絵が描けることは嬉しい。(高橋正子)
夜明け前窓辺に虫の声を聞く★★★
稜線にたたずめば風新涼に★★★
●川名ますみ
夕暮れの空澄みゆきて遠花火★★★★
猛暑続きのこの夏、夕暮れの空が澄むことは。稀かもしれない。しかし、そんな夕暮れに遠花火が見えた。色も形もくっきりと、心に残る花火である。(高橋正子)
揚花火きれいな空に散りて落つ★★★
音もなく月下に花火しだれけり★★★
★追分の芒はみんな金色に 正子
野原のわかれ道で佇んでいられるのでしょうか、芒は皆輝き金色です。いい景色を存分に堪能されたことでしょう。(祝恵子)
○今日の俳句
足場組む上へと徐々に秋空へ/祝恵子
足場が徐々に組まれ行く様子を見上げて、秋空をよく感じている。丁寧な写生がよい。(高橋正子)
○カンナ
[カンナ/横浜市港北区日吉本町] [カンナ/横浜市港北区箕輪町]
★老いしとおもふ老いじと思ふ陽のカンナ/三橋鷹女
★鶏たちにカンナは見えぬかも知れぬ/渡辺白泉
★王様はこのごろ不安花カンナ/丸山海道
★押してゆく自転車カンナの海へ出る/西川碧桃
★カンナ咲く遥かな海を照らしつつ/鈴木夏子
★ピアニカを吹く緋のカンナ黄のカンナ/丹沢亜郎
カンナ科はカンナ属のみで構成されます。熱帯アメリカを中心に約50種が分布する毎年花をさかせる多年草で、地下に根茎(球根)をつくります。日本には江戸時代前期にカンナ・インディカ(和名:ダンドク)が渡来し、現在では河原などで半野生化しているものが見られます。カンナはギリシア語で「アシ(葦)」を意味し、その草姿がアシに似ているところに由来します。
草丈が1m-2mになる大型種と40cm-50cm程度におさまる矮性種(わいせいしゅ)に大きく分けられます。冬は地中の根茎の状態で越し、春に芽を出して葉を広げます。葉は長だ円形や先のとがったやや細長いかたちで、色は緑や赤銅色、葉脈に沿って美しい斑の入るものもあり花のない時期も充分楽しめます。
花どきは主に夏-秋、花の形態はやや特異で6本ある雄しべが1本を残してすべて花びらになり※1、雌しべはへら状になります。花色は緋色、ピンク、オレンジ、黄色、白などがあり、葉に斑点や模様のはいるものも多く非常にカラフルです。
生活する花たち「白むくげ・萩・藤袴」(東京・向島百花園)

★白萩のこぼれし花を掃く朝な 正子
白萩の咲く清澄な庭の風情を思い浮かべます。白萩の控えめな可憐な花が咲き、またこぼれているお庭に立ち、掃き清めていらっしゃるその朝な朝なにこそ心豊かな一時を味わっていらっしゃる姿が見えて参ります。(佃 康水)
○今日の俳句
潮の香の港にたてば銀河濃し/佃 康水
句材が整っている。潮の香がする夜の港は、港の明かりも家々の明かりも落されて、銀河の限りない星がはっきりと見える。無窮の空の銀河である。(高橋正子)
○芙蓉
[白芙蓉/横浜日吉本町] [酔芙蓉/横浜日吉本町]
★枝ぶりの日ごとに替る芙蓉かな 芭蕉
★露なくて色のさめたる芙蓉哉 子規
★露けさの庵を繞りて芙蓉かな 漱石
★芙蓉見て立つうしろ灯るや 碧梧桐
★母とあればわれも娘や紅芙蓉 かな女
★日輪病めり芙蓉の瓣の翳ふかく 亞浪
★さわさわと松風わたる芙蓉かな 風生
★三味線も器用に弾きて芙蓉かな 万太郎
★朝な梳く母の切髪花芙蓉 久女
★街道に芙蓉の家の静かかな 秋櫻子
★日輪のさやかに見ゆる芙蓉かな 淡路女
★狼藉や芙蓉を折るは女の子 虚子
★豊満の美に佛性や紅芙蓉 風生
★菜園のほとり芙蓉を咲かしめぬ 鷹女
★白芙蓉暁けの明星らんらんと 茅舎
