■6月ネット句会入賞発表■

■6月ネット句会■
■入賞発表/2014年6月22日■

【金賞】
★早朝の草取り妻は露にぬれ/河野啓一
梅雨のころから、雑草の繁茂に悩まされる。暑い日中を避けて早朝に草取りをすると、草だけでなく、妻も露にぬれてしまっている。なんとはなしの、さりげない情愛がいい。(高橋正子)

【銀賞2句】
★田の隅に緑生き生き余り苗/柳原美知子
余り苗として田の隅に置かれたままの苗も、そこに根付いて、緑の葉も生き生きとして育ってくる。この苗は、もしも定植した苗が枯れたりするようなことがあれば、代わりに植えられる。余り苗といっても緑に命がすばらしい。(高橋正子)

★どの田にも早苗の直線吉野線/古田敬二
ネットで調べると、吉野線(よしのせん)は、奈良県橿原市の橿原神宮前駅から奈良県吉野郡吉野町の吉野駅までを結ぶ近畿日本鉄道(近鉄)の鉄道路線、とある。沿線のどの田にも早苗が直線にきれいに植えられて、すっきりとした眺めが望める。「早苗の直線」と「吉野線」の響きあいがとてもいい。(高橋正子)

【銅賞2句】
★夏至の雨根付きし苗の田を浸す/藤田洋子
田植のあと早苗は根付き、夏至のころ、根付いた苗は<ぶんけつ>する。梅雨の最中であって、雨は田を「浸す」のである。豊かな水と青々とした田は、日本の原風景であり、たゆまぬ力を感じる。(高橋正子)

★一瞬に蓮の葉返し青葉風/内山富佐子
蓮の葉が青々としてくるころは、あたりの木々も青葉となる。一瞬に強い風が吹き、蓮の広葉を裏返し、白っぽい緑の色を見せる。様々な緑の対比にが素直で、さわやかだ。(高橋正子)

【高橋信之特選/7句】
★若竹の風光り透く兄の忌に/藤田洋子
梅雨の晴れ間のみずみずしい若竹を吹く風の中、在りし日の颯爽としたお兄様の姿が偲ばれるようです。(柳原美知子)

★水平線乱し寄せ来る卯波かな/古賀一弘
広々と眺望出来る場所に立って海を眺めていらっしゃるのでしょう。遥かな水平線を乱す程の白い波頭を立て卯波が寄せてくる。夏を迎える頃の壮大な海の力強さを感じます。(佃 康水)

★朝顔の初花すっきりと一輪/高橋正子
一輪開く朝顔が何とも初々しく、美しく、清々しい朝の始まりを感じさせてくれます。今年初めて朝顔を目にされた作者の感動が心にすっと届きます。(藤田洋子)

★早朝の草取り妻は露にぬれ/河野啓一
★どの田にも早苗の直線吉野線/古田敬二
★一瞬に蓮の葉返し青葉風/内山富佐子
★田の隅に緑生き生き余り苗/柳原美知子

【高橋正子特選/7句】
★夏至の雨根付きし苗の田を浸す/藤田洋子
5月初旬から6月のつい先日まで植えられた苗も根付き、早くも夏至を迎え青々と育って来ている。夏至の雨がたっぷり田に溢れ苗を浸している様子は、豊穣の秋を約束しているようで心が満たされ、安堵感がある。「田を浸す」との下五の措辞が効いている。(桑本栄太郎)
田植えが済んだかと思うと早やしっかりと根付き青々としてきました。今は水を欠かすことが出来ない時期ですが、夏至の雨が苗を浸してくれて居る情景を農家の人達は安心して見守って居られる事でしょう。 (佃 康水)

★ばら園や丹沢の峰近々と/渋谷洋介
ばら園からは、丹沢山系の峰々が間近に見られる。華やかな色彩のばら園と青々とした丹沢の峰々が好対照で、生命感にあふれている。(高橋正子)

★故郷の水の冷たさ五月過ぐ/内山富佐子
屹度井戸水と思います。遠い昔を懐かしく思い出しました。井戸の水は夏冷たく冬は、温かいのです。その冷たい水で冷やした果物の色の鮮やかさ。今思ってもすっきりです。 (迫田和代)

★紫陽花の垣にあふれる港町/小西 宏
港町に、群れ咲く紫陽花の藍色やライトブルーが明るい彩りを与えてくれます。海辺の澄んだ空気に、より生き生きと美しさを増す紫陽花です。(藤田洋子)

