3月11日
●小口泰與
初蝶のゆったり超ゆる大伽藍★★★★
大伽藍と小さな初蝶の対比、初蝶のういういしさ、可憐さ、うららかさをよく表すことになった。(高橋正子)
木々芽吹く今だ芽吹かぬ葡萄の木★★★
たらの芽や岸辺に数多稚魚のおり★★★★
●河野啓一
早春の晴れわたりたる朝の空★★★
枯枝の根元顔出す蕗のとう★★★
枯枝を揺らす鳥影大きくて★★★★
大きな鳥影からすれば、鳥は鵯だろうか。枝移りするたびに枝が揺れる。鳥の重さ、枯枝のしなやかさが感じ取れる句だ。(高橋正子)
●桑本栄太郎
菜園の背高き菜花明かりかな★★★
もとの樹へ未練の紅の落椿★★★
芽吹く枝のつぼみ宿せりゆきやなぎ★★★
●多田有花
大いなる渓谷へダイブ春の夢★★★
小綬鶏に呼ばれて締める靴の紐★★★
梅が香の真ん中にいて風を聞く★★★★
梅の香の漂うところに立てば、風が吹いている。目に触れる梅の花、鼻に嗅ぐ梅の香り、耳に聞く風の音。それ頬には早春の風も触れてゆくことだろう。感覚の大いに働いた句である。(高橋正子)
●古田敬二
三月の散歩は距離を長くして★★★
いぬふぐり咲きそろいけり陽は十時★★★★
春の日の、午前十時の陽はうらうらと輝き、新鮮である。その陽に照らされて、いぬふぐりの青い小花が咲きそろう。なんとうららかな春の景色だろう。(高橋正子)
畝打てば斜め後ろから春の雪★★★
3月10日
●小口泰與
山風に逆らいつつも麦踏めり★★★
鯉こくや千曲の雪解響きあう★★★★
千曲川の流れる小諸で花冠フェスティバルを行ったとき、鯉こくをいただいた。そのときの千曲川の瀬音を思い出したが、雪解の音で響き合う千曲川、そしてあたたかい鯉こくもいいものだと思う。(高橋正子)
白梅や白鳥北へ帰りおり★★★
●祝恵子
春の池狙うは翡翠カメラマン★★★
少年の釣りし春鯉リリースす★★★★
少年の初々しさが「春鯉」とよくマッチしている。釣った鯉をリリースするのも少年らしいことと思った。(高橋正子)
紅白梅重なり見える丘に立つ★★★
●河野啓一
曇り空晴れて受験子笑顔かな★★★
春場所や力士の汗と雪の花★★★
震災忌春未だしの野山かな★★★
●多田有花
春の雪ちらちらと舞い沖は晴れ★★★★
梅林の上流れ行く雲速し★★★★
リュックより首出す犬や春の山★★★
●桑本栄太郎
春北風や忽ち山河の真っ白に★★★
池めぐる間にも日差しの春の雪★★★
古木とて背の伸びきれず丘の梅★★★
★蕎麦に摺る山葵のみどり春浅し 正子
早春の芽吹くものは殆どさみどりのものが多く、暖かい春への希望の色である。しかし時には寒の戻りの寒さもあり、寒暖定まらぬ早春の気候を山葵を通して情趣豊かに詠われた。 (桑本栄太郎)
○今日の俳句
京都四条~祇園界隈
建仁寺塀の高みの藪椿/桑本栄太郎
建仁寺塀は竹の塀で美しい。丈高く組まれることが多いが、その塀の上に覗く藪椿が自然の様で風趣がある。(高橋正子)
○土筆

[土筆/横浜日吉本町] [土筆/横浜・四季の森公園]
★土筆煮て飯くふ夜の台所/正岡子規
★土筆摘む野は照りながら山の雨/嶋田青峰
★土筆野やよろこぶ母につみあます/長谷川かな女
★子のたちしあとの淋しさ土筆摘む/杉田久女
★土筆伸ぶ白毫寺道は遠いれど/水原秋桜子
★白紙に土筆の花粉うすみどり/後藤夜半
★土ふかき音もたつなる 土筆摘む/皆吉爽雨
★まま事の飯もおさいも土筆かな/星野立子
★土筆なつかし一銭玉の生きゐし日/加藤楸邨
★山姥の目敏く土筆見つけたり/沢木欣一
★土筆摘む強腰にしてひとりもの/青柳志解樹
ツクシは、正しくは「杉菜(すぎな)」の胞子茎(ほうしけい)というもので、「付子」とも書く。
スギナ(杉菜、学名:Equisetum arvense)は シダ植物門トクサ綱トクサ目トクサ科トクサ属の植物の一種。日本のトクサ類では最も小柄である。浅い地下に地下茎を伸ばしてよく繁茂する。生育には湿気の多い土壌が適しているが、畑地にも生え、難防除雑草である。
春にツクシ(土筆)と呼ばれる胞子茎(または胞子穂、胞子体)を出し、胞子を放出する。薄茶色で、「袴(はかま)」と呼ばれる茶色で輪状の葉が茎を取り巻いている。丈は10-15cm程度。
ツクシ成長後に、それとは全く外見の異なる栄養茎を伸ばす。栄養茎は茎と葉からなり、光合成を行う。鮮やかな緑色で丈は10-40cm程度。主軸の節ごとに関節のある緑色の棒状の葉を輪生させる。上の節ほどその葉が短いのが、全体を見るとスギの樹形に似て見える。なお、ツクシの穂を放置すると、緑色を帯びたほこりの様なものがたくさん出て来る。これが胞子である。顕微鏡下で見ると、胞子は球形で、2本の紐(4本に見えるが実際は2本)が1ヵ所から四方に伸びている。これを弾糸という。この弾糸は湿ると胞子に巻き付き、乾燥すると伸びる。この動きによって胞子の散布に預かる。顕微鏡下で観察しながら、そっと息を吹きかけると、瞬時にその形が変化するのをみることが出来る。また、「ツクシ」は春の季語である。
◇生活する花たち「福寿草・節分草・榛の花」(東京白金台・自然教育園)
