3月9日(日)

★蕎麦に摺る山葵のみどり春浅し   正子
蕎麦の薬味にしようと山葵を擂る。その淡い緑に、迎えたばかりの春をそっと感じる。清流の音が聞こえてきそうな爽やかさです。(小西 宏)

○今日の俳句
海鳴りを柔らかに聞く春の浜/小西 宏 
春の浜で沖を見やりながら聞く海鳴りは柔らかい。この柔らかな海鳴りに、寒さから解き放たれた春のうれしさが読める。(高橋正子)

○沈丁花

[沈丁花/横浜日吉本町]

★沈丁の四五花はじけてひらきけり/中村草田男
★沈丁やをんなにはある憂鬱日/三橋鷹女
★にはとりの置去り卵沈丁花/皆川盤水
★沈丁の風にころがる鉋屑/高橋将夫
★風下のベンチまた空く沈丁花/木暮陶句郎
★ポストヘの道沈丁の香にも寄り/藤田宏
★沈丁や気おくれしつつ案内乞ふ/星野立子

 日本に栽培されているものは中国原産の常緑灌木で、高さい・5メートルに達し、生垣や庭先に植えられたものが多い。花は内面部が白く、外面が紫がかった桃色で、香気が強い。早春まだうそ寒い頃、または淡雪の下、夜気にこの花が匂うのは印象深い。
赤紫色の蕾が弾けると、内側の白い部分が表れて好対照をなす。うそ寒いころの、その香気が好きなために植えられる花であるかもしれない。砥部の庭にも門脇に一本あった。冷たい空気とともに吸うその香りは、肺深く入りこんで、今年も卒業や旅立ちの季節が来たなと思う。田舎の家の庭先にもよく植えられて、子供の間でも沈丁花が咲いたと話題になった。「じんちょうげ」というあの花くらいの重さの音が今も耳に残っている。

★沈丁の香の澄む中に新聞取る/高橋正子
★雪解けの雪が氷れる沈丁花/高橋正子

 ジンチョウゲ(沈丁花)とは、ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属の常緑低木。チンチョウゲとも言われる。漢名:瑞香、別名:輪丁花。 原産地は中国南部で、日本では室町時代頃にはすでに栽培されていたとされる。日本にある木は、ほとんどが雄株で雌株はほとんど見られない。挿し木で増やす。赤く丸い果実をつけるが、有毒である。花の煎じ汁は、歯痛・口内炎などの民間薬として使われる。
 2月末ないし3月に花を咲かせることから、春の季語としてよく歌われる。つぼみは濃紅色であるが、開いた花は淡紅色でおしべは黄色、強い芳香を放つ。枝の先に20ほどの小さな花が手毬状に固まってつく。花を囲むように葉が放射状につく。葉は月桂樹の葉に似ている。
 沈丁花という名前は、香木の沈香のような良い匂いがあり、丁子(ちょうじ、クローブ)のような花をつける木、という意味でつけられた。2月23日の誕生花。学名の「Daphne odora」の「Daphne」はギリシア神話の女神ダフネにちなむ。「odora」は芳香があることを意味する。花言葉は「栄光」「不死」「不滅」「歓楽」「永遠」。

◇生活する花たち「紅梅・赤花満作・山茱萸(さんしゅゆ)」(横浜・四季の森公園)

3月8日-9日

3月9日

●小口泰與
奥利根の木々の芽吹きや硬き風★★★★
神代より雪解雫の信濃川★★★

たんぽぽや背負い鞄の赤き色★★★★
たんぽぽが咲き、赤い背負い鞄が背中で弾んでいる。たんぽぽも赤い鞄の少女も春らしい映像と思える。(高橋正子)

●河野啓一
若ごぼう河内平野に時を得て★★★★
河内平野に育つごぼう。まだ、若いが早も収穫できるまでになった。豊かな土も香らんばかりだ。(高橋正子)

山裾のハウスの中で若ごぼう★★★
春雨や傘の下なる車椅子★★★

●祝恵子
子に詰める春の荷色々分けて入れ★★★
風に散る吾を越しゆく梅の花★★★

春きゃべつ値札は風に裏返る★★★★
春きゃべつは、形も特徴あって、葉も見るからにやわらかそうだ。値札が付けられ店頭に溢れるほど置かれているのだろう。寒々とした風に値札が裏返っている。春きゃべつはそんな季節の野菜だ。(高橋正子)

●桑本栄太郎
濃く淡く遅速もありぬ梅の園★★★
さざ波の揺れて眩しく春の鴨★★★

水底の透けて煌めき蘆の角★★★★
湿地の水が日差しに澄んで、蘆の緑の角が伸び始めた。枯から再生する緑の新芽が力強く美しい。(高橋正子)

●小西 宏
梅の陽に父娘釣りする日曜日★★★
風清し青木芽立ちのうす緑★★★★
小犬嗅ぐ�壓縷(はこべら)の花咲く原を★★★

●黒谷光子
囀りや村中総出の道普請★★★
蕾いくつ付け我が植えし白椿★★★
ふっくらと咲き初む一輪白椿★★★★

●高橋秀之
起こしても変わらぬ寝顔大朝寝★★
新聞の一面踊る春闘の文字★★
寒戻る生駒の山がくっきりと★★★★

●多田有花
沿線の家々の庭梅咲きぬ★★★
たこ焼きを囲む三月のテーブル★★★

大阪のビルの谷間の淡紅梅★★★★
大阪のビルというと、近代的なビルさえも生活感にあふれている感じがする。そのビルの谷間にも淡い紅梅が咲き、淡く紅梅を咲かせる人間の生活が垣間見れる。(高橋正子)

3月8日

●迫田和代
今だから全てをあとに帰り鳥★★★
春の海傷んだ船の帰船あり★★★
足らぬ世辞皆の笑いの和の願い★★

●小口泰與
春昼の彼我の違いの釣の技★★★
百千鳥香煙流る大広間★★★
雪のひま三羽の烏かまびすし★★★

●桑本栄太郎
天辺の剥がれ落つとも春の雪★★★
かけ声の部活の娘等の春きざす★★★
ほつほつと垣根にこぼれ山茱萸黄★★★★

●小西 宏
まだ寒き風に舞い初む梅花びら★★★
ひとつずつ地に触れ消える春の雪★★★★
春の雪の降る行方を見ていると、雪片は一つずつ地に触れて消えてゆく。水分を多く含んだ春の雪の美しくも儚い様子。(高橋正子)

空青き枝に鴉の春眺む★★★

●高橋秀之 
春の海照り返す陽が波に揺れ★★★★
波に乗った春の日が照り返し、その波が揺れる。「照り返す陽が波に揺れ」は、なにげないようでいてユニークな捉え方。(高橋正子)

母の炊くいかなご今年も同じ味★★★
入り船も出船も春の波に乗り★★★