8月13日

●祝恵子
前篭に買われし夏花帰りゆく★★★
木漏れ日て冬瓜肌を光らせる★★★
新しき靴の一歩よ秋きたる★★★★
新しい靴をおろし、一歩を踏み出す。新しいものを履く快い緊張がある。新しい季節、秋も同時にやって来た。(高橋正子)

●小口泰與
あけぼのの山路色取る赤のまま★★★
朝顔や冷気あふるる赤城山★★★
武蔵野や丘に溢れし女郎花★★★★

●多田有花
八月の風求め部屋を移動する★★★
早朝の光新たに涼しけり★★★
じりじりと午後の残暑のいや増せり★★★

●藤田洋子
空淡く瀬戸の夕凪始まりぬ★★★
八月の海は静かに藍満ちて★★★
蜻蛉の頭くるりと朝の晴★★★★
ちょっと愉快な蜻蛉である。朝も気持ちよく晴れ、頭をくるりと回してあたりを眺めたのだ。これから飛び立つのか、しばらく止まっているのか。(高橋正子)

●古田敬二
まっすぐな竹通り来る風涼し★★★
耳に鳴る新涼うれし森を行く★★★
新涼やまっすぐ伸びる森の道★★★

●小西 宏
朝顔の紫紺に触れし細き道★★★
楠深き稲荷の杜の蝉時雨★★★
赤々と残暑一日沈みゆく★★★

8月13日(火)

★淀川の初秋の水の岸濡らす  正子
琵琶湖に発源し、京都盆地に出て大阪湾にそそぐ淀川も、まだ暑さ厳しいが、日ざし、雲の色、風の音、そして淀川の岸辺を濡らす水の流れにも秋の気配が感じられる。素晴らしい景ですね。(小口泰與)

○今日の俳句
畦草を刈りて定かや稲の花/小口泰與
稲の花が咲くころは、畦草も伸びてくる。それを刈ると畦がさっぱりとして、稲の花の存在が定かになる。取り合わせの句ではないので、稲の花が生き生きとしている。(高橋正子)

○藤袴

[藤袴/東京・向島百花園]

★枯れ果てしものの中なる藤袴 虚子
★藤袴白したそがれ野を出づる/三橋鷹女
★藤袴手に満ちたれど友来ずも/三橋鷹女
★藤ばかま触れてくる眸の容赦なき/稲垣きくの
★たまゆらをつつむ風呂敷藤袴/平井照敏

藤袴について、高校の古文の先生からまつわる話を聞いた。戦のとき、武士が兜の下に入れたという。頭の蒸れた匂いをその芳香で消すためと聞いた。そのときは、野原の藤袴を折り取ってそれを兜の下に入れたのだと思ったが、そのままの藤袴は匂わない。匂うのは、乾燥したものだそうだ。乾燥させると、なにか芳香の成分ができるらしい。乾燥したものを兜の下に入れたのだろう。淡い紫紅色の散房状の花は武士の花といってもいいだろう。花の形がよく似ていて、立秋ころ咲く白い花がある。これを、早合点の私は、もしや藤袴と思うことがある。そして、その花を写真にとったりして、何度も確かめて、やはり、違うようだと結論付ける。まれにしか見ない藤袴見たさのことであろう。伊勢神宮の外宮の観月祭には、きっちりと秋の七草が揃えられているそうだ。秋の七草は、ハギ、キキョウ、クズ、ナデシコ、オバナ(ススキのこと)、オミナエシ、フジバカマの七草で、山上憶良の歌に「萩の花尾花葛花なでしこが花をみなへしまた藤袴朝顔が花」 (万葉集 巻八) がある。

★藤袴山野の空の曇り来し/高橋正子
★清貧の背筋ますぐや藤袴/高橋正子

フジバカマ(藤袴、Eupatorium japonicum)とはキク科ヒヨドリバナ属の多年生植物。秋の七草の1つ。本州・四国・九州、朝鮮、中国に分布している。原産は中国ともいわれるが、万葉の昔から日本人に親しまれてきた。8-10月、散房状に淡い紫紅色の小さな花をつける。また、生草のままでは無香のフジバカマであるが、乾燥するとその茎や葉に含有されている、クマリン配糖体が加水分解されて、オルト・クマリン酸が生じるため、桜餅の葉のような芳香を放つ。中国名は蘭草、香草。英名はJoe-Pye weed;Thoroughwort;Boneset;Agueweed(ヒヨドリバナ属の花)。かつては日本各地の河原などに群生していたが、今は数を減らし、環境省のレッドリストでは準絶滅危惧(NT)種に指定されている。また「フジバカマ」と称する植物が、観賞用として園芸店で入手でき庭にも好んで植えられる。しかし、ほとんどの場合は本種でなく、同属他種または本種との雑種である。

◇生活する花たち「あさざ・露草・うばゆり」(東京白金台・自然教育園)