3月6日~7日

3月7日

●河野啓一
真青なる朝空嬉し梅の花★★★★
梅の花が咲くころはきれいな青空の日が意外に多い。真っ青に晴れ渡り、凛と冷たい朝空に咲く梅の花は本当にきれいだ。「嬉し」という素直な表現が句を優しくしている。(高橋正子)

播磨灘岩に寄せ来る春の波★★★
沖遠くサワラを漁りて戻る船★★★

●小口泰與
湯の町のきざはし飾る雛かな★★★★
伊香保などの湯の町を想像する。石段をのぼる傍らの家々に雛が飾られている。湯の町情緒に浸りながら、雛を楽しめる春先の小さな旅はいいものだ。(高橋正子)

あけぼのの雪間にぎわす百舌鳥の群★★★
雪汁を被りし利根の岩硬し★★★

●佃 康水
 縮景園 松の菰外し
春の雪松の菰取る朝にかな★★★
菰外れ松の木肌や風光る★★★

啓蟄や松の菰解く鋏音★★★★
啓蟄に合わせての松の菰外し。春の日差しに植木屋の使う鋏の音も軽快だ。菰を解かれた松は、緑の色もいきいきと輝き出してくるだろう。(高橋正子)

●多田有花
山の名を呼びけり春の頂に★★★★
春山の山頂から、あの山の名は何々、この山の名は何々と指さし呼んでみる。春山の頂からの眺めに心も柔らかに開放されたからだろうが、山への親しみがあって楽しいことだ。(高橋正子)

見上げれば紅梅白梅青い空★★★
雪こぼす雲去り切株に春陽★★★

●桑本栄太郎
下萌えや支柱張り出す梨畑★★★
耕さる畝の干乾び風光る★★★
色めきて枝の三叉や芽もくれん★★★★

●黒谷光子
梅園をめぐる開演の時までを★★★★
演劇や音楽会の開演までの余裕の心。開演をたのしみそれまでを梅園巡りで梅の花をたのしむ。これもまた至福のときだ。(高橋正子)

朝日差し見る間に溶ける春の雪★★★
紅梅の二本並びて咲き競う★★★

3月6日

●多田有花
吹かれ来て春雪日差しの中へ降る★★★★
春の日が差しながら雪がちらちら舞っている。その雪もどこからか吹かれてきていかのだ。明るくて、不思議な世界が生まれている。(高橋 正子)

昼の月出しところに梅咲きぬ★★★
白梅にほろほろ雪のこぼれ降る★★★

●桑本栄太郎
 京都四条~祇園界隈
建仁寺塀の高みの藪椿★★★★
建仁寺塀は竹の塀で美しい。丈高く組まれることが多いが、その塀の上に覗く藪椿が自然の様で風趣がある。(高橋正子)

提灯の早くも都踊りかな★★★
芽柳の橋のあまたや高瀬川★★★

●小西 宏
さざ波の光り走るよ池の春★★★
葦の田を起こして畔の耀ける★★★★
先生に投げる春日のドッジボール★★★

●黒谷光子
下萌えの足裏にやさし池巡る★★★★
池の土手を巡りながら、足裏に柔らかさを感じる。土手はもう下萌えている。足裏より全身に伝わる柔らかさが春の訪れを実感させている。
(高橋 正子)

春の鴨殊に美しきが群れのなか★★★
池巡る遠近に群る春の鴨★★★

●小口 泰與
家に飼う犬と小魚春の雪★★★★
日常生活を詠んで気負いがない。春の雪に、小さい生き物たち、飼っている犬と小さい魚とで家籠りとなる。(高橋 正子)

山風に雪解の畑を鳶の笛★★★
風の郷支う赤城に花辛夷★★★

●佃 康水
 竹原(竹の町)雛巡り
享保雛飾る町屋の梁太し★★★★
「梁太し」であれば、その町屋には歴史があり、「享保雛」にも歴史がある。「雛」と「梁」との取り合わせは、一見意外に思われるが、歴史があれば、不思議なことではない。いい風景を見せていただいた。未来へと残してもらいたい日本の風景だ。(高橋信之)

梁太き二階を占める雛飾り★★★
工房や手焙り据えて竹を編む★★★ 

●高橋信之
白梅の五弁をしかと団地の空に
白梅が青い空に五弁の花びらをしっかりと開き仄かな香りを漂わせています。凛と咲き春の陽気に包まれた団地の爽やかな景色が見えて参ります。 (佃 康水)

