5月23日(金)

★燕子花を抱え一束の湿り  正子
燕子花は湿地に群生します。そのの花束を抱えて、感じられる花の湿り。燕子花らしさが御句に漂っています。(多田有花)

○今日の俳句
若葉山抜けて琵琶湖の真青なる/多田有花
若葉の山を越えて見えるもは、真っ青に水を湛えた琵琶湖である。初夏の琵琶湖の真青さは、爽快に目に映るだろう。また、若葉の色と湖の青とが美しい色合いである。(高橋正子)

○釣鐘草

[釣鐘草/横浜日吉本町]

★釣鐘草道をなじみし土着の子/貞弘 衛
★どの花も青い光よ釣鐘草/高橋正子
★畳屋が育てて愛す釣鐘草/高橋正子

○フェアリーのベルを鳴らせよ釣鐘草(ブログ「二〇世紀ひみつ基地」より)
 盛夏から晩夏にかけて、釣鐘形で薄青紫の可憐な花をつける、キキョウ科の多年草・ツリガネニンジン(釣鐘人参)、別名・ツリガネソウ(釣鐘草)。春先の若葉は山菜として、ゴマ和えや天ぷらで食され、細いニンジン状の根も食用にするほか、漢方では咳止め・去痰薬として使われる。ツリガネニンジンをトトキともいい、長野県の俗謡に「山でうまいはオケラにトトキ 里でうまいはウリナスビ 嫁に食わすも惜しゅうござる」とうたわれるほど珍重された山菜だった。オケラはキク科の多年草でこれも若葉を食べる。秋田県内での呼び名(方言)は、トドキ、トットキ、ヤマダイコン、ヌノバなど。
 妖精が宿るかのような愛らしいその花は詩人たちに愛され、宮沢賢治は「ブリューベル」青いベルと呼んだ。

あやしい鉄の隈取りや
数の苔から彩られ
また捕虜岩(ゼノリス)の浮彫と
石絨の神経を懸ける
この山巓の岩組を
雲がきれぎれ叫んで飛べば
露はひかってこぼれ
釣鐘人参(ブリューベル)のいちいちの鐘もふるえる
‥‥後略‥‥
           宮沢賢治『早池峰山嶺』より

風が吹いて草の露がバラバラとこぼれます。つりがねそうが朝の鐘を、
「カン、カン、カンカエコ、カンコカンコカン」と鳴らしています。
                    宮沢賢治『貝の火』より

釣鐘草 野口雨情

小さい蜂が 来てたたく
釣鐘草の 釣鐘よ
子供が見てても 来てたたく
大人が見てても 来てたたく
釣鐘草の 釣鐘よ
静かに咲いてる 釣鐘よ

   『青い眼の人形』より

風の子供 竹久夢二

風の子供が 山へ出て
釣鐘草をふきました
釣鐘草は目をさまし
ちんから ころりと 鳴きだすと
薄(すすき)も桔梗も刈萱(かるかや)も
みんな夢からさめました
‥‥後略‥‥
      『日本童謡集』より

◇生活する花たち「あさざ・山紫陽花・コアジサイ」(東京白金台・自然教育園)

5月22日(木)

★葉桜に夜も残れる空の紺  正子
見事で、賑わった桜も葉桜となりました、夜はまだ空色が残っている。静かになった夜景です。
(祝恵子)

○今日の俳句
若葉光手つなぎ歩くいとこ達/祝恵子
若葉の輝く季節、小学生ぐらいのいとこ達であろうか、集まって、行楽にでかけるのであろう。「手つなぎ歩く」には、兄弟姉妹だけよりも、広がりのある身内のたのしさが、若葉の季節を得て、かろやかに詠まれた。(高橋正子)

○十薬(ドクダミ)

[十薬/横浜日吉本町]

★どくだみや真昼の闇に白十字/川端茅舎
★十薬や四つの花びらよごれざる/池内友次郎
★叢に十薬花を沈め咲き/星野立子
★十薬の根の長々と瓦礫より/細見綾子
★測量の人十薬に踏み込みぬ/稲畑汀子
★十薬や夜へ突立つ坂がかり/鷲谷七菜子
★花言葉なき十薬は十字切る/上田五千石
★毒だみや十文字白き夕まぐれ/石橋秀野