★早朝の草取り妻は露にぬれ/河野啓一
★どの田にも早苗の直線吉野線/古田敬二
★田の隅に緑生き生き余り苗/柳原美知子

【入選/16句】
★緑蔭の風に語らうカフェテリア/桑本栄太郎
カフェテリア の外にある緑陰でのお茶を、楽しんでおられるようです。風通しもよく、お話も弾んでいるのでしょうね。 (祝恵子)

★子雀も飛び方上手に梅雨晴れ間/河野啓一
夏の青空を嬉々として飛んでいる子雀の様子をよく観察しておられ、子雀に対する温かい愛情が感じられるいい句だと思いました。(井上治代)

★沢飛びの石譲り合う花菖蒲/佃 康水
菖蒲園のなかに人が通れるように飛び石が敷いてある。交差する見物客はお互い譲り合って花菖蒲を眺めている。そんな景が目に浮かぶようだ。「石譲り合う」と言う措辞が読者に暖かい気持ちにさせる。 (古賀一弘)

★棚田ごと夕陽に染まる青田かな/佃 康水
傾斜地に耕された棚田も青田となり、今くまなく夕陽に染まっています。穏やかで、調べもよく、どこか懐かしい景が思われます。(小川和子)

★水出しの緑茶の甘さ夏に入る/内山富佐子
水出しの緑茶の色彩、美味しさに清々しい夏の訪れが感じとれます。生活の営みとともにある俳句をあらためて実感いたします。(藤田洋子)

★短夜や今日が昨日になる時報/矢野文彦
今日が昨日になる時報は午前0時、夜も更けた時間ですが、この季節の夜は短く、気が付けば、その時間になっていねことに気が付きます。きっと夜も充実した時間を過ごされているのだろうと想像ができます。(高橋秀之)

★白百合に日差して山の雨上がる/藤田洋子
雨の中に咲く白百合の清楚。そこに日の当たり花の明るさが一段と増したとき、全山に雨が上がる。生命と大自然の織りなす静かで輝かしい妙味。 (小西 宏)

★凌霄花(のうぜん)の満つれば海の色想う/小西 宏
のうぜんと海の色との飛躍が印象に残りました。意味付けは難しいかもしれませんが、詩的な響きが魅力です。 (河野啓一)

★夏の雨止んで空また雲重し/高橋句美子
夏の季節風が高温で湿気を含んだ空気を運んで来るので、我が国では雨量が多く、黒雲は重く感じられる。リズム感が良く梅雨の空を的確にあらわしているとおもいます。 (小口泰與)

★もう会えぬ人をあれこれ明易し/矢野文彦
短い夏の夜が明けそうな時刻。夢の中の続きにように、もう会えなくなってしまった人をあれこれと考えるとますます目が冴えてしまう。(古田敬二)

★汚れなき白い色した花菖蒲/迫田和代
花が開いてまだ間もないのでしょう。汚れなき花菖蒲は、活き活きとして、可憐な花を咲かせていることと思います。 (高橋秀之)
色とりどりの花菖蒲が咲き誇っています。その中でも長く伸びた花茎の天辺に汚れの無い白菖蒲が咲き梅雨の中に一段と優雅に潤っています。(佃 康水)

★田毎はや青田波打つ頃となり/小川和子
田植えの苗も早や田水が見えなくなる程株が張り風に応える程に成長して来ました。暑くなる頃の青田波は涼しさを覚えると同時に穂の出るまでの青々とした美しい田園風景です。(佃 康水)

★竹の群れ水の流れのあり涼し/祝恵子
竹が風にそよぎ、せせらぎの音も涼やかで、暑い夏を忘れさせてくれる情景だと思います。 (井上治代)
お近くの庭園での作品でしょうか。竹林が手入れよく配され、水辺には菖蒲などが咲きみちて絶えず水音がする。竹のすがすがしさ、水の流れがそのままに涼しそうです。(小川和子)

★暑き日の作業の後の水あまし/井上治代
梅雨どきとは言え、晴れた日など盛夏を思わせるほどの暑い日があります。農作業は、自然との大いなる交流とも言えますが、ひと息ついた時の水の美味しさは格別でしょう。「水あまし」に収穫の喜びまで伝わってくるようです。(小川和子)

★夏風に揺れる木漏れ日御堂筋/高橋秀之
川筋から吹いてくる涼しい夏の風に揺れる通りの木漏れ日。都市の明るく軽快な夏の情景がリズムよく詠まれていて惹かれます。(柳原美知子)

