6月6日(火)

★夜空あり虚々実々の心太  正子

○今日の俳句
翡翠色潰さず盛りて豆の飯/佃 康水
豆飯の緑は、「翡翠色」というほどきれいだ。その色を保って炊き上げるのも難しく、きれいに炊き上がったときは、大変うれしいものだ。まん丸い翡翠色をつぶさないように、茶碗に装う。目をも楽しませる豆飯は、季節感あふれる食だ。(高橋正子)

○沙羅(しゃら)の花(夏椿)

[沙羅/横浜日吉本町]

★沙羅の花捨身の落花惜しみなし/石田波郷
★咲くよりも落花の多し夏椿/松崎鉄之介
★夏椿思へばそんなやうなひと/行方克巳
★亡き母のものに着替へん沙羅の花/斉藤志野

 夏椿(ナツツバキ、学名:Stewartia pseudocamellia)は、ツバキ科ナツツバキ属の落葉高木。別名はシャラノキ
(娑羅樹)。仏教の聖樹、フタバガキ科の娑羅双樹(さらそうじゅ)に擬せられ、この名がついたといわれる。原産地は日本から朝鮮半島南部にかけてであり、日本では宮城県以西の本州、四国、九州に自生し、よく栽培もされる。樹高は10m程度になる。樹皮は帯紅色でツルツルしており「サルスベリ」の別名もある(石川県など)。葉は楕円形で、長さ10cm程度。ツバキのように肉厚の光沢のある葉ではなく、秋には落葉する。花期は6月~7月初旬である。花の大きさは直径5cm程度で、花びらは5枚で白く雄しべの花糸が黄色い。朝に開花し、夕方には落花する一日花である。ナツツバキより花の小さいヒメシャラ(Stewartia monadelpha)も山地に自生し、栽培もされる。 ナツツバキ属(Stewartia)は東アジアと北アメリカに8種ほど分布する。
 これが夏椿だと最初に意識して見たのは、愛媛県の砥部動物園へ通じる道に植樹されたものであった。砥部動物園は初代園長の奇抜なアイデアが盛り込まれて、動物たちにも楽しむ我々にものびのびとした動物園であった。小高い山を切り開いて県立総合運動公園に隣接して造られているので、自然の地形や樹木が残されたところが多く、一日をゆっくり楽しめた。自宅からは15分ぐらい歩いての距離だったので、子どもたちも小さいときからよく連れて行った。その道すがら、汗ばんだ顔で見上げると、夏椿が咲いて、その出会いが大変嬉しかった。このとき、連れて行った句美子が「すいとうがおもいなあせをかいちゃった」というので、私の俳句ノートに書き留めた記憶がある。緑濃い葉に、白い小ぶりの花は、つつましく、奥深い花に思えた。
 今住んでいる日吉本町では、姫しゃらや夏椿を庭に植えている家が多い。都会風な家にも緑の葉と小ぶりの白い花が良く似合っている。
 植物とは全く違う話だが、まだ夏椿の花を見たことがないとき、かぎ針編みの模様に「夏椿」というのがあって、自分に似合うと思ったのだろう、この模様で製図までしてベストを編んでしばらく着た。

★夏椿葉かげ葉かげの白い花/高橋正子

◇生活する花たち「あさざ・山紫陽花・コアジサイ」(東京白金台・自然教育園)

6月5日(月)

★石楠花のうすくれないも昼下がり  正子
「石楠花」を詠んで、初夏の風景をうまく捉えた。下五に置いた「昼下がり」がいい。その言葉に、作者の個性を読み取ることができる。(高橋信之)

○今日の俳句
青芒ひかり合いつつ野を充たす/小川和子
野一面の青芒を「ひかり合いつつ」「野を充たす」と、動きをもって、いきいきと詠んだ。積極的な視線がいい。(高橋正子)

○昼咲月見草

[昼咲月見草/横浜日吉本町]