十薬は、生薬名の十薬(じゅうやく、重薬とも書く)で、ドクダミ(蕺草、学名:Houttuynia cordata)ともいわれ、ドクダミ科ドクダミ属の多年草。 住宅周辺や道ばたなどに自生し、特に半日陰地を好む。全草に悪臭がある。開花期は5~7月頃。茎頂に、4枚の白色の総苞(花弁に見える部分)のある棒状の花序に淡黄色の小花を密生させる。本来の花には花弁も、がくもなく、雌しべと雄しべのみからなる。加熱することで臭気が和らぐことから、日本では山菜として天ぷらなどにして賞味されることがある。他の香草と共に食されるドクダミ(ベトナム)、また、ベトナム料理ではザウゾプカー(rau giấp cá)またはザウジエプカー(rau diếp cá)と称し、主要な香草として重視されている。ただし、日本に自生している個体群ほど臭気はきつくないとも言われている。中国西南部では「折耳根(ジョーアルゲン 拼音: zhéěrgēn )」と称し、四川省や雲南省では主に葉や茎を、貴州省では主に根を野菜として用いる。根は少し水で晒して、トウガラシなどで辛い味付けの和え物にする。生薬として、開花期の地上部を乾燥させたものは生薬名十薬(じゅうやく、重薬とも書く)とされ、日本薬局方にも収録されている。十薬の煎液には利尿作用、動脈硬化の予防作用などがある。なお臭気はほとんど無い。 また、湿疹、かぶれなどには、生葉をすり潰したものを貼り付けるとよい。

◇生活する花たち「ネーブルの花・八朔の花・すだちの花」(横浜日吉本町)

◆今日の秀句/5月11日~20日◆

◆今日の秀句◆

[5月20日]
★黄牡丹のすなおに散って重なりぬ/小口泰與
「牡丹散りて打ちかさなりぬ二三片/蕪村」の句にあるように、牡丹は散って花弁を重ねることが多い。この句の黄牡丹は牡丹らしくない色と言える。それがさりげなく、すなおに散って、やはり、どの牡丹とも同じように花弁を重ねている。(高橋正子)

[5月19日]
★郭公や牧草ロールおちこちに/小口泰與
心地よい夏の牧場の風景。郭公が鳴き、牧草ロールが遠く、近くに点在する。よい時間が流れている。(高橋正子)

[5月18日]
★万緑の山懐の葉ずれかな/小口泰與
万緑の山を外から眺めるのではなく、その懐に入ると緑の木々の葉ずれがさわさわと鳴り、自分を大きく包んでくれる。山懐に抱かれたとき、自然の大きさ深さが思われる。(高橋正子)

[5月17日]
★風吹けば若葉の影も柔らかに/古田敬二
風が吹かなければ、若葉の影はどっしりとしているが、風が吹くと風もそよぎ、柔らかな影となる。柔らかな影は見ていて安らぐ。(高橋正子)

[5月16日]
★朝の陽に滴る森よ時鳥/小西 宏
朝の陽が差す森はよく茂り、まだ濡れいている。輝いている。そこへ時鳥の声が聞こえる。麗しい初夏の森だ。(高橋正子)

[5月15日]
★梅の実のまだ小さきに紅を置く/小西 宏
梅の実がだんだんと太ってきた。まだ小さい実であるけれどほのかに紅色になっている箇所がある。小さいながら収穫ときの梅の様子を見せているのも驚き。(高橋正子)

[5月14日]
★楠若葉並木一筋通学路/河野啓一
楠の若葉は盛り上がるように樹を覆う。その若葉が連なり重なる並木を通学する児童や生徒は健康的だ。(高橋正子)

[5月13日]
★山水を集め寺裏菖蒲咲く/佃 康水
背後に山を控えている寺は結構多い。山から湧き流れる水を池などに集めて菖蒲を咲かせている。山水と菖蒲の取り合わせが清冽な趣だ。(高橋正子)

[5月12日]
★とめどなく小石湧きあぐ清水かな/小口泰與
清水が湧きあがる、涼しくきよらかな情景がよい。砂ではなく、小石が湧きあがることで、清水の湧く勢いが見える。(高橋正子)

[5月11日]
★石楠花の中抜け高野山を降りる/多田有花
低地では石楠花の花は終わっているが、高野山では今、石楠花が盛りのようだ。高野山に参詣して、気持ちもすっきりとしたところで、山気漂う中、石楠花の道を下りた。(高橋正子)

