6月15日(木)

★朝影のみどりの深き夏ポプラ  正子
鬱蒼と葉を茂らせたポプラの木。清々しい朝日を浴びて緑に一段と深みが感じられます。堂々とした大樹の佇まいが見えてきます。(河野啓一)

○今日の俳句
天と地を結ぶ棚田の早苗かな/河野啓一
早苗を植えた棚田が地から天まで続く。天と地が薄緑の早苗で結ばれた。この発想が大きい。(高橋正子)

○捩花(ねじばな)・文字摺草

[捩花/日吉本町]

★ねじ花をゆかしと思へ峡燕/角川源義
★見えて来る距離見えぬ距離文字摺草/稲畑汀子
★文字摺草ありし辺りへ杖運ぶ/村越化石
★捩花に今年よき年数咲きて/宮津昭彦
★捩花のそよぎ送電塔真下/笹家栄子
★不器用な青春なりし捩り花/岩岡中正
★白く咲くコップの中の捩り花/新妻奎子
★捩花の影は一筋素直なる 藤岡紫水
★捩り花きちんと捩れ自決の地/山田正子

 捩花(ネジバナ)は、ラン科ネジバナ属の小型の多年草。別名がモジズリソウ(綟摺草)。湿っていて日当たりの良い、背の低い草地に良く生育する。花色は通常桃色で、小さな花を多数細長い花茎に密着させるようにつけるが、その花が花茎の周りに螺旋状に並んで咲く「ねじれた花序」が和名の由来である。「ネジレバナ」、「ネジリバナ」、「ねじり草(そう)」とも呼ばれる事もある。学名のSpiranthes(スピランセス)は、ギリシャ語の 「speira(螺旋(らせん))+ anthos(花)」に由来する。花茎から伸びる子房は緑色で、茎に沿って上に伸び、その先端につく花は真横に向かって咲く。花茎の高さは10-40 cm。 花は小さく、5弁がピンク、唇弁が白。花のつく位置が茎の周りに螺旋状であるため、花茎の周りにピンクの花が螺旋階段のように並ぶことになる。この螺旋は右巻きと左巻きの両方が見られる。白花や緑色の個体もしばしば見られる。コハナバチのような小形のハナバチなどが花粉塊を運んで他花受粉が起こると考えられるが、長期にわたって花粉塊が運び去られないと、これが崩壊して柱頭に降りかかり、自家受粉を成立させることが知られている。開花時期は4-9月。葉は柔らかく厚みがあり、根出状に数枚つける。冬期は楕円形だが生育期間中は細長く伸びる。根は極めて太短く、細めのサツマイモのような形で数本しかない。ごく稀に真っ白い花をつける個体(シロネジバナ)が見られ、園芸愛好家に特に好まれる。日本全土[7]、ヨーロッパ東部からシベリアにかけて、温帯・熱帯アジア全域、オセアニアなどに広く分布する。ラン科ではめずらしく、芝生や土手、都市公園等の人間の生活圏に近い所で普通に見ることができる。この為、ともすれば花の綺麗な雑草として扱われ、芝刈り機で刈り取られてしまう。他方、その花の可愛らしさから、昔から愛でられ、愛好家主催の展示即売会等で、山野草として販売される事もある。昭和の終わり頃、当時の野生ランブームの中で管状の葉や斑入りなどの変異個体を収集するのが流行したが、後述のように単独栽培や株分けによるクローン増殖が困難なこともあって、ごく一部を除いて保存されていない。

 もじずり草は、「湿っていて日当たりの良い、背の低い草地によく生育する」ということであるから、こういう土地は、生活圏の思わぬところにある。田圃が埋め立てられて住宅地とされる場合が多いが、そういった団地などのクローバーや芝生のなかにもじずり草がよく咲いている。愛媛の砥部に住んでいたときは、家の裏手の遊歩道に、ぽつぽつと咲いていた。日吉本町では、近くのUR機構の公団の広場に一面に咲いている。この一面に咲く花を踏まないよう写真を撮りながら歩いていると、団地の老婦人が、何があるのかと声をかけてくることがある。「もじずり草ですよ。ねじばなですよ。」というが、「何のことだか。」と言う表情を返してくる。多くの住人は気付いて居ないのかもしれないが、それこそ一面に咲いているのである。もちろん、かわいらしい。盆栽風に鉢植えにして身近に置けば、可愛いだろう。

