5月8日(水)

★野ばら咲く愛のはじめのそのように  正子
野薔薇の歌曲を何度も歌ったり、聞いたりした若き頃を思い出しました。少年とばらの感情の交流にはロマンが有りました。初夏の野へ咲き始めた可憐な白い野薔薇を見て、作者はふとあの歌を思い出されたのでしょうか。小さいながらも、生命力のある野薔薇を女性らしい優しい感覚で詠まれたと同時に詩情豊かなメルヘンの世界へ引き込まれる御句です。 (佃 康水)

○今日の俳句
 広島縮景園
茶摘女や手にさ緑の陽を返す/佃 康水
薫風の季節を迎え、茶摘みが始まる。茶葉を摘む女性のしなやかな手元から、きらきらと陽光がこぼれるように、茶葉が光る。「さ緑の陽」といい、季節の麗しさが詠まれた。(高橋正子)

○野茨(花いばら・野ばら)

★花いばら故郷の路に似たる哉/与謝蕪村
★愁ひつつ岡にのぼれば花いばら/与謝蕪村
★咲きはじむ野ばらの白よ旅衣を解く/高橋信之
★野ばら咲く愛のはじめのそのように/高橋正子

野茨(バラ目バラ科バラ属学名:Rosa multiflora)は、バラ科の落葉性のつる性低木。日本のノバラの代表的な種。沖縄以外の日本各地の山野に多く自生する。ノバラ(野薔薇)ともいう。高さは2mぐらいになる。葉は奇数羽状複葉で、小葉数は7-9、長さは10cmほど。小葉は楕円形、細かい鋸歯があり、表面に艶がない。花期は5~6月。枝の端に白色または淡紅色の花を散房状につける。個々の花は白く丸い花びらが5弁あり、径2cm程度。雄しべは黄色、香りがある。秋に果実が赤く熟す。野原や草原、道端などに生え、森林に出ることはあまり見ない。河川敷など、攪乱の多い場所によく生え、刈り込まれてもよく萌芽する、雑草的な性格が強い。古くはうまらと呼ばれ万葉集にも歌われている。

★道の辺の うまらの末(うれ)に 這(は)ほ豆の からまる君を はなれか行かむ/丈部鳥(はせつかべのとり)万葉集巻二十 4352

野薔薇は、シューベルトの歌曲で知られているが、与謝蕪村が好んで俳句に詠んでいる。蕪村の句は読んで非常に新しい感じがした。山裾の崖、河原の藪に絡むように育っているが、花は、一面に白い花が咲いて、可憐である。

◇生活する花たち「野茨・ひとりしずか・ふたりしずか」(東京白金台・自然教育園)

5月8日(水)

●小口泰與
くさり樋伝いし竹の落葉かな★★★
丹の橋の青葉若葉の耀えり★★★

土用芽のばら三寸伸びにけり★★★★
ばらの紅の芽が伸びる土用芽だけあって、その勢いと色が頼もしい。(高橋正子)

●桑本栄太郎
<山口、国宝瑠璃光寺の五重の塔>
溜池の水の涸れきて夏浅し★★★
新緑の山肌峰に瑠璃光寺★★★
埋もれる青葉若葉や瑠璃光寺 ★★★

●河野啓一
<千里タウン半世紀>
年古れど新樹今年も鮮やかに★★★
街並や遠く生駒の山青し★★★
青芝の丘に描かるインターチェンジ ★★★

●小川和子
野アザミを残し庭師の草むしる★★★
青葉光絶え間なく湯の湧きいずる★★★
大窓を簾に透かせ鉱泉湯★★★

●黒谷光子
庭の花野の花集め花御堂★★★
大薬缶二つを脇に花御堂★★★
子ら寄って乾く間のなし甘茶佛★★★

●多田有花
朝風に土手の葉桜身を揺する★★★
<芦原温泉郷二句>
青嵐特急列車の迂回する★★★
明易し湯煙のたつ露天風呂★★★

●小西 宏
葉桜の道に色濃し光と影★★★
里山は水木の花に鎮まれり★★★
花韮の崖の階段選び行く★★★