5月21日-23日

5月24日

●迫田和代
新緑に囲まれている森の奥★★★
初夏になり」木陰もいいし風もいい★★★
流れゆく水音までも初夏の音★★★★

●小口泰與
隠れ沼(ぬ)に雨そそぎけり柿の花★★★
老鶯の山ふところに鳴きそそり★★★
昇り藤谷川岳の聳てり★★★★

●桑本栄太郎
ひつそりと葉蔭に青く柿の花★★★
さみどりの早もあじさいつぼみけり★★★★
青嵐の風落ち昏るる夕べかな★★★

●多田有花
晴れて今日裸足の季節始まりぬ★★★★
裸足が気持ちがよいのは少し暑さが加わった晴れた日。今日はちょうどそんな日なので、裸足ですごすことに。「晴れて」裸足の季節が始まるという当たり前のようだが、そこに意外性がある。(高橋正子)

少女らの自転車薫風を駆ける★★★
繰り返し森の奥よりほととぎす★★★

●黒谷光子
隣村へどの道行くも姫女苑★★★★
隣村へは、自転車に乗ったり、すぐ近ければ歩いてゆくこともあるのだろう。隣村へ行く道がいろいろあるが、どの道をとっても姫女苑が揺れている。やさしい花の咲くさわやかな道はうれしい。(高橋正子)

堂裏の射干知らぬ間に咲き終わり★★★
蕗を剥き暫く残る手の香り★★★

5月23日

●小口泰與
柿若葉野川の水のきらきらと★★★★
柿若葉が美しい色を見せるころ、陽は明るく輝き、野川はきらめきながら、そうそうとと流れる。日本のいい風景だ。(高橋正子)

白めだか身をそぐようにたまご産み★★★
雨後の朝そこはかと匂う牡丹かな★★★

●佃 康水
じゃがたらの花段畑に揺れ揃う★★★★
大蘇鉄朽ちし幹より青葉出づ★★★
夏めくや帆を張り替える浜漁師★★★

●河野啓一
万緑や友の便りの嬉しくて★★★
さわさわと鳴りて新樹は日を反し★★★★
池の面に遠き浮草夕まぐれ★★★

●桑本栄太郎
さらさらと白き葉裏や新樹冷ゆ★★★
すかんぽの穂に夕日さす丘の上★★★★
青嵐の風落ち昏るる夕べかな★★★

●多田有花
短夜や朝日が部屋の奥深く★★★
淡路島青葉若葉のその向こう★★★★
きな粉かけヨーグルトかけバナナ食ぶ★★★

●川名ますみ
青空に溶けることなき青葉の線★★★★
青は多くの色合いを含む。青空の青、葉や草の青など。青空と青葉とは、連なるような色だが、それが截然として空と青葉の間に線が引かれる。はやり、盛り上がるような青葉の勢いのせいであろう。(高橋正子)

青天と青葉きりりと画されし★★★
泰山木大きくそちこちに花★★★

5月22日

●小口泰與
朝日受けきわやかなりし柿若葉★★★
石楠花や鳥語人語とあふれおり★★★★
山雨来て野良猫急きし麦の波★★★

●小川和子
バギー押す子と連れ立てる薔薇の昼★★★★
バギーにみどり児を乗せて押していくわが子と連れだって薔薇の咲く昼の道を歩く。なにもかもが幸せに繋がる。(高橋正子)

バギーの児薫風の中眩しげに★★★
ふくいくと薔薇薫りくる聖五月★★★

●祝恵子
獅子の舞うそろそろ田水張らる頃★★★★
この句の獅子舞は、田植えの始まる前に豊作を願って舞う獅子舞だろう。その獅子舞がくると田水が張られ田植えの準備が始まる。わくわくした気持ちにもなる。故郷の田植えを思いだされたのだろう。(高橋正子)

とりどりの花はフエンスにばらは咲く★★★
鉢に添え木夏の野菜の育ちゆく★★★

●桑本栄太郎
実となりし楓若葉の緋色かな★★★
歩みゆく歩道いろどり青嵐★★★★
虫食いの葉裏にありぬ柿の花★★★

●多田有花
夏浅き光のあふれ森の道★★★
寺へいく道をきかれし薄暑かな★★★★
紬着て白日傘ゆく昼下がり★★★

●河野啓一
若葉風高窓開けて招き入れ★★★★
水玉を光らせ若葉照り映える★★★
アマリリス窓辺の風をひとり占め★★★

●小西 宏
初雷の去ればたちまち青い空★★★★
若葉より光漏れくる雨上がり★★★
雷雲の夕日に照るを見ておりぬ★★★

●黒谷光子
濃く薄く森は緑を競い合う★★★
揺れるともなく揺れ池に蓮浮葉★★★
初夏の池廻るそれぞれの歩幅★★★★(信之添削)
初夏の池は心地よい風が吹き、その池を連れだって巡るにも、思い思いに、それぞれの歩幅でめぐる。それぞれが池畔を楽しむ。初夏のさわやかさがあればこそ。(高橋正子)

