3月18日(水)/彼岸入り

★囀りの抜け来る空の半円球   正子
遮るものもない、丸く大きな青空から囀りが聞こえてくる。何処からだろうか。声だけで姿は見えない。まるで遥か高みから空を通り抜けてくるようだ。・・・静かで揺るぎない春のひと日を感じることが出来ます。(小西 宏)

○今日の俳句
ひとつずつ地に触れ消える春の雪/小西 宏
春の雪の降る行方を見ていると、雪片は一つずつ地に触れて消えてゆく。水分を多く含んだ春の雪の美しくも儚い様子。(高橋正子)

○菫(すみれ)

[菫/横浜日吉本町]

★山路来て何やらゆかしすみれ草 芭蕉
★馬の頬押のけつむや菫草 杉風
★一鍬や折敷にのせしすみれ草 鬼貫
★骨拾ふ人にしたしき菫かな 蕪村
★奥山や人住あればすみれぐさ 暁台
★すみれ蹈で今去馬の蹄かな 几董
★菫程な小さき人に生れたし/夏目漱石
★うすぐもり都のすみれ咲きにけり/室生犀星
★かたまつて薄き光の菫かな/渡辺水巴
★すみれ踏みしなやかに行く牛の足/秋元不死男
★あたらしき鹿のあしあと花すみれ/石田郷子
★カメラ構えて彼は菫を踏んでいる/池田澄子
★十七歳跨いで行けり野の菫/清水径子
★すみれ咲く小さきゆえの濃むらさき/高橋正子

最近、「すみれ色」のすみれを見なくなった。見なくなって久しい。ところが、3月の10日ごろだったか、5丁目の丘に上り、その帰り、丘が終わるところの側溝のコンクリートの隙間からすみれ色のすみれが咲いているのを見つけた。何気なく目を向けて見つけたのだが、何か勘が働いたように思う。すみれと言えば、濃い色のすみれしか知らなかったころ、家に一番近い畑にすみれがたくさん咲いて、父親が困っていた。畑にすみれが増えるとやっかいだということだ。根絶するのが難しいらしい。これは、オキザリスでも同じことを父親が言っていた。これらの花を畑に増やしてはいかんと。野に咲けば、可憐な花であるのに。

きのう、長男の元が昼過ぎ家に寄った。2月19日生まれた長男にこいのぼりを買うのだ張り切って浅草の人形店に見に行ったついでらしい。いいのがないという。五月飾りはプレゼントされるらしい。紙の鯉のぼりがあればいいのだが、全く今は見なくなった。風が吹けば、ごぼっごぼっと空で紙の音を立てるあの鯉のぼり。雨にあわないよう、雨粒が落ちるとすぐに棹から下ろす。夜は取り込んで畳に広げて畳む。ウロコも、目もデザイン的におもしろかった。畳む時、ウロコの柄を手でなぞり、切りがないなと子供ごころに思ったものだ。
急に来た息子には、春キャベツとアスパラガスがあったので、お肉と野菜少しを買って焼肉にした。新物の茹で筍が店に出ていたので、これは煮て食べさせた。焼肉のあとは、壬生菜のお漬物とたけのこと白いご飯。結構気に入ったようだ。33歳になったという。

 スミレ(菫)は、スミレ科スミレ属の植物の総称であるが、狭義には、Viola mandshurica という種の和名であるが、類似種や近縁種も多く、一般にはそれらを区別せずにスミレと総称していることが多い。
 種名としてのスミレ(Viola mandshurica)は、道ばたで春に花を咲かせる野草である。深い紫(菫色)の花を咲かせる。地下茎は太くて短く、多数の葉を根出状に出す。葉は根際から出て、少し長めの葉柄があって、少しやじり形っぽい先の丸い葉をつける。花は独特の形で、ラッパのような形の花を横向きかやや斜め下向きにつける。5枚の花びらは大きさが同じでなく、下側の1枚が大きいので、花の形は左右対称になる。ラッパの管に当たるのは大きい花弁の奥が隆起したもので距(きょ)という。花茎は根際から出て、やや立ち上がり、てっぺんで下を向いて花のラッパの管の中程に上側から着く。平地に普通で、山間部の道ばたから都会まで、都会ではコンクリートのひび割れ等からも顔を出す。山菜としても利用されている。葉は天ぷらにしたり、茹でておひたしや和え物になり、花の部分は酢の物や吸い物の椀ダネにする。ただし他のスミレ科植物、例えばパンジーやニオイスミレなど有毒なものがあるため注意が必要である。

