6月12日(水)

●小口泰與
柿の花湖に沈みし部落かな★★★★
湖を作るために沈んだ部落がある。そこには、人々の生活があった。柿の花も咲いていただろう。今、柿の花を見て、沈んだ部落の人たちの生活を思う。(高橋正子)

ビー玉の弾き合う音新樹光★★★
むらさきの花を着飾る若葉山★★★

●桑本栄太郎
雨待てる虹色つぶや額の花★★★
走りゆく車内は青葉の闇となる★★★
天と地の詰まる生駒の青嶺かな★★★

●藤田洋子
梅雨晴れの影を広げて丘の木々★★★★
梅雨が晴れて、うれしいのは人々だけだはない。丘の木々もその影を自由に広げて、梅雨晴れの太陽を浴びている。快く、のびのびする風景だ。(高橋正子)

山風に楠のふくらむ梅雨晴間★★★
梅雨晴れの胸を満たしし空の色★★★

●多田有花
梅雨台風逸れ真っ青な空残る★★★★
台風3号が早も接近するかと思ったが、逸れて無事を得た。残されたのは真っ青な梅雨晴れの空。(高橋正子)

笹百合を愛でつつ登る頂へ★★★
岩尾根に立ち見晴るかす植田かな★★★

●高橋秀之
馬籠宿石碑に夏の日が当たる★★★
万緑に包まれ恵那山くっきりと★★★
葛切りを土産に三箱友と旅★★★

●河野啓一
紫陽花のリトマス試験紙丘の道★★★
七変化咲かんとしてや雨を待つ★★★
とりどりの色並べたる紫陽花花壇★★★

6月12日(水)

 東京幡ヶ谷
★下町の空に乾ける子の白シャツ  正子
夏の強烈な太陽のもと、あけっぴろげの下町の家々の様子が鮮明にわかる景ですね。(小口泰與)

○今日の俳句
紫陽花にきれいな山の風が吹く/藤田洋子
梅雨入りしたばかり。ときに、山には涼しく透明な、さらっとした風が吹く。それが「きれいな風。」紫陽花をさわやかに、軽やかにしている。(高橋正子)

○萱草(カンゾウ)の花・忘草(わすれぐさ)

[野萱草/横浜日吉本町]

★萱草の花とばかりやわすれ草/来山
★切かけし椋のくさりやわすれ草/百萌
★生れ代るも物憂からましわすれ草/夏目漱石
★萱草の一輪咲きぬ草の中/夏目漱石
★萱草も咲いたばつてん別れかな/芥川龍之介
★安達太良の梅雨も仕舞や甘草花/前田普羅
★大岩に萱草咲きぬ園の口/富安風生
★甘草を折つて帰れる裏戸かな/山口青邨

 萱草の花は、百合の花に似ていて、「kanzo」という音は花の姿にふさわしくないと思う。中国から生薬として伝播したのこともあって、そのように呼ばれるのだろう。梅雨のころ、ちょっと田舎びたところを歩いていると、遠くにオレンジ色がかった黄色い花が草の中や、青葉の下陰に見つかる。山裾の藪のような草の茂みにもある。梅雨の雨の中、青葉の下で、強烈な印象である。だから、薬になるのかと思う。この花を見れば、いつも似た花のニッコウキスゲやユウスゲの花を思う。思考がそのようにシフトする。萱草の花はリアリストで、キスゲの花はロマンチストという印象だ。高原を渡る風に咲き競うニッコウキスゲは、下界をわすれさせてくれそうだし、夕方から咲くユウスゲも高原で出会えば、どんなに素敵な夢が見られるかと思う。似た花の八重の藪萱草は、自分の姿を見るようで、なんだか、落ち着いて見ておれないのが常だ。

★風よりも萱草の花かがやきぬ/高橋正子
★萱草の花に凋みしきのうの花/高橋正子

 野萱草(ノカンゾウ)は、ユリ目ユリ科ワスレグサ属の多年草。夏、日本全国の野原の湿った場所で、花茎の先に橙色の一重の花を咲かせる。ワスレグサ(忘れ草)の変異体で、他のワスレグサ属の花と同様、一日花ですので朝咲いて夕方には萎びます。花の色には濃淡があり、赤みがかかっているものはベニカンゾウ(紅菅草)と呼ばれます。葉は細長く弓なりに曲がります。花や若葉、芽は食用となり、全草及び蕾を乾したものは金針菜という生薬になります。似た花に、八重咲きのヤブカンゾウ(藪萱草)、高原で黄花を咲かせるニッコウキスゲ(日光黄菅)、夕方から咲くユウスゲ(夕菅)などがあります。草丈は70~90cm、開花期は7~8月、花弁は6枚。歳時記での季語は、「萱草(カンゾウ)の花」、「忘草(わすれぐさ)」。

◇生活する花たち「紫陽花・立葵・百日草」(横浜・四季の森公園)