●小口泰與
あさがおの終の一花のうすき紺★★★★
暑いさかり、涼を呼んで咲いてくれた朝顔も終の花ひとつになった。寂しくも命の終わりのうすい紺色が気品を感じさせてくれる。(高橋正子)
日を受けて雀と和する稲穂かな★★★
たむろする明の鴉や秋の風★★★
●桑本栄太郎
十五夜の向かいの人と窓に会う★★★
十五夜の雲の狼藉なかりけり★★★
月今宵三つ日つづきの明るさに★★★★
今年は、台風のあと落ち着いた天気が続き、三日続いてよい月が昇っている。夜ごと地上を照らしてくれる明るさは嬉しいものだ。「三つ日つづきの明るさ」が新鮮。(高橋正子)
●河野啓一
月愛でる心を盛りしご膳かな★★★
病棟の上に輝く丸い月★★★★
病棟の上に満月を昇らせて眠れる夜は、さぞかし、よい眠りに就かれたことと思う。(高橋正子)
もちをつくウサギ嬉しき月今宵★★★
●小西 宏
薄みな風ななめなり崖の上★★★
子ら駆ける丘に振り子の秋桜★★★
青団栗帽子ずれたるあどけなさ★★★★
●佃 康水
師の快気祝う座敷や満月光★★★
子規句会果てて大きな窓の月★★★
朝の日を弾き煌めく式部の実★★★★
●黒谷光子
川の水澄むを如雨露に植木鉢★★★
大根の芽畝の歪みを明らかに★★★★
大根が黒々とした畝に芽生えると、畝の歪み具合が明らかになってくる。その通りのことなのだが、歪みは大根の双葉のかわいらしさを印象付けるようだ。(高橋正子)
東は何処の窓も月を入れ★★★
●河野啓一
秋野行くよき草花を求めつつ★★★★
秋の野を行く爽やかさは、これまでの暑さを思えば代えがたいもの。よい草花を見つけながらゆく楽しみも加わる。秋の草花はどれも優しい。(高橋正子)
庭隅に植えらる無花果実を結び★★★
曼珠沙華今年は見ざるまぼろしに★★★
●小口泰與
書肆の灯や秋の新刊高々と★★★★
読書の秋を迎え、新刊書を高々と積んだ書肆が明るく灯を点している。新刊書の匂いがこちらまでしてきそうで、読書意欲を誘われる。(高橋正子)
川えびの定かに見ゆる葉月かな★★★
くさのほをうばいあってるあかとんぼ★★★
●桑本栄太郎
秋出水引いて下流へ草の向き★★★
月白や月のまぼろし青空に★★★
待宵の明日も晴れたる夜待ちぬ★★★
●多田有花
タンカーが連なり進む秋の海★★★
播州平野日ごと刈田の増えてゆく★★★★
播州平野も、見渡せば日々刈り入れが進み、刈田の部分が増えている。稔田と刈田のまじり具合が変化するのが面白い。「刈田が増える」の発想が新鮮。(高橋正子)
小窓から乗り出して見る今日の月★★★
●小西 宏
若魚の揺らぐ堤の彼岸花★★★
名月や丘に優しき家灯り★★★
月今宵無地の茶碗の五穀米★★★★
無地の茶碗に盛られた五穀米が古代を思わせる。今宵の月は古代と同じように澄み輝いている。それほどに照り輝く今宵の月である。(高橋正子)
●小口泰與
秋冷や彫深くせり赤城山★★★
新涼の赤城雲だく朝かな★★★
単線の貨物列車や秋の暮★★★
●河野啓一
秋暁の光芒空にどこまでも★★★
秋高し日本列島限りなく★★★
収穫の響き一途にコンバイン★★★★
季語を入れるとよい。取り入れの時期になると稔田にコンバインが「一途」にエンジン音を響かせる。刈り入れに精を出すコンバインが実りの秋を象徴する。(高橋正子)
●下地鉄
吾亦紅場末の店のうす灯り★★★
荒磯や吹かれて飛沫く暮秋かな★★★
白衣から花野心にと血圧計★★★
●桑本栄太郎
<四条大橋~祇園~高瀬川界隈>
秋日照る一力茶屋の弁柄塀★★★
唐国(からくに)の軽ろき言葉や秋澄める★★★
せせらぎの小橋いくつや彼岸花★★★
●黒谷光子
今年藁井桁に積み上ぐ畑の隅★★★
新藁を抱え香りを運びけり★★★
藁塚の仕上がりわずか傾きて★★★★
愛嬌のある藁塚である。まっすぐに心棒を立てたにも関わらず、藁を積み上げてみれば藁塚は少し傾いている。田んぼの土の柔らかさ、藁のあたたかさが伝わる。(高橋正子)
●多田有花
台風や海の濁りを残し去る★★★
雲すべて吹き払われし野分晴れ★★★
秋の雲ふわり流れて川の上★★★
●小西 宏
筋雲が秋の絵を描く丸い丘★★★
乾く風に池かがやかせ群れ蜻蛉★★★
老妻の我に飯盛る良夜かな★★★
★吹き起こり風が熟田をさざめかす 正子
青田のころの風は軽やかな青田波をつくって田を吹き抜けていきます。黄金色に田が熟すころともなれば風を受けた稲穂は重そうにゆらゆらと揺れます。稔りの秋の感触です。(多田有花)
○今日の俳句
虫の音を聞くころとなり新所帯/多田有花
結婚後の新生活も虫の音を聞くころになると落ち着いてきた。虫の音は、静かで落ち着いた生活の中でこそ聞きたい。時の経過がさりげなく表現されている。(高橋正子)
○郁子(むべ)の実
[郁子の実/東京白金台・国立自然教育園]
★郁子の実のまだ青けれど薄みどり/高橋正子
ムベ(郁子、野木瓜、学名:Stauntonia hexaphylla)は、アケビ科ムベ属の常緑つる性木本植物。別名、トキワアケビ(常葉通草)。方言名はグベ(長崎県諫早地方)、フユビ(島根県隠岐郡)、イノチナガ、コッコなど。
日本の本州関東以西、台湾、中国に生える。柄のある3~7枚の小葉からなる掌状複葉。小葉の葉身は厚い革質で、深緑で艶があり、裏側はやや色が薄い。裏面には、特徴的な網状の葉脈を見ることが出来る。
花期は5月。花には雌雄があり、芳香を発し、花冠は薄い黄色で細長く、剥いたバナナの皮のようでアケビの花とは趣が異なる。
10月に5~7cmの果実が赤紫に熟す。この果実は同じ科のアケビに似ているが、果皮はアケビに比べると薄く柔らかく、心皮の縫合線に沿って裂けることはない。果皮の内側には、乳白色の非常に固い層がある。その内側に、胎座に由来する半透明の果肉をまとった小さな黒い種子が多数あり、その間には甘い果汁が満たされている。果肉も甘いが種にしっかり着いており、種子をより分けて食べるのは難しい。自然状態ではニホンザルが好んで食べ、種子散布に寄与しているようである。
主に盆栽や日陰棚にしたてる。食用となる。日本では伝統的に果樹として重んじられ、宮中に献上する習慣もあった。 しかしアケビ等に比較して果実が小さく、果肉も甘いが食べにくいので、商業的価値はほとんどない。
茎や根は野木瓜(やもっか)という生薬で利尿剤となる。
◇生活する花たち「葛の花①・葛の花②・木槿(むくげ)」(横浜日吉本町)