★もじずりの抜き出し草もみな低し/高橋正子
★もじずりの螺旋しっかり空へ巻く/高橋正子

◇生活する花たち「紫陽花・立葵・百日草」(横浜・四季の森公園)

6月14日(水)

★朴の花栃の花見てゆたけしや  正子
朴の花を見、そして栃の花を見て、見た目の景色だけでなく気持ちもゆったりして、広々としているのだと感じます。(高橋秀之)

○今日の俳句
植田水夕暮れの陽は真ん丸く/高橋秀之
植田に映る「夕暮れの陽」が、「真ん丸く」、おだやかで、まだ明るい夕暮れの情感をよく詠んでいる。「夕暮れの陽」、「真ん丸く」は、言葉より心が優先されていてよい。(高橋正子)

○百合

[鉄砲百合/横浜日吉本町]

★山百合を捧げて泳ぎ来る子あり/富安風生
★夜を徹す百合の香にあり書き継げり/岡本眸
★一月の百合を捧げて祈りけり/稲畑汀子
★いよよ咲く百合よ歓喜の蘂放ち/林翔
★百合といふ百合が鉄砲百合の島/宮津昭彦

 百合は、ユリ目ユリ科のうち主としてユリ属(学名:Lilium)の多年草の総称である。属名の Lilium はラテン語でユリの意。アジアを中心にヨーロッパ、北アメリカなどの亜熱帯から温帯、亜寒帯にかけて広く分布しており、原種は100種以上を数える。 山岳地帯を含む森林や草原に自生することが多いが、数種は湿地に自生する。L. arboricolaは唯一の着生植物である。 一般的に、石灰質でない弱酸性の土壌を好む。代表的な種に、ヤマユリ、オニユリ、カノコユリ、ササユリ、テッポウユリ、オトメユリなどがある。鱗茎(球根)を有する。茎を高く伸ばし、夏に漏斗状の花を咲かせる。欧米ではユリの品種改良の歴史は新しく、19世紀に日本や中国からヤマユリやカノコユリなどの原種が紹介されてからである。日本では、江戸時代初期からスカシユリが栽培されてきた。現在ではさまざまな色や形の品種が作り出され、世界中で愛されている。
 子どものころは、百合と言えば梅雨の走りのころから咲く白い鉄砲百合と夏休みに咲く赤い鬼百合の二つであった。今はカサブランカのような豪華な百合やさまざまな色のすかし百合の仲間がたくさんあるようである。昭和30年代だったと思う。父が前の畑に百合の花を売るために植えた。そのころは売る花は菊に限って農家が栽培していたようだが、父は鉄砲百合に挑戦して、うまく咲かせた。蕾のときに切り取られるが、白がかった緑色の蕾と鋏で切り取る音が目に耳に残っている。咲いてしまった花は学校に持っていった。鉄砲百合の花は生活の花となっていた。
 もう7,8年前になるだろうか。瀬戸内海が遠くみえる松山のマンションのベランダでカサブランカを育てた。その芽は、筍ほどで、百合の芽とは思えなかった。たしかにカサブランカの花であった。
 夏休みのころ咲く赤い百合は、すぐ前の伯父の家にあって、垂らした簾に似合っていた。冷房もない時代、それも涼しい景色だった。旅をすれば、切通しのがけなどに白い百合が咲いている。白百合は、清純さの代表ともなって、祈りの花としても欠かせない。 
  富士登山のとき・河口湖
★白百合のまばらに咲いて富士裾野/高橋正子

◇生活する花たち「あさざ・山紫陽花・コアジサイ」(東京白金台・自然教育園)

6月13日(火)

★額あじさい雪崩れてついに水に触る   正子

○今日の俳句
緑陰の途切れるところ頂に/多田有花
山の登り始めは木々が茂りあう道から始まる。体も緑に染まりそうなくらいの緑陰となって、延々と道は続くのだが、その緑陰がとぎれるところに出た。そこが頂上だったわけで、頂上を目指すというのではなく、登り至れば頂上だった、というのがさっぱりしている。(高橋正子)