★眠られず眠たし昼咲き月見草/佳世子★

ヒルザキツキミソウ(昼咲月見草、学名:Oenothera speciosa)は、アカバナ科マツヨイグサ属の多年生植物。観賞用として栽培されている。草丈は30-60cmくらい。葉は披針形で互生する。5-7月頃に、4-5cmくらいの大きさの、白または薄いピンク色の花を付ける。花弁の数は4枚で、8本の雄蕊と、先端が十字型をした雌蕊がある。北米原産の帰化植物であり、観賞用として輸入・栽培されていたものが野生化している。名称の由来は、宵に咲くツキミソウと違って、昼間にも開花していることによる。

◇生活する花たち「花菖蒲・紫陽花・キスゲ」(横浜・四季の森公園)

6月4日(日)

★明易し畳に二つ旅かばん  正子
夜明けも早くなった夏の朝、部屋の中に二つの旅かばんがある。きっと、これから旅行に行くのであろう、そのうきうきとした楽しさが伝わってきます。(高橋秀之)

○今日の俳句
新緑の重なる先に飛行雲/高橋秀之
新緑のつややかな緑と、空に真っ白に描かれた飛行機雲の色彩的な対比がみずみずしい。(高橋正子)

○紫陽花

[紫陽花/横浜日吉本町]_小紫陽花(コアジサイ)/東京白金台・自然教育園]

★紫陽花や藪を小庭の別座敷/松尾芭蕉
★紫陽花の末一色となりにけり/小林一茶
★紫陽花の花に日を経る湯治かな/高浜虚子
★紫陽花や水辺の夕餉早きかな/水原秋櫻子
★紫陽花や白よりいでし浅みどり/渡辺水巴
★紫陽花の醸せる暗さよりの雨/桂信子
★大輪の紫陽花に葉の大きさよ/稲畑汀子
★里山の結界なせる濃紫陽花/宮津昭彦
★あじさゐや生き残るもの喪に服し/鈴木真砂女
★誓子旧居紺あぢさゐに迎へられ/品川鈴子
★紫陽花の花あるうちを刈られけり/島谷征良
★あぢさゐに触れて鋏のくもりけり/高田正子

紫陽花(アジサイ、学名: Hydrangea、アジサイ科アジサイ属の植物の総称である。学名は「水の容器」という意味で、そのまま「ヒドランジア」あるいは「ハイドランジア」ということもある。また、英語では「ハイドレインジア」と呼ぶ。開花時期は、 6月から7月15日頃。ちょうど梅雨時期と重なる。日本原産。色がついているのは「萼(がく)」で、花はその中の小さな点のような部分。しかしやはり萼が目立つ。紫、ピンク、青、白などいろいろあり。花の色は土が酸性かアルカリ性かによっても。また、花の色は、土によるのではなく遺伝的に決まっている、という説もある。

★妻の浴衣あじさい白く染め抜かれ/高橋信之
★あじさいに七曜またも巡りくる/高橋正子

◇生活する花たち「紫陽花・昼咲月見草・立葵」(横浜日吉本町)

●6月月例ネット句会投句案内●


●6月月例ネット句会投句案内●
①投句:当季雑詠(夏の句)3句
②投句期間:2017年6月5日(月)午後1時~2017年6月11日(日)午後5時
③投句は、下の<コメント欄>にお書き込みください。
※どなたでも投句が許されます。

▼互選・入賞・伝言
①互選期間:6月11日(日)午後6時~午後10時
②入賞発表:6月12日(月)正午
③伝言・お礼等の投稿は、6月12日(月)正午~6月14日(水)午後6時

○句会主宰:高橋正子
○句会管理:高橋信之

6月2日(金)

★八十八夜のポプラに雀鳴きあそぶ  正子
八十八夜と言えば童謡「茶摘み」を思い起こします。この頃は柔らかな日差しと眼にも優しい若葉がそよぎ爽やかな風を心地よく感じられる季節です。また雀たちは日脚の伸びた明るいポプラに何時までもその喜びに囀っていたのでしょう。若葉と囀り、明るさに満ち溢れた夏の近づく音を感じます。また、「鳴きあそぶ」に可愛い雀に対して作者の優しい眼差しをも思われます。 (佃 康水)