★美しき芙蓉の蟲をつまはじき 夜半
★水櫛に髪しなやかや花芙蓉 汀女
★ふるさとを去ぬ日来向ふ芙蓉かな 不器男
★紅芙蓉白芙蓉又紅芙蓉 立子
★亡母訪ねくるよな夕焼白芙蓉 林火
★師の齢いくつ越えしや芙蓉は実に 波郷
松山の郊外に一時住んでいたときは、玄関に芙蓉があり、花に隠れて水道があった。そこでは、盥で洗濯をしたが、花の傍で水をいっぱい使って洗濯をすると、気分もさわやかだった。
★雲が来て風のそよげる花芙蓉/高橋正子
★深まれる秋の真中の酔芙蓉/〃
フヨウ(芙蓉、Hibiscus mutabilis)はアオイ科フヨウ属の落葉低木。種小名 mutabilisは「変化しやすい」(英語のmutable)の意。「芙蓉」はハスの美称でもあることから、とくに区別する際には「木芙蓉」(もくふよう)とも呼ばれる。原産地は中国で、台湾、日本の沖縄、九州・四国に自生する。日本では関東地方以南で観賞用に栽培される。幹は高さ1.5~3m。寒地では冬に地上部は枯れ、春に新たな芽を生やす。葉は互生し、表面に白色の短毛を有し掌状に浅く3~7裂する。7~10月始めにかけてピンクや白で直径10~15cm程度の花をつける。朝咲いて夕方にはしぼむ1日花で、長期間にわたって毎日次々と開花する。花は他のフヨウ属と同様な形態で、花弁は5枚で回旋し椀状に広がる。先端で円筒状に散開するおしべは根元では筒状に癒合しており、その中心部からめしべが延び、おしべの先よりもさらに突き出して5裂する。果実はさく果で、毛に覆われて多数の種子をつける。同属のムクゲと同時期に良く似た花をつけるが、直線的な枝を上方に伸ばすムクゲの樹形に対し、本種は多く枝分かれして横にこんもりと広がること、葉がムクゲより大きいこと、めしべの先端が曲がっていること、で容易に区別できる。
スイフヨウ(酔芙蓉、Hibiscus mutabilis cv. Versicolor) 朝咲き始めた花弁は白いが、時間がたつにつれてピンクに変色する八重咲きの変種であり、色が変わるさまを酔って赤くなることに例えたもの。なお、「水芙蓉」はハスのことである。混同しないように注意のこと。 アメリカフヨウ(草芙蓉(くさふよう)、Hibiscus moscheutos、英: rose mallow) 米国アラバマ州の原産で、7~9月頃に直径20cmにもなる大きな花をつける。草丈は1mくらいになる。葉は裂け目の少ない卵形で花弁は浅い皿状に広がって互いに重なるため円形に見える。この種は多数の種の交配種からなる園芸品種で、いろいろな形態が栽培される。なかには花弁の重なりが少なくフヨウやタチアオイと似た形状の花をつけるものもある。
◇生活する花たち「葛の花・女郎花・萩」(東京・向島百花園)

※好きな句の選とコメントを<コメント欄>にお書き込みください。
●祝恵子
国ことば飛び出し笑う盆の席★★★
家ごとの風鈴音色の違いあり★★★
夕暮れて木槿の花は眠り落つ★★★
●小口泰與
月明や未だ蚯蚓の声聞かぬ★★★
露草や雲ひとつ無き浅間山★★★
やわやわと釣鐘人参風の中★★★
●佃 康水
一区画早も反射の鳥威し★★★
抱く児のばたつく脚も盆踊り★★★
特訓の少年弾む盆太鼓★★★
●迫田和代
気付かずに桜の木陰の川風を★★★
滝しぶきかかる処に人溢れ★★★★
滝しぶきがかかるところは、一段と涼しい。そこに誰も彼もが寄って人が溢れている。今年の猛暑に天然の涼しさを恋うのも無理もない。(高橋正子)
もう会えぬ人と別れて花むくげ★★★
●友田修