★山里の暖簾くぐるや一夜酒/小口泰與

★■選者詠/高橋信之
★花菖蒲咲かせしここは農家の庭
★驚きにまた楽しみにカラーの黄
★るり柳明るし丘の西洋館

■選者詠/高橋正子
★青ぶどう明るく結ぶ西の窓
西の大窓に夏の光を浴びて透ける青葡萄の固くつぶらな実が、洋画を見るようにクローズアップされます。(柳原美知子)

★朝顔の初花すっきりと一輪
★夾竹桃の花のうずめる梅雨の家

■互選高点句
●最高点(5点/同点3句)
★田の隅に緑生き生き余り苗/柳原美知子
★どの田にも早苗の直線吉野線/古田敬二
★夏至の雨根付きし苗の田を浸す/藤田洋子

※集計は、互選句をすべて一点としています。選者特選句も加算されています。
(集計/藤田洋子)

※コメントのない句にコメントをお願いいたします。

■6月ネット句会清記■

■6月ネット句会■
■清記/20名60句

01.花影の影に花影花菖蒲
02.水平線乱し寄せ来る卯波かな
03.梅雨晴間フランスパンを買ふ銀座
04.山里の暖簾くぐるや一夜酒
05.カーテンの色変えており五月晴
06.湖畔にてちと空酒や閑古鳥
07.よみがえる7つの川と新緑と
08.五月雨や雨に濡れない心旅
09.汚れなき白い色した花菖蒲
10.名の木札水にしっかと花菖蒲

11.池の辺の椅子に寛ろぐ梅雨晴れ間
12.竹の群れ水の流れのあり涼し
13.枇杷の実や芦屋に多し白き家
14.夏潮の運河眼下にモノレール
15.緑蔭の風に語らうカフェテリア
16.菖蒲田の声なき声や沖縄戦
17.七変化波打つ如し彩重ね
18.ばら園や丹沢の峰近々と
19.早朝の草取り妻は露にぬれ
20.子雀も飛び方上手に梅雨晴れ間

21.百合咲いて夕べの灯りほの白く
22.夏風に揺れる木漏れ日御堂筋
23.園内を色とりどりに花菖蒲
24.そよそよと隣の席にも団扇風
25.沢飛びの石譲り合う花菖蒲
26.棚田ごと夕陽に染まる青田かな
27.葉畳の池に尾を打つ糸蜻蛉
28.花菖蒲咲かせしここは農家の庭
29.驚きにまた楽しみにカラーの黄
30.るり柳明るし丘の西洋館

31.朝顔の初花すっきりと一輪
32.青ぶどう明るく結ぶ西の窓
33.夾竹桃の花のうずめる梅雨の家
34.白川を揺らめき渡る夏の蝶
35.長谷寺の若葉の駅を過ぎにけり
36.どの田にも早苗の直線吉野線
37.三輪の菖蒲開きて梅雨に入る
38.潮風を胸いっぱいに梅雨晴間
39.暑き日の作業の後の水あまし
40.水出しの緑茶の甘さ夏に入る

41.一瞬に蓮の葉返し青葉風
42.故郷の水の冷たさ五月過ぐ
43.もう会えぬ人をあれこれ明易し
44.短夜や今日が昨日になる時報
45.紫陽花の庭から縁へ人出入り
46.夏至の雨根付きし苗の田を浸す
47.若竹の風光り透く兄の忌に
48.白百合に日差して山の雨上がる
49.田毎はや青田波打つ頃となり

50.畦道を行く薫風に身をまかせ
51.茶庭なる静寂にひたる額の花
52.ミニトマト雨に鮮やかひとつ熟れ
53.田の隅に緑生き生き余り苗
54.青梅雨の瀬音に包まる里行けば
55.凌霄花(のうぜん)の満つれば海の色想う
56.夜に聞けり梅雨戻り来て濡れる音
57.紫陽花の垣にあふれる港町
58.雨降りの紫陽花の青いきいきと
59.夏の雨止んで空また雲重し
60.起きぬけの額汗ばむ夏至といい

※選句を開始してください。

◆互選のご案内◆
①選句は、清記の中から5句を選び、その番号のみをお書きください。なお、その中の1句にコメントを付けてください。
②選句は、6月22日(日)午後6時から始め、同日(6月22日)午後10時までに済ませてください。
③選句の投稿は、下のコメント欄にご投稿ください。
※1) 入賞発表は、6月23日(月)午前10時です。
※2) 伝言・お礼等の投稿は、6月23日(月)午前10時~6月24日(火)午後6時です。