○今日の俳句
筍を茹でつつ糠を噴き零す/佃 康水
筍を茹でるとき油断すると灰汁を抜き、柔らかくするために加えた糠が吹きこぼれる。鍋や釜の縁に吹きこぼれた糠がこびりつくこともある。しかし、こういう事に季節の暮らしがある。(高橋正子)

○八十八夜

★磧湯(かわらゆ)の八十八夜星くらし/水原秋桜子
★きらきらと八十八夜の雨墓に/石田波郷
★逢ひにゆく八十八夜の雨の坂/藤田湘子
★旅にて今日八十八夜と言はれけり/及川 貞
★八十八夜都にこころやすからず/鈴木六林男

 八十八夜(はちじゅうはちや)は、雑節のひとつで、立春を起算日(第1日目)として88日目、つまり、立春の87日後の日である。21世紀初頭の現在は平年なら5月2日、閏年なら5月1日である。数十年以上のスパンでは、立春の変動により5月3日の年もある。
 あと3日ほどで立夏だが、「八十八夜の別れ霜」「八十八夜の泣き霜」などといわれるように、遅霜が発生する時期である。一般に霜は八十八夜ごろまでといわれているが、「九十九夜の泣き霜」という言葉もあり、5月半ばごろまで泣いても泣ききれない程の大きな遅霜の被害が発生する地方もある。そのため、農家に対して特に注意を喚起するためにこの雑節が作られた。八十八夜は日本独自の雑節である。
 この日に摘んだ茶は上等なものとされ、この日にお茶を飲むと長生きするともいわれている。茶の産地である埼玉県入間市狭山市・静岡県・京都府宇治市では、新茶のサービス以外に手もみ茶の実演や茶摘みの実演など、一般の人々も参加するイベントが行われる。
 「♪夏も近づく八十八夜…」と茶摘みの様子が文部省唱歌『茶摘み』に歌われている。
昭和7年(1932年)『新訂尋常小学唱歌 第三学年用』

茶摘/文部省唱歌
一、
  夏も近づく八十八夜、
  野にも山にも若葉が茂る。
  「あれに見えるは
  茶摘ぢやないか。
  あかねだすきに菅の笠。」
二、
  日和つづきの今日此の頃を、
  心のどかに摘みつつ歌ふ。
  「摘めよ、摘め摘め、
  摘まねばならぬ、
  摘まにや日本の茶にならぬ。」

○枇杷

[枇杷の実/横浜日吉本町]

★高僧も爺でおはしぬ枇杷を食す 虚子
★青峡の中に一樹の枇杷の鈴 風生
★飼猿を熱愛す枇杷のあるじかな 蛇笏
★枇杷の実の上白みして熟れにけり 石鼎
★降り歇まぬ雨雲低し枇杷熟れる 久女
★枇杷を吸ふをとめまぶしき顔をする 多佳子
★枇杷買ひて夜の深さに枇杷匂ふ 汀女
★枇杷の種赤く吐き出す基地の階 不死男

 枇杷(ビワ、学名: Eriobotrya japonica)は、バラ科の常緑高木およびその果実。中国南西部原産。英語の「loquat」は広東語「蘆橘」(ロウクワッ)に由来する。日本には古代に持ち込まれたと考えられている。またインドなどにも広がり、ビワを用いた様々な療法が生まれた。中国系移民がハワイに持ち込んだ他、日本からイスラエルやブラジルに広まった。トルコ、レバノン、ギリシャ、イタリア南部、スペイン、フランス南部、アフリカ北部などでも栽培される。葉は互生し、葉柄は短い。葉の形は20cm前後の長楕円形で厚くて堅く、表面が葉脈ごとに波打つ。縁には波状の鋸歯がある。花期は11~2月、白い地味な花をつける。花弁は5枚。葯には毛が密に生えている。自家受粉が可能で、初夏に卵形をした黄橙色の実をつける。果実は花たくが肥厚した偽果で、全体が薄い産毛に覆われている。長崎県、千葉県、鹿児島県などの温暖な地域での栽培が多いものの若干の耐寒性を持ち、寒冷地でも冬期の最低気温-10℃程度であれば生育・結実可能である。露地成熟は5月~6月。