●高橋秀之
真ん中の牡丹の花は大きくて★★★★
花びらに雨のしずくが白牡丹★★★
歩を進め止まって歩む牡丹園★★★

5月21日

●小口泰與
速やかに溶岩(ラバ)色蜥蜴溶岩を越ゆ★★★★
蜥蜴の動きは滑るように「速やかに」だ。溶岩に入れば溶岩の色になり溶岩を越える。動かねば見付けにくいが、その動きも速い。それをよく捉えた。(高橋正子)

有史より続く火の山麦の秋★★★
草肥や背戸の流れの急(せ)かれしよ★★★

●河野啓一
若楓谷間を埋めて箕面山★★★★
雨上がり水も滴る夏セーター★★★
更衣袖吹き抜ける風さやか★★★

●祝恵子
池の花アイリスの黄をしばし見る★★★
無人店引き返して買う夏の花★★★★
駅出れば催促賑やか子の燕★★★

●多田有花
高らかに森に響きしほととぎす★★★
波白く砕けて沖は初夏の青★★★★
五月の雨あがれば伸びし草の丈★★★

●桑本栄太郎
降り来れば筍流しと想いけり★★★
若楓ゆらぐ葉影の網目かな★★★
杭たどり風にあらがう糸とんぼ★★★★

●小西 宏
菜の色も海の香もあり冷やしソバ★★★★
冷やしソバに、畑の菜もあれば、海の香りのするものも載せてある。海の香りで一度に夏が来た。それを引き立てるのが菜の色だ。涼しさを誘う冷やしソバだ。(高橋正子)

日の影に野良猫眠るバラの花★★★
睡蓮に波少し寄せ鯉の鰭★★★

5月21日(水)

★アカシヤの花に青空寄りかかる  正子
青空が寄りかかるというのが、アカシアが視点の中心の大きなところを占めていることがよくわかって、初夏の清々しさを醸し出しています。(高橋秀之)

○今日の俳句
木漏れ日の眩しさの中蝶々舞う/高橋秀之
木漏れ日のちらちらする中にまぎれるように飛ぶ蝶々。すずやかな光景だ。(高橋正子)

○山ぼうしの花

[山ぼうし/横浜日吉本町]

★鳥寄せや夜眼ほのかなる山法師/水原秋櫻子
★山法師咲けば記憶のある山路/稲畑汀子
★その上の雲より白く山法師/林翔
★遥か見るとき遥かなる山法師/篠崎圭介
 京都
★早起きの眼に満開の山ぼうし/高橋信之

 ヤマボウシ(山法師、山帽子、学名 Benthamidia japonica )はミズキ科ミズキ属ヤマボウシ亜属の落葉高木。高さ5~10メートル。幹は灰褐色。葉は対生し、楕円(だえん)形または卵円形で長さ4~12センチ、全縁でやや波打つ。花は6~7月に開き、淡黄色で小さく、多数が球状に集合し、その外側に大形白色の総包片が4枚あり、花弁のように見える。山地に普通に生え、本州から九州、および朝鮮半島、中国に分布する。街路樹・庭園樹・公園樹としても用いられる。材は器具材として用いられる。近縁にハナミズキ(アメリカヤマボウシ)があるが、こちらの果実は集合果にならず、個々の果実が分離している。
 山法師は、ずっと以前はなじみがなかった。花みずき(アメリカヤマボウシ)が住宅地や並木に植えられるようになって(今や銀座の通りを飾るようになって)、山法師を知ったといってもいい。その名前が愉快ではないか。松山に住んでいたころは、近くの総合公園に山法師があった。階段となった坂道なので、花を間近に真上から見ることができた。そういえば、似たような花に、小石川植物園のハンカチの木がある。そろそろ白い包片をひらつかせているころか。
 ★山に入り身近な花の山法師/高橋正子

◇生活する花たち「未央柳(びようやなぎ)・釣鐘草・卯の花」(横浜日吉本町)

