6月29日(日)

★紫陽花を剪るに真青き匂いたち  正子
梅雨の頃、小さい多数の四片の花を、毬状に群がり咲かせ、花弁と見えるものは萼で、花期が長く白、淡緑、碧、紫、淡紅と日を経るに従って花の色が変化する美しい花を剪って花瓶にさした紫陽花の素晴らしい景ですね。(小口泰與)

○今日の俳句
蛍飛ぶ後ろ大きな山の闇/藤田洋子
大きな山を後ろに闇を乱舞する蛍の火。山間の清流を舞う蛍火の見事さを「山の闇」で的確に表現した。(高橋正子) じゃがいもの花や赤城は靄の中/小口泰與
雄々しい赤城の山も靄の中に消え、薄紫のじゃがいもの花が優しく咲く。じゃがいもの花が咲く頃は、雨の後など靄がかかりやすい。季節がよく捉えられている。(高橋正子)

○箱根湿性花園吟行
6月29日日曜日、句美子と箱根湿性花園へ出かけた。朝、8時半ごろ横浜発のJR在来線で小田原へ。50分ほどで小田原に着く。小田原駅東口のバス乗り場から箱根桃源台行のバスに乗る。1時間ほど乗って仙石原案内所というバス停で降りた。そこから徒歩10分ほどで箱根湿性花園に着く。入園料は大人700円。てっきり雨に遭うと思っていたが、雨には出会わず、ずっと晴れていた。箱根はよい天気で山々が見渡せた。気温は29度湿度70パーセント。

湿性花園は、6月は150種ほどの花が咲き、一年で一番たくさんの花が見られるそうであった。
ニッコウキスゲ、エゾキスゲ、シモツケ、シモツケソウ、ノリウグギ、ノハナショウブ、ササユリ、コウホネ、未草、睡蓮、ハマナス、クガイソウ。エゾミゾハギ、ウツギ、コマクサ、リシリヒナゲシ、ヤマボウシ、オオバギボウシ、オカトラノオ、マツモトセンノウ、センジュセンノウ、ヤナギラン、ヤマホタルブクロ、ヤマアジサイ、ユウガギク、キツリフネ、イワシャジン、シャジクソウなど。この日の湿性花園で特に目立ったのは、ニッコウキスゲとノハナショウブ。案内書には一巡するのに、40分とあったが、巡ると2時間ほどかかっていた。

花園の続きにある箱根湿原の復元が試みられているところに行った。尾瀬に似ている。箱根湿原は、ノハナショウブが特徴だそうだ。ちょうどノハナショウブが湿原のあちこちに咲いていた。周囲の山々の草地部分に日があたる様子は、尾瀬そっくりである。夏鶯の声が聞こえる。ここには、ニッコウキスゲはみられなかった。

湿性花園を出て、仙石原案内所のバス停までもどり、桃源台方面へ行く道筋にある日帰り温泉に入浴。小さい温泉だが、鄙びていて大湧谷から湯を引き、濁り湯で熱い。温泉を出て、運よく来た桃源台行の高速バスに乗り、桃源台まで。桃源台からロープウィと登山電車で小田原の切符を買った。桃源台では芦の湖の海賊船や遊覧船を見た。お土産に箱根餅と芦の湖まんじゅうを買った。ロープウェイは桃源台から大湧谷まで。大湧谷の硫黄採掘場を見物。ロープウィを乗り換え、早雲山まで。ロープウェイから見える山にはヤマボウシの花があちこち咲いて白く見える。ちょうど、山桜が咲くことには山桜のありどころが遠くからわかるように、ヤマボウシもそのように咲いていた。ピンク色のヤマボウシも見た。早雲山からは登山電車で箱根湯本まで下る。沿線の紫陽花はちょうど見ごろで、電車がカーブするときは特にきれいだ。箱根湯本からは小田原行きに乗り換えた。箱根湯本は新宿からのロマンスカーの終点でもある。小田原からJRで横浜まで。横浜からは東横線で日吉まで、白楽あたりから雨が降り出し、いろいろな列車の遅延状況が案内板に流れる。東京は落雷や、冠水、大雨で大荒れだったようす。持って行った傘は日傘に変わり、運よく梅雨晴れの一日だった。帰宅は、午後7時40分。

湿原のはるかな水に未草
雲はれて日光黄菅の野にひかる
笹百合の倒れがちなり匂いつつ
蝦夷黄菅北の大地のはかなき色

○夏萩

[夏萩/東京・関口芭蕉庵(2011年6月12日)]_[夏萩/北鎌倉・円覚寺(2013年6月16日)]

★夏萩の咲きひろがりぬ影の上/谷野予志
★夏萩や山越ゆる雲かろやかに/石原絹江
  東京・関口芭蕉庵
★芭蕉居しと夏萩の紅明らかに/高橋信之
★夏萩にもっとも似合うのシャツ白/高橋正子

 萩と言えば、秋の七草のひとつで、多くの方がご存じ。万葉集に詠まれ、日本画、着物などの柄、日常の種々のものにも描かれて、馴染み深い花となっている。秋が来るのを待たず咲いているのに出会うと、「もう萩が。」と汗が引く思いで足を止めて見る。夏萩は、夏の終わりから秋の初めにさく南天萩、四業萩、猫萩、夏開花する野萩、めどはぎ、犬萩、藪萩などを指すしている。六月に関口芭蕉庵を訪ねたことがあったが、瓢箪池のふちに夏萩が枝をのばして紅紫の可憐な花を付けていた。「古池や」の句碑も立っているが、池水のにごりに映えて静かな雰囲気を醸していた。関口芭蕉庵から椿山荘へ場所を移すと、椿山荘にも露を置く草の中に数本の枝が倒れて紅紫の花をほちほちと草に散るように咲いていた。一足はやい秋の訪れを垣間見る思いだ。