◇生活する花たち「桃の花蕾・藪椿・梅」(横浜日吉本町)

3月17日(火)

 2011年3月12日長男元結婚
★風なくてふたりの婚は弥生かな  正子
風もなく穏やかな弥生の一日にご長男さまの華燭の典を挙げられたのですね。お二人の前途がいつまでもこの日のように穏やかで幸せなように、と願われるお母様の愛の祈りが真っすぐに伝わってまいります。(河野啓一)

○今日の俳句
明るくて黄水仙生きる喜びに/河野 啓一
黄水仙は、白い水仙に遅れて早春に咲きだす。その鮮やかな黄色い色が元気をくれて、生きる喜びになっている。素晴らしいことだ。(高橋正子)

○白木蓮・白れん

[朝日の白れん/横浜日吉本町(2013年3月17日)]_[夕日の白れん/横浜日吉本町(2013年3月16日)]

★はくれむの翳をかさねて日に対ぬ 亜浪
★はくれむのひたすら白く夜にありぬ 亜浪
★白木蓮に声を呑んだる雀かな 龍之介
★はくれんの散るべく風にさからへる 汀女
★暁の病室白木蓮の舞出でむとす 波郷
★白木蓮に純白という翳りあり/能村登四郎

白木蓮(はくもくれん、学名:Magnolia denudata またはMagnolia heptapeta)は、モクレン科モクレン属。Magnolia(マグノリア)は、18世紀のフランス、モンペリエの植物学教授「Magnol さん」の名前にちなむ。denudataは、 裸の、露出した、という意味。開花時期は、 3/10 ~ 4/10頃。白い清楚な花。花びらの幅が広く、厚みがある。花は上向きに閉じたような形で咲く。全開しない。これが辛夷と違うところ。開花しているときの風景は、白い小鳥がいっぱい木に止まっているように見える。花びらは太陽の光を受けて南側がふくらむため、花先は北側を指す。「つぼみ」の頃は片方にそり返っていることから、「磁石の木」と呼ばれることもある。

◇生活する花たち「紅梅・赤花満作・山茱萸(さんしゅゆ)」(横浜・四季の森公園)

3月16日(月)

★花すもも散るや夜道の片側に   正子
夜の静けさに、らんまんと咲いたすももの花の、雪のようにはらはらと散るさまが美しいかぎりです。夜道の片側にこぼれる、花すもものひそやかな情景に、春の夜の淡く柔らかな空気感も伝わってまいります。(藤田洋子)

○今日の俳句
桃の花馴染みの声の店先に/藤田洋子
桃の花が店に活けてある。店先に馴染みの声が聞こえて、「あら」と思う。桃の花には、気取らない、明るい雰囲気があるので、「馴染みの声の店先に」言ってみるのだ。日常の一こま。(高橋正子)

○辛夷(こぶし)

[辛夷/横浜都筑区緑道ふじやとの道]

★風搏つや辛夷もろとも雜木山/石田波郷
★晴ればれと亡きひとはいま辛夷の芽/友岡子郷
★風の日の記憶ばかりの花辛夷/千代田葛彦
★烈風の辛夷の白を旗じるし/殿村莵絲子
★夕辛夷ドガの少女は絵に戻る/河村信子
★朝のはじめ辛夷の空をみていたり/酒井弘司
★ライオンの柵の中なる花辛夷/小西鷹王
★花こぶし汽笛はムンクの叫びかな/大木あまり

★風に吹かれててんでんばらばら辛夷咲く/高橋信之
★青空の一画を占め辛夷の白/高橋信之
★花辛夷風のあらしに揉まれつつ/高橋正子
★辛夷の花枝ごと揺れて揺るる空/高橋正子