○かたばみ

[かたばみ/横浜日吉本町]_[芋かたばみ/横浜日吉本町]

カタバミ(酢漿草、片喰、学名: Oxalis corniculata)は、カタバミ科カタバミ属の多年草。花言葉は「輝く心」である。葉は、ハート型の3枚がとがった先端を寄せあわせた形。三出複葉だが、頂小葉と側小葉の区別はつきづらい。地下に球根を持ち、さらにその下に大根の様な根を下ろす。葉は球根の先端から束に出る。この他、匍匐茎をよく伸ばし、地表に広がる。このため、繁殖が早く、しかも根が深いので駆除に困る雑草である。春から秋にかけ黄色の花を咲かせる。花びらは5弁。果実は円柱状で先がとがり、真っ直ぐに上を向いてつく。成熟時には動物などが触れると、自ら赤い種子を勢いよく弾き出す。最大1m程度までの周囲に飛ばすことができることも繁殖に有利となっている。葉や茎は、シュウ酸水素ナトリウムなどの水溶性シュウ酸塩を含んでいるため、咬むと酸っぱい。シュウ酸は英語で oxalic acid というが、カタバミ属 (Oxalis) の葉から単離されたことに由来する。また、葉にはクエン酸、酒石酸も含まれる。カタバミ属の植物をヒツジが食べると腎臓障害を起こすとの報告がある。ヤマトシジミの幼虫が食草とする。

◇生活する花たち「蛍袋・時計草・紫陽花」(横浜日吉本町)

6月12日(月)

 東京幡ヶ谷
★下町の空に乾ける子の白シャツ  正子
明るく晴れた夏空のもと、下町ならではのあたたかみのある風景を思い浮かべます。からりと乾く白シャツの清潔感、清々しさに、親元を離れ、下町で暮らすわが子への親としての思いが感じ取れます。 (藤田洋子)

○今日の俳句
紫陽花にきれいな山の風が吹く/藤田洋子
梅雨入りしたばかり。ときに、山には涼しく透明な、さらっとした風が吹く。それが「きれいな風。」紫陽花をさわやかに、軽やかにしている。(高橋正子)

○萱草(カンゾウ)の花・忘草(わすれぐさ)

[藪萱草/横浜・四季の森公園]       [野萱草/横浜日吉本町]

★萱草の花とばかりやわすれ草/来山
★切かけし椋のくさりやわすれ草/百萌
★生れ代るも物憂からましわすれ草/夏目漱石
★萱草の一輪咲きぬ草の中/夏目漱石
★萱草も咲いたばつてん別れかな/芥川龍之介
★安達太良の梅雨も仕舞や甘草花/前田普羅
★大岩に萱草咲きぬ園の口/富安風生
★甘草を折つて帰れる裏戸かな/山口青邨

 萱草の花は、百合の花に似ていて、「kanzo」という音は花の姿にふさわしくないと思う。中国から生薬として伝播したのこともあって、そのように呼ばれるのだろう。梅雨のころ、ちょっと田舎びたところを歩いていると、遠くにオレンジ色がかった黄色い花が草の中や、青葉の下陰に見つかる。山裾の藪のような草の茂みにもある。梅雨の雨の中、青葉の下で、強烈な印象である。だから、薬になるのかと思う。この花を見れば、いつも似た花のニッコウキスゲやユウスゲの花を思う。思考がそのようにシフトする。萱草の花はリアリストで、キスゲの花はロマンチストという印象だ。高原を渡る風に咲き競うニッコウキスゲは、下界をわすれさせてくれそうだし、夕方から咲くユウスゲも高原で出会えば、どんなに素敵な夢が見られるかと思う。似た花の八重の藪萱草は、自分の姿を見るようで、なんだか、落ち着いて見ておれないのが常だ。

