9月5日

●小口泰與
ひぐらしの鳴き終わりたるしじまかな★★★
雨降りてことに朝顔終の花★★★
そば咲くや板張りホーム無人駅★★★★

●下地鉄
里山の地を這い飛ぶや初とんぼ★★★
ようやく見かけるようになったとんぼ。初とんぼは軽やかに空を飛ぶに至らず、地面近くを飛んでいる。身近に初とんぼを見たうれしさ。(高橋正子)

新聞紙吹かれる音の涼気かな★★★
蕎麦の花伸びれば覗く空の数★★★

●古田敬二
天狗茄子大きく実り地に届く★★★★
立秋の朝の空気に目覚めけり★★★
コオロギが飛びこむ朝の野菜籠★★★

●桑本栄太郎
風吹けば野辺の明かりや女郎花★★★
うそ寒や肩にレースのバスの客★★★
雨雲のにぶき茜や秋入日★★★

●多田有花
濁流を背後に秋の蝉の鳴く★★★
播磨灘沖ははるかに野分晴れ★★★★
ことごとく朽木倒れて野分あと★★★

●小西 宏
ひぐらしの杜を背に聞く西の雲★★★
猛き雲去りし夜の虫はげしく聞く★★★
道産の玉蜀黍の白甘し★★★

●佃 康水
秋耕や末成り瓜を巻き込みて★★★
葛咲いて名札を貰う薬草園★★★
久々に晴れて媼は大根撒く★★★

●黒谷光子
木より降り土より湧きて虫の声★★★★
虫の声が木から降ることを、私は横浜に来て初めて経験したが、作者のところもそうである。草むらの底の土から、こんもり茂った木から虫の音が聞こえる。力強い虫音の世界。(高橋正子)

虫の音に囲まれている夜の居間★★★
鈴なりの熟れて落つのみ棗の実★★★

9月5日(木)

★娘の秋扇たたまれ青き色の見ゆ  正子
お嬢様とご一緒された時、机の上にたたまれた秋扇子をご覧になられているのでしょう。「娘の秋扇」から母親の優しい眼差しが伝ってきます。また「たたまれ」にお嬢さまの静かな佇まいが見えそして「青き色」に若さと爽やかな雰囲気が漂って来ます。畳まれて見えている青は何の絵柄だろう?と想像が拡がります。 (佃 康水)

○今日の俳句
韮の花浸す野川の音澄むへ/佃 康水
韮の花は新涼の季節に先駆けて咲く。摘んだ韮の花は野川に浸すと涼やかな花となる。「澄む」は写生であっても作者の深い内面が出る。(高橋正子)

○射干、檜扇(ヒオウギ)

[射干(ヒオウギ)/東京・向島百花園]

○射干、檜扇(ヒオウギ)

[射干(ヒオウギ)/東京・向島百花園]

★射干のまはりびつしより水打つて/波多野爽波
★水打つて射干の起ち上がるあり/波多野爽波
★射干の前をときどき笑ひ過ぐ/岡井省二
★射干の咲く川岸に風立ちぬ/當麻幸子
★射干や海に出る道石多し/鈴木多枝子
★満願の朝や射干実をはじく/飯田はるみ
★仏谷出て射干の朱にまみゆ/淵脇護
★射干や人欺かず蔑まず/小澤克己
★射干や薪積む軒の深庇/生田喬也

 檜扇の花の印象はとてもクラッシックだということ。朱色の花は貴族階級の女の子のような雰囲気だ。栽培しているものも最近ではめったに見ることがなくなった。向島百花園でかろうじて咲き残るのを見たくらいだ。昭和30年ぐらいまでだろうか。夏休みの八月の庭に植えてあるのを見たことがある。そのずっと後、生け花に活けたのを床の間で拝見することもあった。葉が檜扇のようなのでこの名前がついているのだが、檜扇の連想からいつも古典的な花と思う。手書きの生花の本のような。

★檜扇を活けし鋏がまだそこに/高橋正子
★檜扇の花を揚羽が飛びゆけり/高橋正子

 ヒオウギ(檜扇、学名:Iris domestica)はアヤメ科アヤメ属の多年草である。従来はヒオウギ属(Belamcanda)に属するとされ、B. chinensisの学名を与えられていたが、2005年になって分子生物学によるDNA解析の結果からアヤメ属に編入され、現在の学名となった。ヒオウギは山野の草地や海岸に自生する多年草である。高さ60 – 120センチ・メートル程度。名前が示すように葉は長く扇状に広がる。花は8月ごろ咲き、直径5 – 6センチ・メートル程度。花被片はオレンジ色で赤い斑点があり放射状に開く。午前中に咲き夕方にはしぼむ一日花である。種子は5ミリ・メートル程度で黒く艶がある。本州・四国・九州に分布する。花が美しいためしばしば栽培され、生花店でも販売される。特に京都では祇園祭に欠かせない花として愛好されている。黒い種子は俗に「ぬば玉」と呼ばれ、和歌では「黒」や「夜」にかかる枕詞としても知られる。

◇生活する花たち「犬蓼・吾亦紅・チカラシバ」(横浜下田町・松の川緑道)