 枇杷の実で思い出すことはいろいろある。昔は田舎には、どの家にもというほどではなかったにしろあちこちに枇杷の木があった。雨がちな季節に灯をともすような明るさを添えていた。晩秋、枇杷の花が匂い、小さな青い実をいつの間にかつけて、この実が熟れるのを待っていた。枇杷が熟れると籠いっぱい葉ごともぎ取っていた。おやつのない時代、子どもは枇杷が大好きで沢山食べたがったが、大人から制裁がかかった。衛生のよくない時代、赤痢や疫痢を恐れてのことであった。サザエさんの漫画にもそんな話がある。枇杷を買ってきて、子どもに内緒で夜、大人だけこっそり食べる話。ところが寝ぼけた子どもが起きてきて、急いで食卓の下に枇杷を隠したものの、結んだ口から枇杷の種がポロリとこぼれ、露見するという話。
もうひとつ、童謡に「枇杷の実が熟れるよ、ねんねこ、ねんねこ、ねんねこよ」「枇杷の木がゆれるよ、ねんねこ、ねんねこ、ねんねこよ」という歌詞があった。灯ともすような枇杷の実の色は、幼子をやすらかな眠りに誘うような色だ。
今は、茂木枇杷など、立派で高価な枇杷が果物屋に宝物のように箱に詰められて並んでいる。

★枇杷の実の熟れいろ雨に滲みたり/高橋正子

◇生活する花たち「紫陽花」(北鎌倉・東慶寺)

6月1日(木)

★山あじさい辿れる道をふさぎ咲く  正子

○今日の俳句
早苗積み軽トラックゆく真昼かな/多田有花
田に早苗を運んでゆくのだが、「真昼」の出来事として、しらしらと、うすうすと、光に満ちたさわやかな印象を受ける。(高橋正子)

○植田

[植田/横浜緑区北八朔町(2012年5月30日)]_[植田/横浜緑区北八朔町(2013年5月24日)]

★いとけなく植田となりてなびきをり/橋本多佳子
★鶏鳴のあとのしづけさ植田村/鷹羽狩行
★夕明りして千枚の植田寒/岡本眸
★たつぷりと水面の光る植田かな/辺見狐音
★裏は植田前は大きな日本海/坂上香菜
★通勤の今日より植田道となり/村田文一
★合鴨の入りし植田の賑へり/松元末則
★お札所の森の浮べる植田かな/上崎暮潮
★近江には近江の植田水ひかり/高橋正子
★植田道子が落ちないように連れ通る/高橋正子

◇生活する花たち「蛍袋・時計草・紫陽花」(横浜日吉本町)

5月31日(水)

★木にひたとこげら飛び来て森五月  正子
初夏の森です。こげら(キツツキの一種)が飛んできて、森の木にひたと取りつきました。五月の賑やかな森の作業が始まるのです。愉しい気分に溢れています。(河野啓一)

○今日の俳句
夏潮の青く広きや船の旅/河野啓一
「夏潮」は青さを特徴とするものであるが、「広き」が加わり、船旅の開放感を詠み手にも味あわせてくれる。(高橋正子)

○茄子の花

[茄子の花/横浜日吉本町(2010年6月3日)]_[茄子の花/横浜市都筑区川和町(2013年5月21日)]

★この辺でかみ合ふ話茄子の花/稲畑汀子
★ふだん着の俳句大好き茄子の花/上田五千石
★雨あとの土息づくや茄子の花/松本一枝
★茄子の花茄子に映つてをりにけり/木暮陶句郎

