8月31日(土)

★鎌倉の朝が移れる酔芙蓉  正子

○今日の俳句
白桃届く箱から香り溢れさせ/古田敬二
白桃は、桃のなかでも香りが特に良い。白桃の入った箱から、もうよい香りがあふれている。みずみずしい白桃をもらった嬉しさがあふれている。(高橋正子)

○秋海棠

[秋海棠/ネットより][秋海棠/横浜日吉本町]

★秋海棠西瓜の色に咲にけり 芭蕉
★手拭に紅のつきてや秋海棠 支考
★画き習ふ秋海棠の絵具哉 子規
★北に向いて書院椽あり秋海棠 漱石
★節々に秋海棠の紅にじみ 虚子
★石灰を秋海棠にかくるなよ 鬼城
★秋海棠にそゝぐはげしや軒の雨 淡路女
★美しく乏しき暮し秋海棠 風生
★病める手の爪美くしや秋海棠 久女
★書を愛し秋海棠を愛すかな 青邨
★秋海棠母を大事の家のさま 汀女
★雲に濡れ秋海棠の茎の紅 悌二郎

愛媛の焼き物の町、砥部町に住んでいた。砥部の家は和風の平屋で、小住宅ながら土地が百坪あまりあって、椿をはじめ、いろんな植物を植えていた。秋の初めになると秋海棠の花が咲いた。北向きの玄関脇は朝日が斜めに当たったあとは日陰になる。そこにピンク色の秋海棠がほろほろと幾分大きめの葉から覗くように咲いて玄関の彩となった。そしてもう一か所、あとで取り付けた小さな濡れ縁の下にいつの間にか秋海棠が咲くようになった。節のある紅色の茎は水を含んでいた。ベゴニアに似ている。ベゴニア科なので言う間でもないが、秋海棠のほうがよどほ日本の家屋に馴染んで似合っている。砥部の家は、住み変わっているが、庭はそのままで楽しんでくれているらしい。そうならば、今も秋海棠が咲いているだろう。子どもたち二人もこの家が気に入っていたので、幼い時の子供たちのことも一緒に思い出す。

★一段と空澄み咲きつぐ秋海棠/高橋正子
★秋海棠の紅の茎また紅の花/〃
★縁に掛け足に触れたる秋海棠/〃
 伊予双海の寺
★伊予灘の波の反射に秋海棠/〃

シュウカイドウ(秋海棠、学名:Begonia grandis)は、シュウカイドウ科シュウカイドウ属(ベゴニア属)に分類される多年生草本球根植物である。和名は中国名「秋海棠」の音読み。ヨウラクソウ(瓔珞草)とも呼ばれる。英名 hardy begonia。高さ約60センチ。秋、紅色の花が下垂して咲く。葉の付け根に小さいむかごをつけて増える。東南アジア原産で、日本へは寛永年間(一六二四〜四四)に渡来したといわれ、観賞用に庭園に栽培される。

◇生活する花たち「犬蓼・吾亦紅・チカラシバ」(横浜下田町・松の川緑道)

8月30日-31日

8月31日

●小口泰與
赤城より冷気あまねし水澄めり★★★
高原の秋気くまなく浴びにけり★★★
鳴きあぐる別れ鴉や忠治塚★★★

●迫田和代
土手道の窪みを満たす吾亦紅★★★★
吾亦紅は河原などに見られるが、土手道の窪んだところに、思わぬほど咲いていた。「満たす」は予期せぬ驚きと嬉しさ。(高橋正子)

空も澄み緑豊かな秋の庭★★★
ささやかな音に驚くよなべかな★★★

  
●小西 宏
不揃いの背丈を風に猫じゃらし★★★★
猫じゃらしは、背丈に注目すれば、意外とく高低さまざまだ。それぞれが風に吹かれる様子は、趣がある。(高橋正子)

山裾までただ平らかに稲の秋★★★
渇水の小河内ダムの赤とんぼ★★★

●桑本栄太郎
ベランダの今朝もほど良き秋すだれ★★★
竹林の仰ぐ高さや秋の空★★★
八月の果てて西空曇り来る★★★

●多田有花
コンサートはね秋雨の街へ出る★★★
台風は低気圧へと八月尽★★★

傷に刃を当て傷物の梨をむく★★★★
傷物の梨を剥こうとすれば、まず傷をとってからが普通の行為だが、「傷に刃を当て」と言われると神経がピリッとする。リアルな句だ。(高橋正子)

8月30日

●祝恵子
稲の花故郷を向くさくら号★★★★
傘に入れ雨の木槿の揺れを止め★★★
秋の田に立ち止まる猫と目を合わす★★★

●小口泰與
単線の天涯に消ゆ尾花かな★★★
退けて赤城離るる秋の雲★★★
とんぼうへ人さし指をまわしけり★★★

●桑本栄太郎
苦瓜の小さく色づきベランダに★★★
南瓜煮る妻のレシピや湯呑み入れ★★★
カーテンの触れる夜風や虫の声★★★

●川名ますみ
秋澄みて橋の向こうの船までも★★★
秋風に洗濯物のやさしい色★★★★
一読、「やさしい色」に納得した。秋風に吹かれる洗濯物が、やわらく、色もやさしい。秋の日差し、風の具合のせいもあるだろう。(高橋正子)

西瓜切る音のさらさらリズミカル★★★

●佃 康水
屈み見て砂より淡き草の花★★★
巡り終えかくもとりどり草の花★★★
草の花それぞれ摘みて束にする★★★★