完熟のトマトの赤き散歩道★★★★
弾けるように熟れた真っ赤なトマトを畑に見つけたのは新鮮な驚き。夏もそろそろ終わる頃、散歩を楽しむゆっくりした時間の、またフレッシュなこと。(高橋正子)
吹く風の柔らかきかな盂蘭盆会★★★
草笛を吹く川べりや盆休み★★★
●桑本栄太郎
<盆帰省夜間走行より>
街騒の街並み後に盆帰省★★★
山百合やヘッドライトのハイウェイに★★★
星涼し眼下に灯りのドライブイン★★★
●下地鉄
日暮時一寸ばかりの秋の影★★★
秋立ちて薄雲染める夕日かな★★★
落日は赤かったあの終戦日★★★
●高橋秀之
ふっと消える小川の上に秋の蝶★★★
せせらぎの流れに添うて赤とんぼ★★★
暑き日も夕暮れ時は秋の空★★★
★藤袴山野の空の曇り来し 正子
秋の七草の一つの藤袴、淡い紫紅色の小花がそこはかとなく郷愁を誘い、古来より日本人に愛されてきました。山野の「曇り来し」空のもと、地味ながら、野趣に富む藤袴の花の味わいがよりいっそう感じられます。(藤田洋子)
○今日の俳句
真珠筏浸し秋の海澄めり/藤田洋子
「浸し」が秋海の澄んだ水をよく感じさせてくれる。秋海の澄んだ水に浸され殻を育てている真珠は、美しく輝く珠となることであろう。(高橋正子)
○青柿
[青柿/横浜日吉本町]
★青柿やこの道に師と呼ばしめず/石田波郷
★柿青し鏡いらずの髭を剃る/石川桂郎
★お前も力つきたかと並ぶ青柿/加藤昭夫
台風がくる9月、青柿が台風の風雨で落ちることがある。窓から柿の木が台風になぶられて青柿がぶつかりあっているのを見る。柿の木は田舎にはどの家にもあるほどで、「柿の木のある家」などという童話も記憶している。小学生のころ運動会は、10月の初めに行われた。ちょうど青蜜柑が出回るころで、柿もはやく熟れないかなあと待ち遠しかった。柿の花は、四角で座布団のようだといつも思うが、生り初めは、本当に花の通りに四角。育ってくると、富有柿などは丸みを帯びてくる。そのまま四角な柿もある。青柿を見れば、朱色に熟れる日が楽しみになる。
柿は日本だけのものと思っていたが、ドイツに旅行した時7月の終わりだったが、フランクフルトのマーケットで見た。林檎と同様に、オーストラリアから輸入されたものらしかった。カキとよばれるのか、パーシモンと呼ばれるのか、その時は確かめなかったが、世界の市場でも見られるようだ。ちなみに、柿の木は折れるから、登るなと木登りは厳禁であった。
★ガラス窓拭けば青柿丸見えに/高橋正子
★台風過ぎし庭に青き葉青き柿/〃
カキノキ(柿の木)は、カキノキ科(Ebenaceae)カキノキ属(Diospyros)の落葉樹カキノキ(D. kaki)である。東アジアの固有種で、特に長江流域に自生している。熟した果実は食用とされ、幹は家具材として用いられる。葉は茶の代わりとして加工され飲まれることがある。果実はタンニンを多く含み、柿渋は防腐剤として用いられ。現在では世界中の温暖な地域(渋柿は寒冷地)で果樹として栽培されている。雌雄同株であり、雌花は点々と離れて1か所に1つ黄白色のものが咲き、柱頭が4つに分かれた雌しべがあり、周辺には痕跡的な雄しべがある。雄花はたくさん集まって付き、雌花よりも小さい。日本では5月の終わり頃から6月にかけてに白黄色の地味な花をつける。果実は柿(かき)と呼ばれ、秋に橙色に熟す。枝は人の手が加えられないまま放って置かれると、自重で折れてしまうこともあり、折れやすい木として認知されている。