 茄子(なす)は、ナス科ナス属の植物。また、その果実のこと。原産地はインドの東部が有力である。その後、ビルマを経由して中国へ渡ったと考えられている。中国では広く栽培され、日本でも1000年以上に渡り栽培されている。温帯では一年生植物であるが、熱帯では多年生植物となる。日本には奈良時代に、奈須比(なすび)として伝わった。土地によっては現在もそう呼ばれることがある。女房言葉により茄子となった。以降日本人にとってなじみのある庶民的な野菜となった。葉とヘタには棘があり、葉には毛が生えている。世界の各地で独自の品種が育てられている。加賀茄子などの一部例外もあるが日本においては南方ほど長実または大長実で、北方ほど小実品種となる。本州の中間地では中間的な中長品種が栽培されてきた。これは寒い地域では栽培期間が短く大きな実を収穫する事が難しい上に、冬季の保存食として小さい実のほうが漬物に加工しやすいからである。しかし食文化の均一化などにより野菜炒めや焼き茄子など、さまざまな料理に利用しやすい中長品種が全国的に流通している。日本で栽培される栽培品種のほとんどは果皮が紫色又は黒紫色である。しかしヨーロッパやアメリカ等では白・黄緑色・明るい紫、さらに縞模様の品種も広く栽培される。果肉は密度が低くスポンジ状である。ヘタの部分には鋭いトゲが生えている場合がある。新鮮な物ほど鋭く、鮮度を見分ける方法の一つとなるが、触った際にトゲが刺さり怪我をすることがある。収穫の作業性向上や実に傷がつくという理由から棘の無い品種も開発されている。品種によってさまざまな食べ方がある。小実品種は漬物、長実品種は焼き茄子、米茄子はソテー。栄養的にはさほど見るべきものはないが、東洋医学では体温を下げる効果があるとされている。また皮の色素ナスニンは抗酸化作用があるアントシアニンの一種である。なかには、「赤ナス」のような観賞用として生け花などにも利用されているもの(熊本県などで「赤ナス」の商品名で栽培されている食用の品種とは別物)もある。赤ナスは食用のナスの台木としても用いられる(観賞用の赤ナスは味などにおいて食用には適さないとされる)。

 茄子の花は野菜の花のなかでも、句に詠まれることが多い。茄子は、濃い紫の茎、紫の色を残した緑の葉、うす紫の花、そして紫の実とその色合いが少しずつ違って一本となっている。その中で茄子の花の芯は一つ黄色で、そのおかげで花が生きている。夕方、野菜畑に水をやるときには、もっとも涼しそうな花である。

★茄子の花葉かげもっとも涼しかり/高橋正子
★茄子の木にもっとも淡し茄子の花/高橋正子

◇生活する花たち「紫陽花・カルミア・卯の花」(横浜日吉本町)

5月30日(火)

 港の見える丘公園
★薔薇を見しその目に遠き氷川丸  正子
横浜港にほど近い薔薇園のようですね?色とりどりの薔薇の花を愛でた後遠くに目を向ければ、青い海の彼方に氷川丸の白い船体が望まれる・・・。如何にも爽やかな初夏の光景が想起され、好きな句です。 (桑本栄太郎)

○今日の俳句
かしましき程の田道や揚ひばり/桑本栄太郎
田道は しずかに明るく、雲雀を邪魔するものもない。雲雀が野の明るさを謳歌している。(高橋正子)

○茄子の花

[茄子の花/横浜日吉本町(2010年6月3日)]_[茄子の花/横浜市都筑区川和町(2013年5月21日)]

★この辺でかみ合ふ話茄子の花/稲畑汀子
★ふだん着の俳句大好き茄子の花/上田五千石
★雨あとの土息づくや茄子の花/松本一枝
★茄子の花茄子に映つてをりにけり/木暮陶句郎