★風よりも萱草の花かがやきぬ/高橋正子
★萱草の花に凋みしきのうの花/高橋正子

 野萱草(ノカンゾウ)は、ユリ目ユリ科ワスレグサ属の多年草。夏、日本全国の野原の湿った場所で、花茎の先に橙色の一重の花を咲かせる。ワスレグサ(忘れ草)の変異体で、他のワスレグサ属の花と同様、一日花ですので朝咲いて夕方には萎びます。花の色には濃淡があり、赤みがかかっているものはベニカンゾウ(紅菅草)と呼ばれます。葉は細長く弓なりに曲がります。花や若葉、芽は食用となり、全草及び蕾を乾したものは金針菜という生薬になります。似た花に、八重咲きのヤブカンゾウ(藪萱草)、高原で黄花を咲かせるニッコウキスゲ(日光黄菅)、夕方から咲くユウスゲ(夕菅)などがあります。草丈は70~90cm、開花期は7~8月、花弁は6枚。歳時記での季語は、「萱草(カンゾウ)の花」、「忘草(わすれぐさ)」。

◇生活する花たち「紫陽花・立葵・百日草」(横浜・四季の森公園)

■6月月例ネット句会/入賞発表■


■2017年6月月例ネット句会■
■入賞発表/2017年6月12日

【金賞】
★光る水受けて芒種の田一枚/多田有花
芒種は、現行歴では24節季の5月節の第一日目をいう。今年は6月5日。麦の刈り入れや、稲の植え付けをするころで、天候では、蒸し暑くなって、梅雨入りするころである。晴天であれば、強い太陽が水を光らせて田に落ちる。田一枚とあるので、光り落ちる水と、それを受ける平らな田水が立体的構成をなして面白い。(高橋正子)

【銀賞/3句】
★枇杷熟れて雲間に空の青澄める/柳原美知子
枇杷の熟れるころ、空には雲が多いが、雲間からのぞく青空は、夏そのものの澄んだ青さだ。枇杷と、雲と、空の青が油彩のように美しい。(高橋正子)

★ちんどんやクラリネットは夏空へ/祝 恵子
ちんどんやは、今では大道芸のような存在になっているが、開放的な夏空へ向かって吹くクラリネットの音色がノスタルジック。「夏空へ」の開放感がたまらなくいい。(高橋正子)

★蛍見に田水明りの山里へ/藤田洋子
四国で暮らしていたころは、夕飯を早めに済ませて、すぐ裏を流れる山川の橋の袂へ子供たちと蛍を見に行った。そこから少し奥へ行けば本当に山里になるが、その光景を思い出した。田に水が張られ、夕方の「田水明かり」に里は一層静かになる。ふっと蛍が火をともす。乱舞することもある。抒情のある句。(高橋正子)

【銅賞/3句】
★包みたる濡れ新聞の夏の鯉/小口泰與
水が滴りそうな濡れた新聞紙にぴちぴちした鯉が包まれている。獲ったばかりの鯉のいただきものであろう。「鯉のあらい」となって涼しげに登場するのだろう。(高橋正子)

★張り紙の矢印の先ツバメの巣/高橋秀之
張り紙があって、矢印が描いてある。その先にツバメの巣がある。矢印の意味は言葉以上に物語って微笑ましい。ツバメをあたたかく見守る心に人はほっと心和む。(高橋正子)

★時の日やひっくり返せる砂時計/廣田洋一
6月10日の「時の日」。時の日に砂時計をひっくり返すのも何かの意味がある。「時」について考えればきりがない。デジタル化された時、文字盤の長針短針が示す時、もっと原初に近づいて砂時計の砂の落ちる間の時、哲学的時、物理学的時などと。(高橋正子)

【高橋信之特選/8句】
★青梅も蕗もみどりよ夜の厨/高橋正子
「みどり」がいい。夏の夜の厨を見事に詠んだ。主婦ならではの佳句。 (高橋信之)

★青梅を沈める水のゆらぎけり/高橋正子
主婦ならではの、いい観察だ。主婦の生活から生まれた名句と言ってよい。(高橋信之)

★ちんどんやクラリネットは夏空へ/祝 恵子
作者の見た風景が明らかに読み手の眼に浮かぶ。都会の夏の風景がいい。都会の抒情が読み手に快く届いてくる。 (高橋信之)

★包みたる濡れ新聞の夏の鯉/ 小口泰與
「濡れ新聞」がいい。「夏」の季節感がいい。 (高橋信之)