日本から1789年にヨーロッパへ、1870年に北アメリカへ伝わったことから学名にも kaki の名が使われている。英語で柿を表す「Persimmon」の語源はアメリカ合衆国東部の先住民であるアルゴンキン語族の言葉で「干し果物」を意味する名詞「ペッサミン」であり、先住民がアメリカガキ(Diospyros virginiana L.)の実を干して保存食としていた事実に基づく。近年、欧米ではイスラエル産の柿(渋抜きした「Triumph」種)が「シャロンフルーツ(Sharon Fruit)」という名称で流通するようになったため、柿は「Persimmon」よりも「Sharon Fruit」という名で知られている。
◇生活する花たち「落花生の花・ササゲの花・稲の花」(横浜市緑区北八朔町)

●小口泰與
したたかに伸び行く蔓や牽牛花★★★
単線の朽し犬釘明治草★★★
露草や浅間の空はいぶし銀★★★
●下地鉄
湾を抱く旱の空の蒼さかな★★★★
旱の空が湾を抱く。空もあくまでも蒼く、湾はあくまでも静か。旱がその静けさを奥深くさせる。(高橋正子)
その日のこと記憶も失せし終戦日★★★
金星を剥がれし人の敗戦日★★★
●多田有花
早稲の田を渡る風受け墓詣★★★★
暑い盛りの墓参だが、早稲の田は稲穂にも熟れ色が兆し、風を渡らせている。心静かで明るい墓参。(高橋正子)
四代の世代が集い墓参り★★★
盆過やつくつくぼうしの森となる★★★
●古田敬二
新涼を大きく吹きあげ飛騨の川★★★
飛騨川の緑の流れ涼新た★★★
緑色して飛騨川流れ終戦日★★★
★いつよりか燕無き空青澄める 正子
ついこの間まで、燕が飛び交っていたのに、いつよりか燕の姿が見えなくなってしまいました。空は、すっきりと青が澄みわたっています。業務が一段落し、ふと空を見上げられ、初秋の爽やかさを感じられました。(藤田裕子)
○今日の俳句
ちちろ鳴く裏庭の夜の澄みてきし/藤田裕子
静かな裏庭にちちろが鳴くと、夜が澄んでくる感じがする。夜が澄んでくると、ちちろがいっそう声高く鳴く。研ぎ澄まされてゆく秋の夜である。(高橋正子)
○木槿(むくげ)

[木槿/横浜日吉本町] [木槿/東京・新宿御苑]
★花むくげはだか童のかざし哉 芭蕉
★道のべの木槿は馬にくはれけり 芭蕉
★修理寮の雨にくれゆく木槿哉 蕪村
★花木槿里留主がちに見ゆる哉 一茶
★馬ひとり木槿にそふて曲りけり 子規
★縄簾裏をのぞけば木槿かな 漱石
★墓多き小寺の垣や花木槿 碧梧桐
★いつまでも吠えゐる犬や木槿垣 虚子
★お遍路木槿の花をほめる杖つく 放哉
★みちのくの木槿の花の白かりし 青邨
★路草にむかひて萎む木槿かな 耕衣
★日の出待つや木槿いつせいに吹かる中 林火
★避暑町の少しさびれぬ花木槿 たかし
★道すがらうかぶ木槿や徒労ばかり 波郷
★白木槿ごみを出すにも蝶むすび/片山由美子
★ふっくらと巻きて落花の木槿かな/野村洋子
木槿は、朝咲いて夕方にはしぼむ。お茶席の花としてよく活けられもする。先日千駄木の骨董屋の女主人が亜浪先生の句について信之先生に聞いて来られた折に、骨董の竹籠に槿と縞萱を活けた写真を送ってこられ、だれかをお茶にお招きしたい気分だと書き添えてあった。お茶の花ともなるが、どこにでも咲いている。
★白槿十年たちまち過ぎていし/高橋正子
この句は、砥部の田舎で学生が来たり、ドイツ語の先生が来たり、子どもの友達がわっさわっさと来たり、句会の人たちが出入りしたり、掃除、洗濯、庭の手入れなどなど、雑多なことに明け暮れて、ある朝、白い槿を見て、十年なんてすぐ終わってしまうと思ったとき出来た句だ。
