6月6日(金)

★緑陰に水湧きこぼる音尽きず   正子
日に日に日差しが強くなり、緑がまぶしい。その木陰に入ると、傍らに湧水が静かに溢れこぼれ、涼しげな水音は絶えることがない。ひんやりとした空気に触れ、静かに汗が引いていく思いだ。(小西 宏)

○今日の俳句
草原を母さんと行く藁帽子/小西 宏
広く、青い草原を麦わら帽子を冠った母と子が行く。草原と母と子のみ。ことさらに何もない世界がいい。(高橋正子)

○沙羅(しゃら)の花(夏椿)

[沙羅/横浜日吉本町]

★沙羅の花捨身の落花惜しみなし/石田波郷
★咲くよりも落花の多し夏椿/松崎鉄之介
★夏椿思へばそんなやうなひと/行方克巳
★亡き母のものに着替へん沙羅の花/斉藤志野

 夏椿(ナツツバキ、学名:Stewartia pseudocamellia)は、ツバキ科ナツツバキ属の落葉高木。別名はシャラノキ
(娑羅樹)。仏教の聖樹、フタバガキ科の娑羅双樹(さらそうじゅ)に擬せられ、この名がついたといわれる。原産地は日本から朝鮮半島南部にかけてであり、日本では宮城県以西の本州、四国、九州に自生し、よく栽培もされる。樹高は10m程度になる。樹皮は帯紅色でツルツルしており「サルスベリ」の別名もある(石川県など)。葉は楕円形で、長さ10cm程度。ツバキのように肉厚の光沢のある葉ではなく、秋には落葉する。花期は6月~7月初旬である。花の大きさは直径5cm程度で、花びらは5枚で白く雄しべの花糸が黄色い。朝に開花し、夕方には落花する一日花である。ナツツバキより花の小さいヒメシャラ(Stewartia monadelpha)も山地に自生し、栽培もされる。 ナツツバキ属(Stewartia)は東アジアと北アメリカに8種ほど分布する。
 これが夏椿だと最初に意識して見たのは、愛媛県の砥部動物園へ通じる道に植樹されたものであった。砥部動物園は初代園長の奇抜なアイデアが盛り込まれて、動物たちにも楽しむ我々にものびのびとした動物園であった。小高い山を切り開いて県立総合運動公園に隣接して造られているので、自然の地形や樹木が残されたところが多く、一日をゆっくり楽しめた。自宅からは15分ぐらい歩いての距離だったので、子どもたちも小さいときからよく連れて行った。その道すがら、汗ばんだ顔で見上げると、夏椿が咲いて、その出会いが大変嬉しかった。このとき、連れて行った句美子が「すいとうがおもいなあせをかいちゃった」というので、私の俳句ノートに書き留めた記憶がある。緑濃い葉に、白い小ぶりの花は、つつましく、奥深い花に思えた。
 今住んでいる日吉本町では、姫しゃらや夏椿を庭に植えている家が多い。都会風な家にも緑の葉と小ぶりの白い花が良く似合っている。
 植物とは全く違う話だが、まだ夏椿の花を見たことがないとき、かぎ針編みの模様に「夏椿」というのがあって、自分に似合うと思ったのだろう、この模様で製図までしてベストを編んでしばらく着た。

★夏椿葉かげ葉かげの白い花/高橋正子

◇生活する花たち「あさざ・山紫陽花・コアジサイ」(東京白金台・自然教育園)

6月4日-6日

6月6日

●小口泰與
雨湛う土の黒きや茄子の花★★★★
谷蟇(たにくぐ)の湖畔にでんと構えけり★★★
茄子苗の添え木あまたや雨降れり★★★

●河野啓一
額紫陽花水切りをして挿芽して★★★
咲き初めて清らな白き紫陽花よ★★★★
夕まぐれぽっかり白き額紫陽★★★

●古田敬二
手に触れる近さで逃げるヒメホタル★★★★
ヒメホタルの小さなあかりが手に触れるくらいに近づいたと思うと、触れはしないですうっと逃げた。はかなくも美しい一瞬。(高橋正子)

彼岸から揺れ来るようにヒメホタル★★★
ヒメホタル逃げて掴めり藪の闇★★★

●迫田和代
雨の中紫陽花咲ける丘に立つ
【添削】紫陽花の咲ける丘なり雨がふり★★★★
丘一面が紫陽花に覆われ、雨が降っている。紫陽花色の水のなかにいるような気持ちがすてきだ。もとの句は「丘に立つ」ことが強調されて紫陽花のイメージが弱くなっているので添削した。(高橋正子)

向こうから浴衣を着た娘の爽やかさ★★★
黒雲が低く流れて梅雨の空★★★

●桑本栄太郎
雨あがり眼もとぱつちり未央柳★★★
木苺の鉢に熟れたる菓子舗かな★★★★
ほほけ来る穂風の茅花流しかな★★★

●多田有花
音もなく降りだす雨や梅雨に入る★★★★
芒種今日雨の気配が身ほとりに★★★
梅雨時のひと日で伸びし草の丈★★★

6月5日

●小口泰與
ひさびさの雨をたたえし茄子の花★★★★
久々の雨に茄子の枝葉もぴんと張りつめ、いきいきとしている。薄紫の花にもたっぷりと雨滴がかかり、目に涼しさをよぶ。(高橋正子)

梅干の皺の深さに干されけり★★★
雨傘を杖と頼みし七変化★★★

●黒谷光子
蔦も枝分かれして上りゆく★★★★
蚕豆を剥きて嵩張る莢を積む★★★
芍薬の終わりの一花を玄関に★★★

●小西 宏
梔子の花朽ちたるに日は差しおり★★★
紫陽花よさらに膨らめ明日は雨★★★★
紫陽花の色とりどりに梅雨に入る★★★

●佃 康水 
  旧暦5月5日 流鏑馬
真っ先に社務所へ氏子菖蒲葺く★★★★
祭り馬乗せトラックの揺れて着く★★★ 
流鏑馬の通路や戸ごと菖蒲葺く★★★

●桑本栄太郎
みどり濃き窓の山河や梅雨に入る★★★★
梅雨空や部活の子等のブラスの音★★★
吹く風のみどりに湿り梅雨に入る★★★

●祝恵子
葉桜やバケツを垂らし水を汲む★★★★
葉桜とバケツで汲む水が、日本のこの季節の緑のゆたかさ、水のゆたかさを象徴している。葉桜や水の感触がリアルに伝わる。(高橋正子)

七変化公衆電話のある団地★★★
対岸の歩き越し場所夏灯つく★★★

6月4日

●小口泰與
たそがれの滝の飛沫のたち騒ぐ★★★
吾去ればたちまち鳴くよ雨蛙★★★
たなごころ岩魚の滑り伝わりぬ★★★★

●河野啓一
PMも黄砂も梅雨も西の方★★★
残雪の夏山友と山小屋に★★★
遠山に白きも見えて夏の川★★★★

●桑本栄太郎
アーチ型支柱の並び茄子の花★★★
青柿のひそむ葉蔭や昼下がり★★★
不如帰鳴いて夜更けの街灯かり★★★★

●高橋秀之
雨宿りする場に大きく夏木立★★★★
雨宿りする場所のすぐそばに夏木立がある。夏木立に盛んに降る雨がよく見える。夏の雨の力強さ詠まれている。(高橋正子)

折り畳み傘を鞄に梅雨に入る★★★
高層階から見る生駒は緑濃く★★★