★張り紙の矢印の先ツバメの巣/高橋秀之
★時の日やひっくり返せる砂時計/廣田洋一
★枇杷熟れて雲間に空の青澄める/柳原美知子
★青梅の紅刷くものの転がりぬ/高橋正子

【高橋正子特選/8句】
★光る水受けて芒種の田一枚/多田有花
田植が始まり、稲作には欠かせない「芒種」の頃。水を張る田一枚の輝きに、季節の節目を迎えての喜び、晴れやかな明るさが感じ取れます。(藤田洋子)

★蛍見に田水明りの山里へ/藤田洋子
昨日蛍を見に行く予定が崩れて残念。蛍見学の情景がよく見える。 (満天星)

★玉苗のずらりと置かれ水満々/柳原美知子
苗代より採られた玉苗が、水を満々と満たした代田に配られ、愈々田植え直前の光景である。玉苗との季語が良く働き、豊かな水と共にまさに豊穣の日本の原点がここにある。(桑本栄太郎)

★満ちみちて棚田の水や時鳥/小口泰與
里山の長閑な田植え前の一時が、時鳥の声に励まされるようです。 (祝恵子)

★噴水の雀の羽を濡らしをり/谷口博望(満天星)
噴きあがる噴水の勢いや飛沫に飛び立つ雀の動きが見てとれるようです。飛沫に濡れてきらめく雀の羽も清々しく、本格的な夏を前に清涼感あふれる光景です。(藤田洋子)

★包みたる濡れ新聞の夏の鯉/小口泰與
★張り紙の矢印の先ツバメの巣/高橋秀之
★ちんどんやクラリネットは夏空へ/祝 恵子

【入選/6句】
★せせらぎへ指差す先の初蛍/藤田洋子
幼子を囲み初めて見せる蛍でしょうか。せせらぎの音と幻想的な蛍火の闇に包まれて、家族の穏やかで平和な至福のひとときが思われます。(柳原美知子)
せせらぎの方に何かを見つけて指をさすとその先には今年の初蛍が飛んでいる。蛍の夕べは気持ちいい季節です。 (高橋秀之)

★夏風邪にソーダ水の缶冷たし/高橋句美子
夏風邪の手に持つソーダ水の缶、夏風邪の身なればこその、冷やされた缶の感覚がよく伝わります。長引く夏風邪にどうぞお気をつけて。 (藤田洋子)

★桑の実や母の無き子に甘く熟れ/桑本栄太郎
どこか郷愁を誘う桑の実。初夏に色付き実を結ぶ桑の実の甘さに、お子さまへ向けられる優しい心情がうかがえ、心温まります。 (藤田洋子)

★渓流の白銀の水夏木立/ 小口泰與
渓流に太陽の陽を受けて白銀に光る水と緑いっぱいの夏木立が涼し気な雰囲気を醸し出してくれます。 (高橋秀之)

★石畳の間にどくだみの真っ白い花/ 高橋句美子
★さらさらと葉より色のせ紫陽花の絵/祝 恵子

■選者詠/高橋信之
★夏座敷男三代健やかに
吹き抜ける風も心地よい夏座敷に男達三代が集まっている素晴らしい景が見えています。仲の良い素敵なご家族ですね。 (小口泰與)

★初夏健やかに子が居て孫がいて
三代揃って、本当に健康で明るい家庭が見えてくる。(廣田洋一)

★わが前を孫歩きいて初夏の風
孫が歩いている様子を後ろから見つめている愛情の気持ちと気持ちよい初夏の風がマッチングして、微笑ましく、そして爽やかな気持ちにさせてくれます。 (高橋秀之)

