11月21日(木)

★水鳥を見ていて一つが潜りけり  正子
この時期になると海や河口そして公園の池には水鳥が渡って来てそれぞれの仕草をとても愛らしく眺める事が出来ます。ふとその中の一羽が急に潜ってしまいました。餌を見つけて潜ったのか、遊びの行動なのか。作者は水鳥たちと同じ目線に立って臨場感有るユーモラスな詠みに思わず笑みがこぼれてしまいました。 (佃 康水)

○今日の俳句
牡蠣揚がる瀬戸の潮を零しつつ/佃康水
広島は、牡蠣の産地として知られていますが、牡蠣の水揚げを間近に見て詠んだ句があります。潮を零しながら、しかも瀬戸の、と具体的な詠みに情景がくっきりと浮かび上がっています。(高橋正子)

○影向寺吟行
影向寺は川崎市宮前区野川にある天台宗の古刹。「影向」は、「ようごう」と読み、意味は「仏が仮の姿でこのなか世に現れること」とある。はじめこの寺の存在を知ったのは、川崎市の発行するパンフレットであった。一度訪ねてみたいものと思っていた。信之先生の案内と私の勘を頼りの吟行である。私の住いのある港北区日吉本町から、市営地下鉄グリーンラインに乗れば次の駅「高田」で下車し、路線バスを使う。高田駅前から「子母口」までバスに乗り、そこより綱島子母口街道を歩き、当初の目的ではなかったが、20分ほど歩いて中原街道に出た。中原街道をしばらく歩き、「影向寺」とうバス停を見つけた。そこより山がかりの坂道を上った。道案内に、「この道を道なりにまっすぐ行き右奥に影向寺がある。」とある。言われた道を道なりに行けども行けどもお寺のある気配は全くしない。非常に心細い。山を拓いてこまごまと民家が建ち畑もあり工場もある。頂上あたりで、工場の若い技術者のような方がおられ声をかけると150メートルほど先にあるという。安心して歩く。今度は150メートルもいかないうちに、驚くほど立派なお寺が出現した。寺の歴史は資料がなくなってはっきりしないとのことであるが、行基が開祖のようだ。本尊は薬師如来。「稲毛薬師」とも呼ばれる。境内は欅や銀杏、桜、百日紅の巨木が立ち並ぶ。欅が紅葉し、境内を圧していた。

鐘楼も欅黄葉もはや日暮/正子

境内には芭蕉の句碑、西脇順三郎の詩碑が立ち、意外さに驚く。洗心と小さく書かれた水口から落ちる水が日の光を入れて透明に輝いている
 
水底に光透りて浮く落葉/正子

花は、山茶花、茶、石蕗、実はお茶、柚子、千両、万両。建物は聖徳太子堂、鐘楼、薬師堂などがある。1時間半くらいいただろうか。その間、人影をみることは一切なかった。なのに、御手洗の水といい、庭といい、事務所といい、手入れが行き届いている。次は、百日紅の巨木が花を咲かせるときに来てみたい。

お茶の実の割れて向き合う実がふたつ/正子

○地縛 (じ縛り)

[地縛/横浜日吉本町]

 地縛 (じしばり、学名 Ixeris stolonifera)は、キク科ニガナ属の多年草。日当たりの良い山野や田の畦などに自生する。名前の由来は、茎が地面を這っている様子が、地面を縛っているように見えることから。4-7月にタンポポに似た花を咲かせる。花茎の先に2cm程の黄色の頭花を1-3個つける。葉は1-3cmの卵円形。よく似るオオジシバリとの見分けは葉の形が、ジシバリは丸い卵形、オオジシバリの葉は細長い楕円形。別名の「岩苦菜(いわにがな)」は、岩場にも生え、茎葉は苦いことから。
 ジシバリ(地縛り)の花は、雨の日や曇りの日には開かず、太陽が昇ってくると開き始め、夕方になると萎んでしまうという睡眠運動を繰り返す。茎を折ると白い乳液が出て手につくとべとべとし、やがて黒く変色する。原産地(原生地)は、日本、朝鮮半島、中国。花言葉は人知れぬ努力、忍耐である。

★じしばりの黄花に秋の陽が高し/高橋信之

◇生活する花たち「茶の花・茶の実・欅黄葉」(川崎市宮前区野川・影向寺)

11月21日

●小口泰與
初霜や長き廊下の診療所★★★★
初霜のおりた朝の診療所。寒いせいか、来院の患者も静かにして、幾分かの不安に廊下の長さが目につく。(高橋正子)

きりきりと身の引き締まる寒さかな★★★
上州や赤城颪とあまないて★★★

●多田有花
山寺の皇帝ダリアに冬陽燦★★★★
皇帝ダリアは木立ダリアとも呼ばれ、丈の高いダリアだ。お寺の方は意外とハイカラで新しいものを受け入れておられる。薄桃色の花が冬陽のなかで燦然と輝いている。(高橋正子)

山頂は凩のエアポケット★★★
凩や海と甍は銀色に★★★

●桑本栄太郎
静謐と言うは朴の葉落葉かな★★★★
大きな朴の落葉が地に落ちている様子を「静謐」と呼んだ。たしかに朴があるところは、たとえ森でなくても、空間に静けさが生まれている。落葉の季節なら特に。(高橋正子)

落葉掃く後へあとへと散りにけり★★★
あおぞらに軽き枝垂れや萩枯るる★★★

●河野啓一
春は花秋は紅葉の丘うれし★★★
初冬の空の青さと日の光★★★

篭いっぱい買いこみ帰る新玉葱★★★★
玉葱は、ふつう夏に収穫されるが、最近はこの季節、沖縄などで作られた新玉葱が出回っているようだ。サラダにすれば甘みがあっておいしく、新ものは喜ばれる。篭いっぱいも買いたくなる。(高橋正子)

●小西 宏
落葉焚く匂いわが街子ら多し★★★★
少子化が進む現代といわれるが、落葉焚ができるような地域もマンションが建ち住宅地となって子供が多い。我が家の近辺も住宅地のせいか、子供が多いと感じる。落葉焚と子どものとリ合わせに詩情がある。(高橋正子)

やわらかき柿しゃぶりおり陽だまりに★★★
日の影の野を追われゆく冬の午後★★★