 茄子(なす)は、ナス科ナス属の植物。また、その果実のこと。原産地はインドの東部が有力である。その後、ビルマを経由して中国へ渡ったと考えられている。中国では広く栽培され、日本でも1000年以上に渡り栽培されている。温帯では一年生植物であるが、熱帯では多年生植物となる。日本には奈良時代に、奈須比(なすび)として伝わった。土地によっては現在もそう呼ばれることがある。女房言葉により茄子となった。以降日本人にとってなじみのある庶民的な野菜となった。葉とヘタには棘があり、葉には毛が生えている。世界の各地で独自の品種が育てられている。加賀茄子などの一部例外もあるが日本においては南方ほど長実または大長実で、北方ほど小実品種となる。本州の中間地では中間的な中長品種が栽培されてきた。これは寒い地域では栽培期間が短く大きな実を収穫する事が難しい上に、冬季の保存食として小さい実のほうが漬物に加工しやすいからである。しかし食文化の均一化などにより野菜炒めや焼き茄子など、さまざまな料理に利用しやすい中長品種が全国的に流通している。日本で栽培される栽培品種のほとんどは果皮が紫色又は黒紫色である。しかしヨーロッパやアメリカ等では白・黄緑色・明るい紫、さらに縞模様の品種も広く栽培される。果肉は密度が低くスポンジ状である。ヘタの部分には鋭いトゲが生えている場合がある。新鮮な物ほど鋭く、鮮度を見分ける方法の一つとなるが、触った際にトゲが刺さり怪我をすることがある。収穫の作業性向上や実に傷がつくという理由から棘の無い品種も開発されている。品種によってさまざまな食べ方がある。小実品種は漬物、長実品種は焼き茄子、米茄子はソテー。栄養的にはさほど見るべきものはないが、東洋医学では体温を下げる効果があるとされている。また皮の色素ナスニンは抗酸化作用があるアントシアニンの一種である。なかには、「赤ナス」のような観賞用として生け花などにも利用されているもの(熊本県などで「赤ナス」の商品名で栽培されている食用の品種とは別物)もある。赤ナスは食用のナスの台木としても用いられる(観賞用の赤ナスは味などにおいて食用には適さないとされる)。

 茄子の花は野菜の花のなかでも、句に詠まれることが多い。茄子は、濃い紫の茎、紫の色を残した緑の葉、うす紫の花、そして紫の実とその色合いが少しずつ違って一本となっている。その中で茄子の花の芯は一つ黄色で、そのおかげで花が生きている。夕方、野菜畑に水をやるときには、もっとも涼しそうな花である。

★茄子の花葉かげもっとも涼しかり/高橋正子
★茄子の木にもっとも淡し茄子の花/高橋正子

◇生活する花たち「紫陽花・カルミア・卯の花」(横浜日吉本町)

5月29日(月)

★蔓ばらの空に咲きたる聖五月   正子
薔薇は明るく華麗な花であり、その咲き方にもいろいろあるようです。なかでも庭園のアーチや大きな家のフェンスなどに昇り咲く蔓ばらの賑わいは、太陽光に満ち満ちた空や風に更なる光を散りばめてくれています。「聖五月」という表現はそんな蔓ばらに似つかわしく輝きます。(小西 宏)

○今日の俳句
段なして植田それぞれ空を持つ/小西 宏
田ごとに空が映つる植田は、目にも涼やかで美しい。早苗の緑と、空の映る田水が段をなしている棚田の風景は、日本の残したい風景。(高橋正子)

○胡瓜の花

[胡瓜の花/横浜市緑区中山町(2012年5月26日)]_[胡瓜の花/横浜市都筑区川和町(2013年5月21日)]

★蝶を追ふ虻の力や瓜の花/正岡子規
★夕鰺を妻が値ぎりて瓜の花/高浜虚子
★生き得たる四十九年や胡瓜咲く/日野草城
★雲ひくし風呂の窓より瓜の花/芥川龍之介
★土蔵もて史蹟としたり瓜の花/富安風生
★瓜咲くや一つになつて村の音/永田耕衣
★肌合いの届くところに胡瓜咲く/成宮颯