○辛夷の花が咲き始めた。もう、かなり咲いている。近くでは、高田町の丘の畑に立つ大きな辛夷の木が素晴らしい。その丘をバスが走り、バスの窓からその辛夷の木が眺められる。広く、霞に濁る空に、白い辛夷の花が小説の中の世界のように咲いている。
小説や詩を読めば、「辛夷の花」がよく出てくる。しかし、私が生まれた瀬戸内でも、長く住んだ四国でも辛夷の花を見たことはなかった。あるとすれば、松山で最後に住んだ住まいの近くの総合公園にあったぐらいだ。もともとあったのか、植樹されたのかは知らないが。ところが、横浜に引っ越して、白木蓮を見ることは、ごくごく稀になった。辛夷、辛夷と庭にも丘にも、咲いている。私には、堀辰雄のイメージに重なる花だが、夢に見た辛夷の花を、こうも身近に見られるとは。

 コブシ(辛夷、学名:Magnolia kobus)はモクレン科モクレン属の落葉広葉樹の高木。早春に他の木々に先駆けて白い花を梢いっぱいに咲かせる。別名「田打ち桜」。

 白木蓮とこぶしはこの2、3年(2003年~2005年)、デジカメで写真を撮るようになってからその違いに興味を持つようにになリました。はじめは白木蓮とこぶしの区別さえできなかったのですが、観察するようになってから段々にそれぞれの特徴がわかるようになり、そしてその違いを見つけることが面白くなりました。専門家ではないので、植物学的にはおかしなところがあるやもしれませんが、ご容赦ください。またもしアドヴァイス頂けたら嬉しいです。
 個人的な印象を言えば、白木蓮の花は上向きで天に向かって咲き、大きく、上品で優雅で孤高的な感じがします。一方こぶしは横向きに花が咲き、見る人の方に顔を向けてくれているようで、親しみやすく思えます。どちらが好きとか美しいとかいうことは言えないのでは・・・。どちらも冬の終わり(或いは早春)に、まず白木蓮そして次にこぶしが白い花を咲かせて、もうすぐそこに春が来ていることを知らせてくれます。でもその白い花のバックとなる空はまだ冬の真っ青な空で、花の白と空の青がとても美しいコントラストとなって忘れがたいものです。白木蓮とこぶしが咲き終わり、しばらくすると桜が咲きます。その咲く順番がまた絶妙です。桜の花のバックの空はもう春の空そのもので霞がかっていて、真冬の青い空とは違い暖かな印象を与えます。([ゆたかの部屋」より)

◇生活する花たち「シナマンサク・マンサク・猫柳」(東大・小石川植物園)

3月15日(日)

★花丈の揃い真白なシクラメン   正子
シクラメンと言えば紅やピンクと思っていましたが白はたいへん珍しく思います。その白いシクラメンがプランターにでも植えられているのでしょう。思い浮かべて清らかな気持ちになりました。(黒谷光子)

○今日の俳句
下萌えの足裏にやさし池巡る/黒谷光子
池の土手を巡りながら、足裏に柔らかさを感じる。土手はもう下萌えている。足裏より全身に伝わる柔らかさが春の訪れを実感させている。
(高橋 正子)

○山茱萸(さんしゅゆ)

[山茱萸/横浜・四季の森公園]

★山茱萸の黄や街古く人親し/大野林火
★さんしゅゆの花のこまかさ相ふれず/長谷川素逝
★山茱萸にけぶるや雨も黄となんぬ/水原秋桜子
★山茱萸やまばたくたびに花ふえて/森澄雄
★池の辺に山茱萸の色きらめけり/信幸
★ねんねこの児にさんしゅゆの花を見す/高橋正子

「庭のさんしゅゆの木に・・」という民謡があるが、山茱萸という言葉を知ったのは、この歌詞によってである。一体どんな木なのか、それに花がつくのか、皆目知らないままでいた。それが、早春肌寒い風のなかに、鮮烈な黄色い花を咲かせるのを知ったのは、庭師さんが我が家の庭隅に山茱萸を植えてくれてから。花展では、大きな枝を惜しげなく切った大作の花を見ることがある。やはり、外の肌寒い空気に置いてみるのが一番いい。子どもが小さいときには、ねんねこでおんぶしていた。早春は、光があふれてはいるが、風が寒い。ねんねこの子は、いろんなものを見たがって、あちこちおんぶして歩いた。さんしゅゆの花の黄色は子どもの目にも、鮮烈だったようだ。ねんねこでおんぶして歩いたのは、造成中の団地とそのあたり。一山を削り、雛段状の造成地を造る。毎日、図鑑に載っているような珍しい車が作業した。鶯が鳴くのを聞きながら、ねんねこの子は、それを飽きることなく、2時間はゆうに見ていた。私は子をおんぶして、2時間突っ立っていたわけなのだが。山茱萸の花が咲く季節になると、そのことを思い出す。

