4月29日(火)

★牡丹の百花に寺の午(ひる)しじま  正子
この句からは、寺の本堂にでも腰を下ろし、咲き乱れる牡丹の花を眺めている作者。にぎわった寺も昼ともなれば人が去り、静かで物音一つしない。風に揺れる牡丹の薄い花びらを眺めて静けさを楽しんでいる作者を想像します。(古田敬二)

○今日の俳句
水底へその影伸ばし葦芽吹く/古田敬二
葦の芽吹きは、その水と芽の緑との出会いが美しい。早春の芽吹きの中でも、水からの芽吹きはまた一味違って、きらめくものがある。水底へ影が伸びるのを確認できるほど澄んでいる水もよい。(高橋正子)

○空木(うつぎ・卯の花)

[空木(卯の花)/東京深川・芭蕉記念館前] 

★押しあうて又卯の花の咲きこぼれ/正岡子規
★卯の花の夕べの道の谷へ落つ/臼田亜浪
★卯の花や流るるものに花明り/松本たかし
★卯の花曇り定年へあと四年/能村研三
★卯の花のつぼみもありぬつぼみも白/高橋信之
★卯の花の盛りや雷雨呼びそうに/高橋正子

★卯の花の白きを門に置きし家/河野啓一
卯の花の白さを門に配しているのがいい感覚だ。「置きし」は、画を描いているような、絵具を置くような、詠み方で、光景を絵画的にしている。(高橋正子)

 ウツギ(空木、学名:Deutzia crenata)はユキノシタ科の落葉低木で、ウノハナ(卯の花)とも呼ばれる。樹高は2-4mになり、よく分枝する。樹皮は灰褐色で、新しい枝は赤褐色を帯び、星状毛が生える。葉の形は変化が多く、卵形、楕円形、卵状被針形になり、葉柄をもって対生する。花期は5-7月。枝先に円錐花序をつけ、多くの白い花を咲かせる。普通、花弁は5枚で細長いが、八重咲きなどもある。茎が中空のため空木(うつぎ)と呼ばれる。「卯の花」の名は空木の花の意、または卯月(旧暦4月)に咲く花の意ともいう。北海道南部、本州、四国、九州に広く分布し、山野の路傍、崖地など日当たりの良い場所にふつうに生育するほか、畑の生け垣にしたり観賞用に植えたりする。

○生活する花たち
◇生活する花たち「牡丹・白藤①・白藤②」(鎌倉・鶴岡八幡宮)

4月29日

●小口泰與
さえずりや醜草ふゆる花時計★★★
林泉に群鳥あそぶ花蘇芳★★★
ちょうちょうや棚田に水のまんまんと★★★★

●河野啓一
葉桜の並木つややか風の道★★★★
アイリスの今年もおだやか咲き上る★★★
チャールストン躍るごとくにバラの花★★★

●古田敬二
初蛙田んぼは美濃の山映す★★★★
桜散る一日三度来るバスに★★★
筍のごつりと当たる靴裏に★★★

●上島祥子
鯉のぼり仲良く泳ぐ水鏡★★★★
田水が張られ、その近くに民家があるのか。ま鯉、ひ鯉、子供の鯉とそろって吹かれている様が水に映って気持ちよさそうだ。(高橋正子)

春コートクレープ食べるテラス席★★★
ガレットの焼ける香りや春盛り★★★

●桑本栄太郎
みどり為す雨の山河や昭和の日★★★★
雨音のひと日暮れゆき春惜しむ★★★
黄金週間おとこ厨の留守居かな★★★

●佃 康水
筍を茹でつつ糠を噴き零す★★★★
筍を茹でるとき油断すると灰汁を抜き、柔らかくするために加えた糠が吹きこぼれる。鍋や釜の縁に吹きこぼれた糠がこびりつくこともある。しかし、こういう事に季節の暮らしがある。(高橋正子)

足場組むパイプの音や若葉寺★★★
膨れ寄す波へこぞりて松の芯★★★★

●小西 宏
マンションの庭に鶯こだまする★★★
水の音に小さく揺れて春紫苑★★★
雨雲の垂れ来て躑躅紅の濃し★★★★

●多田有花
にぎやかにラーメンすする春の山★★★
山下りて春の夕べの薬草風呂★★★
緑いきいき晩春の雨上がり★★★★

●高橋秀之
電車待つ夜の駅舎に初燕★★★★
初燕を見かけるのは、たいてい空の下だが、作者はたまたま電車を待っている夜の駅舎で見かけた。さっそうと飛ぶ燕ではないが、駅舎の灯に照らされた燕も初燕である。(高橋正子)

とんとんと窓を打つ音春の雨★★★
春寒し小雨の通夜の帰り道★★★

●黒谷光子
仰向けもうつ伏せもあり落椿★★★
足止める三つ葉躑躅の花に葉に★★★
久に繰る古きアルバム春の夜★★★