5月17日-20日

5月20日

●小口泰與
黄牡丹のすなおに散って重なりぬ★★★★
「牡丹散りて打ちかさなりぬ二三片/蕪村」の句にあるように、牡丹は散って花弁を重ねることが多い。この句の黄牡丹は牡丹らしくない色と言える。それがさりげなく、すなおに散って、やはり、どの牡丹とも同じように花弁を重ねている。(高橋正子)

かるの子や畦の醜草もこもこと★★★
雨さんざすべなき吾の浴衣かな★★★

●河野啓一
夏潮の色あざやかに福江島★★★★
水しぶき子ら次々と夏の川★★★
芝庭に紅い花植え夏舘★★★

●黒谷光子
葉桜を透く陽のきらら水音す★★★★
アイリスの紫溢る畑の隅★★★
アイリスを切り持ち帰る一抱え★★★

●桑本栄太郎
櫟より風に垂れいる毛虫かな★★★
姫女苑の風に抗いむらさきに★★★
蚕豆のコンとボウルに豆をむく★★★★

●小西 宏
動く虫咥えて忙し親燕★★★
紫陽花の花芽の緑雨を待つ★★★
羅(うすもの)やざんばら髪の勝ち名乗り★★★

●古田敬二
万歩計鳴らして歩く若葉風★★★
鍬降れば根を切る音の心地好し★★★
亡き犬の走りし森の若葉風★★★★

5月19日

●小口泰與
郭公や牧草ロールおちこちに★★★★
心地よい夏の牧場の風景。郭公が鳴き、牧草ロールが遠く、近くに点在する。よい時間が流れている。(高橋正子)

単線の線路真直ぐ桐の花★★★
沢蟹や棚田をかけるやわき風★★★

●河野啓一
鳥声も愉し青空バラの苑★★★★
木漏れ日を浴びて耀く赤いバラ★★★
夕べ来て新樹は風にざわめきぬ★★★

●多田有花
谷空木咲く道たどり登山口★★★★
新緑に肺まで染まりぶなの森★★★
樹間よりはるかに五月の日本海★★★

●桑本栄太郎
<大蛇ヶ池公園>
海桐咲く池の木蔭や風の闇★★★
睡蓮の池畔の中に広げ居り★★★
青蘆の吾をいざなう葉風かな★★★

●小西 宏
香に触れて丘にゆたかな樫の花★★★
葉桜の空に眩しき下り坂★★★★
夕暮の風に汗引く散歩道★★★

●古田敬二
どの家も好きな色あり薔薇盛ん★★★★
今年は四月の気温が低く、いろんな種類の薔薇が一度に咲きだした。薔薇を咲かせている家々を見れば、その家好みの色がある。白が好きな家もあれば、ピンクが好きな家もある。また、赤や黄やと。そういう色が合わさって、「薔薇盛ん」なのだ。(高橋正子)

柏餅二つに割りやる妻がいる★★★
歯科医院出て薫風の中大股に★★★

5月18日

●小口泰與
万緑の山懐の葉ずれかな★★★★
万緑の山を外から眺めるのではなく、その懐に入ると緑の木々の葉ずれがさわさわと鳴り、自分を大きく包んでくれる。山懐に抱かれたとき、自然の大きさ深さが思われる。(高橋正子)

水はじく水車や池の糸とんぼ★★★
友釣りの鮎の長竿空をきり★★★

●黒谷光子
空晴れてくっきり伊吹の登山道★★★★
山も野も晴れて緑の色競う★★★
玉葱を引く一本の匂いくる★★★

●河野啓一
立ち止り鳥声聞けば木下闇★★★★
立ち止まって鳥の声に耳を傾けていると、そこは木下闇であることに気づく。涼しい木下と鳥の声が快い。(高橋正子)

ひと休み佇む頃や木下闇★★★
若葉大きくなりて西日受け★★★

●桑本栄太郎
<神戸六甲アイランドへ>
薫風の空へと走るモノレール★★★★
白波の岸壁つたう卯浪かな★★★
新緑や埋め立て六甲アイランド★★★

●小西 宏
柔らかき若葉はカツラ明るい風★★★★
カツラの若葉はひときわ柔らかく、明るい。カツラは黄葉もほかの黄葉に比べ一段と明るいので、カツラの特性として、若葉のあかるさ、柔らかさが頷ける。(高橋正子)