■選者詠/高橋正子
★青梅も蕗もみどりよ夜の厨
★青梅の紅刷くものの転がりぬ
★青梅を沈める水のゆらぎけり

■互選高点句
●最高点(5点)
11.光る水受けて芒種の田一枚/多田有花

※集計は、互選句をすべて一点としています。選者特選句も加算されています。
(集計/高橋正子)
※コメントのない句にコメントをお願いします。

■6月月例ネット句清記


■6月月例ネット句清記
2017年6月11日
12名36句 

01.大海の浪に乗り居りあめんぼう
02.天王山逆さ青嶺の車窓かな
03.桑の実や母の無き子に甘く熟れ
04.初浴衣の露店巡りやお稲荷さん
05.噴水の雀の羽を濡らしをり
06.人だかりの原爆ドーム青鷺来
07.満ちみちて棚田の水や時鳥
08.包みたる濡れ新聞の夏の鯉
09.渓流の白銀の水夏木立
10.晴天の続くこのごろ芒種かな

11.光る水受けて芒種の田一枚
12.にわか雨何度も梅雨入のゴルフ場
13.張り紙の矢印の先ツバメの巣
14.梅雨入りの日の事務所に傘並ぶ
15.真っ青に広く大きく夏の空
16.時の日やひっくり返せる砂時計
17.空梅雨や如雨露の水を降らせたり
18.水馬や小魚の影踏みており
19.花菖蒲池に目をやる男の子
20.ちんどんやクラリネットは夏空へ

21.さらさらと葉より色のせ紫陽花の絵
22.蛍見に田水明りの山里へ
23.点るたび蛍の葦辺声上がる
24.せせらぎへ指差す先の初蛍
25.玉苗のずらりと置かれ水満々
26.梅雨に入る板間に飼い猫伏しおりて
27.枇杷熟れて雲間に空の青澄める
28.青梅も蕗もみどりよ夜の厨
29.青梅 の紅刷くものの転がりぬ
30.青梅を沈める水のゆらぎけり

31.石畳の間にどくだみの真っ白い花
32.ふわふわと靄につつまれアイスクリーム
33.夏風邪にソーダ水の缶冷たし
34.夏座敷男三代健やかに
35.初夏健やかに子が居て孫がいて
36.わが前を孫歩きいて初夏の風

※互選を始めてください。
5句選をし、そのうち一句にコメントをお願いします。

6月11日(日)

★バスの後ろ揺らし入りゆく青山河  正子
九十九折の山道を懸命に登っていくバスの姿と青葉若葉が生い茂る初夏の素晴らしい山の景色との素晴らしい対比。上り詰めたバスも青葉若葉の中でほっと一息つけることでしょう。(小口泰與)

○今日の俳句
伽羅蕗や子供ら帰省する事稀に/小口泰與
子供たちもそれぞれ家庭をもって、日常に忙しく、帰省も稀になった。みんなで囲む色どり豊かな食卓から、夫婦二人の食卓に。質素で、味わい深い伽羅蕗がそんなことを思わせる。(高橋正子)

●四季の森公園(2016.6.11)

白菖蒲白といういろたっぷりと     正子
満目の菖蒲白とむらさきと       正子
野萱草みどりの草浮く赤さ       正子
梅雨晴れに山の小鳥の名を知らず    正子    

○青梅

[青梅/横浜緑区寺山町]_[青梅/横浜日吉本町]

★青梅に眉あつめたる美人哉/与謝野蕪村
★溝またぎ飛び越えもして梅落とす/高浜虚子
★青梅や小房ながら清浄に/大谷句佛
★青梅を洗ひ上げたり何の安堵/細見綾子
★青梅を齧る子に道たづねけり/大串章

 店頭にも青梅が並ぶ季節になった。梅酒用の瓶と、氷砂糖と、ホワイトリカーと店頭に並べてあると、今年も梅酒を作りたくなる。毎年わが家では梅酒を作っている。多量に飲まないから、ひと瓶でいいのだが、一か月ほど前から去年のものを飲み始めた。青梅1キロに、ホワイトリカー一升(教わった時の習慣で一升と覚えている)、氷砂糖を800グラム入れている。甘いかなと思うが、普通氷砂糖は1キロなので、8割としている。私は風邪をひくと熱が下がるに従って咳が出始めなかなか止まらなくなる。最近、偶然なにかの本で読んで、梅酒は咳にも効くとあったので、寝る前薄めて飲んだら、たまたまなのか、咳き込むような咳が翌朝には止まった。本当に助かった。
 梅干しは紀州から取り寄せたものを毎年お中元、お歳暮と長らく頂いて過ごしていたので、作らなくなって、今は買うばかりである。私が作ったのはこれまでで一度だけ。生家では、梅干しを買うことなど考えられなかった。梅干し用に摘んだ梅が土間の籠に入れられて、昼夜いい香りを放って食べたいほどであったが、根拠は知らないが、これは、ひどい腹痛を起こすので食べてはいけないと言われていた。先日97歳で亡くなった母は結構大量に梅干しを甕につけていた。茶色い釉に、たらりと黒い釉を模様に垂らした例の甕である。だれがあれほどの梅干しを食べていたのかと今は思うのだが。梅雨が明けると、土用干しと言って梅干しを筵に広げて日に当てて、それから紫蘇と漬けこまれた。赤紫蘇ももちろん畑で育てていて、子どもは紫蘇の葉をむしる手伝いをした。赤紫蘇が出来るのを待って入れているような気もした。梅干し、味噌、たくあん作りは、年中行事のようでもあった。