6月22日(日)

★ほうたるの火が飛ぶ風が吹き起こり  正子
「ほうたる」とはとても柔らかな響きで、蛍火の儚げな点滅をうまく表していると思います。するとそこに思いがけない一方向への動きが生じ、静かに漂っていた蛍の火が散るように流されて行ったことが窺えます。その一瞬の美しさを瞼に留めようと、結句がどっしりと全体の骨格を支えています。(小西 宏)

○今日の俳句
手のひらに蛍あかるき少女かな/小西 宏
手のひらの蛍にほっと照らされた少女の顔が浮かぶ。少女と蛍をさらりとした抒情でうまく詠んでいる。(高橋正子)

○雪ノ下

[雪ノ下/横浜日吉本町]

★何代の灯篭の苔に雪ノ下/正岡子規
★長き根に秋風を待つ鴨足草/高浜虚子
★夕焼けは映らず白くゆきのした/渡辺水巴
★ゆれそめて雨となりけり鴨足草/今井つる女

ユキノシタ(雪の下、学名:Saxifraga stolonifera)はユキノシタ科ユキノシタ属の植物。本州、四国、九州及び中国に分布し、湿った半日陰地の岩場などに自生する常緑の多年草である。人家の日陰に栽培されることも多い。葉は円形に近く(腎円形)、裏は赤みを帯びる。根本から匍匐枝を出して繁殖する。開花期は5-7月頃で、高さ20-50 cmの花茎を出し、多数の花をつける。花は5弁で、上の3枚が小さく濃紅色の斑点があり基部に濃黄色の斑点があり、下の2枚は白色で細長い。花弁の上3枚は約3-4 mm、下2枚は約15-20 mmである。本種の変種または品種とされるホシザキユキノシタには、こうした特徴は現れず、下2枚の長さは上3枚と同じくらいとなる。開花後、長さ約4 mmほどの卵形の果(さくか)を実らせる。雪が上につもっても、その下に緑の葉があることから「雪の下」と名付けられた。また、白い花を雪(雪虫)に見立て、その下に緑の葉があることからとする説がある。このほか、葉の白い斑を雪に見立てたとする説もある。

◇生活する花たち「あさざ・山紫陽花・コアジサイ」(東京白金台・自然教育園)

6月21日(土)

★てのひらに書を読む梅雨のすずしさに  正子

○今日の俳句
夏至の雨根付きし苗の田を浸す/藤田洋子
田植のあと早苗は根付き、夏至のころ、根付いた苗は<ぶんけつ>する。梅雨の最中であって、雨は田を「浸す」のである。豊かな水と青々とした田は、日本の原風景であり、たゆまぬ力を感じる。(高橋正子)

○青葡萄

[青葡萄/横浜日吉本町]

★葉洩日に碧玉透けし葡萄かな/杉田久女 
★濁流に日のあたりけり青葡萄/山口誓子
★川を呼び山風を呼び青葡萄/広瀬直人
★青ぶどう夜明けは山のうしろから/鈴木美千代

 青葡萄とは、まだ熟さない青々とした難い実の葡萄をいう。この場合は成熟しても緑色をしているマスカットなどの品種のものは指さない。生産は山梨県が最も多く、岡山・長野の両県が続く。花は五、六月果実と同じように房になって集まって咲く。この青葡萄から濃紫黒・紅赤・黄緑色と、それぞれの品種によって色づいてゆく。
 ブドウ(葡萄、学名 Vitis spp.)は、ブドウ科 (Vitaceae) のつる性落葉低木である。また、その果実のこと。葉は両側に切れ込みのある15 – 20cmほどの大きさで、穂状の花をつける。野生種は雌雄異株であるが、栽培ブドウは一つの花におしべとめしべがあり、自家受粉する。このため自家結実性があり、他の木がなくとも一本で実をつける。果実は緑または濃紫で、内部は淡緑であり、房状に生る。食用部分は主に熟した果実である。食用となる部分は子房が肥大化した部分であり、いわゆる真果である。外果皮が果皮となり、中果皮と内果皮は果肉となる。果実のタイプとしては漿果に属する。大きさは2 – 8cm程度の物が一般的である。ブドウの果実は枝に近い部分から熟していくため、房の上の部分ほど甘みが強くなり、房の下端部分は熟すのが最も遅いため甘味も弱くなる。皮の紫色は主にアントシアニンによるものである。甘味成分としてはブドウ糖と果糖がほぼ等量含まれている。また、酸味成分として酒石酸とリンゴ酸が、これもほぼ等量含まれる。
 ブドウ属の植物は数十種あり、北米、東アジアに多く、インド、中東、南アフリカにも自生種がある。日本の山野に分布する、ヤマブドウ、エビヅル、サンカクヅル(ギョウジャノミズ)もブドウ属の植物である。現在、ワイン用、干しぶどう用または生食用に栽培されているブドウは、ペルシアやカフカスが原産のヴィニフェラ種 (V. vinifera, common grape vine) と、北アメリカのラブルスカ種 (V. labrusca, 英: fox grape)で ある。米がうるち米(食用)・酒米(酒造用)があるように、ブドウにも食用ブドウと酒造用ブドウがあり、食用はテーブルグレープ(table grapes)、酒造用はワイングレープ(wine grapes)と呼ばれている。

