2月24日(日)

★青空の果てしなきこと二月なる   正子
二月は少し暖かくなっては冴返るという日々が続きます。これは冴返った日の青空ではないでしょうか。厳しい寒さが空を澄み渡らせます。それでも青空に満ちる光は明るく間違いなく春が一歩ずつ進んでいることを実感します。(多田有花)

○今日の俳句
汲まれたる桶それぞれの薄氷/多田 有花
木桶に汲まれた水であろう。どの桶にも桶の木肌を透かして薄く氷が張っている。一つの桶でなく、「それぞれ」の桶があってリズミカルな面白さがある。(高橋正子)

○菜の花

[菜の花/伊豆河津(2011年2月22日)]    [川岸の菜の花/伊豆河津(2011年2月23日)]

★菜の花や月は東に日は西に/与謝蕪村
★家々や菜の花いろの灯をともし/木下夕爾
★菜の花に汐さし上る小川かな/河東碧梧桐
★菜の花の遥かに黄なり筑後川/夏目漱石
★菜の花の暮れてなほある水明り/長谷川素逝
★菜の花に汐さし上る小川かな/河東碧梧桐
★一輌の電車浮き来る菜花中/松本旭
★寝足りたる旅の朝の花菜漬/稲畑汀子
★咳こもごも流転身一つ菜種梅雨/目迫秩父
★白鷺の飛びちがへるに菜種刈る/木村蕪城
★菜殻火に刻々消ゆる高嶺かな/野見山朱鳥
★うしろから山風来るや菜種蒔く/岡本癖三酔

★まんまるい蕾もろとも花菜漬け/藤田裕子
まんまるい、黄色も少し見える蕾もろとも漬物に付け込むには、心意気がいる。日常生活が身の丈で表現された句。(高橋正子)

★菜の花へ風の切先鋭かり/高橋正子
★菜の花も河津桜も朝の岸/高橋正子
★菜の花の買われて残る箱くらし/高橋正子

 菜の花(なのはな、英語:Tenderstem broccoli)は、アブラナまたはセイヨウアブラナの別名のほか、アブラナ科アブラナ属の花を指す。食用、観賞用、修景用に用いられる。アブラナ属以外のアブラナ科の植物には白や紫の花を咲かせるものがあるが、これを指して「白い菜の花」「ダイコンの菜の花」ということもある。
 3月のこの季節、菜の花は季節の食材として店頭にも多く並ぶようになった。3月18日に家族で椿山荘で食事をしたとき、菜の花のからし酢味噌かけがあった。天もりは、芽紫蘇。若い者たちも「菜の花のからし酢味噌かけ」が一番おいしかったと答えた。味のリズムと触感と彩りと季節感があったのだろう。

