●添削2月③●

[2月17日~23日]

▼2/23

●藤田裕子
夕闇をほっと灯せり紅椿★★★
紅椿陽に向き蕊の金色に★★★
秒針音余寒の部屋を刻みおり★★★

●桑本 栄太郎
登校の列の影為し凍返る★★★★
遅霜の屋根に連なる駐車場★★★
芽柳の仄かに青み土手の風★★★

●多田 有花
ジョギングの人紅梅の坂のぼる★★★
ある山はその影にあり春の雲★★★
頂に吹く風確かに春の風★★★

●古田 敬二
春耕やそこだけ地球は柔らかし★★★
地に落ちるまでの長さよ春の雪★★★
たちまちに地に姿消す春の雪★★★

●迫田 和代
陽を浴びて庭石の傍蕗の薹★★★
瀬戸内の汐切り泳ぐ細魚かな★★★
隅っこに汚れた雪の明るい田★★★

●小口 泰與
山風に逆らいつつも揚雲雀★★★
野良猫や雉の鋭声の高らかに★★★
榛名嶺の彫の豊かや揚雲雀★★★★
日ごと強くなってゆく春の日に榛名山の山襞が陰影深くなる。雲雀が空高く揚がり、意気揚々の様。春の日差しに充ちた句。(高橋正子)

▼2/22

●桑本 栄太郎
<神戸港>
クレーンの船に荷降ろす春の潮★★★
春潮や水面輝きふくらみぬ★★★★
瀬戸内海の春潮は、水面がゆったりと膨らんで寄せてくる感じがするのは事実。このやわらかな膨らみに日の輝きが加わると「春潮」も実にゆたかな潮となる。(高橋正子)

春潮の船の起重機神戸港★★★

●佃 康水
夫婦して一樹撮り合う梅赤し★★★ 
草萌えの土手へ子犬の息弾む★★★ 
水底に青き藻の透け春の川★★★

●小西 宏
駅に立てば遠き甍の梅霞★★★
春の雲浮かんで丸き昼の月★★★
黒犬がピンクの服で春歩く★★★

●多田 有花
春の曙遠ざかる救急車の音★★★
かさこそと二月の森の白腹は★★★
事故現場供えられたる内裏雛★★★

●黒谷 光子
春の川村の真中を光りつつ★★★★
のどかなで平和な村。村の真ん中を緩やかに光りながら流れる春の川は、皆の生活の中に愛される川。「村の真中」であるのがいい。(高橋正子)

堰越える春水光りつ奏でつつ★★★
一村を潤し何処へ春の川★★★

●小口 泰與
さえずりや喉をうるおす五色飴★★★
雪の間の畝に鳶の急降下★★★
春嵐餌を争う鴉かな★★★

●河野 啓一
枯れ枝に三々五々と春の鳥★★★
黄水仙つぼみは上を花伏し目★★★
春雪の消えし箕面の山であり★★★

▼2/21

●古田 敬二
菜花摘む昼餉のパスタに足るほどに★★★★
一人か二人の昼餉であろう。少しあれば足りる菜花である。茹でられて色鮮やかな菜花は春の彩りとして楽しめる。「足るほど」の慎ましさがいい。(高橋正子)

春蘭を見れば楽しき日となりぬ★★★
芽吹き待つ木立の向こう人の声★★★

●小西 宏
浅春の夜の沈沈と肩に触るる★★★
早春の帽子に眠る乳母車★★★
春の風やがて収まり鳥の声★★★

●高橋 秀之
大空の星の輝き春浅し★★★
春の月周りに輝く星数多★★★
歩き行く夜の帰宅路春寒し★★★

●桑本 栄太郎
春きざすポイント五倍の商店街★★★
カーテンの外は日溜まり春きざす★★★
青空につづく茜や春の宵★★★

●佃 康水
広島元安川とその周辺
橋桁へ淡き藻草や水温む★★★
囀りや川へ伸びゆく太き枝★★★
学徒碑へ枝飛び交いて囀れり★★★  

●祝 恵子
二ン月や桜盛られし美容室★★★
雲雀鳴く芝養生の土手傾斜★★★
ただ今芝の養生中の土手。芝はまだらに芽生えつつあるのか。土手の傾斜に空から囀りをこぼす雲雀。風はまだ冷たいが、気持ちはのびやか。(高橋正子)

霞む山川舟音させ波を連れ★★★

●多田 有花
梅開く遠目に紅く見ゆるほど★★★
陽の中で見る遠山の春の雪★★★
淡雪がふわりふわりと針葉樹★★★

●黒谷 光子
降るほどに積もらぬことも春の雪★★★
春雪を見るに時おり寄る窓辺★★★
雪の多い湖北。春の雪が積もるか積もらないか。降りざまを時に窓辺に寄って見る。はらはらと降る雪も、颯々と降る雪も、雪の降る様をついつい見てみたくなるのも俳句の心というものか。(高橋正子)