早咲き桜さくら色して満開に
あしび咲く今日のこの刻はなやかに

3月6日(木)

★海に向き伊豆の椿の紅きなり   正子
春の暖かな日を浴びてつやつやした葉の間に大輪の艶麗な紅の花を咲かせる椿の素晴らしさと伊豆の踊り子の小説を思い出させていただきました。ありがとうございます。(小口泰與)

○今日の俳句
大屋根の雪解滴や光りあう/小口泰與 
「大屋根」にインパクトがある。雪解滴もあちこちから滴り、賑やかに光りあう。(高橋正子)

○椿

[椿/横浜日吉本町]

★赤門を入れば椿の林かな/正岡子規
★飯食へばまぶたに重き椿かな/夏目漱石
★十本に十色の椿わが狭庭/稲畑汀子
★咲き出でて汝こそ真処女白椿/林翔
★虚子の忌の風たをやかな椿山/皆川盤水
★侘助や波郷破顔の大写真/水原春郎
★またひとつ鉦に落ちけり藪椿/言水
★一日を陽を見ぬ谷戸の藪椿 鈴木卓
★藪椿かがやく電車停まるたび/小島みつ代
★城垣の石の番号藪椿/大塚禎子
★侘助や茶釜に湯気の立っており/多田有花
★慎ましき白き椿の初あらし/高橋信之

★侘助へ寺の障子の真白かり/高橋正子
★日表も葉影も侘助うす紅/高橋正子
★庭の樹の間に咲けり初あらし/高橋正子

 ツバキ(椿)は、ツバキ科ツバキ属の植物、学名Camellia japonicaであり、日本原産の常緑樹。野生種の標準和名はヤブツバキ。国内外でヤブツバキや近縁のユキツバキから作り出された数々の園芸品種、ワビスケ、中国・ベトナム産の原種や園芸品種などを総称的に「椿」と呼ぶが、同じツバキ属であってもサザンカを椿と呼ぶことはあまりない。照葉樹林の代表的な樹木。花期は冬から春にかけてにまたがり、早咲きのものは冬さなかに咲く。「花椿」は春の季語であるが、「寒椿」「冬椿」は冬の季語。海柘榴とも表記する。花が美しく利用価値も高いので万葉集の頃からよく知られたが、特に近世に茶花として好まれ多くの園芸品種が作られた。美術や音楽の作品にもしばしば取り上げられている。
 日本のツバキはヤブツバキ、ユキツバキ、ワビスケ。
ヤブツバキ(原種)は、南西諸島から青森県夏泊半島まで分布している。これはツバキ属の自生地の北限である。西日本にはほぼ全域に分布しているが、東日本では温暖な地域に自生している。
 ユキツバキ(雪椿)は、花糸が黄色 ユキツバキの学名はCamellia rusticana (シノニム:Camellia japonica var. decumbens/Camellia japonica subsp. rusticana)。上記のヤブツバキとは別種、またはヤブツバキの豪雪地帯適応型変種、あるいは亜種という見解があり、ヤブツバキに比べ、枝がしなやか、花弁が水平に開く、等の特徴がある。花の変異が多く八重咲きの品種改良に大きく貢献した。別名サルイワツバキ。ヤブツバキとの交雑系統を「ユキバタツバキ」と呼ぶ。
 ワビスケ(侘助)は、中国産種に由来すると推測される「太郎冠者(たろうかじゃ)」という品種から派生したもの。「太郎冠者」(およびワビスケの複数の品種)では子房に毛があり、これは中国産種から受け継いだ形質と推測される。一般のツバキに比べて花は小型で、猪口咲きになるものが多い。葯が退化変形して花粉を生ぜず、また結実しにくい。なおヤブツバキの系統にも葯が退化変形して花粉を付けないものがあるが、これらは侘芯(わびしん)ツバキとしてワビスケとは区別される。 花色は紅色~濃桃色~淡桃色(およびそれらにウイルス性の白斑が入ったもの)が主であり、ほかの日本のツバキには見られないやや紫がかった色調を呈するものも多い。少数ながら白花や絞り、紅地に白覆輪の品種(湊晨侘助)などもある。 名前の由来としては諸説あり、豊臣秀吉朝鮮出兵の折、持ち帰ってきた人物の名であるとした説。茶人・千利休の下僕で、この花を育てた人の名とする説。「侘数奇(わびすき)」に由来するという説。茶人・笠原侘助が好んだことに由来する説などがある。

◇生活する花たち「桃の花蕾・藪椿・梅」(横浜日吉本町)