★青梅の土間に昼夜を匂いけり/高橋正子
★青梅の瓶にしずまる夜の青さ/高橋正子
★青梅のなかの熟れたる梅匂う/高橋正子

 梅干し(うめぼし)とは、ウメの果実を塩漬けした後に日干しにしたもので、漬物の一種である。日本ではおにぎりや弁当に使われるなど身近な食品である。なお、梅干しがシソで赤く着色されるようになったのは江戸時代になってからとされる。梅干しは健康食品としても知られる。
 酒(うめしゅ)は、一般的に6月頃に収穫される青梅を、蒸留酒(ホワイトリカー、焼酎が一般的)に漬け込むことで作られる混成酒(アルコール飲料)である。家庭でも作れることから、古来より民間で健康に良い酒として親しまれており、近年では食前酒としても飲まれている。日本では、果実酒である事から酒税法によって、日本酒やみりんなどのアルコール度数が20度未満の酒で作る事は違法であり禁止されている。

◇生活する花たち「あさざ・山紫陽花・コアジサイ」(東京白金台・自然教育園)

6月10日(土)

★祭笛山あじさいも街中に  正子

○今日の俳句
トマトの芽つんでは青き香を散らす/祝恵子
「散らす」がこの句を生きいきとさせ、実際に、「青き香」が読み手まで届くようだ。トマトの青き香に夏らしい清々しさがある。(高橋正子)

○とまとの花

[とまとの花/横浜・四季の森公園]____[とまとの花/横浜日吉本町]

6月9日(金)

★蛍ぶくろ霧濃きときは詩を生むや  正子
蛍袋は白や紫の釣鐘状の花が下向きに咲き、その奥ゆかしい姿はとても美しく山野草としても愛される花です。また名前から来るイメージ、まして濃き霧の中にうっすらと咲いていれば尚更に詩を生む情景が整い、御句に豊かな詩情を感じます。 (佃 康水)

○今日の俳句
早苗田に母屋どっしり映さるる/佃 康水
母屋の傍から田が広がる。田植えが済んだ田には、早苗の影ばかりではなく、母屋のどっしりと建物が映っている。田植えの後の安堵と、秋の実りが約束されている明るさがある。(高橋正子)

○花菖蒲

[花菖蒲/横浜・四季の森公園]

6月8日(木)

★祭笛山あじさいも街中に  正子
6月に入り、早いところでは夏祭りの準備も始まり笛の音が風に乗って聞こえてくるようになりました。おりしも街では山アジサイの花がちらほらみられるようになってきました。薄紫や薄水色に、門ごとにそれぞれのいろあいをきそっています。この時季の季節感に溢れた嬉しい景が目に浮かびます。(河野啓一)

○今日の俳句
射干の咲いて空には雲もなし/河野啓一
射干(ひおうぎ)は、葉が檜扇に似て、橙色に斑のあるこじんまりと品のある六弁花を開く。雲もない夏空に、日本的な射干の花の色が印象的である。(高橋正子)

○夏茱萸(なつぐみ)

[夏茱萸/横浜日吉本町]_[梅桃(ゆすら)/横浜日吉本町]