春雪の続く予報や豆を煮る★★★

●小口 泰與
梅林のつづく堤や家遠し★★★
数隻の舟を舫いし風光る★★★
榛名嶺の霞被きぬ里は晴★★★

▼2/20

●小西 宏
淡雪の深みに浮かぶ梅の苑★★★
休耕の畑の白さや春の雪★★★
里山の崖なだらかに斑雪★★★

●桑本 栄太郎
買物の妻を待つ間や春眠し★★★
柔らかに嶺の連なり春の宵★★★
枝先の茜に影や春の宵★★★

●黒谷 光子
うっすらと木々の装い春の雪★★★
小督読む平家の講座春の雪★★★
春雪の夜を飛機の音くぐもれる★★★

●多田 有花
遠山のくっきりと見え冴返る★★★★
山向こう摂津丹波の冴返る★★★
傾ける日に梅が枝を差し伸べて★★★

●河野 啓一
早朝の梅林小鳥と青空と★★★
梅林につぼみ膨らみ天守閣★★★
白と黄に咲いてさざめく庭水仙★★★

●古田 敬二
薄氷を翳せば光零れけり★★★
梅開くひいふうみいよう数えけり★★★
開花待つ春蘭蕾丈揃え★★★

●迫田 和代
菜の花を橋を渡って摘み帰る★★★★
菜の花は、橋を渡った向こう岸に咲いている。普段自宅の窓から見えている菜の花かもしれない。摘みとった菜の花は身近に活けて楽しまれたことであろう。(高橋正子)

空仰ぎ前と違った春の空★★★
並木道春芽膨らみみどり増し★★★

●小口 泰與
春の風木道天へ続きけり★★★
春なれや利根の川風変わりいて★★★
ほつほつとばらの新芽のいでにけり★★★

▼2/19

●佃 康水
新パソコン来てより苦戦山笑う★★★
前撮りの花嫁白梅(うめ)へ歩み寄る★★★
虎杖の芽吹き野川の水豊か★★★

●黒谷 光子
ことことと玻璃戸の鳴りて春浅し★★★
大枝を剪り壺に挿す紅椿★★★
壺に挿す紅き椿の蕾がち★★★

●桑本 栄太郎
芽吹く枝の赤く艶めく今朝の雨★★★
枝先の朱色滲みし雨水かな★★★
階段の川と流るる春の雨★★★

●古田 敬二
指先に痛み走れり余寒かな★★★
咲きかけの花弁震える余寒かな★★★
両端のとんがる月や冴え返る★★★

●河野 啓一
芯黒く白磁に溢れ金盞花★★★

明るくて黄水仙生きる喜びに★★★★
黄水仙は、白い水仙に遅れて早春に咲きだす。その鮮やかな黄色い色が元気をくれて、生きる喜びになっている。素晴らしいことだ。(高橋正子)

すさまじき隕石春の衝撃波★★★

●多田 有花
春雪を戴く六甲山仰ぐ★★★
雨あがり春北風鳴らす明けの窓★★★
街の音消して降り来る春の雪★★★

●小口 泰與
山風の柔くなりたり厩出し★★★
雪の間の初々しきや蕗の薹★★★
榛名嶺の空に春星あふれ出で★★★

▼2/18

●高橋 秀之
春時雨霞む沖には貨物船★★★
早春の雨に包まれ遠き山★★★
夕暮れて梅の蕾に雨が落つ★★★

●桑本 栄太郎
西山の春の驟雨にけぶりけり★★★
丘に沿い傾ぐ竹笹春の雨★★★
坂道の瀬波となりぬ春驟雨★★★

●多田 有花
軽鴨や集いて春眠楽しめり★★★
春寒に新駅ビルの立ち上がる★★★
早春の大阪湾に船数多★★★

●河野 啓一
賑わいて人工ゲレンデ春の雪★★★
春霖の温かき風運び来る★★★
梅の香を閉じ込めるごと朝の雨★★★

●祝 恵子
春の雪まつ毛にふわりまたふわり★★★
のどかなるお宮参りや鈴のなる★★★
竹を風さわさわ音させ春来たる★★★★
春風が竹をそよがす音が「さわさわ」である。竹の葉が触れあいそよぐ、「やわらかさ」の感覚が春をうまく表している。(高橋正子)