◇生活する花たち「蛍袋・時計草・紫陽花」(横浜日吉本町)

6月20日(金)

★青梅と氷砂糖と瓶に透け/高橋正子
梅酒をお作りになるのですね。6月の上旬から中旬頃に収穫したばかりの青梅で、熟さない内に漬けるのですね。瓶に敷き詰めた青梅、そしてその中には白い氷砂糖と焼酎。ガラスの瓶に透けた青と白は如何にも涼しげです。そして出来上がるのがとても楽しみです。(佃 康水)

○今日の俳句
黄熟の匂い立たせて梅漬ける/佃 康水
梅干しに漬ける梅は青梅ではなく、黄色く熟れてやわらくなった梅を用いる。青梅が黄熟する間に放つ梅の甘くかぐわしい匂いは、「梅仕事」を楽しくしてくれる。(高橋正子)

○夏茱萸(なつぐみ)

[夏茱萸/横浜日吉本町]_[梅桃(ゆすら)/横浜日吉本町]

★夏茱萸の爛々として墓の上/津沢マサ子
★夏茱萸や妻の居ぬ日はものぐさに/村沢夏風
★夏茱萸や昔は子沢山なりし/青柳志解樹
★夏茱萸を含めば渋き旅愁かな/村岡黎史
★取る人のなき夏茱萸のこぼれ落つ/五十島典子
★小ちさき手に夏ぐみ数個のせて来し/TAKAKO
★降りだしてこの夏茱萸の千の揺れ/茜

 夏茱萸(なつぐみ、学名:Elaeagnus multiflora form. orbiculata)は、トウグミと同様にElaeagnus multifloraの変種とされ、日本固有種です。基本種は東アジアに分布しているとされています。高さ2m~4mほどになる落葉低木です。樹皮は褐色で、老木では縦に不規則に剥がれおちます。
 春に淡黄褐色の花を葉腋に比較的多くつけます。花はやや下垂し、基部は筒型で先端に4枚のガク片がつきますが、4裂しているように見えます。花径は1cmほどです。葉は、葉先が鋭三角形状の広楕円形で、幅4cm前後、長さ8cm前後で、葉の縁はやや波打ちますが全縁(葉の縁のギザギザはない)です。葉の表面には鱗状毛があり、葉裏には銀色の鱗状毛が密生し、赤褐色の鱗状毛が混じるので、淡褐色に見えます。グミの仲間(グミ属)では普通ですが、葉裏が淡褐色や黄褐色です。果実は、両端が丸い円筒形で長さ1.5cm前後です。初夏に赤く熟して食べられます。北海道南部、福島県から静岡県の太平洋側に分布します。多摩丘陵では、自生のものは稀で、人家周辺に時々植栽されています。
 「グミ」の名は、漢名「茱萸子」からきているようです。「茱萸」を日本語読みしたもののようですが、はっきりとはしていないようです。「夏」は、初夏に果実が熟すことからです。
 万葉集を始め多くの歌集や文芸等にはその名は現れていないようです。平安時代の「倭名類聚抄」に「和名 久美」として現れているとのことです。江戸時代の「本草綱目啓蒙」などにその名が現れています。
 果実は美味しく古くから食用にされています。有毒であるという報告も薬用にするという報告もないようです。
 多摩丘陵には、この仲間(グミ属)では、以下のように、落葉樹であるこのナツグミとトウグミ、常緑樹であるナワシログミとツルグミを確認していますが、分布域的には可能性がある落葉のアキグミは未確認です。全て花や果実は似ていて葉裏も淡褐色から黄褐色で似ています。葉には多少の違いがありますが、変異もあるので葉だけでの区別は慣れないと結構困難です。多摩丘陵ではいずれも個体数は少なく、なかなか出会えません。
 このナツグミとトウグミは、とてもよく似ていて区別は大変困難です。植物学的にはナツグミでは葉の表面に鱗状毛があるのに対して、トウグミでは(若い)葉に星状毛があることで同定します。一般には、トウグミではナツグミよりも花や実つきがよいことで区別します。トウグミの果実はナツグミよりもやや大きいのですが見た目での判断は困難です。トウグミは、花や実付きがよく、果実もやや大きいので当初は中国などから持ち込まれた種であると考えられたために「唐グミ」と名づけられています。
他の常緑の2種では、葉がやや厚くてやや硬いことで区別できます。また、ナツグミやトウグミでは花期は春ですが、ナワシログミやツルグミでは花期が秋です。果期は、ナワシログミは初夏ですが、ツルグミでは春です。
 ナワシログミは、常緑で葉はやや厚くて硬く、小枝がトゲ状になっていることが特徴です。また、葉は葉先が鈍三角形状の長楕円形で葉縁が波打つことでも区別できますが、慣れないと困難です。花期も秋です。
 ツルグミは、茎がツル状に長く伸びて他物に寄りかかるようになるのが特徴です。葉は、やや厚くてやや硬く、葉先が長い三角形状です。花期は秋です。
 アキグミでは、花期は春ですが、果実が赤熟するのは秋です。また、果実が小さな球形(径7mm前後)なので容易に区別できます。