山茱萸(サンシュユ、学名:Cornus officinalis Sieb. et Zucc.)は、ミズキ目ミズキ科の落葉小高木。ハルコガネバナ、アキサンゴ、ヤマグミとも呼ばれる。季語は春。中国及び朝鮮半島の原産地に分布する。江戸時代享保年間に朝鮮経由で漢種の種子が日本に持ち込まれ、薬用植物として栽培されるようになった。日本では観賞用として庭木などにも利用されている。日当たりの良い肥沃地などに生育する。高さ3-15 mになる落葉小高木。樹皮は薄茶色で、葉は互生し長さ4-10 cmほどの楕円形で両面に毛がある。3月から5月にかけ、若葉に先立って花弁が4枚ある鮮黄色の小花を木一面に集めてつける。花弁は4個で反り返り、雄しべは4個。夏には葉がイラガやカナブンの食害を受ける。晩秋に付ける紅色楕円形の実は渋くて生食には向かない。内部にある種子を取り除き乾燥させた果肉(正確には偽果)は生薬に利用され、山茱萸(やまぐみ)という生薬として日本薬局方に収録されており、強精薬、止血、解熱作用がある。果肉は長さ1.4 cm程の楕円形。牛車腎気丸、八味地黄丸等の漢方方剤にも使われる。山茱萸の音読みが、和名の由来である。早春、葉がつく前に木一面に黄色の花をつけることから、「ハルコガネバナ」とも呼ばれる。秋のグミのような赤い実を珊瑚に例えて、「アキサンゴ」とも呼ばれる。

◇生活する花たち「福寿草・節分草・榛の花」(東京白金台・自然教育園)

3月14日(土)

★真っすぐな日の差すところ蕗のとう   正子
寒さが残るころ、日の差す方に蕗の薹が見えている。蕗の薹を見つけて春がそこに来ていることを喜んでいる詠者です。(祝恵子)

○今日の俳句
初摘みの土筆を持ちて病室へ/祝恵子
入院していれば、季節のもの、戸外のものがうれしい。初摘みの土筆に春が来たことが共に喜べることであろう。(高橋正子)

○オキザリス(カタバミ科カタバミ属)

[オキザリス/横浜日吉本町(2013年3月10日)]_[かたばみ/横浜日吉本町(2011年5月13日)]

★オキザリス雨の茶房に人在らず/中谷朔風
★オキザリス野生育ちの強きこと/豊岡重翁

★石垣の裾に朝日のオキザリス/高橋正子
★雨降りのオキザリスなりみな蕾/高橋正子
★掘り起こされ芋きらめかすオギザリス/高橋正子

 オキザリス(学名:Oxalis corymbosa(紫カタバミ)、Oxalis articulata(芋カタバミ))は、カタバミ科カタバミ属。世界中に800種類以上が分布する植物です。日本にもクローバーとよく間違われるカタバミ〔O.corniculata〕をはじめ、5種ほどが自生しています。花を咲かせて枯れてしまう一年草と、毎年花を咲かせる多年草があります。 球根を作るものや、低木になる種も知られています。世界中の色々な地域に分布しているだけに、地域によって様々な形態や性質をとり、開花期、草姿、花色、大きさなどは様々です。オキザリスだけで一年を途切れさせずに季節ごとに花を楽しむことができそうな気がします。花は筒状で、先端が数枚の花びらに分かれています。花は温度や光に敏感で、つぼみは日が射しているときは開きますが、天気の悪い日や夜は閉じています。また、日が当たっても温度の低いときは開きません。オキザリスの名前はギリシア語で「酸性」を意味するオクシス(oxys)に由来し、葉や茎にシュウ酸を含み酸っぱいところにちなみます。カタバミの葉っぱで10円玉をこすると黒ずみがとれてぴかぴかになるのは、このシュウ酸のせいです。園芸では地中に球根を作る種が主に栽培されており、球根植物として扱われることが多いです。特に南アフリカ原産種が多いです。栽培上は「春植え」と「夏・秋植え」に分けることもあります。
 よく見かけるのは「紫カタバミ」と「芋カタバミ」だが、両者区別しにくい。両者ともピンク色の花びらで、紫カタバミは、花びらの中央がうすいピンク、芋カタバミは、花びらの中央が濃いピンク。花言葉は「喜び、母親の優しさ」。似ている花は、現の証拠、酢漿草(かたばみ)。似ている葉は、白詰草(クローバー)。