青草に水の流れの聞こえ来る★★★
ママもぼくも五月の芝に初安打★★★

5月17日

●小口泰與
鯉の泥吐かせし小川若楓★★★
榛名嶺に朝日射しけり桜の実★★★★
浮石に飛び乗る吾や山女釣★★★

●迫田和代
ドーム見え新緑見えて川流れ★★★★
高層の窓からの眺め。ドームの丸い屋根が見え、新緑が見え、そして川が流れている。この景色は具体的には広島の原爆ドーム、平和公園の新緑、元安川の流れだが、戦禍を覆い隠して静かな季節である。(高橋正子)

薄暑の日木陰もいいし水もいい★★★
すぐそばに車椅子あり更衣★★★

●桑本栄太郎
花槐ゆらし吹きおり雨の風★★★★
神苑の杜の深きやいかる鳴く★★★
せせらぎに沿いて歩めば山法師★★★

●河野啓一
しゃがの花白くひっそり瀬のほとり★★★
囀りを空にちりばめ今朝の風★★★★
朝顔の苗植え竹を立ててやり★★★

●古田敬二
緑陰に入れば優しき心地なる★★★
句会終え緑陰優しき道帰る★★★

風吹けば若葉の影も柔らか★★★★
風が吹かなければ、若葉の影はどっしりとしているが、風が吹くと風もそよぎ、柔らかな影となる。柔らかな影は見ていて安らぐ。(高橋正子)

●小西 宏
そよ風に葉裏やさしく桜の実★★★★
老農の畑に雛罌粟ほそき揺れ★★★
木漏れ日に鳥聞こえ来て初夏の涼★★★

5月14日~16日

5月16日

●小口泰與
隠れ沼(ぬ)へしるべ辿りし時鳥★★★
桐の花しるき赤城の彫り深し★★★
牡丹散る清(すが)しき庭の風の道★★★★

●河野啓一
昼下がり揚羽が今日もやって来る★★★★
ヤタ鴉万緑の中ブラジルへ★★★
ヤタ鴉高く舞えよと柿若葉★★★

●桑本栄太郎
つまみ見るだけでは足らず桜の実★★★
竹皮を脱ぐやみどりの腰の丈★★★
ほろほろと雨降る茅花流しかな★★★★

●黒谷光子
夏の旅戒壇めぐりの真暗がり★★★
古刹へと登る石段緑濃き★★★
新緑の山あいを抜け美濃の旅★★★★

●多田有花
昼の陽を真白く返し手毬花★★★
はつ夏の満月雨あがりの空へ★★★★
筍を荷台に載せし軽トラック★★★

●小西 宏
朝の陽に滴る森よ時鳥★★★★
朝の陽が差す森はよく茂り、まだ濡れいている。輝いている。そこへ時鳥の声が聞こえる。麗しい初夏の森だ。(高橋正子)

水輝く五月の風の楓花★★★
三連の蝶舞い昇る花蜜柑★★★

5月15日

●小口泰與
掘り深き赤城や田畑夏浅し★★★★
笹音に振り向く吾や岩魚釣★★★
梅の実の路地一面を奪いけり★★★

●桑本栄太郎
若葉山つづく車窓の阪急線★★★★
槐咲く並木通りの風の闇★★★
黄菖蒲やルアーを手繰る池の畔★★★

●小西 宏
石楠花の身に影深し朝の雨★★★
雨の輪や子を失いし通し鴨★★★

梅の実のまだ小さきに紅を置く★★★★
梅の実がだんだんと太ってきた。まだ小さい実であるけれどほのかに紅色になっている箇所がある。小さいながら収穫ときの梅の様子を見せているのも驚き。(高橋正子)

●古田敬二
句会なる餡透き通るわらび餅★★★
森に座す若葉の陰に撫でられて★★★
紅秘めて薔薇は咲きかけ美しき★★★★

5月14日

●小口泰與
しるき斑を反転せしや山女釣★★★★
釣糸にからまる鰻へびの如★★★
夏蝉や乳を欲しいと泣く赤子★★★

●河野啓一
年毎に赤く咲き出すアマリリス★★★
カーネーションギフトはそっと土に埋め★★★

楠若葉並木一筋通学路★★★★
楠の若葉は盛り上がるように樹を覆う。その若葉が連なり重なる並木を通学する児童や生徒は健康的だ。(高橋正子)