◇生活する花たち「岩タバコ・雪ノ下・夏萩」(北鎌倉/東慶寺・円覚寺)

6月19日(木)

★青梅と氷砂糖と瓶に透け/高橋正子
先日梅酒を漬けたばかりです。ホワイトリカーがないとすれば、梅のシロップ作りでしょうか。いづれにしても漬けて透き通った中身の青梅と氷砂糖のビンを見て、満足ですね。(祝恵子)

○今日の俳句
ピーマンの分厚く光るを収穫す/祝恵子
よくそだったピーマンの質感をよく捉えている。「分厚く」に納得。(高橋正子)

○繍線菊(しもつけ)

[しもつけ/横浜日吉本町]

★しもつけを地に並べけり植木売/松瀬青々
★繍線菊やあの世へ詫びにゆくつもり/古舘曹人
★しもつけの花を小雨にぬれて折る/成瀬政俊
★しもつけに肩ふれらるる家の角/岡田博允
★繍線菊やえんぴつ書きの母の文/山内八千代

しもつけは、近くの公団の植栽にある。白と赤、それに源平と呼ばれる紅白が混じったもの。泡のような小粒の蕾が集まっているのだが、それが弾けて可憐な花となる。花だけでなく、葉も魅力がある。花も葉もおしゃれな感じがする。こでまりや、ゆきやなぎの仲間なので、茎などはよく似ている。部屋に活けてみたい花だ。白がいいか、赤がいいか。どちらも欲しい。この花だけよりも、なにか他のものと合わせれば、もっといい花となる。

★しもつけの紅花備前に活けてみし/高橋正子

シモツケ(学名:Spiraea japonica)は、バラ科シモツケ属の落葉低木。漢名「繍線花」があてられる。別名、キシモツケ(木下野)とも呼ばれる。アジア原産地で、北海道から九州にかけての日本各地、朝鮮および中国の山野に自生する。成木の樹高は1mほどであり、初夏に小花(集合花)が傘状に群がり、淡紅色又は白色の五弁の花を沢山つける。秋には紅葉する。古くから庭木として親しまれてきた。和名は下野国に産したことに由来するという。同じシモツケ属の仲間にはコデマリ、ユキヤナギがある。 シモツケは富士山にも咲いている。寒さに強く、日当たりを好む。シモツケ(バラ科)花言葉は、いつかわかる真実。

◇生活する花たち「紫陽花」(北鎌倉・東慶寺)

6月18日(水)

★沙羅の花みずみずしくて落ちている  正子
白く可憐な姿のままに落ちている沙羅の花。辺りは清浄な空気が漂っているようです。落ちてなおみずみずしさを留める花びらに、儚くも美しい沙羅の花の命を思います。(藤田洋子)

○今日の俳句
蛍飛ぶ後ろ大きな山の闇/藤田洋子
大きな山を後ろに闇を乱舞する蛍の火。山間の清流を舞う蛍火の見事さを「山の闇」で的確に表現した。(高橋正子)