◇生活する花たち「桃の花蕾・藪椿・梅」(横浜日吉本町)

3月13日(金)

★春砂をゆきし足跡は浅し   正子
磯遊びなのか?或いは砂浜をお歩きになられたのか?後ろを振り返って見ると足跡の浅さに春の柔らかさを感じ取られたのでしょう。夏は沢山の人達の足跡が交差し賑やかさが有りますが、未だ人影も少なく、渚に打ち返す静かな波の音、さらさらとした美しい浅春の砂浜を想起致します。(佃 康水)

○今日の俳句
包み紙少し濡れいて蕗の薹/佃 康水
蕗の薹を包んでいる紙がうっすらと濡れている。朝早く採られた蕗の薹だろうか。蕗の薹の息吹であろうか。しっとりとした命の、春みずみずしさがある。(高橋正子)

○土佐水木(とさみずき)

[土佐水木/横浜日吉本町]

★土佐みづき山茱萸も咲きて黄をきそふ/水原秋桜子
★峡空の一角濡るる土佐みづき/上田五千石
★重い口開きたるかな土佐水木/遊歩
★大海の荒波見やる土佐水木/かるがも
★花揺らぎ潮の香りや土佐水木/かるがも
★料峭の空気の色に土佐水木/高橋正子

土佐水木(とさみずき、学名:Corylopsis spicata)は、マンサク科トサミズキ属。落葉低木。四国の山中に自生、また庭木とされている高さ2mほどである。高知(土佐)の蛇紋岩地に野生のものが多く見られるため、この名前がついている。また、葉の形がミズキ科の樹木と似てところからミズキといわれている。3-4月に葉に先立って短枝に明るい黄色の花を咲かせ、花穂は長く伸びて7輪前後の花をつける。レンギョウやマンサクと同様、江戸時代から庭木や盆栽、切り花として親しまれている。葉はまるっこい卵円形で、裏面は粉をふったように白っぽく毛がある。実は緑色で、熟すと中から黒い種子が出る。また海外へは19世紀、シーボルトにより紹介された。病害ではうどんこ病、虫害ではカイガラムシ類、テッポウムシなどによる被害がある。日向水木と比べて、一房の花の数が多くて花も大きい。土佐水木の仲間に支那水木がある。

◇生活する花たち「紅梅・赤花満作・山茱萸(さんしゅゆ)」(横浜・四季の森公園)

3月12日(木)

★片寄せに雪の残りて月おぼろ  正子
道路の除雪跡なのでしょうか。地面には片寄せされた雪が残っているけれど、夜空は、もう、おぼろながらも月があらわれ、幻想的な光景が感じられる夜となりました。(高橋秀之)

○今日の俳句
春暁の新しき水仏前に/高橋秀之
春の暁は、華やいだ感じはするが、空気がしんと冷えている。仏前に線香をあげ、汲みたての水をあげる。そこに充足した緊張感が生まれている。(高橋正子)

雪割一華(ゆきわりいちげ)

[雪割一華/東京白金台・自然教育園(2014年3月11日]

★春浅き一華うすうす紫に/高橋信之

雪割一華(ユキワリイチゲ)はキンポウゲ科イチリンソウ属の多年草である。日本固有種である。本州の滋賀県から九州にかけて分布し、林の中や渓流沿いなどに生える。
 「雪割」は早春植物を意味し、「一華」は一茎に一輪の花を咲かせるという意味である。草丈は20から30センチくらいである。根際から生える葉は3小葉からなる。小葉は三角状の卵形でミツバの葉に似ていて、裏面は紫色を帯びる。茎につく葉は茎先に3枚が輪のようになって生える(輪生)。
 開花時期は3月から4月である。花の色は白く、淡い紫色を帯びている。花びらは8枚から12枚くらいである。ただし、花弁のように見えるのは萼片である。花の後にできる実はそう果(熟しても裂開せず、種子は1つで全体が種子のように見えるもの)である。
 花言葉は「幸せになる」である。属名の Anemone はギリシャ語の「anemos(風)」からきている。種小名の keiskeana は明治初期の植物学者「伊藤圭介さんの」という意味である。圭介はオランダ商館のシーボルトのもとで植物学を学んだ。学名:Anemone keiskeana (「花図鑑・雪割一華/龍 2010年3月14日」より)