●桑本栄太郎
ひかえめと云う華やぎや花卯木★★★
医科大の樟の大樹や聖五月★★★★
茉莉花の雨の予報に匂いけり★★★

●黒谷光子
夏野菜二人がかりに植え終える★★★★
水を遣り紫紺あざやか茄子の苗★★★
風除けの上から覗く茄子の苗★★★

●小西 宏
風渉る緑に若き桜の実★★★★
クローバーの花咲き満てる広さかな★★★
金柑の花のぞき咲く竹垣に★★★

5月20日(火)

★竹藪にあまりに明るししゃがの花  正子
しゃがの花は少し日蔭となる場所を好み、鄙びてあまり目立つ花ではないものの、群生となれば別ですね。群生するほどの沢山のしゃがの花に出会われ、その時の驚きが想われます。鄙びた花姿の中に、趣きのある素敵な一句です。(桑本栄太郎)

○今日の俳句
竹皮を脱ぐや常なる一幹に/桑本栄太郎
下五の「一幹に」がいい。今年の竹の誕生と成長を言葉の意味でも、また「イッカン」という音の響きでも。(高橋信之)

○朴の花

[朴の花/横浜都筑区ふじやとの道]

★朴散華すなはち知れぬ行方かな/川端茅舎
★朴咲く山家ラヂオ平地の声をして/中村草田男

ホオノキ(朴の木、Magnolia obovata、シノニム:M. hypoleuca)はモクレン科の落葉高木。
大きくなる木で、樹高30m、直径1m以上になるものもある。樹皮は灰白色、きめが細かく、裂け目を生じない。葉は大きく、長さ20cm以上、時に40cmにもなり、葉の大きさではトチノキに並ぶ。葉柄は3-4cmと短い。葉の形は倒卵状楕円形、やや白っぽい明るい緑で、裏面は白い粉を吹く。互生するが、枝先に束生し、輪生状に見える。花も大型で大人の掌に余る白い花が輪生状の葉の真ん中から顔を出し、真上に向かって開花する。白色または淡黄色、6月ごろ咲き芳香がある。ホオノキは花びらの数が多くらせん状に配列し、がく片と花弁の区別が明瞭ではないなど、モクレン科の植物の比較的原始的な特徴を受け継いでいる。果実は袋果で、たくさんの袋がついており、各袋に0 -2個の種子が入っている。葉は芳香があり、殺菌作用があるため食材を包んで、朴葉寿司、朴葉餅などに使われる。また、落ち葉となった後も、比較的火に強いため味噌や他の食材をのせて焼く朴葉味噌、朴葉焼きといった郷土料理の材料として利用される。葉が大きいので古くから食器代わりに食物を盛るのに用いられてきた。6世紀の王塚古墳の発掘時には、玄室の杯にホオノキの葉が敷かれていたのが見つかった。材は堅いので下駄の歯(朴歯下駄)などの細工物に使う。また、水に強く手触りが良いため、和包丁の柄やまな板に利用されたり、ヤニが少なく加工しやすい為、日本刀の鞘にも用いられる。樹皮は厚朴または和厚朴といい、生薬にする。

朴の花を見たのは、一昨年が初めて。横浜市営地下鉄北山田駅を出ると、「ふじやとの道」という緑道がある。行きあたりに池のある徳生公園があり、その公園の小高い丘にある。5月16日には、白い朴の花が咲いていた。花は真っすぐを向いて咲くので、しかも高木なので、梯子をかけてでもないと真上からの花は見えない。ところが運よく、朴の木よりも高く丘に道が付いている。その道を上り、朴の花を見ることができた。花の良い香りもする。これほどまでに匂うとは思わなかった。朴葉寿司、朴葉焼きなど山国の郷土料理であろう。朴のまな板は、台所にあったし、朴の高下駄は、兄なども新制高校だったが、戦後まもないときだったので通学に履いていた。
下駄で思い出すのだが、下駄の生産では日本一とう松永という町が、生家からバス三十分ほど行ったところにあった。塩田は廃止されたが、塩田と下駄で有名で、小さな松永湾には下駄に使う松の木を沢山浮かばせてあった。今でもそうだろう。お盆が来ると田舎の子どもたちは下駄を新調してもらった。下駄の歯がすり減ってなくなるまで履いた。大人になっても、サンダルではなく下駄を愛用したときもあった。日本の夏は、素足に履けば心地よいのは下駄である。

★朴の花栃の花見てゆたけしや/高橋正子
★朴の花わが身清めて芳しき/高橋正子

◇生活する花たち「釣鐘草・薔薇・卯の花」(横浜日吉本町)