○矢車草

[矢車草/横浜日吉本町]

★矢車草空へ伸びざま吾子逝けり/柴崎左田男
★矢車草の矢車楽し少年に/高橋信之
★矢車草青はもっともドイツの色/高橋正子

矢車草(学名:Rodgersia podophylla)は、ユキノシタ科ヤグルマソウ属の多年草。根出葉は5枚の小葉からなる掌状複葉で、葉柄は50cmに達する。小葉は倒卵形で先端が3-5浅裂する。花茎の高さは1mほどになり、短い葉柄をもった茎葉が数個互生する。花期は6-7月で、先端に円錐状の花序をつける。花弁はなく、花弁にみえる萼裂片は長さ2-4mmで、ふつう5-7個あり、色は紫、赤、白、桃など多様である。雄蕊は長さ3-4mmで8-15個あり、直立する。花柱は長さ1.5-2.5mmになり、2個あり、花時に直立する。果実は狭卵形の果で、長さ5mmになる。和名の由来は、小葉の構成が、端午の節句の鯉のぼりにそえる「矢車」に似ることによる。
矢車草は、私には、ずっと昔からのなじみに花である。近頃は、流行なのかチョコレート色の矢車草もあるが、一番矢車草らし色は青だと思う。この青色は日本の青とちがって、ドイツかスイスの花の青だといつごろからか思うようになった。シュタイフ・ブルーと呼ばれる色がある。帝国の青という意味だが、つまりドイツの色という意味。ドイツの国会の座席は、設計段階では、グレーとしていたが、ドイツ国民によって「シュタイフ・ブルー」になったと聞く。ドイツ国民がこれこそドイツの色としている色であろう。

◇生活する花たち「紫陽花・立葵・百日草」(横浜・四季の森公園)

6月17日(火)

★水こぼす水車の音の菖蒲田へ  正子

○今日の俳句
直立に濃く咲き登り立葵/多田有花
立葵の花は、ピンク、白、赤色など様々ある。この句の立葵は、濃い色のもの。可憐な花の姿をしながら、「直立に」「濃く」咲いて、生命力のある花だ。(高橋正子)

○梔子(くちなし)

[梔子/横浜日吉本町]

★口なしの花さくかたや日にうとき/与謝野蕪村
★薄月夜花くちなしの匂いけり/正岡子規
★口なしの淋しう咲けり水のうへ/松岡青蘿
★山梔子(くちなし)や築地の崩れ咲きかくし/堀麦水
★くちなしの香に夕闇を濃く沈め/武藤あい子
★くちなしの咲き乱れる家にいて/巽三千世

 どこからか梔子の花の匂いがする。どこだろうかと、あたりを探すと、ああここかとすぐ見つかるのだが、その木が意外と小さかったり、大きかったり、花が八重だったり、一重だったりする。沈丁花とはまた違う、金木犀とも違う、よく匂う花である。一枝部屋に挿すと、梅雨じめりの中で疲れるほどよく匂う。
 梔子には八重と一重があるが、子どものころ生家の庭にあったのは一重であった。風車のような白いの花は、日にちが経つと黄色みを帯びてくる。花が終わると、いつか実を付けている。私はこういった花の傍でいつも遊んだ。どの花も実になるのかと思うほど沢山つく。八重の花は、高貴な人の純白のドレスの布のようだと思う。小さい薔薇のコサージュように咲く。

★梔子の匂いてくれば振り返る/高橋正子

 クチナシ(梔子、巵子、支子、学名:Gardenia jasminoides)は、アカネ科クチナシ属の常緑低木である。野生では森林の低木として自生するが、むしろ園芸用として栽培されることが多い。果実が漢方薬の原料(山梔子)となることをはじめ、様々な利用がある。樹高1-3 mほどの低木。葉は対生で、時に三輪生となり、長楕円形、時にやや倒卵形を帯び、長さ5-12 cm、表面に強いつやがある。筒状の托葉をもつ。花期は6-7月で、葉腋から短い柄を出し、一個ずつ花を咲かせる。花弁は基部が筒状で先は大きく6弁に分かれ、開花当初は白色だが、徐々に黄色に変わっていく。花には強い芳香があり、学名の種名「jasminoides」は「ジャスミンのような」という意味がある。10-11月ごろに赤黄色の果実をつける。果実の先端に萼片のなごりが6本、針状についていることが特徴である。また側面にははっきりした稜が突き出る。東アジア(中国、台湾、インドシナ半島等)に広く分布し、日本では本州の静岡県以西、四国、九州、南西諸島の森林に自生する。八潮市、湖西市および橿原市の市の花である。