◇生活する花たち「シナマンサク・マンサク・猫柳」(東大・小石川植物園)

3月11日(水)

★蕎麦に摺る山葵のみどり春浅し   正子
早春の芽吹くものは殆どさみどりのものが多く、暖かい春への希望の色である。しかし時には寒の戻りの寒さもあり、寒暖定まらぬ早春の気候を山葵を通して情趣豊かに詠われた。 (桑本栄太郎)

○今日の俳句
 京都四条~祇園界隈
建仁寺塀の高みの藪椿/桑本栄太郎
建仁寺塀は竹の塀で美しい。丈高く組まれることが多いが、その塀の上に覗く藪椿が自然の様で風趣がある。(高橋正子)

○土筆

[土筆/横浜日吉本町]            [土筆/横浜・四季の森公園]

★土筆煮て飯くふ夜の台所/正岡子規
★土筆摘む野は照りながら山の雨/嶋田青峰
★土筆野やよろこぶ母につみあます/長谷川かな女
★子のたちしあとの淋しさ土筆摘む/杉田久女
★土筆伸ぶ白毫寺道は遠いれど/水原秋桜子
★白紙に土筆の花粉うすみどり/後藤夜半
★土ふかき音もたつなる 土筆摘む/皆吉爽雨
★まま事の飯もおさいも土筆かな/星野立子
★土筆なつかし一銭玉の生きゐし日/加藤楸邨
★山姥の目敏く土筆見つけたり/沢木欣一
★土筆摘む強腰にしてひとりもの/青柳志解樹

 ツクシは、正しくは「杉菜(すぎな)」の胞子茎(ほうしけい)というもので、「付子」とも書く。
 スギナ(杉菜、学名:Equisetum arvense)は シダ植物門トクサ綱トクサ目トクサ科トクサ属の植物の一種。日本のトクサ類では最も小柄である。浅い地下に地下茎を伸ばしてよく繁茂する。生育には湿気の多い土壌が適しているが、畑地にも生え、難防除雑草である。
 春にツクシ(土筆)と呼ばれる胞子茎(または胞子穂、胞子体)を出し、胞子を放出する。薄茶色で、「袴(はかま)」と呼ばれる茶色で輪状の葉が茎を取り巻いている。丈は10-15cm程度。
 ツクシ成長後に、それとは全く外見の異なる栄養茎を伸ばす。栄養茎は茎と葉からなり、光合成を行う。鮮やかな緑色で丈は10-40cm程度。主軸の節ごとに関節のある緑色の棒状の葉を輪生させる。上の節ほどその葉が短いのが、全体を見るとスギの樹形に似て見える。なお、ツクシの穂を放置すると、緑色を帯びたほこりの様なものがたくさん出て来る。これが胞子である。顕微鏡下で見ると、胞子は球形で、2本の紐(4本に見えるが実際は2本)が1ヵ所から四方に伸びている。これを弾糸という。この弾糸は湿ると胞子に巻き付き、乾燥すると伸びる。この動きによって胞子の散布に預かる。顕微鏡下で観察しながら、そっと息を吹きかけると、瞬時にその形が変化するのをみることが出来る。また、「ツクシ」は春の季語である。

◇生活する花たち「福寿草・節分草・榛の花」(東京白金台・自然教育園)

3月10日(火)

★受験子の髪ふっくらと切り揃う   正子
受験子は女の子でしょう。切り揃えた髪が肩の上で揺れます。清潔なたたずまいが浮かんできます。(多田有花)

○今日の俳句
弁当を誰か広げている梅林/多田有花
「誰か」がいい。梅の花を楽しみながら静かに弁当と広げている。静かに日差している梅林を思う。

○ミモザ(銀葉アカシア)

[ミモザ/横浜日吉本町(左:2014年2月28日)・右:2011年3月27日)]