5月19日(月)

★新緑の翳るときあり水があり  正子
日にきらめく新緑も曇り空の下では翳る時もあり、雨のあとなどでは水を含んでいる時もあるが、却ってそれが煌めきを助長して見える、と解釈しました。表面的な理解かもしれませんが、軽やかで印象に残る御句です。(河野啓一)

○今日の俳句
伊予水軍夏潮分けしその昔/河野啓一
夏潮の流れるさまを見れば、その昔、この夏潮を分けて伊予水軍が活躍したことが偲ばれる。とうとうとした夏潮の流れである。(高橋正子)

○蜜柑の花

[蜜柑の花/横浜日吉本町]

★全山に蜜柑花つけ通過駅/斎藤おさむ
★花蜜柑匂ふよ沖の船あかり/武田孝子
★花蜜柑の匂い池への斜面を流れ/高橋信之

蜜柑の花の匂う季節となった。蜜柑の匂いは、やはり蜜柑どころが圧巻。蜜柑生産量日本一を愛媛が誇っているかどうか知らないが、愛媛に住んだころは、蜜柑畑の蜜柑の花の匂いに一日中包まれて暮らした。買い物に通る道も、子どもたちの通学路も蜜柑の花の匂いが漂う。家に居ても窓を開けていれば、蜜柑の花の匂いが流れてくる。夜、眠るころになるとさらに高く匂う。その匂いを惜しんで窓を閉めた。
「みかんの花咲く丘」の歌詞は、私にはまるで瀬戸内海の風景として見えるが、実際は静岡県ということだ。

みかんの花咲く丘
【作詞】加藤 省吾
【作曲】海沼 実

1.みかんの花が 咲いている
  思い出の道 丘の道
  はるかに見える 青い海
  お船がとおく かすんでる

2.黒い煙を はきながら
  お船はどこへ 行くのでしょう
  波に揺られて 島のかげ
  汽笛がぼうと 鳴りました

3.何時か来た丘 母さんと
  一緒に眺めた あの島よ
  今日もひとりで 見ていると
  やさしい母さん 思われる

◇生活する花たち「ネーブルの花・八朔の花・すだちの花」(横浜日吉本町)

5月18日(日)

★豆飯の飯の白さに風抜ける  正子
豆ごはんの緑が鮮やかに仕上って、ごはんの白さがより際立ち美味しそうに炊き上がりました。ご飯の白さに一瞬初夏の風が抜ける様な爽やかさを感じ取られ「風抜ける」と表現されたのでしょう。少し塩味の聞いた初夏ならではの豆ごはんが食卓に上っています。(佃 康水)

○今日の俳句
船窓に見え来る全山島若葉/佃 康水
船窓から島の全山が見え始め、さらに近付くと島を覆い尽くす若葉の鮮やかさに、息をのむような感動を覚える。(高橋正子)

○木苺

[木苺/横浜日吉本町]

★木苺に滝なす瀬あり峡の奥/水原秋桜子
★裾重く聖尼ばかりの木苺摘み/草間時彦

 木苺(キイチゴ・学名:Rubus palmatus・バラ科キイチゴ属)は、原産地が西アジア、アフリカ、欧州、アメリカで、ラズベリーやブラックベリー、デューベリー等、木になるイチゴ(苺)の総称。 春に、苺の花に似た5弁の白花を咲かせる半落葉低木で、葉はヤツデのような掌に似た形(深裂)をしている。初夏に橙色の小さな粒々が多数集まり、食用となる球状の果実を付ける。果実は、果汁が多く、爽やかな酸味と仄かな甘味がある。木苺の葉は、秋に綺麗に紅葉するので、別名をモミジイチゴ(紅葉苺)とも呼ばれる。
 5月白い花が咲き、青い実を結ぶ。野生でよく見るのは、オレンジがかった黄色に熟れるものだ。山道を車で通るときにもところどころに見つかる。里山を歩いても道沿いに見つかる。たくさん摘んだことはなく、一粒二粒熟れているのを採って食べた程度だ。わが家の近くでは、日吉本町の鯛ケ崎公園と、駒林神社の下手あたりで見つけている。なんでもそうだが、熟れる時期をはずすと、せっかく木苺摘みにでかけても蔕だけになっていることがあって、すごく残念な思いをする。

★木苺を摘みにそこまでブラウス着て/高橋正子

◇生活する花たち「クサイチゴ・イキシャ・山あじさい」(横浜日吉本町)