4月3日(木)

★鈍行の列車に剥ける春卵  正子
鈍行の列車に揺られつるりと剥く春卵、おのずと春の明るく軽やかな旅心が伝わります。急ぐ旅ではないだけに、ゆったりと長閑な旅の一時がいっそう楽しく感じられます。(藤田洋子)

○今日の俳句
山辛夷一気に空の青へ咲く/藤田洋子
「一気に」が野生である山の辛夷らしい。待ちこがれたように噴き出して咲く。辛夷の見方に元気があり新しい。(高橋正子)

○花楓

[花楓/横浜日吉本町(左:2013年4月1日・右:2011年4月13日)] 

★楓咲きまだこぼれねば石すがし/水原秋櫻子
★花楓こまかこぼるる又こまか/皆吉爽雨
★花楓数へて小さき旅にあり/岡本眸
★花嫁にそそぐ日と風花楓/西宮舞
★日ごと読む詩の一書あり花楓/永見嘉敏
★境内に少女の合唱花楓/大信田梢月
★花楓昼間静かに学生寮/高橋正子
★凝らし見て色はくれない花楓/高橋正子

楓の若葉が開くころ、 すでに深紅の楓の花がちらちらと咲いているのに気づく。若緑と深紅が空にそよぐとなかなかいい風情。日吉本町2丁目の丘に慶応大学のゲストハウスか、あるいは中高校生の寮らしい建物がある。その庭に大きな楓があり、四月の新学期を迎えて、辺りはフレッシュな空気が漂う。反対側の民家にも楓があり、ちょうどトンネルのようになって潜り抜けると気分爽快。メイン道路なんてものもなく、気ままに歩くと出くわす花楓である。

 カエデ(槭、槭樹、楓)とはカエデ科(APG植物分類体系ではムクロジ科に含める)カエデ属 (Acer) の木の総称。モミジ(紅葉、椛)とも呼ばれるが、その場合は様々な樹木の紅葉を総称している場合もある。主に童謡などで愛でられるものはそれである。赤・黄・緑など様々な色合いを持つ為、童謡では色を錦と表現している。
 日本のカエデとして代表されるのは、イロハモミジ (A. palmatum) である。福島県以南の山野に自生しているほか、古くから栽培も行われている。園芸種として複数の栽培品種があり、葉が緑色から赤に紅葉するものや最初から紫色に近い葉を持ったものもある。一般に高木になる。落葉樹が多く落葉広葉樹林の主要構成種であるが、沖縄に自生するクスノハカエデのように常緑樹もある。葉は対生し、葉の形は掌状に切れ込んだものが多く、カエデの名称もこれに由来する(下記参照)。しかし、三出複葉(メグスリノキ)や単葉(ヒトツバカエデ、チドリノキ、クスノハカエデ)のものもある。花は風媒花で、花弁は目立たなく小さい。果実は二つの種子が密着した姿で、それぞれから翼が伸びる翼果である。脱落するときは翼があるので、風に乗ってくるくる回って落ちる。
 日本では鮮やかな紅葉が観賞の対象とされ、庭木、盆栽に利用するために種の選抜および、品種改良が行われた。諸外国では木材や砂糖の採取、薬用に利用されるのみであったが、明治時代以後に西洋に日本のカエデが紹介されると、ガーデニング素材として人気を博し、西洋の美意識による品種も作られ、日本に「西洋カエデ」として逆輸入されている。

◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

4月3日

●小口泰與
春の日や芝の雑草おちこちに★★★
ほつほつとふふむ紅梅風の中★★★★
春やはる春爛漫のひと日なり★★★

●小西 宏
タンカーのゆるりと浮かび春の冨士★★★★
日の光樹心に孕み桜満つ★★★
シャボン玉はじけピアノの音を聞く★★★

●祝恵子
花に吊る提灯の列影落とす★★★★
昼間だろう。花に吊るされた提灯の連なった影が落ちている。明るい日差しに咲く桜ももちろんながら、色とりどりの提灯も花見の気分をもりあげる。面白いところに目が行っている。(高橋正子)

公園に新の自転車春休み★★★
連翹に子らの声飛ぶここまでも★★★

●桑本栄太郎
<故郷の春景>
揚ひばり田ごとに天のありにけり★★★★
雲雀は田よりまっすぐに揚がって天に囀る。こちらの田の上にもあちらの田の上にも雲雀が鳴き、田ごとに天がある。実にうまく詠んでいる。(高橋正子)

土筆野となりて荒れおり屋敷畑★★★
蛙鳴きほだつく畑の春の昼★★★

●黒谷光子
芍薬の芽のあかあかと二三寸★★★★
「あかあかと」に目が覚める。つやつやとした芍薬の芽が二三寸伸びたときの生命感よく詠まれている。(高橋正子)

母の目は子の後を追う花筵★★★
青空へ子らの歓声辛夷咲く★★★

●川名ますみ
主なき篦鹿(へらじか)舎にさくらさくら★★★★
桜というのは、意外とどこにでも咲いている。動物園の篦鹿舎には、篦鹿はいないが、さくらは篦鹿舎を飾るように咲いている。さくらの明るさが主のいないさみしさを一層感じさせる。(高橋正子)

初蝶のことさら健やかに来たり★★★
檻の中ソメイヨシノの咲くばかり★★★