◇生活する花たち「あさざ・山紫陽花・コアジサイ」(東京白金台・自然教育園)

6月16日(月)

★薔薇垣と薔薇のアーチに人の住む  正子
初夏の明るい日差しの中に薔薇垣があり薔薇のアーチがある。その輝かしさと芳しさに心ときめき圧倒される。そしてしばしの後にようやく気付くのだ。この家にも住む人のあることを。不思議だろうか、当たり前だろうか? (小西 宏)

○今日の俳句
山桑やまだ濡れている朝の道/小西 宏
「山桑」は、季語では山帽子のこと。梅雨にはいってもまだ咲いている山帽子があるが、まだ雨に濡れている朝の道に白い山桑の花を見つけると、湿りのある中にもすがすがしさを思う。(高橋正子)

○玫瑰(はまなす)

[玫瑰/横浜・港の見える丘公園]

★玫瑰の丘を後にし旅つづく/高浜虚子
★玫瑰や今も沖には未来あり/中村草田男
★搾乳婦来て玫瑰にひざまづく/堀口星眠
★はまなすや裏口に立つ見知らぬ子/中村苑子
★はまなすや人の泳がぬ北の海/橘 昌則
★はまなすや破船に露西亜文字のこり/原 柯城
★はまなすや親潮と知る海の色/及川 貞

 はまなすと言えば、草田男の「玫瑰や今も沖には未来あり」がすぐに思い出される。はまなすは夏の花である。この句が詠まれた場所は、どこであろうか。調べたことはないが、足元に咲く薔薇色のはまなすの花に佇って沖を見ると、世の中が変わってきても、やはり、「未来」があると信じられる。沖の水平線とその空のあたりに未来があると思える。
 その後「知床旅情」にも歌われた。森繁久弥や加藤登記子の歌声が耳に聞こえるが、遠く海を見ながら、遠くを思いつつ歌っている雰囲気だ。横浜の「港のみえる丘公園」内の薔薇園を外れたところに、玫瑰が咲いていた。園芸種であろうが、そこからも港の海が見える。自生の玫瑰を一度見てみたいと思っている。

★はまなすに躓く先に海がある/高橋正子

 ハマナス(浜茄子、浜梨、玫瑰、学名:Rosa rugosa)は、バラ科バラ属の落葉低木。夏に赤い花(まれに白花)を咲かせる。根は染料などに、花はお茶などに、果実はローズヒップとして食用になる。皇太子徳仁親王妃雅子殿下のお印でもある。晩夏の季語。東アジアの温帯から冷帯にかけて分布する。日本では北海道に多く、南は茨城県、島根県まで分布する。主に海岸の砂地に自生する。1-1.5mに成長する低木。5-8月に開花し、8-10月に結実する。現在では浜に自生する野生のものは少なくなり、園芸用に品種改良されたものが育てられている。果実は、親指ほどの大きさで赤く、弱い甘みと酸味がある。芳香は乏しい。ビタミンCが豊富に含まれることから、健康茶などの健康食品として市販される。のど飴など菓子に配合されることも多いが、どういう理由によるものかその場合、緑色の色付けがされることが多い。中国茶には、花のつぼみを乾燥させてお茶として飲む玫瑰茶もある。「ハマナス」の名は、浜(海岸の砂地)に生え、果実がナシに似た形をしていることから「ハマナシ」という名が付けられ、それが訛ったものである。ナス(茄子)に由来するものではない。アイヌ語では果実をマウ(maw)、木の部分をマウニ(mawni)と呼ぶ。バラの一種であり、多くの品種が存在する。北米では観賞用に栽培される他、ニューイングランド地方沿岸に帰化している。イザヨイと呼ばれる園芸品種は八重化(雄蕊、雌蕊ともに花弁化)したものである。ノイバラとの自然交雑種にコハマナスがある。このほかシロバナハマナス、ヤエハマナス、シロバナヤエハマナスなどの品種がある。バラの品種改良に使用された原種の一つで、ハマナスを交配の親に使用した品種群を「ルゴザ系」と謂う。

◇生活する花たち「蛍袋・時計草・紫陽花」(横浜日吉本町)

◆6月ネット句会のご案内◆

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③投句期間:2014年6月15日(日)午後6時~6月22日(日)午後6時
④選句期間:6月22日(日)午後6時~午後9時
⑤入賞発表:6月23日(月)午前10時
※投句を受け付けています。