 俳人・正岡子規も愛した“萩の寺”、大阪府豊中市の曹洞宗東光院(村山廣甫住職)で、ナツハギが6月初旬~中旬くらいまでが見頃で、かれんな花が参拝客らの目を楽しませている。参道には、秋に見頃を迎えるマルバハギなど約10種3千株にまじり、ナツハギ約30株が植えられており、今年は例年より早く赤紫の花が房状に咲き始めたという。東光院は、奈良時代の天平7(735)年に僧の行基(668~749年)が現在の大阪市北区に薬師如来像を自作し、薬師堂を建立したのが始まりとされる。行基が死者の霊を慰めるために当時、淀川に群生していたハギを供えたことから境内にもハギが植えられ、「萩の寺」として親しまれるようになった。子規や高浜虚子ら多くの俳人が好んで訪れ、子規はハギが咲き誇る風情を「ほろほろと石にこぼれぬ萩の露」と詠んだという。同院は「ハギの群生美は、日本らしい『和』の民族性を表しているよう。1度花を咲かせたあと、さらに茎を伸ばし花を咲かせる姿は、私たちに希望を与えてくれる」と話している。
 ハギ(萩)とは、マメ科ハギ属の総称。落葉低木。秋の七草のひとつで、花期は7月から10月。分布は種類にもよるが、日本のほぼ全域。古くから日本人に親しまれ、『万葉集』で最もよく詠まれる花でもある。秋ハギと牡鹿のペアの歌が多い。別名:芽子・生芽(ハギ)。背の低い落葉低木ではあるが、木本とは言い難い面もある。茎は木質化して固くなるが、年々太くなって伸びるようなことはなく、根本から新しい芽が毎年出る。直立せず、先端はややしだれる。葉は3出複葉、秋に枝の先端から多数の花枝を出し、赤紫の花の房をつける。果実は種子を1つだけ含み、楕円形で扁平。荒れ地に生えるパイオニア植物で、放牧地や山火事跡などに一面に生えることがある。

◇生活する花たち「岩タバコ・雪ノ下・夏萩」(北鎌倉/東慶寺・円覚寺)

今日の秀句/6月11日-20日

[6月20日]
★緋の色の石榴の花に朝日かな/桑本栄太郎
柘榴の花は、紅一点と詠まれただけに、万緑のなかで際立った色だ。それに朝日があたると、緋色ともなって、透き通るような鮮やか色だ。それを詠んだ。(高橋正子)

[6月19日]
★植田静か吉野の山を逆さまに/古田敬二
「苗田」は、稲の苗を育てる田のことで、季節は春。稲の苗を植えたばかりの田は「植田」という。季節は夏。この句の情景は、吉野の山が逆さまに田面に映っているので、苗田ではなく植田が適切と思う。「吉野の山」がよく効いている。(高橋正子)

[6月18日]
★茄子苗や雨の力を溜むるなり/小口泰與
根付きはじめた茄子の苗に雨滴がたまっている。溜まった雨滴にこそ茄子を育てる力がある。それこそが「雨の力」。(高橋正子)

[6月17日]
★蛍消え木の間の空に星見ゆる/小西 宏
蛍が飛ぶのは夕方。六時ごろから飛びはじめ八時か九時には消えている。蛍と交代するかのように木の間から星が一つ二つと見える。どちらも小さな、輝くものの明かり。(高橋正子)

[6月16日]
★茅の輪くぐる吾らシルバー歩き会/祝恵子
家族それぞれの無病息災を願って茅の輪をくぐるのだけれど、歩き会のシルバー仲間も同じこと。老いを屈託なく受け止めてくぐる青い茅の輪も涼やかだ。(高橋正子)

[6月15日]
★川風を受けて淡きや合歓の花/桑本栄太郎
「風に乗る」は、風に乗って運ばれる、移動するの意味が含まれるので句意がわかりにくい。合歓の淡い花の咲く枝が川風を受け、煽られている様子は、優しさのなかにも合歓の花の強さが見える。(高橋正子)

[6月14日]
★百円を握り園児はアイス買う/高橋秀之
暑い日には、アイスが何よりのたのしみな子どもたち。とくに園児は買い物が自分で出来る喜びも加わるので、アイスを手にした満足感はたかい。嬉しそうな園児の顔が浮かぶ。(高橋正子)

[6月13日]
★郭公や水面にぎわす雲と風/小口泰與
郭公の声があたりに響き、とりどりの形や色の雲が映り、風が起こす漣で水面はにぎやか。そんな静かで明るい景色が素晴らしい。(高橋正子)

[6月12日]
★夏の風本のページをすべて繰る/多田有花
開いておいた本に一陣の涼風が吹き、ページをぱらぱらとめくった。数ページでなく、すべてのページを繰る風の遊び心が面白い。涼しい句だ。(高橋正子)

[6月11日]
★植田まだ青くて深い空映す/迫田和代
田植を終えて一か月ほどは、水田に苗の整然とした影と空が映る。美しい水田の景色だが、すぐにも青田となって、水が見えなくなってくる。「まだ」に植田の美しさを惜しみ、青田の緑を待つ心情が読み取れる。(高橋正子)