★夏茱萸の爛々として墓の上/津沢マサ子
★夏茱萸や妻の居ぬ日はものぐさに/村沢夏風
★夏茱萸や昔は子沢山なりし/青柳志解樹
★夏茱萸を含めば渋き旅愁かな/村岡黎史
★取る人のなき夏茱萸のこぼれ落つ/五十島典子
★小ちさき手に夏ぐみ数個のせて来し/TAKAKO
★降りだしてこの夏茱萸の千の揺れ/茜

 夏茱萸(なつぐみ、学名:Elaeagnus multiflora form. orbiculata)は、トウグミと同様にElaeagnus multifloraの変種とされ、日本固有種です。基本種は東アジアに分布しているとされています。高さ2m~4mほどになる落葉低木です。樹皮は褐色で、老木では縦に不規則に剥がれおちます。
 春に淡黄褐色の花を葉腋に比較的多くつけます。花はやや下垂し、基部は筒型で先端に4枚のガク片がつきますが、4裂しているように見えます。花径は1cmほどです。葉は、葉先が鋭三角形状の広楕円形で、幅4cm前後、長さ8cm前後で、葉の縁はやや波打ちますが全縁(葉の縁のギザギザはない)です。葉の表面には鱗状毛があり、葉裏には銀色の鱗状毛が密生し、赤褐色の鱗状毛が混じるので、淡褐色に見えます。グミの仲間(グミ属)では普通ですが、葉裏が淡褐色や黄褐色です。果実は、両端が丸い円筒形で長さ1.5cm前後です。初夏に赤く熟して食べられます。北海道南部、福島県から静岡県の太平洋側に分布します。多摩丘陵では、自生のものは稀で、人家周辺に時々植栽されています。
 「グミ」の名は、漢名「茱萸子」からきているようです。「茱萸」を日本語読みしたもののようですが、はっきりとはしていないようです。「夏」は、初夏に果実が熟すことからです。
 万葉集を始め多くの歌集や文芸等にはその名は現れていないようです。平安時代の「倭名類聚抄」に「和名 久美」として現れているとのことです。江戸時代の「本草綱目啓蒙」などにその名が現れています。
 果実は美味しく古くから食用にされています。有毒であるという報告も薬用にするという報告もないようです。
 多摩丘陵には、この仲間(グミ属)では、以下のように、落葉樹であるこのナツグミとトウグミ、常緑樹であるナワシログミとツルグミを確認していますが、分布域的には可能性がある落葉のアキグミは未確認です。全て花や果実は似ていて葉裏も淡褐色から黄褐色で似ています。葉には多少の違いがありますが、変異もあるので葉だけでの区別は慣れないと結構困難です。多摩丘陵ではいずれも個体数は少なく、なかなか出会えません。
 このナツグミとトウグミは、とてもよく似ていて区別は大変困難です。植物学的にはナツグミでは葉の表面に鱗状毛があるのに対して、トウグミでは(若い)葉に星状毛があることで同定します。一般には、トウグミではナツグミよりも花や実つきがよいことで区別します。トウグミの果実はナツグミよりもやや大きいのですが見た目での判断は困難です。トウグミは、花や実付きがよく、果実もやや大きいので当初は中国などから持ち込まれた種であると考えられたために「唐グミ」と名づけられています。
他の常緑の2種では、葉がやや厚くてやや硬いことで区別できます。また、ナツグミやトウグミでは花期は春ですが、ナワシログミやツルグミでは花期が秋です。果期は、ナワシログミは初夏ですが、ツルグミでは春です。
 ナワシログミは、常緑で葉はやや厚くて硬く、小枝がトゲ状になっていることが特徴です。また、葉は葉先が鈍三角形状の長楕円形で葉縁が波打つことでも区別できますが、慣れないと困難です。花期も秋です。
 ツルグミは、茎がツル状に長く伸びて他物に寄りかかるようになるのが特徴です。葉は、やや厚くてやや硬く、葉先が長い三角形状です。花期は秋です。
 アキグミでは、花期は春ですが、果実が赤熟するのは秋です。また、果実が小さな球形(径7mm前後)なので容易に区別できます。

◇生活する花たち「岩タバコ・雪ノ下・夏萩」(北鎌倉/東慶寺・円覚寺)