●小口 泰與
石投げて湖狭くせる日永かな★★★
渓流の瀞に日影や春の雲★★★
春霞ほこと湧きけり湖の奥★★★

▼2/17

●高橋 秀之
大空に薄く下弦の春の月★★★
紅梅のひとつふたつと枝の先★★★
対岸に船の灯火冴え返る★★★

●川名ますみ
しだれ梅なれど空指す一輪に★★★
浅春の客人を待ち煮染め炊く★★★
おにしめに莢隠元のみどりの香★★★

●小西 宏
春のかげ曇天近く漂える★★★
柔らかに桃色ひろげ梅蕾★★★
どんぐりの殻割れ土に白い角★★★

●桑本 栄太郎
春北風の四条大橋日差しけり★★★
珈琲館へ連れの舞子の春めける★★★
堰堤に沿い鴨川の春北風★★★

●藤田裕子
椿祭りの今朝春雪の手に消ゆる★★★
梅ひらく米寿の母の笑み零れ★★★
猫柳光り膨らむ川べりを★★★

●黒谷 光子
芽柳の枝垂れゆたかに池の辺に★★★
春雪の舞う神宮の朱の鳥居★★★
能楽堂出て浅春の風の中★★★★
能を鑑賞して外に出れば、春まだ浅い風が吹く。肌寒い風に能の余韻はほっこりと心を占めている。(高橋正子)

●河野 啓一
冴え返る給湯管も用なさず★★★
早春の海見下ろして六甲山★★★
春浅し鳥影も見ず野の池に★★★

●小口 泰與
春光やあわき色あい変り玉★★★★
永き日や日矢を浴びたる牧の牛★★★
一分の診療を待つ日永かな★★★

2月17日(日)

 横浜港
★港湾の動きに満ちて春浅し   正子
春浅く風もまだ冷たい海辺ですが、すでに動き出している港の活気が伝わってきます。荷揚げクレーンの動き、タグボートの音や人の声も聞こえてくるようです。「動きに満ちて」の措辞から港中の多くの動きが活き活きと見えてまいります。(河野啓一)

○今日の俳句
水音して箕面連山春浅し/河野啓一
「水音して・・春浅し」の感覚がいい。箕面連山を行くと、ころころと水音が絶えずしている。自然に身を入れると、確かに春が来ている。(高橋正子)

○雪割一華(ユキワリイチゲ)

[ユキワリイチゲの花/東京白金台・自然教育園]

★雪割一華へ浅春の陽が燦々と/高橋信之
★一華咲く春の確かな陽の中へ/高橋信之

四季の森公園で初めて「キクザキイチゲ」を見た。去年3月22日のこと。「イチゲ」とは、どんな字を書くのだろうと名札のカタカナを見ながら思った。「一華」である。一茎に一つ花を咲かせる。
先日2月14日に小石川植物園に行った。園内を巡り、売店で柚子茶を飲んでもう帰ろうかと思ったところ植物園で作業をしている男性に出会って立ち話を少々した。一旦別れ、歩いているとまた出会って「下にユキワリイチゲの蕾がちょうど出たところだよ。神社の下の小さい池がある辺り。」と東北訛りで教えてくれた。神社は太郎神社、小さな沼池は榛の木が生えているところと見当がついた。危うく見逃すところだったが、言われた所に行くと、榛の木の生えている少し上に名札が立ててあるのに気付いた。近づくと、紫がかった三つ葉の葉に似た叢に小さな白い蕾が見える。名札がなければ、発見は難しいところだった。一輪だけが咲きかけていた。白い小さな蕾が葉に浮くように、どれも向こうを向くか横向きであった。沼に足を滑らせないように気をつけて、写真を撮った。

★うす青き沼の光りに一華咲く/高橋正子
★榛の木の根方一華の蕾みたり/高橋正子

雪割一華(ユキワリイチゲ、学名:Anemone keiskeana)はキンポウゲ科イチリンソウ属の多年草である。日本固有種である。本州の滋賀県から九州にかけて分布し、林の中や渓流沿いなどに生える。「雪割」は早春植物を意味し、「一華」は一茎に一輪の花を咲かせるという意味である。草丈は20から30センチくらいである。根際から生える葉は3小葉からなる。小葉は三角状の卵形でミツバの葉に似ていて、裏面は紫色を帯びる。茎につく葉は茎先に3枚が輪のようになって生える(輪生)。開花時期は3月から4月である。花の色は白く、淡い紫色を帯びている。花びらは8枚から12枚くらいである。ただし、花弁のように見えるのは萼片である。花の後にできる実はそう果(熟しても裂開せず、種子は1つで全体が種子のように見えるもの)である。花言葉は「幸せになる」である。属名の Anemone はギリシャ語の「anemos(風)」からきている。種小名の keiskeana は明治初期の植物学者「伊藤圭介さんの」という意味である。圭介はオランダ商館のシーボルトのもとで植物学を学んだ。(花図鑑、©龍&華凛)

◇生活する花たち「福寿草・節分草・榛の花」(東京白金台・自然教育園)