11月13日(水)

★眩しかり渚に並ぶゆりかもめ  正子
渚には波が陽に輝き、そこに並ぶ白いゆりかもめも輝いてみえ、ゆりかもめの愛らしい姿を想像することができました。 (井上治代)

○今日の俳句
冬鵙に雲一片もなかりけり/井上治代
一片の雲もなく晴れ渡った空に、けたたましいはずの冬鵙の声が、のびやかに聞こえる。(高橋正子)

○帰り花(りんごの花)

[帰り花(つつじ)/横浜港北区日吉本町・]  [帰り花(りんごの花)/横浜・四季の森公園]

★凩に匂ひやつけし帰花 芭蕉
★かへり花暁の月にちりつくす 蕪村
★春雨と思ふ日もあり帰り花 蓼太
★ニ三日ちうでゐにけりかへり花– 太祗
★茗荷畑ありしあたりか忘れ花 也有
★帰り咲く八重の桜や法隆寺 子規
★一輪は命短し帰花 漱石
★ひとり磨く靴のくもりや返り花 龍之介
★日に消えて又現れぬ帰り花 虚子
★藁積んで門の広さや帰花 鬼城
★返り咲く園遅々とゆく広さかな 蛇笏
★返り花その日その日の来ては去る 万太郎
★梨棚や潰えんとして返り花 秋櫻子
★真青な葉も二三枚返り花 素十
★梨棚のところに来たり帰花 青畝
★ひと枝にうすく真白く返り花 草田男
★返り花三年教へし書をはさむ 草田男
★帰り花日かげりぬればさやかなる 草城
★返り花俳人兵のことぎれし 静塔
★人の世に花を絶やさず帰り花/鷹羽狩行
★帰り花鶴折るうちに折り殺す/赤尾兜子
★礼服をしばらく吊りぬ返り花/山下知津子
★返り咲く花は盛りもなく散りぬ/下村梅子
★太陽のとほれる道に返り花 長谷川櫂
★寂庵の仏に捧ぐ返り花 高田正子

 十月も終わりごろだったと思うが、横浜四季の森公園近くの民家に林檎の帰り花を見たのは、はじめてのこと。桜と紛れてしまうような林檎の花も小春日和の空に咲いているのを見ると、皐月などと違って、なにがしかの風情がある。
 帰り花(かえりばな)とは、11月頃の小春日和に、桜、梅、桃・梨・山吹・つつじなどに多く見られる現象で、本来の季節とは異なって咲かせた花のこと。ひとが忘れた頃に咲くので、「忘れ花」といった言い方もされる。「返り花」とも書き、「二度咲」「狂い咲」ともいい、俳句では冬の季語の一つとなっている。

★歳月は還らず返り咲く花よ/高橋正子

◇生活する花たち「たいわんつばき・石蕗の花・小菊」(神奈川・大船植物園)

11月13日

●小口泰與
あけぼのの湖の畔の冬もみじ★★★
初時雨湖畔に舟のふせてあり★★★
小春日や心の枷をひとつ解き★★★

●多田有花
鬼瓦の上の冬空真青なり★★★★
きりっとした冬の青空が、鬼瓦によってより印象づけられた。鬼瓦の色と青空の対比がよい。(高橋正子)

いま風に揺れおり冬の紅葉かな★★★
蓮池に冬青空の鮮やかに★★★

●桑本栄太郎
踏みゆけば桜落葉の香りけり★★★

地響きをたてて木の実の時雨かな★★★★
凄まじい木の実の降り方に驚く。「地響き」といい「時雨」といい、植物とは思えないほどの生命のありようだ。木の実をすっかり落として冬を越すのだ。(高橋正子)

村中の辻の明かりや石蕗の花★★★

●河野啓一
草刈られ落葉乗せたる散歩道★★★
陽の光風の寒さを包みおり★★★
鳥が種落とした白き山茶花咲く★★★。

●黒谷光子
大杉の根方にひそと実千両★★★
七五三に賑う参道杉木立★★★
冬桜遠州三山拝し終え★★★★
遠州三山は静岡県袋井市にある古刹。ネットの動画で見たかぎりでは、法多山などは、階段でかなり上ったところにあり、境内も広く紅葉も美しい。三山を巡るにもそこそこ移動しなければならない。三山を拝し終えたあとのほっとした目に冬桜が優しく映る。(高橋正子)

●小西 宏
起きぬけの犬椅子下に日向ぼこ★★★
犬と駆け小春の道に汗をかく★★★
遠山の雪に老いの眼癒される★★★

●古田敬二
温き陽を白菜畑が包み込む★★★

しなやかに同じ向きして枯れ芒★★★★
枯れ芒は、風になびいた形のまま枯れている。枯れているとは言え、「しなやかさ」がある。枯れ芒に「しなやかさ」をよい。見たところがよい。(高橋正子)

指先を染めて秋草の実を愛す★★★

11月12日

●河野啓一
水玉を竿に並べて時雨去る★★★★
雨が去ったあと、物干し竿など雨滴が並んでついているのは面白くリズミカルだ。時雨のあとなどは、特に雨滴がすきとおり寒々としたようすになる。(高橋正子)

枝の先取り残したる柿一つ★★★
時雨去り空に揺れおり柿の赤★★★

●小口泰與
山風に下枝(しずえ)はなるる落葉かな★★★
毛の国の風つれなくも小六月★★★
小春日の校庭はやす鳩の群★★★

●古田敬二
遠くにも紅見えてカラスウリ★★★★
カラスウリは、手が届きにくいところによくある。川向こうの藪とか、枝の絡まった茂みとかに。けれどその実の紅さは、それとすぐ分かる紅さなのだ。(高橋正子)

フレームの四角一杯柿紅葉★★★
虫の音の途絶えし野良の静けさよ★★★

●多田有花
冬空へ赤きそよごの実の数多★★★
冬浅き山は彩り増してゆく★★★

梅干をいただく冬の三角点★★★★
三角点は測量のために設置されているが、見晴らしのよい高山の山頂に置かれることも多い。そういった場所で梅干しをいただくとハイキングや登山をしたような気持ちになる。「冬の」からは、三角点の辺りの様子が想像できる。(高橋正子)

●桑本栄太郎
色鳥や紅の葉陰の青空に★★★
葉ぼたんの小さき渦や育苗舎★★★
道の辺に伐られ枯れおり唐辛子★★★

●佃 康水
無患子や振ればころころ音の鳴り★★★
熟睡児の手は夢つかみ花八手★★★
岸辺まで寄る満潮の鴨の群★★★