胡瓜は、(キュウリ、Cucumis sativus L.)とはウリ科キュウリ属のつる性一年草、およびその果実のことである。かつては熟した実を食用とした事もあったが、甘みが薄いためにあまり好まれず、現在では未熟な実を食用とするようになった。インド北部、ヒマラヤ山麓原産。日本では平安時代から栽培される。胡瓜の「胡」という字は、シルクロードを渡って来たことを意味している。「キュウリ」の呼称は、漢字で「木瓜」または「黄瓜」(きうり)と書いていたことに由来する。上記の通り現代では未熟な実を食べる事からあまり知られていないが、熟した実は黄色くなる。尚、現代では「木瓜」はボケの花を指す。温暖な気候を好むつる性植物。栽培されているキュウリのうち、3分の2は生で食することができる。種子は暗発芽種子である。雌雄異花ではあるが、単為結果を行うため雄花が咲かなくとも結実する。主に黄色く甘い香りのする花を咲かせるが、生育ステージや品種、温度条件により雄花と雌花の比率が異なる。概ね、雄花と雌花がそれぞれ対になる形で花を咲かせてゆく。葉は鋸歯状で大きく、果実を直射日光から防御する日よけとしての役割を持つ。長い円形の果実は生長が非常に早く、50cmにまで達する事もある。熟すと苦味が出るため、その前に収穫して食べる。日本では収穫作業が一日に2~3回行われる(これには、日本市場のキュウリの規格が小果であることも一因である)。夏は露地栽培、秋から初春にかけては、ハウスでの栽培がメインとなり、気温によっては暖房を入れて栽培することもある。しかし、2003年から2008年の原油価格の価格高騰により、暖房をかけてまでの栽培を見送る農家も少なくない。果実色は濃緑が一般的だが、淡緑や白のものもある。根の酸素要求量が大きく、過湿により土壌の気相が小さい等、悪条件下では根が土壌上部に集中する。生産高は2004年、2005年は群馬県が第一位であったが、2006年からは宮崎県が第一位である。

◇生活する花たち「あさざ・山紫陽花・コアジサイ」(東京白金台・自然教育園)

5月28日(日)

★竹落葉わが胸中を降るごとし  正子
竹は初夏に新葉が生じると古い葉を落とす。作者も初夏の気持ちの良い新緑の中で新しい勇気が湧き上がってくる。素敵ですね。 (小口泰與)

○今日の俳句
郭公や牧草ロールおちこちに/小口泰與
心地よい夏の牧場の風景。郭公が鳴き、牧草ロールが遠く、近くに点在する。よい時間が流れている。(高橋正子)

○信之先生誕生日。86歳。
芍薬の花の咲くとき誕生日/正子

○信之から
ネット上で多くの方々からお祝いの言葉をいただいた。嬉しく、また有り難い。

○未央柳(びようやなぎ)

[びようやなぎ/横浜日吉本町]

★彼女眉目よし未央柳をむざと折る/高浜虚子
★水辺の未央柳は揺れ易し/清崎敏郎
★傘ひらく未央柳の明るさに/浜田菊代
★モンローの忘れ睫の美女柳/杉本京子
★胡姫の舞おもはす未央柳かな/富岡桐人

 未央柳は、キンシバイと同じ時期に咲くから、どちらも知らない人には同じ花と目に映るかもしれない。キンシバイは、花が梅の様だし、蕊が長くない。未央柳は、蕊が金色の糸のように長い。絵に描いた美人の長い睫毛とも見える。私が身近で未央柳を見かけるようになったのは、昭和40年代も終わりのころ。日本の景気が上向いて新興住宅団地が開拓され、庭つきの家が売り出された。庭も簡単に設計されて、樫などの裾を隠すために未央柳が植えられているのをよく目にした。住人が好んで植えたようでもない。日吉本町では、公園や公団、小さいビルの根方に植えられている。低木で花が沢山つくので、設計した庭の植え込みには便利がよいのだろう。水と合わせて植えれば、もっと風情がよくなるだろうといつも思う。

★夕映えは未央柳の蕊にあり/高橋正子

 未央柳(ビヨウヤナギ、学名:Hypericum monogynum)はオトギリソウ科の半落葉低木。別名「美女柳(びじょやな)」、「美容柳(びようやなぎ)」、「金線海棠(きんせんかいどう)」。中国原産。唐の長安の宮殿「未央宮」にかかわる名前で、柳の葉に似ていることからだが、これは日本名。中国では金糸桃と呼び、おしべがまさに金の糸。 半常緑性の小低木で、よく栽培されている。花期は6-7月頃で、黄色の5枚の花弁のある花を咲かせる。キンシバイにも似るが、特に雄蕊が長く多数あり、よく目立つ。雄蕊の基部は5つの束になっている。葉は十字対生する。7月14日の誕生花(未央柳、花言葉は「幸い」(未央柳)。

◇生活する花たち「山紫陽花・あさざ・がまずみ」(東京白金台・自然教育園)