今朝、自分の以前作ったこの白槿の句を読んで、今はもうこういう句を作る気持ちではないと知った。あれから十年が何回過ぎたことか。
★底紅の紅が澄みたる白槿/高橋正子
ムクゲ(木槿、別名:ハチス、Hibiscus syriacus; 英語: rose of Sharon)はアオイ科の落葉低木。 庭木として広く植栽されるほか、夏の茶花としても欠かせない花である。インドや中国が原産で、中近東にも自生している。日本へは奈良時代に中国から渡来し、和歌山県や山口県に野生のムクゲがあったとされる。 夏から秋にかけて白、紫、赤などの美しい花をつける。薬用のほか、鑑賞用に多くの品種がある。俳句では秋の季語である。根が横に広がらないため、比較的狭い場所に植えることができる。 刈り込みにもよく耐え、新しい枝が次々と分岐する。そのため、庭の垣根に利用されることもある。 自然樹形は箒を逆さにしたようになる(下記の樹形の例参照)。 栽培されているものはよく剪定されてしまうため、高さは3-4mくらいのものが多く、灌木であると誤解されるが、放置すると10m以上の樹高になり、桜の木よりすこし小さいくらいの大きさになる。花期は7-10月。花の大きさは10-18cmほど。花芽はその年の春から秋にかけて伸長した枝に次々と形成される。 白居易(白楽天)の詩の誤訳から一日花との誤解があるが、朝花が開き、夕方にはしぼんで、また翌朝開き、一重のもので2-3日。八重の長く咲くもので2週間くらい、一輪の花を楽しめる。中国名の木槿(もくきん)を音読みし、木槿(むくげ)、木槿花(もくきんか)と呼ばれるようになった。また、「類聚名義抄」には「木波知須(キハチス)」と記載されており、木波知須(キハチス)や、単に波知須(ハチス)とも呼ばれる。白の一重花に中心が赤い底紅種は、千利休の孫である千宗旦(せんそうたん)が好んだことから、「宗丹木槿(ソウタンムクゲ)」とも呼ばれる。中国語では木槿/木槿(ムーチン)、朝鮮語では무궁화(無窮花; ムグンファ)という。英語の慣用名称のrose of Sharonはヘブライ語で書かれた旧約聖書の雅歌にある「シャロンのばら」に相当する英語から取られている。
◇生活する花たち「あさざ・露草・うばゆり」(東京白金台・自然教育園)

★葛の花匂わすほどの風が起き 正子
葛は繁殖力が旺盛な植物で、どんなところでも蔓を伸ばします。子供のころは飼っていたウサギやヤギの飼料として重宝したものです。花は紅紫色をしています。葉に隠れて咲く、優しくて控え目な花です。その葛の叢をざわめかす風が吹き花の香りもします。秋の到来を実感させる風と花の香りですね。(古田敬二)
○今日の俳句
信濃路へ入るコスモスを揺らしつつ/古田敬二
信濃は今の長野県のことであるから、けいじさんの住んでいる名古屋から信濃へ車で向かっているとき、コスモスも咲いて、ここからは「信濃路」だと思うと、目的地への期待が膨らむ。レベルの高い句。(高橋正子)
○露草

[露草/横浜日吉本町] [露草/東京白金台・自然教育園]
★露草や飯噴くまでの門歩き 久女
ご飯が噴くまで家の庭を少し歩く。見れば露草がみずみずしく咲き、早朝の涼しい時間が心地よい。(高橋正子)
★月草の花に離れてうてなかな 虚子
★露草の花みづみづし野分晴 泊雲
★つゆけくも露草の花の 山頭火
★一叢の露草映すや小矢部川 普羅
★千万の露草の眼の礼をうく 風生
★ことごとくつゆくさ咲きてきつねあめ 蛇笏
★露草に祭の玩具落しけり かな女