 原義のミモザは、マメ科オジギソウ属の植物の総称(オジギソウ属のラテン語名およびそれに由来する学名がMimosa)。ミモザ(英: mimosa、独: Mimose)は、本来はマメ科の植物であるオジギソウを指すラテン語名。葉に刺激を与えると古代ギリシアの身振り劇ミモス”mimos”(マイム、パントマイムの前身)のように動くことからこの名がついた。ラテン語本来の発音はミモサ、英語発音はマモゥサあるいはマイモゥサとなり、日本語のミモザはフランス語発音に由来する。
 ミモザは、フサアカシア、ギンヨウアカシアなどのマメ科アカシア属花卉の俗称。イギリスで、南フランスから輸入されるフサアカシアの切花を”mimosa”と呼んだ事から。アカシア属の葉は、オジギソウ属の葉によく似るが、触れても動かない。しかし花はオジギソウ属の花と類似したポンポン状の形態であることから誤用された。今日の日本ではこの用例がむしろ主流である。鮮やかな黄色で、ふわふわしたこれらのアカシアの花のイメージから、ミモザサラダや後述のカクテルの名がつけられている。

◇生活する花たち「桃の花蕾・藪椿・梅」(横浜日吉本町)

3月9日(月)

★蕎麦に摺る山葵のみどり春浅し   正子
蕎麦の薬味にしようと山葵を擂る。その淡い緑に、迎えたばかりの春をそっと感じる。清流の音が聞こえてきそうな爽やかさです。(小西 宏)

○今日の俳句
海鳴りを柔らかに聞く春の浜/小西 宏 
春の浜で沖を見やりながら聞く海鳴りは柔らかい。この柔らかな海鳴りに、寒さから解き放たれた春のうれしさが読める。(高橋正子)

○沈丁花

[沈丁花/横浜日吉本町]

★沈丁の四五花はじけてひらきけり/中村草田男
★沈丁やをんなにはある憂鬱日/三橋鷹女
★にはとりの置去り卵沈丁花/皆川盤水
★沈丁の風にころがる鉋屑/高橋将夫
★風下のベンチまた空く沈丁花/木暮陶句郎
★ポストヘの道沈丁の香にも寄り/藤田宏
★沈丁や気おくれしつつ案内乞ふ/星野立子

 日本に栽培されているものは中国原産の常緑灌木で、高さい・5メートルに達し、生垣や庭先に植えられたものが多い。花は内面部が白く、外面が紫がかった桃色で、香気が強い。早春まだうそ寒い頃、または淡雪の下、夜気にこの花が匂うのは印象深い。
赤紫色の蕾が弾けると、内側の白い部分が表れて好対照をなす。うそ寒いころの、その香気が好きなために植えられる花であるかもしれない。砥部の庭にも門脇に一本あった。冷たい空気とともに吸うその香りは、肺深く入りこんで、今年も卒業や旅立ちの季節が来たなと思う。田舎の家の庭先にもよく植えられて、子供の間でも沈丁花が咲いたと話題になった。「じんちょうげ」というあの花くらいの重さの音が今も耳に残っている。

★沈丁の香の澄む中に新聞取る/高橋正子
★雪解けの雪が氷れる沈丁花/高橋正子

 ジンチョウゲ(沈丁花)とは、ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属の常緑低木。チンチョウゲとも言われる。漢名:瑞香、別名:輪丁花。 原産地は中国南部で、日本では室町時代頃にはすでに栽培されていたとされる。日本にある木は、ほとんどが雄株で雌株はほとんど見られない。挿し木で増やす。赤く丸い果実をつけるが、有毒である。花の煎じ汁は、歯痛・口内炎などの民間薬として使われる。
 2月末ないし3月に花を咲かせることから、春の季語としてよく歌われる。つぼみは濃紅色であるが、開いた花は淡紅色でおしべは黄色、強い芳香を放つ。枝の先に20ほどの小さな花が手毬状に固まってつく。花を囲むように葉が放射状につく。葉は月桂樹の葉に似ている。
 沈丁花という名前は、香木の沈香のような良い匂いがあり、丁子(ちょうじ、クローブ)のような花をつける木、という意味でつけられた。2月23日の誕生花。学名の「Daphne odora」の「Daphne」はギリシア神話の女神ダフネにちなむ。「odora」は芳香があることを意味する。花言葉は「栄光」「不死」「不滅」「歓楽」「永遠」。

◇生活する花たち「紅梅・赤花満作・山茱萸(さんしゅゆ)」(横浜・四季の森公園)