2011年2月23日(水)その②
 鈍行の旅はいかに。花見客が大勢いた駅も乗ってみれば、席は空いている。二人掛けの椅子に並んで駅弁を開いて食べていると、反対側の横長い椅子のおじさんが声を掛けてきた。「河津桜を見に行ったの。どこから来たの。」自分たちは男六人、仕事明けで花見に来て帰るところだという。そして、「おーい、みんなこっちへおいでよ。」と仲間を誘う。一人背の高い、六十過ぎの緑色のマフラーを巻いた人がやってきた。「親子で旅行ですか。お父さんはお仕事?」と聞く。句美子が「はい、そうです。」と答える。話はそれきり。すると向こうへ行って桜まんじゅうを持ってきて食なさいという。いただく。もうひとつ食べなさいという、またいただく。「うちには、息子と娘がいるが、二人ともフリーターでね。職がないんだが、若いものは、一度就職すると、そこをやめないんだって。」「お嬢さんは、学生さん?」「いいえ、社会人です。」「そうか、今度就職するのかね。」「いいえ、四年目です。」「そうか、二年目か。」と少しちぐはぐな話が続く。すると、もう一人やせた人がやって来て、前の座席に座った。「私は、東京出身で、ギタリストになるつもりだったんだが、左人差し指が曲がらなくなってね、有楽町のそごうの店員になったんだよ。でもさ、性に合わなくてやめて、指の治療も兼ねて熱海にやってきて、ホテルマンを昭和四十五年から定年までしたよ。」「じゃ、六十四,五歳ですか。」と私。みんなが笑った。「私は七十二歳ですよ。」と帽子を取って頭を見せてくれた。銀髪がうすく透けている。ホテルマンらしくスマートな身のこなし。「ホテルでは営業のフロントをやらなくては、一人前ではないよ。」「フロントは、本根のところお客の何を見ているんですか。」と私。「それは、お客様が何を要望しておられるかを見ていますよ。」と模範回答。職業が身についておられる。やがて熱川を過ぎる。今度は、入れ替わり、みんなをこっちへ来いと呼んだ人が前の席に来た。来たとたん、手に持っていたビール缶を転がしたので、大変。ティッシュだのを総動員して、床にこぼれたビールを拭いた。私たちが四国から引っ越してきたというと、宇和島と道後温泉に行ったことがあるという。自分は東京出身で家も東京にあるが、女の人ばかりが住む家にして貸すことにしていると言った。そして、自分たちは小田原あたりに皆住んでるんだよ。小田原に家を買いなさいという。もとの席に帰って、リュックから、「うちの母ちゃんは仕事だよ。事務所のおばちゃんより、かわいいよ。」と言いながら、ごそごそとゆで卵を二つ出して、食べなさいという。いただいて食べる。すると、さっきの背の高い男の人からだと「ぽん栗」という焼き栗を二つ言付けて来た。これもいただく。そして、あとからその人が来て、「男は、性格だよ。女好きと、ばくち好きはだめ。家は、普通に働いてりゃ、だれでも持てるよ。」という。「俺たちは退職してから男ばかりで仕事をやってんだよ。」「NPOかなにかですか。それとも、男ばかりで会社を興したとか。」と私。「そんな大したことはやってないよ。料金所で働いてんだ。真鶴のさ。」「料金所には何人くらいいるんですか。」「みんなで四十人くらいかな。」「そんなに。」「そうさ、一日中車は通ってんだよ。四時間仮眠をするがね、寝た気にはならないよ。」初島が見えたとき、皆で「初島だ、初島だ」と窓から島を見ていた。伊豆高原駅に来たとき、「伊豆高原もこのごろはさっぱりさ。すがすがしいところだったが。」こんな話が続いて、終点の熱海が近づいた。誰か、どこかで見たことのあるような人ばかりであった。同じ花見帰りということか、母と娘の旅ということか、鈍行の旅のおかしさであった。海沿いの景色はどうだったのか気になったが、ずっと同じような景色だったよ、と句美子が言う。熱海からは、JRで横浜まで。それから東横線で日吉、日吉本町といつものコースで帰宅。夕食は早速土産を取り出して、鯵のひらきを焼いたり、せんべいやどら焼きや飴やと、あれもこれもと食べた。 梅と桜を見る旅であった。なお深く印象に残るのは、井上靖の「しろばんば」に書かれた湯ヶ島の暮らしの風景、天城の山葵田、今井浜ビーチ、鶺鴒が飛び交う清流である。それに、花見帰りのお土産をいっぱい持った定年後の男たち。

怒涛とは椿桜に飛沫くとき
海に向き伊豆の椿の紅きなり
春砂をゆきし足跡は浅し
引き潮の色こそ深き春の砂
早春の砂の風紋駈けてあり
鈍行の列車に剥ける春卵

◇生活する花たち「菜の花」(横浜日吉本町)


コメント

  1. 多田有花
    2013年2月18日 18:04

    お礼とコメント
    正子先生、
    「汲まれたる桶それぞれの薄氷」を今日の俳句にお取り上げ頂きありがとうございます。
    境内で行われる修正会と採灯護摩のために水が汲み置きされていました。
    戻り寒波で厳しい寒さとなり、それぞれの水はそれぞれの桶で凍っていました。

    ★青空の果てしなきこと二月なる   正子
    二月は少し暖かくなっては冴返るという日々が続きます。これは冴返った日の青空では
    ないでしょうか。厳しい寒さが空を澄み渡らせます。それでも青空に満ちる光は明るく
    間違いなく春が一歩ずつ進んでいることを実感します。