★朝の日の母を訪はばや蛍草 耕衣
★露草や室の海路を一望に 汀女
★蝶とりし網を伏せおく蛍草 立子
春はおおいぬのふぐり、秋は露草。どちらも小さい青い花だ。野辺に咲くと、春が来たと思い、秋が来たと思う。そして、野辺にごとごとく咲く。露草の青い花が露を宿していると、涼しさそのものに思える。摘み取って花瓶に活けてもほんの朝のうち。俳句の話などで、朝の来客のみを喜ばせた。昼過ぎ、あの青い花はどこへ行ったか。凋んだといっても凋んだ花を見たことがない。耳学問によると、あおの青い花は、昼には苞の中に溶けてしまうのだと。ありそうなことである。
ツユクサ(露草、Commelina communis)は、ツユクサ科ツユクサ属の一年生植物。日本全土、アジア全域、アメリカ東北部など世界中に広く分布する、畑の隅や道端で見かけることの多い雑草である。高さは15~50cmで直立することはなく、茎は地面を這う。6~9月にかけて1.5~2cmほどの青い花をつける。花弁は3枚あり、上部の2枚は特徴的で青く大きいが、下部の1枚は白くて小さく目立たない。雌しべが1本、雄しべが6本で成り立っている。アサガオなどと同様、早朝に咲いた花は午後にはしぼんでしまう。朝咲いた花が昼しぼむことが朝露を連想させることから「露草」と名付けられたという説がある。英名のDayflowerも「その日のうちにしぼむ花」という意味を持つ。また「鴨跖草(つゆくさ、おうせきそう)」の字があてられることもある。ツユクサは古くはつきくさと呼ばれており、上述した説以外に、この「つきくさ」が転じてツユクサになったという説もある。「つきくさ」は月草とも着草とも表され、元々は花弁の青い色が「着」きやすいことから「着き草」と呼ばれていたものと言われているが、万葉集などの和歌集では「月草」の表記が多い。この他、その特徴的な花の形から、蛍草(ほたるぐさ)や帽子花(ぼうしばな)、花の鮮やかな青色から青花(あおばな)などの別名がある。 また鴨跖草(おうせきそう)という生薬名でも呼ばれる。花の青い色素はアントシアニン系の化合物で、着いても容易に退色するという性質を持つ。この性質を利用して、染め物の下絵を描くための絵具として用いられた。ただしツユクサの花は小さいため、この用途には栽培変種である大型のオオボウシバナ(アオバナ)が用いられた。オオボウシバナは観賞用としても栽培されることがある。花の季節に全草を採って乾燥させたものは鴨跖草(おうせきそう)と呼ばれ、下痢止め、解熱などに用いる。
万葉集には月草(ツユクサの別名)を詠ったものが9種存在し、古くから日本人に親しまれていた花の一つであると言える。朝咲いた花が昼しぼむことから、儚さの象徴として詠まれたものも多い。また俳句においては、露草、月草、蛍草などの名で、秋の季語とされる。
◇生活する花たち「山萩・鬼灯・蓮の花托」(横浜・四季の森公園)

●高橋秀之
京の街見晴らす高台盂蘭盆会★★★
盆灯篭まっすぐ続く参拝道★★★
墓洗うときも喧嘩の元気よさ★★★
●小口泰與
きちこうや一朶の雲の生まれけり★★★★
「桔梗」と書いて「きちこう」とも「ききょう」とも読む。きちこうの紫色と一朶の雲の白い色のとりあわせが美しい。ただそれだけでなく、きちこうの咲く季節が、ゆったりと爽やかに表現されている。(高橋正子)
靄を呼ぶ硬き風吹き沢桔梗★★★
葛咲くやポテトチップス重ね食ぶ★★★
●小西 宏
トンボ飛ぶ海の明るい墓参り★★★★
大鉢に芋の葉青く天に揺れ★★★
電柱に当たり飛び散る秋の蝉★★★